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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第五十二話 父親と母親

二〇二五年一月十日(金)

朝七時ごろ。桜火が目を覚ましてリビングへ足を運ぶと食欲をそそる臭いが桜火の鼻をくすぐった。テーブルの方に眼をやると焔が朝食を並べていた。

「今日は姉さんの手作り朝食か」

「さすがに、あなたばかりに任せるのも忍びないのよ」

自分の分と桜火の分の朝食の準備を終えた焔はエプロンを外し椅子に座る。焔が準備をしている最中に素早く顔を洗ってきた桜火も焔と向かい合う位置に座る。本当はもう一人同居している人物がいるのだが、稀にしか返ってこないので用意するだけ無駄なので用意しないのが常である。

「それで、今日はどうするの?」

朝食をつつきながら焔は桜火に問い掛けた。

「親父とお袋のところに顔を出そうと思うんだ。頼みたいこともあるしな」

「そっか。私は一緒に行けないから、よろしく伝えといて」

「あいよ」

その後は他愛もない雑談からアルヴヘイム・オンラインの進行具合など話しながら朝食を終え、焔は大学に出かけ、桜火は携帯で父親に連絡を取った後出かけて行った。



父親に電話を掛けたところ会社にいるということなので、桜火は会社名をその詳しい場所を教えられ、まずはじめにそちらに出向くことになった。品川から山手線を使って新宿駅まできた桜火は徒歩で向かうことになったのだが――

「だからって、これはどうなのよ・・・」

今桜火がいるのは新宿の父親の会社前。会社名を確認してみるが教えられた会社名で間違いではない。超高層ビルというにふさわしいほどの高層建築物。場違い感を半端なく感じる桜火だが意を決してビル内に入っていく。

「あのー、すみません・・・天宝 夜鷹に面会を申し込んだものなんですが・・・」

こういった場所に今まで縁がなかった桜火は周りをキョロキョロしながら受付を探すと自身が訪ねてきた要件を受付嬢に話す。話を聞いた受付嬢は桜火の名前を聞くと身分証明書の提示を要求した。桜火は素直に保険証を指し出す。ほんの数十秒で本人確認が終わり保険証は桜火のもとに返還された。

「こちらはお返し致します。こちらがゲストカードになりますので失くさないようお気を付けください」

保険証が返還されるのと同時に首に掛けるタイプのゲストカードが渡された。それを首に掛ける桜火。その後――

「係りの者が今参りますので少々お待ちください」

という受付嬢。父親に会いに来ただけなのにこんなめんどくさいことになるなんてなぁ、とは桜火の心の声であった。
天宝 夜鷹。焔と桜火の父親であり、世界的に有名なホワイトハッカーである。一時は茅場晶彦や高嶺恭介にも師事したことがあるという傑物。そして、仲間と築き上げた会社【ネクサス】をたった十年で知らぬものなしというほどまでに育て上げた天才中の天才である。



「よう!よく来たな、桜火!」

あれから、案内の人に最上階にある社長室まで案内されるとテンションが高めな父親に出迎えられた。大手企業の社長室だけあって随分と造りが豪勢だ。案内役に礼を言ってから下がらせると、無駄に豪勢な対談用のソファーに二人とも腰を下ろす。テーブルの上にはお茶請けとしてのシュークリームと湯気の立った紅茶が置かれている。ちなみに、これを用意したのは夜鷹本人。ホントに社長か?と疑いたくなる桜火だった。

「それで、急にどうしたんだ?」

「いや、ちょっと頼みたいことがあってな」

「レクト・プログレスへのハッキングならもうやったぞ?」

紅茶に口を付けながら何気なしに言う夜鷹。その言葉にソレイユの眉が一瞬ピクリと動いた?

「・・・何の話だ?」

「ん?違うのか?SAOサーバーに関して知りたいんじゃないのか?」

「・・・少し違うんだが・・・まぁ、良しとするか。なんか見つかった?」

「いーや、特に何も見つからなかったな。未だに三百人も囚われている中で、それは返って怪しいんだがな・・・」

今度はうれしそうにシュークリームにパクリつく夜鷹。

「つか、どうしてSAOサーバーがレクト・プログレスにあるってわかったんだ?」

「ああ、実はな・・・アーガスがSAO事件で倒産した後、一万人が囚われているSAOサーバーをどこが保管するのか、って話になったんだ。政府が管理するのが一番なんだが、こういうのは専門の企業の方がわかるだろう、ということでこの会社に依頼が来たんだが、どこでどう嗅ぎ付けたのかは知らないが、レクト・プログレスが立候補してきた。そこで揉め合いになり、最後にはあっちに渡ったってわけだ」

「そのことに関して政府は何にも言わなかったのか?」

「ああ、これと言って介入はしてこなかったが・・・対策本部としてはこっちにやってもらいたかったらしいぞ」

「親父のうでを見込んで、か?」

「だろうな」

ホワイトハッカーとして世界に名をとどろかせる夜鷹。一時は茅場晶彦や高嶺恭介などといった天才たちも師事したという経歴を持つ。だからこそ、政府は天宝 夜鷹率いるネクサスにサーバーの管理を依頼したのだろう。

「で、話はそれたが・・・今度はお前の話を聞こうじゃないの」

「ああ・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「まぁ、いいぜ。そのくらいお安い御用だ、とは言わないができないわけじゃないんでな」

「サンキューな。よろしく頼むわ」

「あいよ、任せなって。それはさておき、これからどうするんだ?」

「お袋のところに顔を出す予定だ」

「場所はわかるのか?」

「姉さんに聞いたから大体は。わからなかったらお袋に直接かけるわ」

それから、桜火は社長自らの見送りと共にネクサスを去っていった。別れ際に夜鷹が面白くなりそうだ、と細く微笑んでいたのに気が付いたが、桜火はあえて何も言わなかった。



山手線を使い新宿から池袋まで行き、そこから西武池袋線で練馬駅まで来た桜火。焔に教えられた場所は練馬駅から徒歩で十分くらい歩いたところにある和洋折衷の一軒家だった。今時和洋折衷というのは珍しくもないのだが――

「ここ、でいいんだよな?」

だれにとは言わず誰かに質問してしまう桜火。母親とは入院しているときに見舞いに来てもらってから会っていない。だからこそ、会うのに少しばかり緊張してしまう桜火であった。
意を決して立派な門に備え付けられたインターホンを押す桜火。ピーンポーンと家の中に響く音が聞こえる。その数秒後にインターホンに返答があった。

『はいはーい。どちら様?』

「おれだ、お袋」

オレオレ詐欺か、と言いたくなるような返答だが、どうやら相手には誤解されないで通じたみたいである。

『おおー、桜火じゃない!来るなら来るで連絡してきなさいよね!開いてるから入ってきなさい!』

「へーい」

そして、門を開けて家の中に入っていく桜火。東京にある家に来るのは初めてになるので若干緊張気味で門をくぐる桜火だった。門をくぐった先に見えるのはもちろん母屋であるのだが、少し離れた場所に道場らしき建築物が見えた。が、今は気にすることではないと思い桜火は玄関をくぐって家の中に入っていく。



玄関を上がり、フローリングの廊下を歩いてリビングに行くと厚手のTシャツとジーパンというラフな格好をした女性とスーツを着込んだ年配の男性がソファーに座っていた。

「いらっしゃい、桜火!」

桜火がリビングに入ると女性が笑顔で出迎えた。中性的な桜火の顔立ちを女性っぽくした顔立ちを見た目は二十代後半といっていいほど若々しい。さらには、女性にしては長身で出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという理想的な体型が服の上からでもうかがえる。しかし、この若々しい女性こそが焔と桜火の母、月影 陽炎(かげろう)なのである。

「こいつがお前の息子か、陽炎?」

「ええ、そうよ、龍一。私に似てなかなか美人でしょ」

「いや、息子にかける言葉じゃないだろ」

桜火のことを見たスーツの男性が桜火のことを陽炎に尋ねると、さり気に自画自賛しながら息子自慢をするのだがその内容が明らかにおかしい。桜火の性別は男である。一般的に美人というのは女性に使うほめ言葉である。断じて男性である桜火に使う言葉ではないそれに、桜火はツッコむが陽炎は華麗にスルーする。

「まぁ、いつまで立ってることもないでしょ。せっかく来たんだからゆっくりしていきなさい」

そういって席を立つ陽炎。桜火の分のお茶を用意するために台所に向かう。桜火は陽炎の進言通りソファーに座ることにした。座った場所は陽炎が座っていた場所の左隣である。

「えっと、初めまして・・・月影 桜火です」

「ああ、初めまして。織田 龍一だ。刑事をやってる」

お互いが初めましてなので、ともに自己紹介をする。織田 龍一の職業を聞いた桜火はひそかに細く微笑んだあと、好都合だな、と心の中で呟いた。

「自己紹介は終わったようね」

見計らったかのようなタイミングで陽炎が戻ってきた。桜火の前に緑茶と羊羹を置くともといた場所に座り、再び口を開いた。

「それで、急にどうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがあったんだけど・・・もう、聞く必要なくなったんだよね・・・」

桜火の言葉にわけがわからないといったように首をかしげる陽炎。そんな陽炎に桜火は龍一を指差しながら再び口を開いた。

「警察に知り合いがいないか聞きたかったんだよ」

「あー、なるほどね。いるわよ、目の前に」

「ああ。自己紹介してもらって分かったよ」

お茶らけた様に言う陽炎に桜火は頷きながら答える。そのやり取りを呑気に見ていた龍一が今度は口を開く。

「で、俺に何の用があるんだよ?」

「SAO未帰還者について調べたことは?」

「ある。サーバーを維持しているレクト・プログレスの代表に話を聞いたが、開放する手立ては今のところ見つかってないそうだ」

「それって、向こうが一方的に言ってきたのか?」

「ああ、そうだ。俺達が詮索する間もなく、な」

そこでいったん考え込む桜火。そんな桜火を見た陽炎は口を開いた。

「何か思い当たるものがあるの?」

「・・・・・・・・・これは仮説でしかないんだがな」

そういって桜火は自分の心の内で考えていたことを話していく。それを聞いた龍一は信じられないような表情だったが、桜火の仮説は辻褄が合っていなくもなかったので完全に否定することはできなかった。

「もし桜火が言ってることがホントなら大変なことよね」

「ああ。前代未聞もいいところだぜ。それで、お前さんは俺にどうしてほしいんだ?」

陽炎の言葉に龍一は頷くと、今度は桜火に向かって口を開いた。その言葉を受けた桜火は少しだけ考え込んだ後に口を開いた。

「警察の権限で強制的に捜査することはできないのか?」

「無理だな。おまえさんの言ってることはある程度辻褄が合ってるが、それを証明できる証拠が何もない。それに、事件でない限り俺らが動くことはできないんだ」

「ふーん・・・なら、事件が起こればいいんだな?」

その桜火の言葉の返答に困ったのは龍一で、桜火の隣に座っている陽炎は忍び笑いをしていた。

「お前、自分が何言ってるのかわかってるのか?」

「勘違いしなさんな。別に何かしようってわけじゃねぇよ」

「それならいいんだが・・・知り合いを逮捕しなきゃならない身にもなってくれよ」

それだけ言うと龍一はソファーから腰を上げ、陽炎と桜火に別れの挨拶を告げ帰っていく。残された親子二人はしばらく沈黙を保っていたが、陽炎がそれを破った。

「それで、私に用ってそれだけ?」

「いや、まだある。お袋って裏業界に詳しいよな?」

「ええ。一時期はそっちで生計を立ててたからね」

「ちょっとばかり聞きたいことがあるんだ・・・」



『なるほどねー。まぁ、好きにしなさいな。今までがそうだったように、これからも好きにすればいいわ。ここに帰ってくるのもよし。自分の好きなように生きるのもよし。貴方の為なら出来うる限りのことはしてあげるから、いつでも頼ってきなさい。ただし、自分のとった行動に責任を持たなくては駄目よ』

桜火の話しを聞いた陽炎はそう言っただけで止めるようなことはしなかった。その言葉に頷きながら、実行するときに改めて連絡する、といっておいた。いつの間にか昼時になっていたので、久しぶりに母親の手料理を食べながら、色々と談笑。気が付いたら空は赤みが差してきていた。それを見た桜火は東京にある月影家を後にし、品川へ戻る。住まいのマンションの近くにあるスーパーで夕食の買い物をして帰ると、焔はすでに帰ってきていた。

「おかえり。買い出ししてきたんだ」

「ただいま。ああ、何もないだろうと踏んでね」

「察しがいいことで」

どうやら夕食の買い出しに出かけるみたいだったらしい。桜火から荷物の一部を預かって焔は台所に運ぶ。そこで、桜火の口から意外な言葉が出た。

「あとでちょっと頼みごとがしたんだがいいか?」

「うん?まぁ、私にできることならいいけど?」

「ああ、それなら大丈夫だ。―――――――――――――――――――――」

その言葉を聞いた焔は待っていたかのような笑みを浮かべた。



そうして、時は流れていく。

ある者たちは来たるべき時のために己を磨き上げ。

ある者たちは胸に思い人を浮かべながらリハビリに励み。

ある者たちは人の目につかぬ場所で動き始める。

―――そして、二〇二五年一月一二日(日)の深夜。とあるALOスレッド内。

457: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
おいおい、みたかよ、あれ

458: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>457
みたみた。なんなんだろうね?グランド・クエスト関係かな?

459: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>458
絶対そうだろ!だって世界樹の上のスクショだぜ!

460: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
>>459
でも、これってどう関係があるのですかね?

投稿された画像を見てみると、前景はぼやけた金色の格子が一面に並び、その奥に白いテーブルと白い椅子。そこに腰掛ける白いドレス姿の女性と黒いドレス姿の女性。公私の奥から覗くその横顔は、アスナとルナにそっくりだった。

それを画面越しに見た者は細く微笑んだ。

「これを撮った頭のいい馬鹿な連中に感謝だな。そして――」

一度言葉を区切ると、背もたれに寄りかかり虚空を見上げながら再び口を開いた。

「お前の虚栄心には呆れるしかないな、偽りの王」

こうして歯車は再び絡み合い、動いていく。その先に待ち受けるものは悲劇か喜劇か。それはまだ、だれにもわからない。 
 

 
後書き
どうもお久しぶりです~・・・難産でした・・・

ルナ「私の出番をさらに削らないでよー!最近あとがきがか荒れてない気がするんだけど!?」

それは、まぁ、わすれちゃって(テヘペロッ

ルナ「・・・・・・・・・」

ま、待って、無言で刀を構えようとするのはなしだよ!

ルナ「・・・・・・まぁ、それはさておき、また新しいキャラクターが出てきたね」

あー、桜火の父親、天宝夜鷹に母親、月影陽炎に刑事さんの織田龍一さんね。プロフィはまた別に書かせてもらいます!
それでは今日はこの辺で・・・感想などお待ちしております!! 
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