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戦国異伝

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第百十九話 一枚岩その一

                第百十九話  一枚岩 
 信長が自ら開いた茶会の件以降石田の評判は高まっていた。茶の道にただならぬ造詣を見せる古田も己の屋敷でこう小西に漏らす。
「佐吉は凄いわ」
「あの件ですな」
「あの茶は飲めぬ」
 やはり言うのはこのことだった。
「到底な」
「はい、それはそれがしも」
 小西も唸る様にして古田に述べた。
「出来ませぬ」
「そうじゃな。しかし佐吉はそれをした」
「そのうえで桂松に恥をかかせませんでしたな」
「鼻血は飲めぬ」
 汚い、それ故にだ。
「到底な。しかし佐吉は飲んだ」
「そうして桂松を救いましたな」
「それと共に己への周りの見方を変えた」
 とかくずけずけ言い反発を買いやすい男だがそれでもだというのだ。
「虎之助達もあ奴の心を知ったからな」
「それで、でありますな」
「うむ、あれこれ言わぬ様になった」
 人は認めた者のことは悪く言わぬし思わぬものだ、それでなのだ。
 石田について言う者は減った、そしてだった。
「佐吉の周りにおる者が増えた」
「今ではかなりの者に慕われてもいますな」
「しかも奢ることがない」
 石田のよいところの一つだ、彼にはそれもないのだ。
「派を作ることも自分からせぬしな」
「仲の悪い者はおらぬ様になりました」
「それが結果として家をよくした」
 織田家そのものをだというのだ。
「実によかった、まことにな」
「ですな、そして」
 今度は小西から言う。その言うことは。
「家はこれまで以上にまとまってきましたな」
「そうじゃな。雨降ってじゃな」
 地固まる、結果としてそうなった。
「よいことじゃ」
「織田家はとかく大きい家でありますから」
「それだけ多くの色々な者がおる」
「まとまるだけでも大変です」 
 これが今の織田家の問題だった、勢力が大きくなればそれはそれでまた問題が起こってくるのである。それでなのだった。
「だからですか」
「うむ、亀裂が生じては厄介じゃ」
「家が割れてどうにもならなくなるからこそ」
「殿は佐吉を御存知じゃ」
 古田は信長がわかっていると見ている。
「桂松の怪我にしろ急じゃったな」
「そういえば」
 このことに小西も言われて気付いた。
「落馬したとのことですが」
「落馬で顔から落ちたというが」
「桂松は顔から落ちるより前にです」
 それよりというのだ。
「受身を取られますな」
「あ奴はかなり慎重な奴じゃ」
 大谷は才気煥発の石田とは違い慎重な性格で知られている、何か手を打つにしても熟考してそのうえで慎重に動くのだ。
 だから馬に乗り若し落ちてもだ。
「受身は既に知っておる」
「柔術ですな」
「そうじゃ、あ奴は柔術にも長けておる」
 大谷は武芸にも秀でている、その中でも柔術を得意としているのだ。
「その桂松が落馬しても顔から落ちるか」
「顔から落ちれば下手をすれば死にます」
 落馬はそれ自体が命の危険につながる、慎重な大谷がその際顔から落ちるかというととても考えられないことだ。
 それで古田も言うのだ。
「とてもじゃ」
「ですな、ではあの怪我は」
「芝居じゃ」
 古田は大谷にこう言い切った。 
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