清教徒
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第一幕その四
第一幕その四
「あれは」
「聴こえたか、あの笛の音が」
ジョルジョはそれを聴くとエルヴィーラに顔を向けた。
「あれがそなたの幸福を呼ぶ音なのだ」
「それでは」
エルヴィーラはそれを聞くと顔を明るくさせた。
「そうだ。アルトゥーロ殿がこの城に参られたのだ。用意はいいか」
「勿論です」
エルヴィーラは答えた。
「けれどもう胸が張り裂けそうです」
「喜びでか」
「はい。まるで夢のよう」
「夢ではない」
ジョルジョはそう語り掛けた。
「現実なのだ、全ては」
ここで角笛がさらに高らかに鳴った。そしてアルトゥーロと彼の軍が城に入った。彼等は歓声の中城に入ってきたのであった。それはまるで天界から舞い降りた神の軍勢のようであった。
アルトゥーロはそのまま宮殿へと向かった。その後ろには武装した将兵と数々の婚礼の贈物を持った従者達が続いている。その中には純白のヴェールもあった。
「アルトゥーロ様万歳!」
城の将兵達が彼に対して万歳を唱えていた。
「アルトゥーロ様に栄光あれ!」
「有り難う」
彼はそれに応えて微笑んだ。黒い髪を後ろに撫で付けた端整な顔立ちの青年であった。背はそれ程ではないが顔は明るく、そして気品が漂っていた。髭はなく、それが白い顔を際立たせていた。青い豪奢な鎧と紅のマントを羽織っている。まるで円卓の騎士の様な姿であった。
彼と将兵、そして従者達は中庭へ進んでいった。そこは既に花で飾られていた。
「何と美しい」
アルトゥーロはその庭を見て一言こう言った。
「この様な美しい庭を見たのははじめてです」
「左様ですか」
それを出迎えたジョルジョがそれに応えた。
「それは何よりです。城主も喜ばれることでしょう」
「それですが」
アルトゥーロはそれを受けて彼に問うた。
「城主殿は何処でしょうか」
「こちらです」
ジョルジョは案内した。そしてアルトゥーロはそれを受けて城の中へと進んだ。
彼は城主の間に入った。そこでは威厳のある顔立ちの壮年の男が立っていた。黒い濃い髭を生やしている。彼がエルヴィーラの父ヴァントンであった。
「ようこそ、アルトゥーロ殿」
ヴァントンはアルトゥーロを微笑んで出迎えた。見ればかなり背のある人物であった。しかし威圧的なものはなくその物腰は穏やかであった。
「今日貴方が来られることをどれだけ待ち望んだことか」
「有り難うございます」
彼はそれを受けて頷いた。
「私もここへ来るのを心待ちにしておりました」
「そうですか、それは有り難い」
ヴァントンはそれを聞いて笑った。
「それではエルヴィーラを呼ぼうか。弟よ」
彼はジョルジョに顔を向けた。
「娘を呼んでくれ」
「わかりました」
彼は頭を垂れると一先退室した。そして暫くしてエルヴィーラを連れて部屋に戻ってきた。
「おお」
アルトゥーロは彼女を見て思わず感嘆の息を漏らした。
「何と麗しいお姿か」
「お気に入れられましたかな」
ヴァントンはアルトゥーロに声をかけてきた。
「それならば何よりですが」
「勿論です」
彼は恍惚とした声で答えた。
「この日を神に心から感謝致します」
「それは何よりです。さて」
彼はここで一枚の書類を取り出した。
「これを貴方にお渡ししましょう」
「これは」
彼はそれを手に受け取ってヴァルトンに対して問うた。
「これは通行証です。これで貴方は寺院に自由に出入りすることができます」
「ならば私と彼女のことを認めて下さるのですね」
「はい」
笑顔で頷いた。これは婚礼の儀のうちの一つであった。
「勿論です。貴方は我が弟が認めた程のお方」
ここでジョルジョに顔を向けた。彼はこの弟を心から信頼しているのである。
「是非とも我が息子となって頂きたい」
「かたじけない」
彼はそれを受けて頷いた。
「それでは謹んでその通行証をお受け致します」
「有り難うございます」
彼は通行証を手渡してアルトゥーロに対して言った。
「それでは娘をお願いしますぞ」
「はい」
「さて、それでは」
婚礼の本格的な儀に入ろうとする。だがここで一人の将校が部屋に入って来た。
「伯爵」
「どうしたのだ」
ヴァルトンはそれを受けてその将校に顔を向けた。
「あの女性が来られました」
「そうか。思ったより早かったな」
彼はそれを聞いてそう呟いた。そしてアルトゥーロに顔を戻した」
「アルトゥーロ殿」
「はい」
「申し訳ありませんが暫く席を外させて頂きます」
「わかりました」
ヴァルトンはそう言って席を外した。ここで彼は中庭に向かった。
「アルトゥーロ殿」
それにかわってジョルジョが彼に声をかけてきた。
「暫しのご辛抱です。お待ち下さいませ」
「わかりました」
彼はそれを受けて頷いた。そしてちらりと窓に目を向けた。中庭が映った。するとそこには一人の貴婦人がいた。
「あれは」
彼はその貴婦人を見て思わず目を疑った。
「如何されました!?」
「いえ」
ジョルジョに声をかけられ慌てて表情を元に戻した。
「何でもありません」
「そうですか」
だが彼にはアルトゥーロの動揺がわかった。しかしそれはあえて言わなかった。
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