Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~
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ストレイド
新潟上陸前日
体の底に響き渡るようなストレイドの低い稼動音。久しぶりに感じるその鼓動に少しの居心地の良さを感じながらも、機体のチェックを終えた俺はストレイドの主電源を切り落とす。
問題は何もなかった。当日、皆を守れるかどうかは俺の腕次第…と言う事になる。
一番の欲を言えば、ACのシミュレーターを香月に作って貰いたい所なのだが、如何せんACを使えるのが俺だけなので意味が薄すぎて作って貰う事は出来なかった。一応時間が空けば作成に取り掛かるとは言ってくれたが、まだまだ時間がかかるだろう。
今はXM3やAMSの普及で忙しいからな。…それに新武装に関しても、か。
「シルバさん!」
機体のチェックも終えたので、丁度外に出ようとハッチを開けた時に白銀の声が聞こえた。
声の聞こえた方に視線を向けてみれば強化装備を身に纏った状態の白銀が扉の方から此方に向け歩いてきていた。その傍らには社の姿もある。
「どうしたんだ?」
当然の疑問を口に出しながら、ストレイドの上から一機に飛び降りる。
地面に着地した際、少しの痺れが足に響くが、それを無視し、少し驚いている白銀の方に視線を向けた。
「いえ、別に何があるって訳じゃないんですけどね」
そう言いながら苦笑いを浮かべる白銀。こいつのこの余裕は一体何処から生まれてくるのか…その余裕を少しでも俺に分けて欲しいものだ。
俺も俺で少し緊張しすぎだとは思うが、前の世界ではなかったものを守りたいなどと言う新しい思いが俺をこうしている。決してその感情が邪魔だとは言わない。だが、その感情が俺の体を鈍らせているのも事実だ。
「そうだ、機体の調子はどうですか?当日になって動かないなんて言ったら笑い事じゃ済みませんからね」
「機体に関しては言う事なしだ」
あくまでも機体に関しては…の話だが。
「それなら安心出来ます。当日は俺も出ますけど…シルバさんが居てくれた方が心強いですからね!」
「…こんな早くからプレッシャーを掛けてくれるな」
白銀自信、そのままの意味の言葉だろうが、その言葉ですら今の俺には軽くではあるが重圧を与えてくる。体の調子自体は悪くない。寧ろ良い筈なのに、まるで錘を引きずっているかのような感覚に捕らわれる。
前の世界では感じる事のなかった、また別の重圧。
誰かを壊す事に感じる重圧ではなく、誰かを守る事によって生まれる重圧。それがこんなにも重く圧し掛かるとは思わなかった。
「あはは、すいません。それでもACの機動を見た事のある俺は自然と期待しちゃうんですよ」
白銀の言葉に反論出来ない。
ACと戦術機。何度も言うが、その機体性能は桁が違う。当然機体性能がずば抜けているACの機動を間近でみた白銀はACの活躍に期待するだろう。そしてBETAが新潟に上陸し、その場にいた日本の衛士達も…また当然俺とACに期待と希望を抱く。
どんどんこの世界の深みに嵌まって行く。まるで底なし沼に捕らわれてしまったかのように、どんどん戦火の渦中へと深く沈んでいく。
元々戦場で生きてきた俺はそれに文句は言わないし、言う必要もない。だが、今回はスケールが違う。
前の世界では俺が死ねば、死ぬのは俺一人だった。只孤独に戦い、孤独に死んでいく。そんな運命だった。だが、この世界では、俺の死はそのまま仲間の死に繋がる。同じ部隊になった、ヴァルキリーの皆の死に繋がる。
前の世界の俺だったら、そんな事鼻で笑って済ませていたかもしれない。何が変わったのかなんて俺には分からない。只、あの時、速瀬に言われたあの時から皆を守りたいと自然と思ってしまった。今まで壊す事しか出来なかった俺が。
「…まぁそうだろうな。取り合えずPXの方にでも行くか?お前も調整は済んでるんだろう?」
「そうですね。此処で話すのもなんですし、PXの方に移動しましょうか」
白銀の了承も得られた所で踵を返し、格納庫から出ようとする。
その瞬間、白銀の隣で大人しく黙っていた社とふと目が会う。
視線が絡まった先で見た社に瞳に浮かんでいたのは悲しみの感情。その感情を浮かべた瞳が、何故か俺を真っ直ぐ捕らえていた。
「ッ!」
思わず社から目を逸らし、最後にストレイドの方を一瞥してから、俺は怪訝に眉をひそめた白銀を無視し、その場をそそくさと後にした。
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後書き
後日更新します
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