なりたくないけどチートな勇者
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12*触れて欲しくないものがある
こちら中継のナルミです!
ただいま会議室にきております!
「だから!あなた達の隊より機動性のある我が隊が…」
「一番緊急事態に対処仕切れない貴方が何を言う!それより私の魔法騎士隊の方があらゆる事柄に対処出来る!」
「相手がどうやって西のウルス砦を攻撃したか解らんのに、貴様の器用貧乏なだけの隊が役に立つ訳が無い!それよりも私の……」
荒れております!
風速20メートルはあろうかと言う怒声の嵐です!
と、心の中で実況ごっこしながら自分は待機している。
荒れてる理由は、“今行っても役に立たないけど手柄を立てたい”人達が言い争いをしているからだ。もちろん、言い争いに参加しない“命令があればいつでもいきます”な人達もいる
ちなみにこーゆー場に表立って自分達近衛隊はいることができないので、各々で隠れながら会議を見守っております。
そして自分はハイドで透明になって姫の後ろについています。
ついでに言うと、報告では西の砦に敵さんが攻撃してきた事により、周辺の山が一部焼き払われ、多少なりと砦に被害もあるとの事。怪我人は全体の一割程。
攻撃は恐らく魔法と思われるが、詳細は不明らしい。
そんな事を聞きながらしばらくボケーっと会議の荒れ具合を見ながら立ってると、エリザ姫が小声で自分に聞いてきた。
「……のうナルミ、馬車で二日掛かるところにお前ならどれくらいで行ける?
とゆうかゾーン爺を連れて来た方法で兵を送る事は出来るか?」
む、二日か……
とりあえず、自分も小声で返す。
「うーん、テレポートは…ゾーン爺さん連れてきたやつは明確に場所を思い浮かべる必要があるからいったことないとこは無理。
それ以外は……」
この能力はイメージ、つまり想像力を使ってやるからね、イメージ出来なかったら使えんのよ。
そう言ってしばらく考えるが
「んー、道具があれば出来るかもしれんが生憎造ってる方が時間掛かる。」
一人ならともかく、大人数ならねぇ
少なくとも自分にはUFOくらいしか思い着かない。
ちなみに自分が協力的になってるのはちゃかちゃか戦争を終わらして平和になりたいからです。
つか、敵さんがここまできたら、自分の命も危ないし。
「そうか……はぁ、乗り気はしないが仕方がない。」
そう言いながら姫は立ち上がり、こう叫んだ。
「静まれ!」
すると一気に静まりかえる会議室。
「お前らの名誉や手柄など私にはどーでも良い!ぶっちゃけ貴様ら見たいな能無しは行っても役に立たん!」
うわっ!言っちゃったよこの子!
ほらほら、言われた将軍なんか顔を真っ赤にしてるよ!
「能無しとは聞き捨てなりませんな姫様。
そもそも、能無しは将軍にはなれませんし、兵の指揮もできませんぞ。」
「捨てんでいい、覚えとけ。
貴様は能無しだ、それも底無しの。
というか、将軍になってから貴様は能無しになったのだ。
それに兵の指揮は今回私がとる、将軍が能無しでも問題無い。」
……うわぁ~、この子怖えー。
将軍も青筋立てて震えてるし。
ん?なんか王様も震えてるぞ。
将軍は王様と仲いいのか?
「まてエリザ!まさかお前、前線に赴く気が!?ならん!絶対ならん!」
あ、そっち。
そして、王様が騒がしくしていると、隣の王妃様が王様に
「エイッ!」
「フゴッ!?」
渾身の右ストレート。
そして王妃様がエリザ姫に一言。
「エリザ、それは勝てる策があると見てもよろしいですね?」
「はい、母様。上手く事が運べば三日でこの戦争を終わらせれます。」
エリザ姫の発言に、会議室がざわめき出す。
しかし、それを気にも止めない王族親子。
ちなみに、父は気絶している。
「なら、行きなさい。必要な兵がいれば連れて行っても良いでしょう。」
「わかりました。では、用意でき次第に出発します。ディラン!」
王妃様に返事をして、姫は会議に出席してる人達に向かい叫んだ。
「…なんでしょうか。」
すると、言い争いに参加してなかった青髪い短髪の角が生えたの青年(25歳くらい)が返事をした。
多分、この人がディラン。
「これから西の砦に向かう!お前の飛竜部隊から優秀なのを集めておけ!私と近衛隊、そしてゼノアの部隊を運べるだけな!用意出来次第出発する!」
「…承りました。」
なんかこの人暗いなぁ~。
と、姫、置いてかないでくれ。
言うだけ言って会議室を後にする姫を追っかけて自分も部屋を後にした。
にしても竜に乗るのか……
喰われないよね?
~サイドエリザ~
「……なんで兄様がここにいるんですか。」
エリザ姫の前にはバリス王子とその近衛隊の6人がいる。
ちなみに他は姫の近衛隊とゼノアと2000程のその部下の兵士たち、そしてディラン率いる竜部隊が25人。
「いやぁ~、お前が行くって事はつまり、あいつもってことだろ?」
つまりナルミの戦いが見たいと言う事らしい。
「………ハァ。あくまで指揮権は私にあります、邪魔しないで下さいね。」
「いよっしゃ!」
渋々ついてくるのを承諾する。
来るのを拒んでもこいつはついてこようとして余計時間を食うだけだと判断した結果である。
「…姫、準備ができました。」
「そうか、ではいくぞ!」
姫の号令で、兵士達は一斉に竜の背中に乗り、体を固定した。
一部を除いて
「…ナルミ、何してる。」
「いや、付け方わかんなくて。」
固定用の器具に悪戦苦闘しているのは人間の戦士、ナルミである。
「………ハァ。」
大丈夫だろうか、と珍しくメランコリーになる姫であった。
*********}☆
「これは…」
目的地に付いて、まず最初に見たのは変わり果てた大地の姿だった。
いままで隣国の侵入を拒んできた山が消え去っているのだ。
しかも、砦の兵達は皆疲弊していてマトモに戦う事も難しいような状態だ。
怪我を負った者も多数いる。
報告よりも、明らかに酷い。
「何があった。」
ウルス砦に入り、砦の責任者である牛鬼のダリに説明を求た。
彼もまた、疲労の色を隠せないでいる。
そして、彼は信じられない事を言った。
「……魔獣です。」
「何!?」
「奴らは、魔獣を召喚して襲って来ました。それも最上級のを三体も。
山を消すのに力を使っていたのでなんとかなりましたが、次に来たら俺達だけではもう持ちこたえられませんでした。」
信じられない、エリザ姫はそう思った。
魔獣とは、魔族の手によって造られた魔物と、突然変異等で魔物が変化したものの二種類ある。
だいたいが自然に普通に存在する魔物とは違い異形の形をしていて、並外れた力と魔力を持ってる。
しかし
「……奴らに、魔獣を召喚するだけの力があるのか?
ましてや操るなど不可能だ…」
そう、召喚をするには呼び出した者の魔力が呼び出された方の魔力より大きくなければいけない。操るなら、召喚に使った魔力と以外に、残りの魔力で呼び出した魔物なり魔獣なりを押さえ付けて従えなければいけないのだ。
実際に必要な魔力は呼び出す方の魔力の三倍が必要なのだ。
並の魔族では出来るはずが無い。
「…一体どうやって…」
あちら側に最上級の魔獣を呼び出す事が出来る魔術師がいるという情報なんて聞いていない。
そう思い思案していると後ろから
「複数の魔術師が共同で召喚したんでね?」
と、バリスの声が聞こえてきた。
いつの間にか壁にもたれながら話しを聞いていたようだ。
「…いえ、普通の魔法ならともかく、召喚魔法はそう簡単にはいきません。
それに、魔獣ともなれば数百単位の数の魔術師を扱わなければなりませんし、集めてもそれぞれの魔力の波長が会わなければ不可能です。
世界中捜しても、共同で召喚魔法を使えるほどね数の波長が合う魔術師はいませんよ。」
エリザはそう答え、また思案し始める。
「…とりあえず、不安要素はあるが召喚魔法相手ならある程度対処は出来る。
ダリ、これから言う事を今動ける兵士達にやらせてくれ。
魔獣三体もの魔力を回復するのに一日二日で出来るとは思わんが、魔獣三体召喚という非常識なことをしたのだ。
すぐに何か、それこそまた魔獣を召喚するとかやって来ないとも言い切れん。
なるべく早くたのむ。」
「わかりました。」
「兄様も来たからには働いて貰いますよ。
私にちゃんと従って下さいね。」
「げ、お前兄貴に働かせんのかよ。」
「当然です。」
そして、話し合いの後に作戦の準備を進め、その日一日は過ぎていった。
********》☆
翌日の早朝、まだ日が昇り始めたばかりのころに事件は起きた。
「ナルミ!起きろ!」
ガスッ!
「グボッ!?」
エリザは昨日、飛竜に乗った際に酔い、着いた途端に倒れて今まで寝ていたのだ。
初めて飛竜に乗ったらしいのでしかたないと思い、彼女はナルミを一日休ませた。
そして今日、これからの作戦等についてをナルミに話すべく、近衛隊を引き連れ、朝から直々に彼を起こしたのだ。
腹への肘打ちで。
「いってて」
当然ナルミは痛がり、のたうちまわる。
「なんだ、そのくらいで痛がって。
軟弱だぞ、もっと筋肉をつけい。
ヒョロ長いだけではダメだぞ。」
笑いながら言う姫に、苦笑する近衛隊。
実に平和な朝だった、……この時までは。
のたうちまわってたナルミが、姫の発言に反応してピタリととまったのだ。
「……今、なんつった?」
いつもと調子のちがう、ドスのきいた低い声。
穏やかだった空気が、一気に変わった。
そして、ゆっくりと起き上がりながらナルミは続けた。
「おい、小娘、貴様なんつった?」
いつもと違う雰囲気に気圧されるエリザ。
「え……、あ、あーそのー」
「なんつったて聞いてんだよ!誰が感嘆詞言えっつったぁ!?質問に答えろやクソガキが!」
ドゴオッ!
怒声と共にナルミが右拳で壁を殴った。
すると、爆音と共に壁に見事な穴があいた。
向こうにある、敵の魔獣がつくった荒れ地がみえる程に綺麗な穴が。
そんな事はお構いなしに、ナルミはエリザに近付きながら言った。
それに伴い、エリザも後ずさる。
「誰が軟弱だって?誰がヒョロいって?誰がモヤシっ子だって?誰がデクノボーだって!?えぇ!?」
彼は小学生の頃に“ヒョロい”だの“モヤシ”だの言われて虐められてた時期があったのだ。
そして、小学生の時のいじめっ子たちは、それらを言いまくってとうとうキレたナルミに全員泣かされてからというもの彼の回りではそれらが禁句となったのだ。
今でもナルミはそれらのワードを聞くと、言った相手が死にたくなるまで言葉責めにして追い詰めるのだ。
ちなみに、彼の高校にはすでに被害者が五人いる。
そんな事を知るはずもないエリザだが、恐怖により正常な判断を無くし今にも泣きそうに震えている。
「ご、ごめ…」
「謝って済んだら警察いらねんだよじゃじゃ馬ぁ!!謝るくらいなら最初っからやるな!今の今まで貴様の我が儘に付き合わされた自分の気持ち解るか!?ワカンネェよなぁ!!毎朝毎朝過激な目覚ましでよぉ!勝手に戦争巻き込まれてよぉ!ちったぁその無い脳みそで考えてみやがれや!!」
彼はよくキレるが、心の底から“怒る”事は余り無い。
そもそもキレるのは彼のキャラで、学校でもキレキャラとして友達にいじられてる。
そして、なんだかんだ言って彼は面倒見がよく、悪態をつきながらも最後までついていくタイプの人間なのだ。
しかし、度重なるストレスに旅の疲れ、そして彼に対する禁句を言ってしまったエリザは、その怒りを真っ正直から受ける事になった。
周りの近衛隊も恐怖で動けないでいる。
「しかもなんだ!?自分に上級騎士として箔が付くだぁ!?だったらもっと貴様が言うみたいなヒョロい軟弱者でなくもっとマシな奴を入れればいいだろ!!貴様はただ単に自分の持つ珍しいオモチャを他人に自慢したいだけでねぇのか!?あぁ!?」
「ご、ごめんな…ひぐっ、ごめんなざ…ぃ…グズッ」
とうとう泣き出したエリザ姫、しかしそれでおさまる程ナルミのトラウマは浅くは無い。
「なぁ!?違うのか!?自分が珍しい人間だから近衛隊に入れたんだろ!自分の意思に関係無く!なぁ!自分間違ってるか!?おい!!」
ここまで来たら、もはや弱い者いじめのレベルである。
エリザ姫は泣きながら謝罪の言葉を呂律が回らない舌で繰り返している。
「せ、先生!」
勇気を振り絞り、ミミリィが止めに入る。
「あぁ!?」
「ひっ!…いえ、そのあの………そろそろ許してあげてくれませんか?姫様も反省してますし。」
「……………」
ミミリィの言葉を聞いて、ナルミはエリザを見た。
泣きながら、謝罪の言葉をつぶやき続ける一人の小さな少女がそこにいた。
「…チッ!」
いくらか冷静さを取り戻したのか、舌打ちをして、それでもイライラ隠そうとせずにベッドに戻ろうとするナルミ。
その時
「……グ…ガァァァァァァ!!」
「敵襲ー!!」
いきなり荒れ地に巨大な灰色の怪物が現れた。
大きさは20メートル程の、ライオンとイノシシとゾウを合成したような、地球で言うキマイラみたいな怪物が突然現れて雄叫びを発したのだ。
その後ろには、五千はあるかと言う敵兵士の大群がある。
「おいっ!エリザ敵が…おい!どうした!?」
バリスが扉を蹴り開け、エリザの様子をみて驚いた。
あのエリザが、泣きながら謝罪をしているのだ。
しかし、作戦の中枢である彼女がこれでは敵を倒すどころでは無い。
困惑してる彼に、ナルミが後ろから聞いてきた。
いつもより不機嫌そうに、しかし、言葉の調子は先程よりも戻っている。
「…バリス、あれはなんだ?」
「あれは、魔獣だ。並外れた魔力と力を持った化け物だ。って!まだ召喚するのか!?」
最初に出た魔獣の後ろに、不思議な光を放つ巨大な魔法陣が二つ浮き上がってきた。
そこから、また新たな魔獣が半分でてきている。
「…ギャァァァァ!」
そのうち一体、鳥のような頭をもった魔獣が叫び、砦を恐怖が飲み込んだ。
『これは…負けるのか?』
瞬間、バリスはそう思った。
今回の作戦は、無理矢理魔獣の魔力を放出させ、無力になったとこを飛竜が突くと言う作戦だ。
強引でシンプルだが、それを出来る下準備さえあれば有効な手段だ。
むしろ魔獣と言うイレギュラーに対して短期間で簡単に出来る作戦ではない。
だが昨日のうちに、準備も完成させた。
しかし、それには莫大な魔力がいる。
エリザにバリス、ゼノアや少しでも魔力のある兵士達全員で掛からないと完成しない。
そのうち大事な一角のエリザが使い物にならないともなれば致命的である。
彼女の持つ魔力は一般兵士とは比べものにならない程大きく、彼女が欠けると魔力が足りないのだ。
この状況で魔獣を倒す術も作戦も今は無い。
バリスも近衛隊も、絶望していた。
しかし、この作戦には大きな間違いが一つあった。
この作戦では、いくらナルミでも魔獣相手に勝てる訳が無いという事で、ナルミには魔獣の足止めと、できれば後ろの敵兵を盗賊の時と同じように倒して貰う手筈だったのだ。
だが、それが間違いだったのだ。
「うるせぇ鳥頭!リバーストラップオープン!『奈落の落とし穴』!」
いきなりナルミが叫び出した、手には赤い札を持っている。
「ギャァァァァ!」
「グゴォォォォ!」
ナルミが叫んだ瞬間、出て来る途中だった二体が消えた。
いや、正確には出てきた瞬間何かに落ちたように地面に消えた。
「もう一体も邪魔!マジックカード!『ハンマーシュート』!」
ゴッ!
今度は緑の札を持って、ナルミが叫んだ途端に最初に出た魔獣が何かに押し潰されたかの様に潰れ、消えた。
その様子を見て、唖然とするバリスと近衛隊。
それどころか、ナルミ以外の全員が、それこそ敵も味方も関係無しに皆驚き、動揺している。
「魔獣を召喚ねぇ…その決闘《デュエル》、受けて立つ!!我が『次元帝デッキ』に敵う者などいない!!」
そんな中、壁に開いた穴の端に立ち、高らかにナルミが宣言した。
砦で、朝日に照らされるその姿を見た者は皆こう思った
『この方こそ、自分達を救ってくれる勇者様なのだ。』
と。
これが後世まで語り継がれる黒い勇者の最初の戦い、『ウルス砦の防衛戦』である。
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