DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 一~四章
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二章 やんちゃ王子の観光
2-03詩人歌い市民憩う町サラン
構えを取り、呼吸を整え、集中する。
一撃で破れるよう、最大限の力を込め、蹴りを放つ。
「うおっとぉっ」
思った以上に壁の強度が低く、勢い余って突き破るように、アリーナは三階の自室から外に飛び出した。
やりすぎたと内心焦るが、身体は余裕を持って動き、綺麗に一階の屋根の上に着地する。
前回は、がらがらと石壁の崩れる音に、すぐに人が集まってきたが、薄い木の壁ではそれも無い。
とは言え、さっさと行くに限る。
城の裏手の、誰もいない場所を狙って飛び降りる。
「王子!」
「げっ、ブライ!」
なんでここに、と口を動かすが、言葉にならない。
「嫌におとなしいから、怪しいと思っておったのです。おひとりで旅に出るなど、とんでもない!どうしてもと言うなら、このばあやめもついて行きますぞ!」
おいおい勘弁してくれよ、ていうか大丈夫なのかよ、と、これも言葉にならない。
「そうですわ」
「ええっ、クリフト?」
これこそなんで、おかしいだろう常識的に考えて。
「及ばずながら、私も王子様のお供をいたします!さあ、参りましょうか。」
参りましょうかじゃないでしょう、なんだこの人選。
と混乱しながら、アリーナはふたりの女性に引きずられて行った。
城を離れ、ひとまず近くのサランの町に落ち着く。
「なんで」
「王子の目付役として、わし以上の適任はおりますまい」
それはそうだが、だから嫌なんだが。
「それに老いたりと云えども、かつては魔法王国サントハイムにその人ありと謳われた魔法使いですぞ。まだまだ、若い者には負けませぬ」
「だけど歳だろ。旅するには、足腰がつらいんじゃないか」
嫌というのも本音だが、実際心配でもある。
「王子が合わせてくだされば良いだけのこと」
「いや無理するな。帰れよ」
「王子が一緒ならば帰りましょうぞ」
駄目だこれは。
「クリフトは、なんで」
「王族の旅に、回復魔法の使い手は必須。優秀な者ばかりの城付きの神官の中でも、クリフトの魔法の才は随一と言われ、護身術でも男性に劣りません。適任ですな」
「だからって、女性を旅に連れ回すのはまずいだろ」
「目付役のわしがおるのです。問題ありませんな。とにかく王子。わしらをお連れになるか、城にお戻りになるか、ふたつにひとつ。城に戻れば、二度と抜け出せぬよう、厳重に監視がつきましょうな。さて、どうされますかな?」
実質一択で、どうされるも何も。
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