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外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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エジンベア編

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「みんな黙り込んで、どうした?」
俺は、勇者、セレン、テルルの3人に話しかける。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
返事がない。機嫌が悪いようだ。

ここは、エジンベアの城の1階にある個室だ。
テーブルについている椅子にそれぞれが腰掛けている。
そして、ここに来るときの経過を思い浮かべていた。



「ここは、どこなの?」
テルルは、世界地図の右上を指し示す。
「確か、エジンベアだな」
俺は、少し考えてから答える。
俺たちはポルトガ城下町の入り口にある公園で、テーブルに腰掛け地図を広げながらこれからのことを話していた。
勇者は公園にいたカップルから、「ゆうわくの剣」をもらって、しげしげと眺めていた。

「どんなところなの?」
「詳しくは知らない」
俺は、エジンベアに行ったことはない。
前世の知識を思い出したが、その内容が事実だとは限らない。
そう思い、話すことをやめたが、別のことを思い出した。
俺は勇者に、行ったことがあるかと質問する。

「わかりません。
地図を見ながら、冒険したことがありませんから」
勇者は、「ゆうわくの剣」を袋にしまいながら、質問に答える。
自分が装備できないことを知って、残念そうな表情をしていた。
「これが装備できれば、いつでも誘惑することができるのに・・・」と、つぶやいていた気がするが、気のせいだろう。
勇者が誘惑する相手を思い浮かべることができない。

「そうか・・・」
俺は、ため息をついた。
「ごめんなさい」
「いや、あやまる必要はない」
俺は、勇者をなぐさめる。
「ありがとうございます、アーベルさん。
ただ、魔王を倒すまでに立ち寄った城で、まだ訪れていないところがあります」
「バラモス城以外でか?」
「そうです」
勇者はうなずく。

となれば、勇者が行った場所はエジンベア城だろう。
ほかの場所はほとんど訪れている。
「どんなところか?」と、再び質問しようとしてやめた。
最初に質問したときには気づかなかったが、三姉妹との旅を思い出させるのはよくないだろう。

「じゃあ、行きましょう!」
テルルはうれしそうに全員に話しかける。
テルルが知らないということは、キセノン商会はこの地に支店をまだ展開していないということだ。
新規販路の開拓という、商人の血が騒いでいるのかも知れない。
「そうですね」
セレンが少し心配そうな表情でうなずく。
「どうした、セレン?」
「アーベルが、あまり乗り気ではなさそうなので・・・」
「そんなことはない」
「あやしいなあ・・・」
テルルは、俺の顔を覗き込みながら質問する。
「この城でも、女の子を引っ掛けていないかしら」
「行ったことのない城で仲良くできるか。
そもそも、この城でもという表現はおかしい」
俺は反論する。


そもそも、俺はこの世界でもモテたわけでもない。
俺が、パーティの女性と仲良くしているから、いろいろ陰口を言われているだけだ。
俺たちは、ただ幼馴染が集まったパーティであるだけだ。
特に、誰かと恋仲になっているわけでもない。
現実なんてそんなものだ。

前の世界でも、そうだった。

前の世界でも、近所に幼馴染がひとりいた。
俺にとって初恋の相手であったが、想いを伝えることはなかった。
小学校から、高校まで一緒の学校だったが、あまり話をすることもなかったし、高校を卒業後すぐに市役所に勤めた俺と、東京の大学に進学した幼馴染とでは、接点もなかった。
そして、幼馴染は大学卒業後、地元の民間企業に勤めて、数年後に結婚したことを親から知った。

同窓会で久しぶりに再会した幼馴染に、
「結婚したのだってね、おめでとう」と、話しかけた。
幼馴染は、俺の顔をじっと眺めて、
「あんたにだけは言われたくなかった」とつぶやくと、急にわんわん泣き出した。
おかげで、幼馴染の友人たちから睨まれて、そそくさ退散したという、嫌な思い出まである。


だいいち、周囲が俺たちのことを、「ハーレムパーティ」といちいち指摘すること自体が間違っている。
4人パーティの男女比が1対3あるいは3対1となる可能性は、冒険者の男女比が1対1であるのなら、2分の1だ(男だけ女だけなら、それぞれ16分の1、男女2人づつは8分の3だ)。
男女比が偏ることは、確率的には、そんなに珍しいことでもないはずだ。


「いいのか?」
俺は、勇者に確認を求める。
このパーティのリーダーは、勇者だ。
勇者は、賛意を示した。

「とにかくエジンベアに行こう。
真実は、そこで明らかになるはずだ!」
俺は、嫌な思い出が脳裏に浮かんだことで、テンションがおかしくなったのか、やけくそ気味に叫んだ。
テルルは、「はい、はい」と俺をなだめるように言って、セレンは「さすが、アーベル」といつものように目を輝かせていた。
勇者は、そんな俺たちを眺めて楽しそうにしていた。



俺の回想が終わると、テルルが話しかけてきた。
「・・・、アーベル。
こうなることを、最初から知っていたの?」
「こうなることというのが、何を指すのかがわからないが?」
俺は、テルルの質問に、きちんと具体的に説明することを求める。
具体的に説明しないことで生じる誤解は、できるだけ避けたい。

「田舎者といわれることよ!」
テルルは叫んだ。
俺は、セレンと勇者の顔を眺めると、同意見だとばかりにうなずく。
「ええと、質問があるのだが」
俺は、右手を上げる。

「田舎者と言われることの、どこが問題なのだ?」
俺は3人に問いかける。
「私は、田舎者ではありません」
セレンが答えると、
「こっちの方が、田舎でしょう。
アリアハンを甘く見ないで」
と、テルルが追随する。

「城内の男性から、「あんな男のどこがいいのだ」と質問されて、とくとくとアーベルさんの素晴らしさを説明したら、「田舎者のくせに生意気だ」と言われました」
勇者は、関係ないことを口にする。

「まずは、セレンとテルルが指摘する、問題点について整理しよう」
勇者が少し、ふてくされた様子を示したが、俺は無視した。

「テルルにとって、田舎とはどういうところかな?」
「それは、人が少ないところでしょう」
「セレンにとって、田舎とはどういうところかな?」
「静かなところです」
「セレンとテルルとは、少し田舎のイメージが異なるようです」
俺は、説明口調に移行した。

「それがどうかしたの?」
テルルは質問する。
「俺が言いたいのは、エジンベアの人にとって、田舎とはどのようなものをイメージしているかということです。
たとえば、城の入り口の門番は、自分が守っている城のことを「由緒正しきエジンベアの城」と表現しています。
ということは、「由緒が正しい」ものではないものを「田舎」とイメージしているのではないでしょうか?」

「それを言えば、アリアハンはかつて全世界を治めていたはずよ!
そっちのほうが、由緒正しくないかしら?」
テルルは養成所で学んだ知識を説明した。
「その認識を、エジンベアの住民が持っているとは思えない。
自分こそが、一番でほかの人は自分より下だと思っている人が、その事実を認めると思うかい?」
「ありえないわね」
テルルはため息をついた。

「エジンベアの歴史を学ぶ機会がなかったが、自分の国が世界で最初に作られたとか、思っているのかも知れない。
とにかく、エジンベアにとって、自分の城以外から来る人を「田舎者」と呼んでいると推測できる。ここまではいいかな?」
3人はうなずく。

「今の推測を理解したうえで、田舎者と呼ばれることに不満があるかい?」
「はい」
「あります」
「あるに決まっているでしょう!」
勇者、セレンはうなずいて、テルルはテーブルをたたくような勢いで立ち上がる。
「どこに問題が?」

「アーベルは、たまに鈍いところがあるのよね」
「・・・。そうですね」
「私は、それでも構いません」
テルルは俺にあきれた表情でこたえて、セレンはテルルに追随し、勇者に至っては俺を慰めてくれているようだ。
俺にとっては、慰めになっていないけれども。
「どう思われても構わないが、確認したいだけだ」

「だから、城内の人が私たちのことをばかにしているのよ」
「そうです」
「アーベルさんをばかにする人は許せません!」
「俺はばかにされた覚えがないのだが」
3人からの指摘に反論するも、不満の原因は理解した。
「まあ、国王に話をすれば済むことだ」
俺は王様に話しかけることにした。


「わしは心の広い王様じゃ。
田舎者とてそなたをばかにせぬぞ」
「ほら、問題ないだろう」
俺が、後ろに振り返ってみんなに声をかけると、
「いや、あの表情は見下しているとしか、思わないから」
テルルが反論する。
セレンも勇者もテルルと同意見のようで、うんうんとうなずく。

「見下したり、ばかにしたりするなんて、ありえないだろう」
俺は3人に反論する。
少なくとも、俺が城内で話しかけた相手は、興味深そうに俺の話を聞いていた。
「曲がりなりにも、魔王や大魔王を倒して見せた相手を見下すなんて、神様ぐらいしかいないだろう」

にこやかに笑っていた王様が、急に驚きの表情を見せる。
ああ、そうか俺たちの紹介がまだだったな。
みんなが田舎者と呼ぶから、俺たちのことを知っているかと勘違いしてしまった。
というわけで、俺はエジンベアの王様にみんなを紹介してから、反論を再開する。
「そもそも、勇者をばかにしたら、アリアハンに対して宣戦布告したと同じくらいしっているだろう。だから、ばかにするなんてありえない」
王様の周囲は、急に静まった。

「万一そんなことをしたら、エジンベアが船を持っていない時点で、他国に侵攻できないから、常に外敵からの防御に備える必要がある」
いまだに海にモンスターがいる限り、普通の船では航海などできないだろう。
「かつて、世界の海をまたにかけた海洋国家が、満足に海に出られない。
そんな屈辱を国民が納得しないでしょう?
住民たちから反乱が起きるでしょう。違いますか?」
俺は王様に視線を移す。

「そ、そうじゃ。そのとおりじゃ」
王様はあわてて首を振る。
「と、いうことだ。みんなも納得したよね?」
俺は後ろを振り返った。
「アーベルさん。怖いです」
「アーベル、すてきです。でも、いつもの方がもっとすてきです」
「・・・。アーベル、少しは手加減したら」
なぜか反応がおかしい。
とはいえ、当面の懸念を払ったと自分を納得し、散策を続けた。


「なあ、セレン。
みんなが俺のこと、避けているようだが?」
「自業自得でしょう」
理解できないのだが。
まあ、エジンベアで嫌われても問題ないと判断した俺は、あきらめて帰ろうとする。
「アーベルさん、お帰りですか」
城内で話をした相手から声がかけられた。
「ああ、次の目的地に行かなければならない」
「そうですか、また、田舎の話を聞かせてほしいわ」
「機会があればな」
俺は右手を上げて手を振った。


「アーベル」
セレンが、いきなり右腕をつかんできた。
「あの人は誰ですか?」
「たしか、マーゴットだったな」
「アーベルさん、どういうことですか!
私という人がいながら」
勇者が左腕をつかんできた。
「田舎の話をせがまれたので、いろいろと話を聞かせたのだが」
俺は、勇者が言った言葉の後半の意味が理解できなかったが、知り合った経過を説明した。

「アーベルは、そうやって各地で女性を口説いていたの?」
セレンは右腕をきつく握り締める。
「誤解だ、誤解。
単なる情報収集だよ!」
俺は、先頭を歩くテルルに助けを求めた。
「自業自得でしょう」
振り向いたテルルの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。 
 

 
後書き
アリアハンでの事件 解明編を27日に掲載します。
掲載位置は、第3話目になります。 
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