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戦国異伝

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第百十八話 瓦その八

 それでまた言う羽柴だった。
「病は避けられるなら避けるべきですな」
「そういうことじゃ。酒もじゃがな」
「過ぎるとですな」
「あれも身体を悪くする。とはいってもわしは飲めぬがな」
 信長は相変わらず下戸だ、飲めないままだ。
「だがそれでもじゃ」
「菓子も過ぎると太りますな」
「そうしたものは過ぎては口にせぬことじゃな」
「殿は甘いものがお好きですが」
「好きでも気をつけてはおる」
 信長もまた己を大事にしているということだった。
「病に罹るつもりはないからのう」
「病ですな」
「敵は他の大名だけではないということじゃ」
 病もまた然りだというのだ。
「茶は薬じゃがな」
「それは、でございますな」
「また飲むとしよう。して猿」
 また羽柴に話すが今度の話はというと。
「御主も最近茶を飲む様になり茶器を集め出したな」
「母上に差し上げる為にも」
「よいことじゃ。親孝行はするものじゃ」
 信長もこのことは非常によいと言う。
「それはな。しかしじゃ」
「しかしといいますと」
「御主どうも黒いものは嫌いじゃな」
 羽柴のこのことを言うのだった。
「黒い碗も箸も使わぬな」
「どうも好きになれませぬ」
「利休は黒を愛しておるがのう」
「あの御仁は確かに深き方ですが」
「黒を好むことは駄目か」
「どうにも」
 そうだというのだ。
「あれだけは馴染ませぬ」
「御主は黄金が好きな様じゃな」
「派手な色が好きなので」
 それでだというのだ。
「みらびやかな色が好きでございます」
「そうじゃな。じゃが」
「じゃがとは」
「御主も苦手なものがあるが」
「その黒がです」
「家臣のどの者もある。そういえば」
 信長はこの者の名も出した。
「竹千代もじゃ」
「徳川殿にも苦手なものがあるのですか」
「あれは子供の頃から雷が苦手じゃ」
 羽柴にこのことを笑って話す。
「あれが鳴ると竦み好きな魚なり海老なりにも手をつけぬ」
「それはまた」
「意外に思うな」
「徳川殿といえば武辺者では」
 これが巷の家康の評判だ。
「三河武士といえば当家とは違い」
「武辺者の集まりじゃな」
「十六将にその中心におられる四天王の方々といい」 
 とかく徳川家と言えば武の家だと思われている、その主である家康にしても馬術に剣術、水練にかなりの腕で知られている。
「実際にそれがしも」
「桶狭間の時じゃな」
「あの時は中々苦労しました」
「中々どころではないな」
「左様で」
 羽柴は己の言葉を訂正してあらためて述べた。
「危ういところでした」
「あそこで今川義元を虜とせねばか」
「我等は全員砦を枕に討ち死にしていました」
 そうなっていたというのだ。
「徳川殿の攻めは凄いものです」
「織田家でもあそこまで見事な武の者はおらぬ」
 信長自身もこう言う。
「敵に回すと厄介じゃ。政も出来るし学も学んでおるしな」
「まだお若いですが」
 信長や羽柴も若いが家康はさらに若い、元服して間もない位だ。
 だがそれでもなのだ。 
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