とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
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第2話 サイランド再
空の旅を終え、ワンルームマンションに帰宅した牧石は、自分の考えが、目黒の妹である黒井真惟に読まれた事に頭を悩ませていた。
牧石は、テーブルの上に置いた、携帯電話とそれに付いているストラップを確認する。
携帯電話を購入したときにおまけでついてきた葉っぱ型の対サイリーディングストラップは、黄色になっている。
「太陽に当たって変色したのか?」
牧石は黄色いストラップを眺めながら、そんなことを思った。
牧石は、黒井に考えを読まれた時、
「また、携帯を忘れたのか?」
と思い、あわてて携帯電話を確認した。
しかし、携帯電話とストラップはきちんと鞄の中に入れていた。
「そうなると、黒井はレベル6なのか?」
牧石は、そう考えた。
牧石が持っていた、ストラップはレベル5のサイリーディング能力まで防ぐことができる設定になっている。
科学技術が結集されたストラップは、サイキックシティ内で大量生産されたため、今ではおまけのストラップにつけるほど入手が容易であった。
もちろん、サイキックシティの外で入手することは非常に困難であるが。
牧石は、今後の事を考えると、対サイリーディング能力を自分で身につける必要性を感じていた。
サイリーディングを防御するための方法については、携帯電話に付いている機器に頼る方法と、自分のサイレベルを上昇させることで防ぐ方法がある。
牧石は、能力を身につけることで自分の考えを読まれないようにする事にした。
牧石が心配しているのは、自分が別の世界から転生したことがばれることである。
しかしながら、「自分は、別の世界から転生しました」などと言っても、具体的な証拠でも無いかぎり、誰も信用されないだろうと思う。
せいぜい、「この人、変な設定を自分につけて喜んでいる人ね」と思われる程度だ。
だが、レベルがあがれば注目される可能性がある。
そのときには、自分の身を守る必要がある。
道具だけに頼るわけにはいかない。
「新作が出たということもあるし、サイランドで練習するか……」
牧石は、先日サイランドで遊び倒した「超能力者が魔法世界に召喚されたようです」の次回作「超能力者が魔法世界に召喚されたようです エピソード0 ~新時代の幕開け~」が登場したことを聞いていた。
牧石は、そこで訓練をする事に決めた。
翌日牧石は、サイランドに行ってみたが、ミナコからは、
「ごめんね。
機械の調整の関係で、もうしばらくかかるそうなの。
入荷したら、メールで知らせるから」
と牧石に謝るとともに、メールアドレスを教えてくれた。
牧石は、「超能力者が魔法世界に召喚されたようです」略して「超魔召喚」をプレイしてから、ミナコに新作の内容を教えてもらっていた。
ミナコは、携帯端末から情報を呼び出すと、前作の7年前を舞台に、前作で未解明だった謎や、新しいキャラクターが登場していることを説明してくれた。
「フェゾ様は、相変わらず登場するようね」
「あれだけ、使いにくいキャラはごめんです」
牧石は、もうごめんだという風に右手を顔の前に出して、左右に振る。
「本作で、フェゾ様の真の姿が明らかになるそうよ」
「雪だるまではないのですか?」
牧石は、ミナコの言葉に対して、前作のエンディング内容を思い出しながら質問する。
「この店で、クリアした人の感想では、『コントローラーを持っていたら叩きつけたところだ!』という内容だそうよ」
「そうなんですか?
って、遊べるのですか、さっき調整があって時間がかかるという話でしたが?」
「あちらでの、内容よ」
ミナコは、一台のゲーム装置を指し示す。
装置には、「オミット版」、「超能力訓練用のゲームではありません」、「1ゲーム4,000円」という注意書きが大きく記載されている。
「ああ、オミット版ですね。
でも、あちらも結構難易度が高いと聞いていますが?」
「サイランドに来るゲーマーをなめない方がいいわ。
対人戦なら、あなたよりも上よ」
「でしょうね」
牧石は、素直にうなずいた。
牧石の能力では、相手の考えを読んだとしても、近接戦闘を主体として本能的に行動されたら、相手の行動を読む前に、簡単に負けるだろう。
「とにかく、本物の稼働はもうすこし先になるから、もうちょっとまっていてね」
「そうします」
牧石は、そこで帰ることにした。
牧石は学生である。
夏休みの課題を片づける必要があるのだ。
それから、しばらくたったある日、「『超魔召喚エピソード0』稼働しました」というメールが牧石に届いた。
当然、ミナコ個人ではなく、サイランド第7区支店の公式メールからである。
そして、牧石はサイランドからの公式メールと一緒に受け取った、もう一つのメール内容を眺めていた。
「明日、妹と遊んでやってくれないか」
という件名で、目黒が送信者であった。
牧石は目黒からのメールの内容を見て、ため息をつく。
要約すると、妹が夏休みに押し掛けてきたけれど、自分は毎日補習なので、相手をして欲しいとのことだった。
牧石は、
「妹の了解を取ったのか?」
といいう一文を送付すると、しばらくして帰ってきた返事は、
「なんとか説得した」
ということだった。
牧石は、
「それなら、問題ない」
と返事をし、明日に備えた。
「平日だが、人が多いな……」
牧石は、前回遊園地に行こうとしていた時に使った待ち合わせ場所にいた。
牧石は、結局あの日は遊園地に行くことができなかったことを思い出した。
牧石が飛行船から下りたあとも、黒井からそのまま近くにある喫茶店につれて行かれて、いろいろと目黒の日常生活を話すように言われた。
牧石は、目黒との学校生活を話しているうちに目黒から、遊園地から帰るというメールが来たため、黒井が「お兄ちゃんと一緒に帰る」と言って、目黒にメールを素早く送ると、お金を払わずにレストランを出ていった。
牧石は、樫倉からお礼の言葉とともに状況報告のメールが来た。
牧石は、樫倉からお礼の返事があったので、安堵するとともに、「がんばれ」と応援した。
なにしろ、樫倉のライバルは滝山だ。
鈍い目黒のような男でなければ、すでに陥落されるような相手である。
そんなことを考えていると、
「牧石さんですね?」
という、声が聞こえた。
「・・・・・・ああ、そうだが」
牧石は、相手に返事する。
目の前には、目黒が送ってくれた妹の写真データとそっくりな姿をした少女がいた。
牧石と目黒の妹は、お互いに挨拶をすると、
「さて、どこか行きたいところはあるかい?」
と牧石は目黒の妹に質問する。
「そうですね。
私は、サイキックシティに来たばかりなので、ご紹介してもらえたらありがたいです」
「そうか。
とはいえ、自分もこの春に来たばかりだからな……」
牧石は、しばらく悩んでいたが、
「まあ、てきとうに商店街でもまわるか」
良い案が思いつかないので、商店街の散策を提案する。
初めてであれば、いろいろと興味を持ってもらえるだろう。
「はい、よろしくお願いします」
目黒の妹は、牧石の提案に素直にうなずいた。
牧石と、目黒の妹は、商店街をめぐりながら楽しく買い物をして時間が過ぎていった。
途中、「サイランド」に顔をだしたが、それ以外は牧石にとって初めて訪れる店ばかりだった。
あっという間に、予定していた時刻になり、最初の待ち合わせ場所に牧石たちは戻った。
「牧石さん。
今日は、ありがとうございました」
目黒の妹は、牧石にお礼を言う。
「いえいえ、……」
牧石は、目黒の妹に対してどう呼べばいいかわからず、ためらった。
「私のことは、真惟とお呼びください」
目黒の妹は、牧石に提案する。
「そうするよ、真惟ちゃん。
それに、僕も初めていく店ばかりだから、結構新鮮だったよ」
「そうですか?」
真惟は疑問の声を上げる。
「牧石さんは、サイランドの受付にいたお姉さんとは、かなり親しげに話をしておられましたが?」
真惟の口調は少しだけ厳しくなった。
「じ、常連客だからね……」
牧石は、真惟の言葉に少しうろたえる。
「たとえ、私がお兄さまに敬慕の念を抱いていることをご承知とはいえ、別の女性と楽しげにお話されるのは、いかがなものかと思いますよ」
「……。
楽しそうに話していたのは、新しく登場したゲームの話題だから……」
「それでもです」
真惟は牧石の言い訳を封じ込める。
「牧石さんは、お兄さまほどではありませんが、女心がわからないということです。
別にすべてを理解することは求めませんが、デリカシーがない人だと思われない程度は理解してください」
真惟はまじめな表情で牧石を見つめる。
「……」
「さもないと、死ぬまで彼女がいない状態を貫くことになりそうです」
「……」
牧石はうなだれた。
たしかに、牧石は前の世界で彼女は存在しなかった。
「待ったか~!」
「お兄さま!」
待ち合わせ場所に向かって来る人物からの声に、真惟は素早く反応する。
「おい、真惟、抱きつくな!」
「お兄さま成分の補給です。
私にはこれがないと生きていけません」
「おい、俺が死んだらどうするのだ?」
「私たち兄妹は、生まれたときは違っても、死ぬときは一緒と誓いました」
真惟は、1,800年以上前に使用された桃園の誓いの言葉を引用した。
「誓ってないから!」
当然のように、目黒は反論する。
「見解の相違についてと、微かに漂う香水の香りの持ち主につきましては、あとでじっくり話し合いますが」
「真惟、誤解だ。
マリヤとはぶつかっただけだ!」
視線が険しくなった真惟にたいして、目黒はあわてて弁明を試みる。
「なるほど、私よりも滝山さんのほうが良いと」
「偶然、補習で一緒になっただけだ、誤解だ」
目黒は無駄な抵抗だと、うすうす感じながらも、再度弁明を試みた。
「ええ、あとでじっくり話し合いましょう」
真惟は牧石に視線を移すと、
「今日は本当にありがとうございました」
真惟は、丁寧な挨拶を行うと、目黒の手を引っ張りながら待ち合わせ場所を後にした。
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