とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
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第7話 試験結果
翌日、牧石のトレーニング結果を見て、磯嶋は思わずうめき声をあげた。
「なんですか。これは……」
牧石の前に映し出されたモニターには、
エスパー度 0
透視能力 0
念力 0
予知能力 0
と、示されていた。
名称の右側にある棒グラフで、能力を視覚的に表すのだが、普通の被検者であれば、表示されるべき、赤いグラフが表示されることはなかった。
もっとも、逆説的には「全く能力が発揮されていない」という状況を視覚的に如実に表しているのだが。
「いったい、どこから手をつけたらいいのかしら・・・・・・」
磯嶋は、調査結果の原因を解析しようとすると、背後から男性の声が聞こえた。
「一問も正解していないようだね」
磯嶋は、振り返ると白衣を着たやせぎすの男がいた。
20代後半だが、研究に打ち込んだ結果、疲れたような表情をみせているため、実際よりも年上に見える。
「そうね。
驚いたわ、こんなことがあるなんて」
磯嶋は、再び牧石のデータを確認する。
「磯嶋君。
君は、ここに来て日が浅い。
君の被保護者にちゃんと、トレーニングを積ませたのかい?」
「エキドナに確認したらどうかしら?」
磯嶋は、努めて冷静にコンピュータールームの中央に鎮座する端末に視線を移す。
磯嶋は、牧石に説明をしなかったが、このコンピューター「エキドナ」は、超能力技術を使用したコンピューターである。
第5世代コンピューターの国家プロジェクトのうち、状況を判断し決定する推論エンジンの開発は完成しなかった。
もともと、国家プロジェクトの目的には推論エンジンの開発はなかったが、これがなければ第5世代コンピューターとして活動することはなかった。
ところが、超能力研究が本格化した際の新しい技術開発の一つとして生み出されたのが、「エキドナ」である。
「エキドナ」は、この都市の成長を経済的に支えてきた森原財閥が、とある目的を果たすために財閥の全面的な支援により開発した物で、完成してから現在まで、世界最強のコンピューターの座に君臨し続けている。
現在、とある理由により、本来の能力が制限されているが、超能力検査を行うには十分すぎる性能を発揮している。
当然、牧石のトレーニングに関する情報はエキドナに残っているので、問題があるかどうかはすぐに確認できる。
もっとも、誤った試験を行うのであれば、すぐにエキドナが警告するだろう。
「そうだね、貴重な一号機を壊されたらたまらないからね。
まったく、急に現れた部外者が、一号機を使用できるようになるとは、所長も何を考えているのやら……」
磯嶋は男の発言にため息が出た。
確かに、エキドナは、貴重な一号機である。
普通であれば、技術革新の問題で後発の機械ほど性能がよくなるが、エキドナは違う。
エキドナには、新しい技術革新を受け入れるだけの柔軟性を持っているからだ。
実際、この都市に存在する、後発の「エキドナ」型コンピューターである「スキュラ」、「デルピュネー」、「キマイラ」が存在しているが、性能としては、いまだに「エキドナ」には及ばない。
そして、エキドナを壊すことはコンピューターの特性上不可能に近い。
もっとも、封印をといてとき放つのなら、話は別だが、封印を解くことは所長にしかできないことだ。
もっとも、男の話も分からないことではない。
現在、エキドナは能力を制限してあり、使用するためには、所長室かこのコンピュータールームを使用しなければならない。
所長室は、所長しか使用できないため、研究等で使用するためには、コンピュータールームを使用するしかない。
本来、磯嶋は別の部屋で牧石の能力測定を行うはずだった。
ところが、急遽所長から、すべての研究員に対して、
「1 牧石の能力開発及び、能力検定はすべてエキドナを使用すること。
2 エキドナの使用については、牧石の能力が発動するまで、牧石に対して最優先で使用させること。
3 牧石に対する能力開発に対する担当は磯嶋主任研究員が全権を持つこと。
4 牧石が卒業試験に合格するまで、牧石がセンター外へ外出することを禁止とすること」
を通達したのだ。
この通達に対して、所内の研究員は驚愕し、磯嶋自身も所長に対して説明を求めるため、直接の面会を申請したほどだ。
所長は、「この件に関してこれ以上の説明はない」
という簡素な一文が送られただけだった。
牧石は、自分が新参の研究員であるため「しかたがない」とあきらめたが、あきらめられなかった男がいた。
目の前の男である。
男は、自分が進めていた研究が、最近入所した研究員とよくわからない不法侵入した少年に邪魔されたのだ。
だが、磯嶋は私に言うなという表情で男に答える。
「所長への悪口なら、直接本人にいってもらえないかしら。
建設的な発言でない、ただの愚痴なら、よそでやってちょうだい」
「さすが、所長のお気に入りの研究者。
言うことがちがうねぇ」
男は、磯嶋に対して賞賛とも侮蔑ともとれる言葉を残して去っていく。
「やれやれ、ようやく分析が始められる。
それにしても、測定結果を見る限り、理解できない結果だな」
磯嶋は、エキドナが示す詳細な表示内容を確認するたびに、ため息が出ていた。
牧石は、コンピューターの測定結果を見る限り、まじめにトレーニングに取り組んでおり、超能力が発動するために必要な意識下に置かれていた。
普通の被験者であれば、何らかの能力があらわれてもおかしくないほどマインドレベルが高かった。
「たしかに、所長が目を付けるだけのことがあるわね。
それとも、あらかじめこうなることを予見されたのかしら」
磯嶋は、牧石に関するデータを自室の端末に転送する事をエキドナに命じると、独り言を続けた。
「私の能力を、あてにしているのかもしれないわね」
磯嶋の能力は、研究するには最適な能力である。
そのかわり問題点もあり、基本的には自室でなければ能力を使用するつもりはない。
磯嶋は、資料を片づけると、コンピュータールームから出ていった。
「なぜ、能力が発動しないのだ……」
磯嶋が、牧石の能力が発動されない理由を調査していたころ、牧石も自室で頭を悩ませていた。
牧石が先ほど行った実験は3種類あり、
一つ目は、透視能力の調査で、5種類の模様の書かれたカードを使用して、裏に伏せたカードの種類を当てるものである。
二つ目は、念力の調査で、赤いランプが点滅するよう、心の中で念じるものである。
三つ目は、予知能力で、5つのランプのうち点滅するランプを予想するものである。
透視能力と予知能力は20回を5セットづつ、念力については40回を5セット行った。
ところが、牧石がどんなにがんばったところで、予知や透視が一つも当たることはなく、ランプも一つもともることはなかった。
最初の頃は、単純に調子が悪いだけかと思っていた。
だが、検査終了後に見た磯嶋の表情から、自分の結果が特異であることを思い知らされた。
そして、自室のコンピューターに自分の結果が特異である理由を質問したところ、試験では全く細工をしていないため、透視や予知については確率1/5で当たること、念力に至っては1/2の確率で当たることを教えてくれた。
続けてコンピューターに先ほどの練習で、一つも当たらない確率について質問すると、透視や予知については、約5億分の1の確率であり、念力に至っては小数点以下60桁くらいまで0が付くと言われてしまった。
「なんという確率だよそれ。
どんだけ不幸だよ」
と、牧石がため息ながらつぶやいた言葉で、牧石が前の世界で見ていたアニメの主人公の能力を思い出した。
そして、牧石は自分の能力が、アニメの主人公と同じ「あらゆる能力を打ち消す能力」ではないかと考えていた。
「だがあの能力では、他の能力と一緒に使用できないぞ」
牧石は、自分の考えを否定する。
主人公が都合良く問題を解決したり、女の子と知り合えたりする事象を能力と考えれば、主人公も複数の能力を持つことになるが、さすがにそれはないだろう。
そうなると、牧石は自分の訓練が足りないと考えるようになった。
「そうだな。
たった一日やそこらで、能力が身に付くと考えるのは、ずうずうしい。
今日はゆっくり休んで、明日から特訓だ」
牧石は、磯嶋から「あまり超能力を使いすぎると疲労により集中力が乱れ、逆に成績が悪くなる。だから適度の休憩が必要です」と言われて、今日の訓練は取りやめとなっていた。
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「そうだ、こんなところで俺は休んではいられない」
牧石は、回想を中断し休憩を切り上げると再び目の前の扉に向かって、念力を送り込む作業を再開していた。
いつか、自分の能力によって目の前の扉が開くことを信じて。
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