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ルサールカ

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第二幕その一


第二幕その一

                   第二幕 愛は破れ
 城の大広間。夜の帳が下りようとしている中を城の者達がせわしなく動き回っていた。
「ほら、まずは蝋燭だ」
「よし」
 使用人の一人が大広間の所々にある蝋燭に火を点けて回っていた。その暖かい火に照らされて部屋の中が浮かび上がる。赤いカーテンに壁のタペストリー、そして大きなテーブルがそこにあった。
「これで明るくなったぞ」
「じゃあ次の仕事だ」
「えっ、これで終わりじゃないのか」
「何言ってるんだ、これからだぞ」
 立派な身なりの執事が蝋燭を点けた使用人に対してそう言った。
「夜の仕事は灯りを点けてからはじまるんだ」
「ちぇっ」
「ちぇっじゃないよ」
 舌打ちする彼を叱る。
「わかったらさあ次の仕事だ」
「御褒美ははずんで下さいよ」
「はずんで欲しかったら真面目にやるんだな」
「わかりましたよ」
「じゃあお皿はそっちね」
「ええ、わかったわ」
 彼等と入れ替わりにメイド達がやって来る。
「銀の皿はここで」
「普通のお皿はここ」
「あれ、今日は銀のお皿が多いわ」
 小さいメイドがそれに気付いた。
「今日のパーティーは何か特別なの?」
「ええ、そうらしいわ」
 大きなメイドがそれに応える。
「ほら、この前王子様が連れて来た方」
「ああ、あの奇麗な黄金色の髪の」
 ルサールカのことである。
「あの人の為のパーティ^なんだって」
「そうだったの」
「王子様としてはあの人と結婚したいみたいだし」
「いいんじゃない?奇麗な人だし」
 小さなメイドはそれに頷いた。
「お似合いだと思うわよ」
「けれどあの人って何処かおかしくない?」
 大きなメイドは怪訝な顔をして小さなメイドに囁く。
「何かさ」
「喋れないから?」
「それもあるわね」
 ルサールカは城に来てからも一言も話さない。話せないのだがそれを知る者はいない。
「けれど他にも」
「そういえばあの人何処から来たのかしら」
「湖の森かららしいわ」
「あの森から!?」
 それを聞いた小さなメイドの眉がしかむ。彼女もあの森のことは聞いているのだ。
「それじゃあまさか」
「有り得るわよ」
「有り得るどころじゃなくて本当にそうかも知れないわね」
「そうね」
 大きなメイドもそれをどうにも否定出来なかった。
「あの森だから」
「けれどそれだと王子様はどうなるの?」
 小さいメイドはふと自分の主のことが心配になった。
「精霊が奥様になったら」
「死んじゃうかもね」
「死ぬって」
「話は聞いているでしょ?」
 大きなメイドは同僚に小声で囁きかけてきた。
「人間と精霊が付き合っていいことはなかったって」
「若し浮気なんかしたら」
「呪いで死んじゃうし」
「けれどまさか」
 あの王子様に限って、と言おうとした。だが大きなメイドは冷めた目で言う。
「裏切っても駄目なのよ」
「裏切っても」
「悲しませてもね」
「それじゃあ人間と付き合うよりずっと難しいじゃない」
「だからなのよ。今までうまくいった試しがなかったのは」
 彼女は小さなメイドに言う。
「少しでも過ちを犯せば死ぬのはこっち」
「だから付き合えない」
「誰もね。それこそ奇跡が起こらない限り」
「奇跡、ね」
「そんなの滅多にないでしょう?だから奇跡なのよ」
 彼女の言葉までも冷めていた。
「有り得ないことだから」
「そうなの」
「じゃあ私達は現実のことをしましょう」
 同僚に仕事を急かす。
「お皿の次はお酒よ」
「もうコルクは抜かれてるかしら」
「そろそろね。だから余計に急がないと」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ、急いで」
 彼等はいそいそと仕事をしていた。その中で他の者達もそれぞれの仕事をしている。彼等もまたヒソヒソと話をしているがそれはやはりルサールカについてであった。
「何者なのか」
「本当に人なのか」 
 そうした話ばかりであった。彼等もまたルサールカに目を向けていたのだ。だが。彼女が何者であるのか、確かに知ることは適わなかったのだ。誰にも。
「おかしなことだ」
 王子はその中で従者に対して話していた。彼は今自室にいた。王子の部屋にしてはかなり質素な部屋である。あまり派手な装飾もなく落ち着いたものであった。
 
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