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戦国異伝

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第百十八話 瓦その六

 彼の周りには人が多くなった、その彼を見て羽柴が信長に言う。
「いや、佐吉ですが」
「うむ、よき奴じゃな」
「はい、わしも随分と言われました」
 彼も医師だのずけずけとした物言いにはやられた、しかしだったのだ。
「ですがどうも」
「嫌いではなかったか」
「はい、嫌いではありませぬ」
 そうだというのだ。
「最初から」
「腹が奇麗だからじゃな」
「確かに奇麗ですな」
「他の者に何かあれば身を挺する奴じゃ」
 それが石田だというのだ。
「頭が切れるだけでの奴ではない」
「考えてみれば頭が切れるだけでは」
「性根が悪ければ意味がなかろう」
「かえって危ういですな」
「そうした奴もおる」
 信長にも心当たりがあることだった。
「坊主でもおるからのう」
「左様ですな、そういえば」
「そういえば、何じゃ?」
「はい、南禅寺の僧ですが」
「以心崇伝とかいったのう」
「そういう名だったでしょうか」
「随分と学識があり頭もよいそうじゃな」
 信長もこのことは聞いている、だが聞いていることは他にもあった。
「しかし随分と性根が腐っておる様じゃな」
「その様で」
「曲学阿世の徒と聞く」
 それが崇伝だというのだ。
「しかも底意地が悪く企むことも多いらしい」
「ううむ、酷い奴の様ですな」
「会ったことはないし会おうとも思わぬ」
 会えばそれだけで不愉快な気持ちになる、信長も既にそのことを自分で察してそれでこう羽柴に言うのだ。
「坊主には時としてそういう奴もおるがな」
「ですがそれでも」
「話を聞いただけじゃがそこまで性根の腐った坊主もそうはおらぬ」
 こう言うのである。
「腐るにも程度があるからのう」
「あの坊主の腐り方は只ごとではありませぬか」
「ああした者は決して用いぬ」
 信長は最初からそのつもりはない。
「そして何かすればじゃ」
「その時はですか」
「うむ、首を刎ねる」
 そうしてしまうというのだ。
「問答無用でな」
「その方がよいやも知れませぬな」
「何じゃ、猿は無闇な血を好まぬのではないのか」
 羽柴は織田家の中で最も血生臭いことを忌むことで知られている、その彼が崇伝には処刑止むを得なしと言うので信長は笑ってこう言ったのだ。
「それで今はそう言うのか」
「相手と場合によります故」
 これが羽柴の返事だった。
「邪でどうしよういもない者なら」
「首を刎ねるしかないというのじゃな」
「出来ればせぬに越したことはありませぬが」
「世の中には色々な者がおるのう」
「はい」
 石田の様な者もいる、それと共になのだ。
「ですからそうした輩には」
「若しそうした奴を放っておけばどうなるかじゃ」
「他の者を苦しめていきますな」
「そうさせぬ為にじゃ」
 処刑するというのだ。信長はこのことははっきりとしていた。 
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