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戦国異伝

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第百十八話 瓦その四

「さらに二十年か」
「それだけ生きられるかと」 
 またこう言う池田だった。
「あの方ならば」
「今でも充分長生きじゃがな」
「ですが平手殿ですと」
「うむ、確かにのう」
 また言う信長だった。
「爺はまた違うわ」
「あの方がおられてよいと思います」
 確かに頑固であり口五月蝿いが平手はそれ故に慕われてもいる、この辺りが中々複雑な事情があるのだ。
 それで池田もこう言うのである。
「あのお叱りがなければ引き締まるものもありませぬし」
「わしもよく怒られるがな」
「ははは、しかしそれがよいでございますな」
「だから傍に置いておる」
 やはり平手は魏徴だ、信長にとってはそれに他ならない。
 だが今はその平手ではなく大谷だった。大谷は石田と違いずけずけと言うことなく尖っていないので嫌われてはいない。
 だがその彼の今の顔を見て加藤達は面喰らってしまった、福島がその引いた顔で彼に対して問うたのである。
「一体どうしたのじゃ、それは」
「この顔のことか」
「そうじゃ、何があった」
 見れば彼の顔は包帯だらけだった、目は見えているがそれは病を隠すかの様だ、加藤嘉明も大谷の今の顔を見てこう言う。
「怪我か、それともならず者と何かあったか」
「馬から落ちてのう」
 大谷はその顔で嘉明に答えた。
「それでじゃ」
「落馬か」
「そうじゃ、頭から落ちてしもうたわ」
「それはいかんな、気をつけるのじゃ」
 加藤も言う。彼等は大谷は嫌いではないのだ。
 それで黒田長政がこんなことを言った。
「薬があるが使うか」
「薬か」
「うむ、明の薬じゃ」
 早速それを大谷に対して出す。
「これを塗ればよい。使え」
「いや、それは」
「遠慮することはない」
 黒田も真剣な顔で突き出す。
「さあ、使うのじゃ」
「そうしてよいのか」
「それだけの怪我をして痛くない筈がなかろう」
「だからか」
「そうじゃ、使え」
 半ば押し売りの様に渡す。
「その怪我ではおなごも寄らぬわ」
「その通りじゃな。その怪我では夜も寝れぬな」
 今度は蜂須賀家政が大谷に言う。
「ここは吉兵衛の言う通りにせよ」
「そうせよというのか」
「そういうことじゃ」
「これも使うのじゃ」
 池田輝政、その池田の弟も石田に対するのとは違って大谷には親身な顔になってそれで言うのだった。
 彼が出してきたのは包帯だ、大谷の顔の包帯はもう血が滲んで赤くなっている。その包帯を見ての言葉だった。
「取り替えるがよい」
「包帯までも」
「ではよいな」
 今度は加藤清正が言う。
「早くその怪我を治せ、そうじゃな」
 加藤が言うのはこれだった。
 酒を出してそのうえで言ったのである。
「気付けじゃ」
「酒か」
「普通の酒ではない、蝮が入った酒じゃ」
「またえらい酒じゃな」
「虎が飲む酒じゃ」
 ここでも虎を出す加藤だった。 
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