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吸血鬼の真祖と魔王候補の転生者

作者:黒い子供
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第16話 アルマダの海戦

 
前書き
前回のあらすじ

船団での会議
謁見
大掃除 

 
「敵艦隊捕捉!12時の方向!」

「味方艦隊の布陣、完了との報告!」

「前軍、ドレーク艦隊より手旗信号!いつでも行けるとのこと!」

艦の各所から報告が上がる。

傭兵として参陣して約3年。とうとうこの時が来たわ。

現在地は、イギリス南部、プリマスの沖合約20kmの地点。

南から北上してきた無敵艦隊(アルマダ)と対峙しているイギリス海軍。

前軍はドレーク指揮下の艦隊、その後ろに私たち戦乙女海賊団が続く。

イギリス海軍の主力はその後方、中軍に位置している。

そのさらに後方、後軍にはなぜか、英国王室専用艦・ブリタニア号に乗船したエリザベス1世女王陛下と近衛艦隊が布陣している。

・・・ドウシテコウナッタ?

ロンドンからプリマスに向けて出港した翌日に追いついてきたときは流石に驚いたわ。

謁見してみると簡潔に、

「国家存亡の時に座して待つなど、王たる者の勤めではない」

とあっさり言い切ったわ。

そんなこんなで、私とエヴァにたっぷりと絞られ鍛えられた(当時から残っているのは5分の1)英国海軍の士気は天井知らずに上昇中というわけ。

「ドレーク艦隊に合図を送りなさい!作戦を開始する!」

「はっ!」

私の号令一下、伝令が走り去る。

ざっと150年、共に戦い続けてきた我が騎士団の精鋭たちに、今更言葉をかける必要はない。

私たちの前方、ドレーク艦隊に火の手が上がるのを見つめながら、私は考える。

さぁ、歴史に名を残すこの一戦、せいぜい私たちのための贄となりなさい。

微笑みながら、私は見つめ続けた。










「敵艦隊混乱!陣形は乱れ、相互支援は不可の状態!」

見張りからの報告に、そろそろ頃合かと思案する。

火をつけた自分の艦隊を、敵軍に突撃させる。

ドレークの単純であり突飛な作戦は、効果抜群のようね。

敵艦隊は動揺し、その隊列を崩す。

如何に大軍とは言え、隊列が崩れればあとは各個撃破で事足りるわ。

さらに言えば、戦力差はスペイン130隻に対してイギリス200隻。

砲門数ではスペインに分があるけれど、こちらは何より私たちがいる。

「全艦隊に通達!全速前進!我に続け!」

「はっ!」

「機関最大!砲撃戦用意!」

私の号令を受け、船長のセノアも命令を下す。

そうこうしているうちに、艦の正面、主砲の射程に敵艦を捉える。

「主砲発射!」

私の指示で発射される、我が艦自慢の主砲。

この時代であればありえない距離からの攻撃。

敵艦の同様がここからでも見える。

結果は、着弾。たった2発の砲弾(魔法付与の特大サイズ)で敵艦は大破、すでに沈み始めている。

「各砲撃ち方自由!撃ち方始め!」

ドーンドーンドーン!ドーンドーンドーン!

すれ違い様にどんどん砲撃を加えていく。

沈めきる必要はなく、それは後ろに続く我が艦隊がやってくれる。

悠々と進むスレイプニルの船上から、あまりの呆気なさに落胆しながら戦場を眺めていた。










「提督!敵艦隊を突き破りました!」

見張りの報告で、ぐるりと周りを見回す。

正面からぶつかった両軍、私たちはその中央をぶち抜いた形。

「我が艦隊の様子は!」

「損害は軽微、航行に支障なし、10隻共についてきています!」

ざっと戦場を俯瞰して、次の手を考える。

と言っても、取るべき手はそう多くないのだから自ずと決まるのだけど。

「取舵一杯!敵艦隊右翼を撃破する!英国海軍左翼と連動!我が艦隊に通達!」

ここまで来れば、勝利は確定。必要なのは如何に損害を少なく、圧倒的勝利を得るかどうか。

戦場にありながら、私の思考は既に先を見据えていた。










「いやはや、今回のマクダウェル卿のご活躍、まさに古の英雄に勝るとも劣らない戦果ですな」

あの海戦から約1週間後、今はロンドンのバッキンガム宮殿で戦勝を祝うパーティー中。

あのあと右翼を撃破して、そのまま左翼を全艦隊で半包囲して壊滅。

敗走するスペイン艦隊に対して、英国海軍は追撃しなかった。

どうやら体制を整えてから追撃するつもりだったみたいね。

私は歴史を知っている分、そんな時間は与えるつもりはなかった。

麾下の艦隊のみで追撃をして、2隻を残して全て沈めたわ。

この2隻は帰国してもらって、せいぜい私たちの恐ろしさを伝えてもらう。

そんな訳で、戦乙女海賊団は全体の4割、約50隻近くを沈め、英雄ともてはやされていた。

騎士団の彼女たちも、会場の各所でパーティーを楽しんでいる。

もちろん上辺で騙されるほど愚かじゃないから、単純に楽しんでいる。

かと思えば我が愛しき恋人兼義妹は、私の隣で男など興味なしオーラを隠しもせずにちびちびワインを飲んでいる。

私はこの機会にと、せっせと大貴族や大商人相手に顔見世という名の外交を行っている。

人脈っていうのは何にも勝る力になりうるのよね。

一通り話し、選定が終わった頃を捉えてエヴァが声を掛けてくる。

「今度は何を企んでいるんだ?」

にやりとしながら問いかける小悪魔が1匹。

「まぁ、地位と地盤は手に入れた。しばらくはのんびりしながら力を蓄えようかなって」

答えるのは、慈愛の女神のような微笑みを浮かべる魔王様。

「せっかく拾ってくれた国を食い物にしてか?」

「究極的に私たちがよければ全てよし!まぁ、少しくらい手伝ってあげてもいいけれど」

きっぱり言い切る私に、呆れるエヴァ。

私は首をかしげながら、パーティーを眺めていた。










後年、歴史家は語る。

このアルマダの海戦の後、英国は類まれなるスピードで発展していく。

海軍力を背景として世界の海運を支配し、商業が発展していく。

それにより生まれた財力は国内の各方面に投資され、あらゆる技術が発展。

技術の発展はさらなる商業の発展を生み、理想的な好循環を生み出す。

時折迎えた経済危機・侵略危機も、英国王室と、王室お抱えの守護神により難なく乗り越えられたとか。

その守護神とは、海戦で活躍したとある女性貴族だったとか。

かくして英国は、今や並ぶものなき世界第一位の超大国として君臨している。

とある時代のとある国、とある学校にて、歴史の授業中首をかしげる銀髪の美女教師と、溜息をつく金髪美女学生がいたとかいないとか。

それはまた別のお話。 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます。

随分間が空いてしまいましたが、ゆっくりとでも進めていきたいと思っています。

次話では大きく時代が飛びます。

まぁ、我らがシルヴィア様が好き勝手やることに変更はありませんが(キリッ)

ご意見ご感想、お待ちしております。

それではまた次回。 
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