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カルメン

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第三幕その三


第三幕その三

「構いません。その為に来たんですから」
「じゃあ後はね」
 案内人は自分はすぐに帰ろうとしていた。
「神の御加護があらんことを」
 十字を切ってその場を後にする。一人になったミカエラは一人自身を励まして呟くのであった。その固い決意に満ちた顔で。
「何が出ても恐れることはないわ、私は平気」 
 自分で自分を励ます。
「空元気は駄目、怖くて死にそうでも」
 そう自分に語る。
「こんな場所で一人きりだけれど主よ、私に勇気を」
 そうして主に祈る。
「あの女からホセを取り戻してみせるわ。何があっても。だから主よ、私に御加護を」
 必死に主に祈りながら先に進む。すると岩陰から誰かが出て来た。
「止まれ、誰だ」
「その声は・・・・・・まさか」
 すぐにわかった。夜の闇の中で姿ははっきり見えなくとも。
「ホセ!?ホセなのね」
「俺を知っているのか!?」
「そうよ。だって私は」
「御前はまさか・・・・・・むっ」
 だがここでまた誰かが来た。ホセはそちらに顔を向けた。
「話は後だ。何処かに隠れていろ」
「え、ええ」
 ミカエラはそれに頷く。そうして彼の言うままに岩陰に隠れた。すると彼女と入れ替わりになるようにエスカミーリョが姿を現わしたのであった。
 ホセは彼に向けて発砲した。エスカミーリョは足元に銃弾が当たったのを見て肩をすくめて言うのだった。
「おいおい、もう少しで次の闘牛に出られなくなるところだった。勘弁してくれないか」
「御前は誰だ」
 ホセはその言葉には答えずに逆に問い返した。
「税関の者か?」
「違うさ、闘牛士さ」
 自分のところにやって来たホセに対して答えるのであった。
「グラナダのね。名前はエスカミーリョ」
「今売り出し中の闘牛士のか」
「おお、私の名前を知っていてくれているようだね」
 エスカミーリョはそれを聞いて機嫌をよくさせた。
「それはなによりだ」
「その闘牛士が何の用なんだ?」
 彼の目の前まで来た。そうしてあらためて問う。
「こんなところまで」
「惚れた女に会いに来てね」
 明るく気さくな感じの笑顔を作ってみせて答える。
「それでなのさ」
「女か。誰だ?」
「ジプシー女だよ」
「ジプシー女」
 ホセはそれを聞いて顔を曇らせる。だが夜の中なのでそれがわからないのを助けにしてまた彼に問うのであった。声も押し殺しながら。
「それで名前は」
「カルメン」
「何っ!?」
 その名前を聞けば冷静ではいられなかった。血相を変えて問う。
「カルメンに何の用だ」
「もう頃合いだと思ってね」
 ホセがどうして激昂しているのかわからなかったがまた答えた。
「頃合い!?何のだ」
「カルメンには恋人がいたな」
「いるの間違いだ」
 ホセはそれをムキになって否定する。彼にとっては必死である。
「それは」
「話には聞いているさ。彼女の為に軍を脱走した兵隊がいる」
 ホセのことだがまさか目の前にいるのが彼だとは思ってもいなかった。
「お互い夢中だったらしいがもうそろそろだからね」
「だからそれはどういう意味だ」
「知らないのかい?カルメンの恋は半年だ」
 彼は言うのだった。
「カルメンの恋は半年と続かないのさ。それが彼女なんだよ」
「あんたはその半年だけでいいのか」
「結構なことだ」
 そうしたことは達観して遊ぶのがエスカミーリョの考えであった。少なくともホセとはそこが違う。
 
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