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戦国異伝

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第百十七話 鬼左近その十一

「今は無理じゃが戦にでもなりあ奴が隙を見せたその時にじゃ」
「狙いそして」
「撃て」
 そうせよというのだ。
「わかったな」
「承知しました」
「御主には武田もやってもらいたいのう」
「武田信玄もですか」
「織田信長も厄介じゃがあの者も厄介じゃ」 
 闇の者達は武田信玄も敵として見ていた。それは自分達以外は全て敵であるかの様であった。
 その彼等が闇の中でさらに話した。
「織田信長に比肩する英傑じゃからな」
「それだけに、ですな」
「あ奴もまた」
「隙を見て撃て」
 彼もまた然りだというのだ。104
「他にも上杉、北条、毛利、伊達、島津とおるがな」
「織田と手を組み浅井に徳川」
「その下に入った長曾我部にですな」
「色は闇の敵じゃ」
 老人の声は実に忌々しげで吐き捨てる感じだった。
「全てを消す為にはじゃ」
「日輪を消すことが最も手っ取り早いですな」
「やはり」
「そういうことじゃ。織田信長じゃ」
 何につけても信長だった。彼等は闇の中から信長を見据えそのうえで得体の知れぬ悪意を抱いてそこにいた。
 そのうえで彼等はこうも言うのだった。
「松永めを送っていますが」
「あ奴、近頃動きが妙ですな」
「織田信長の傍にいますが何もしませぬ」
「まるであ奴の傍にいるのを楽しんでいる様ですな」
「一体何を考えておるのか」
「わかりませぬな」
「何、案ずることはない」
 老人の声が周りのいぶかしみ疑うものをこの言葉で打ち消した。
「あ奴もまた我等の一族、十二家の一つの主じゃ」
「松永家の主」
「それ故にですな」
「都には崇伝もおる、あ奴は今ここにはおらんがな」
「どうも幕府に取り入ろうとしています」
「足利義昭に」
「あの騒がしい公方にじゃな」 
 老人の声は義昭の名前を聞いてまずはこう言った。
「誇りだけ高く何もわかっておらぬ奴じゃがな」
「だからこそ操りやすいかと」
「ああした者が将軍ですと」
「だから取り入るつもりの様ですが」
「このことについては」
「そのままさせよ」 
 よしと言うのだった。
「あ奴の好きな様にさせよ」
「このままですか」
「そうさせますか」
「あの公方は使える」
 老人の声に邪悪な笑みが宿った、そのうえでの言葉だった。、
「ああした誇りだけで何もわかっておらぬ奴はじゃ」
「しかも幕府の将軍となると」
「例え最早何の力もなくともですな」
「それでも」
「力はなくとも公方は公方じゃ」
 足利将軍である、このこと自体が大きいというのだ。
「そこを使うのじゃ」
「煽り動かしそして」
「闇の手駒としますか」
「足利幕府にも随分やられた」 
 老人の声に今度は恨み、そして憎しみが宿った。それはまさに闇の中にこそ存在しているものだった。 
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