カンピオーネ!5人”の”神殺し
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第二部
鋼の精神・・・すげえ
「お、おい!大丈夫か!?」
草薙護堂は、混乱していた。彼の目の前には、全身ずぶ濡れの美少女が立っている。
美少女。こんな言葉では生ぬるいかもしれない。こんな陳腐な言葉では、彼女の美しさを表すには不足しているかも知れない。が、彼には、この言葉以外に彼女の事を表現出来なかった。
今は濡れているが、本来はサラサラとしているのであろう、腰まで続く美しい銀髪。夕日に照らされ、キラキラと輝くその髪は、神々しさすら感じてしまう物であった。
強く抱きしめれば折れてしまいそうな程に華奢な手足。しかし、不健康という訳ではなく、カモシカのように引き締まっている。肌にはくすみ一つ存在せず、白雪のような儚さを感じさせた。
まるで人間ではないかのように、完成された美を持つその少女。並みの人間ならば、この美貌を見た直後に硬直するか、暴走するか。そんな魔性を感じさせる少女であった。
護堂もその例に漏れず、一瞬硬直してしまったが、とある理由から再起動は早かった。
「酷い、ボロボロじゃないか・・・。怪我はしていないか?」
彼は、背負っていたリュックからタオルを取り出して少女に手渡した。そして、怪我がないか確認しようとして・・・また硬直した。
「・・・?」
「あ、いや、スマン!怪我をしているんじゃないかと思ったんだが、見ず知らずの女の子の体に触るなんてどうにかしてた!」
彼女の服は、ボロボロであった。恐らく元々はドレスのような服だったのだろう。海水と、服にベットリとへばりついた何かによって元の色までは判別出来ないが、かなり高級な代物だったのではないかと推察出来る。
その服は、焼け焦げたような痕跡や、引き裂かれ、切り刻まれたような痕跡が無数にあり、既に服の形態を保っているのが不思議な程になっている。今にも見えてはいけない場所が見えそう。・・・となれば当然、高校生になる直前の思春期で、性欲だってそれなりにある護堂が焦るのも当たり前であった。むしろ、ここまで扇情的な姿を見ておきながら、目を逸らすという選択肢を即座に選ぶ事が出来た彼の意思は、鋼鉄のように硬いのだろう。無意識にチラチラと見そうになっている己の目を、手で押さえてまで見ないようにしているのだから。
「と、取り敢えず、これ着ろよ。その格好でいるよりはマシだろう。」
背負っていたリュックから、男物の絵柄のついたシャツを取り出し、少女に渡す護堂。
「け、怪我がないならいいんだ、ウン。取り敢えず、それを着たら警察に行こうぜ?俺もついて行ってやるから。どう見ても事件に巻き込まれたようにしか見えないし・・・。」
と、そこまで言った護堂は気がついた。少女が何も言わずにシャツを来てくれた事で恥ずかしさが薄れたせいだろう。テンパっていた頭が冷えて、多少冷静になった彼は、致命的な事に気がついてしまった。
(さ、さっきから日本語で喋ってるじゃねぇか!!!)
そう、異国の人の気配が全くしない浜辺で、明らかに事件に巻き込まれたようにボロボロになった美少女を見つけた彼は、焦るあまりにずっと日本語で話していたのだ。時折、少女が首を傾げていたのは、言葉が分からなかったからなのではないか?どこの国の人間かは分からないが、少なくとも日本人ではないだろうし。
「あ、あ~・・・どうするか・・・。」
いっそのこと、取り敢えず警察に引っ張ってみるかと考えるも、それでは自分が変質者扱いされかねないと気がつく。信じられないような美少女の手を強引に引いていく異国の少年。・・・この構図は、他人から見てどう映るだろうか?
「さ、最悪だ・・・。」
周囲には人影もなく、頼れる人が居ない。警察の場所すら分からず、途方に暮れた護堂は、当たって砕けろと、取り敢えずコミュニケーションを図ることにした。
元々彼は、幼少期から何度か祖父に連れられて外国に行ったことがある。そして、祖父とはぐれて、数時間、酷い時は数日の間、自分一人の力で生きていくしか無かったこともあったのだ。その時は、必死に周囲とコミュニケーションを取って、家に泊めてもらったり、飯を奢ってもらったりしている。彼は、日本の一般的な中、高校生より、遥かに行動力においては優れる人物なのだ。
「英語なら分かるんだろうか・・・?」
「私、貴方の言葉分かりますよ?」
「え・・・・・・?」
護堂の呟きに反応した彼女から、日本語で話しかけられて、護堂は驚いた。・・・が、これは好都合だ。
「そ、そうか!言葉が通じるのなら良かった!俺の名前は草薙護堂。見ての通り、日本からの旅行者だ。君の名前は?一体、誰にそんな目に合わされたんだ?」
希望を取り戻した彼だったが、彼女の言葉は彼の希望を根元から叩き折るものであった。
「名前・・・分からないんです。」
「は?」
「それに、私はどうしてこんな場所にいるんでしょう?あの・・・此処は、どこですか?」
「き、記憶喪失かよ・・・?」
思った以上に厄介な事件に巻き込まれたかもしれないと、彼は内心で吐息した。
後書き
私は、こういう状況になったら、一歩も動けなくなる自信があります。みなさんはどうでしょうか?
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