ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第70話 そして、神竜との戦いへ・・・
俺達は、目の前の塔を見上げる。
階段が続くその先に、祭壇のようなものがある。
その上空にたたずむのは、竜の姿をしていることがここからでも確認できる。
この先に、今回の冒険の目的である相手がいる。
「MPを回復しよう」
俺は袋から、指輪を取り出すと、全員に手渡した。
セレンとテルルは俺から指輪を受け取ると、何故か顔を赤くしている。
この指輪に何か思い出ででも、あるのだろうか。
勇者に指輪を手渡そうとすると、
「指に、つけてもらっていいですか?」
と、顔を赤らめ、もじもじしながらお願いされた。
俺は、勇者が差し出した左手の薬指に、指輪をつけてやった。
指輪全般に言えることだが、指の大きさに関わらず職業の適性があれば、だれでもどの指にでも装着することができる。
実際に使用する立場からすると、大変便利でありがたいのだが、指輪の仕組みが気になってしまった。
どんな扉でも開く事ができる鍵である「さいごの鍵」が、マネマネ銀という物質で作られているが、それと同じようなもの素材が使用されているのだろうか。
だが、あの金属が安易に使用されているのであれば、「さいごの鍵」が量産可能であることになる。
量産化されたら、新たな対策を考える必要があるだろう。
俺の頭の中にある、「後で調査・研究する対象リスト」に深く刻みつけると、勇者の方に意識を戻した。
勇者は飛び上がって喜びまわると、指輪をほおにすりすりとこすりはじめた。
なにかのおまじないだろうか。
ふと、周囲を見渡すとセレンとテルルが驚愕の表情をしていた。
勇者の行動に、問題があったのだろうか。
後で聞いてみるか。
と、思いたいところだが、いくら鈍感な俺でもさすがに理解する。
この世界でも、婚約指輪や結婚指輪は左手の薬指に身につけている。
俺の両親もちゃんと身につけていた。
俺にとって勇者は、かわいい妹のような存在だ。
だが、妹と結婚するなんて考えられない。
どうやらセレンとテルルは、俺が妹のような存在である勇者と結婚するつもりだと勘違いしているようだ。
勇者が喜んでいるのは、これからの戦いで、重要な役割を担うと言うことを理解しての行動のはずだ。
あとで、説明すれば2人には理解してもらえるはずだ。
大丈夫、誠実に話せばわかりあえるはずだ。
俺はそんなことを考えながら、自分自身も指輪を身につけて祈りを始めた。
俺達が身につけた指輪は、「祈りの指輪」と呼ばれる物で、使用するとMPを回復することが出来る。
ただし、一定の確率で使用後に破損することがあるが。
これらの祈りの指輪は、ノアニールの西にあるエルフの隠れ里でしか販売されていない。
しかも、この指輪は人間には売ってくれないのだ。
俺は、指輪を入手するため、ジンクの師匠であるトシキから、「変化の杖」を借り受けた。
この杖を使って、ホビットに変身すれば、エルフと取引が出来るようになるのだ。
「しかし、いやな依頼を押しつけられたな」
俺はため息をついた。
トシキに変化の杖を借りたお礼をしなければならない。
そして、その依頼の内容はトシキらしい内容だった。
俺は、気を取り直して、周囲の仲間達を見回した。
「・・・」
先ほどまで大喜びしていた勇者が、うなだれていた。
「どうした?」
「指輪が、壊れちゃった・・・」
勇者が目に大粒の涙を浮かべながら、粉々になった指輪の残骸を、両手ですくうような状態で俺の目の前に差し出した。
「しかたがないな。MPは全快したのか?」
「はい・・・」
「ならば、問題ないな」
俺は、セレンとテルルの様子を確認する。
2人とも指輪を見せながら、喜んで頷いている。
俺は、MPが回復していることを確認すると、目の前の階段を登り始めた。
「ほほう・・・」
目の前の巨竜は、俺達を興味深そうに見下ろしていた。
「ここまでたどり着ける人間がいたとはな」
ここにたどり着くまでは、盗賊の特技「忍び足」を利用したため、かなりの戦闘を回避することができた。
それほど苦労はしなかった。
「私は神竜。天界を治める者だ」
俺達も、各自名乗りを上げる。
それにしても、天界の治める領域はどこまであるのだろうか。
そして、途中にある城を治めるゼニス1世との関係はどうなっているのだろうか。
後で聞いてみたい気もするが、聞きたいという願い事になってしまうことを恐れて、自重しよう。
俺達の様子に満足したのか、神竜は大きな声でうなずいた。
「いいだろう。
ここまで来た褒美にそなたの願いをひとつだけかなえてやろう」
勇者達は嬉しそうな笑顔を見せる。
だが、神竜の話が終わっていないことを知っている俺は、表情を引き締める。
「ただし!この私を打ち負かすことが出来たならだ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
俺以外の全員が、何とも言えない表情を見せる。
俺もつられるように、表情を引き締める。
彼女たちは、神竜にあえただけで願いが叶うと思っていたらしい。
残念ながら、世の中そんなに甘くはない。
でも、文句を言うわけにもならない。
願いが叶うかどうかは、力を持つ神竜が決めることだ。
そして、神竜が殺気を放ったことで、言葉による反撃を封じ込めた。
「いくぞ。用意はいいか?」
「セレン。ドラゴンシールドを」
「はい」
セレンは俺の指示に頷くと、これまで装備していた、みかがみの盾をドラゴンシールドに取り替える。
セレンの防御力は少し下がるが、ドラゴンシールドの力で神竜が放つブレス攻撃を軽減することが出来る。
勇者は光の鎧で、俺はドラゴンローブで、テルルは光のドレスを身につけているので装備の変更は不要だ。
準備が整ったのを確認した俺は、神竜に対して攻撃を開始した。
神竜との戦いは熾烈を極めていた。
炎と氷のブレス、イオナズンを用いた呪文攻撃。
極めつけは、巨体を生かした押しつぶし攻撃だ。
この攻撃には、鎧など役に立たない。
HPの低いテルルは、1回ほど死んでしまった。
もう少し最大HPを上げてから、挑んでも良かったかもしれない。
しかし、後悔するのはまだ早い。
テルルは、俺が唱えた蘇生呪文「ザオリク」で完全復活し、戦闘に参加している。
死んだときの痛覚を記憶しているはずだが、戦闘参加には問題がないようだ。
「メラゾーマ」
「メラゾーマ」
「メラゾーマ」
俺と、セレン、テルルはひたすら火炎系呪文最強のメラゾーマで神竜を攻撃し続ける。
俺とテルルはいつものように、呪文を唱えているが、セレンは少し緊張しているようだ。
そう言えばと、思い出す。
セレンが攻撃呪文を使用した経験はほとんど無かった。
確か、航海中に大王イカが出現したとき、ザラキを唱えて以来だったはずだ。
まあ、神竜はでかいので外れることはあるまい。
勇者は、最初こそ最強の雷撃呪文「ギガデイン」を唱えていたが、後は俺達のサポートとして賢者の石や「ベホマズン」の呪文で味方を回復していた。
この戦法は、俺が前の世界のゲームで用いた作戦をそのまま流用している。
当初は、メラゾーマをさらに強力化することを考えたが、人間同士の戦いに悪用されること考慮して、俺は開発するのを止めている。
まあ、魔法の玉を量産化した本人が言っても説得力がないが。
ちなみに、今回は魔法の玉は使用していない。
氷のブレスが有ることと、空を自由に飛ぶことで簡単に回避できるからだ。
そんなことを、考えているうちに、神竜の動きが突然鈍くなった.
どうやら、神竜を打ち負かすことができたようだ。
「みごとだ!」
神竜は、戦闘前と変わらない様子で、俺達に話しかける。
倒されたと言っても、容易に復活できるということか。
まあ、本当に死んでしまったら、願いを叶えてもらうこともできなくなる。
「この私を打ち負かしてしまうとは・・・」
「ひさしぶりに心から楽しませてもらったぞ!」
神竜は本当に嬉しそうに話しかける。
倒されたのに、神竜からは悔しさが感じられない。
単純に、強い相手との戦いを喜んでいるのか。
それとも、・・・。
・・・いや、強い相手との戦いを喜んでいたことにしよう。
俺の考えを無視して、神竜は俺達に声をかける。
「いいだろう
そなたの願いをひとつだけかなえてやろう」
勇者達は、喜んだ。
とりあえず、目的を達成するための手段を確保することができた。
「さあ願いをいうがいい」
「かなえる願いを増やすことはできますか?」
テルルは丁寧な口調で尋ねる。
「それは出来ない」
「そうですか」
テルルは残念そうにつぶやいた。
「願い事の数をふやすという願いは、最初の一つだけ願いをかなえると言う言葉と矛盾してしまう。
そうなると、結局願いを叶えることができなくなったことになるので、却下している」
論理学的な話なのか、ただの屁理屈なのかはさておいて、神竜の話に逆らうことはできない。
さて、誰のどの願いをかなえてもらおうか。
「貴様が、アーベルか」
突然、頭の中から渋い男の声が聞こえてきた。
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