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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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4*まともな奴ほどバカを見る

さて、突然ですが、ここでクエスチョン。

自分は今どこでどうなっているでしょうか?


…それでは答えです。

自分は今、俗に言う姫様とやらの眼前にて穴が開くほど視姦されております。

姫様だけでなく、なんかいかにも”隊長”な人達(ゼノア含む)やら爺やらみたいな方々にも。

それらの総勢、12人。

…間違えた人はひ○し君人形ボッシュートです。
まぁ黒○徹子でも正解はできないでしょうがねぇ…。
…さて、ではなぜにこのような希有な体験をすることになったのかを説明しようではないか。
だがそれをするには多少…いや、かなり時間を遡らなければならない。

…まぁ、ぶっちゃけここにいる理由はめちゃめちゃわかりやすいものなのだが、ここに来るまでにいろいろとあったわけで…

とりあえず、皆様が自分の姿を網膜に焼き付けている間に少し、振り返ってみよう。



********☆

さて、自分はゼノア率いる槍軍団から開放され、彼らの馬車でお城へと向かっている。

そう、馬車で。

つまりあれだ、あれ。

視線が、痛いのだ。
この世界の人達はみんな眼力が凄いね、うん。

要するに馬車とは、複数人を運ぶ乗り物だ。
なので自分と相席になるお方々がいるのである。

その数ざっと20人。

さて、そこで隊長であるゼノアからめっちゃ睨まれてわけわかんないことほざいてた自分はもちろん…

注目の的なのである。

視線と言う矢に突かれながら、無言の馬車はゴトゴト揺れる。

正直きつい。
めっちゃきつい。
誰も喋らんし、空気重いし、視線痛いし。
そしてなによりみなさん…

腰の短剣につねに手を置いとかないで下さい。
正直こわい。
めっちゃこわい。

こんな緊張した状況なぞ、普段から目立たず、騒がず。
極力注目されんようにしていた地味男ことMr.ジミーな自分には堪えられんのだ。

そんな状態が10分ほど続いたところで、その沈黙を破る壮士が現れた。

緑の髪を持つ気弱そうな顔立ちの青年が、これまた気弱そうに手をあげたのだ。
そして…

「あ、あの?…」

彼はびくびくしながら控えめに聞いてきた。

「ニホンって、なんですか…?」

おぉ、これは返答によってはこの空気を打破することが可能なイベントか?
いや、きっとそうに違いない。

なので真面目に答える選択肢を選んでみよう。
そう考え、にこやかに、そして爽やかに答えた。

「日本ってのは自分が住んでた国の名前で、昔はジパングやら極東の地やら言われてた島国のことさ。
そしていまは…、資源は少ないが技術がかなり進んでいてそれでもってる国かな。
ちなみにいま戦争はしてないよ。」

…うん、合ってると思う。
少なくとも間違っちゃいないはずだよね。
いくら何でも自分のいなくなったすぐ後に戦争はおこらんだろう。


「じ、じゃあ、あの…」

むぅ、これだけじゃさすがにこの雰囲気を打破できないか。
そして喋るなら喋れ、ちょっといらつくぞ。

まぁ気持ちわからんでもないが…

「あの…ジィエスピイってどんな能力なんですか?」



……どうしよう…。

正直に言うか?
いや、きっととてつもなく重い心の病を疑われてしまうだろう。

でもどう 言い訳しようか…
自分も完璧には理解してないから変なとこで矛盾ができそうだし。
なにより名前がご都合主義パワーの略称だし…

と、いろいろ思案してると…

「あ…、す、すいませんでした。
し、しゃぺ、喋りたくないなら無理にいわなきちぇもいいです!」

きちぇって…
噛みすぎだぞ、青年。
とゆうか誤解だ。

「いや、喋りたくないんでなくて、説明できないっていうか、しづらいっていうか…」

うん、当たり障りない解答だ。
よく凌いだ、自分。
ほめてつかわす。

「…つまり、門外不出という事ですか?」

わぉ
どんな秘術よ。
やっぱ自分だめだわ。
凌げてないわ。

「いやちがくて、自分も把握しきれてないっていうか…」

「つまり制御仕切れないっつーことか。」

今度は別の奴が割り込んできた。
青髪の、つり目なイヤミタイプの顔。

…なにこいつ。
感じ悪い。
嫌いなタイプだ。

なんかこいつ、人を見下した喋り方するし。
めっちゃ強気で自分に自信ありまくりな顔してるし。

多分緑君(仮)との会話で自分は安全だと判断されたらしい。
らしい、のだが…

「つーかホントにてめぇがカームル殺したのか?
正直疑わしいな。」

…イラッ

「きっとあれだな、あの光とかは雷で、それがたまたまカームルに落ちたんだ。
そしてこいつがたまたまそれを発見して自分の手柄にしようとしてると。」

イライラッ

「そもそもこんな靴も買えない、変な服しか買えないような奇人のいうことなんて信用するなんてマトモじゃねーよ。
隊長もなんで城なんか…」

「ラルム!」

ブチッ!

緑君(仮)がそのラルムとやらに注意したがもう遅い。既に堪忍袋の緒どころか怒りが溜まり過ぎて袋ごとブッチしたね。
自分の心の狭さなめんな。

確かに自分の力ではないし、把握仕切れてないから制御できるかもわからない。

しかしだ、ラルムとやら。
テメェは自分を怒らせた。
まず何故に初対面でここまで批判されなならんのじゃ。
そもそも、雷なるような天気なら全員ずぶ濡れだろうに。

つーわけでなんか驚かしてやろう。
暴力は嫌いだから精神的にくるものを。さて、何がいいか…

「うっせーよシャール。どうせなんもできねーカスになに言おうが問題ねぇよ。
そもそも話してる時の顔がキメェ。」

…決定。
君には小林○美と同じ道を歩んで貰おう。

出来るかわからんが。

人の渾身の笑顔けなしやがって。

つーわけで念じてみたら…

うん出た。
これはなんかGSPの力の固まりっぽくて、レーザーとかと同じノリで出せるらしい。
馬車が薄暗いし自分の影で隠れて周りには見えないらしいが。

まぁ、そうゆうふうなとこに自分がだしたんだけどね。

「つーかそもそもてめーみた「うるさい。」


これ以上話しを聞きたくなかったので話の腰を真っ二つにへし折るタイミングでけしかけてみた。

「とわっ!」

すると、ラルム様はいきなりでてきたヘビともカメともトカゲともわからないような予想外の怪生物に襲い掛かられて、驚いているご様子。

そう、自分が出したのは“エ○ーズ“というスタ○ドである。ちなみにACT1。

それが眼前に迫ってきたので、奴は予想以上に慌てふためいている。

ザマァ。

そして…

バキッ!

驚いてる間にパンチを一発。

バキッ!ビシッ!ドギャア!

さらに三発、全部顔面にくらわしてエ○ーズを引っ込めた。
つか消した。

「っ、くっそ!
なんだ!今の!」

「だ、大丈夫?」

「あぁ、痛くなかった、が、なんだあの魔物は!
俺様にいきなり襲い掛かりやがって!」

そう、エ○ーズに攻撃力はない。
ないが、別の恐怖がまっている。

おっ、馬車が止まった。
お城についたのかな?
…まぁいいや、これからがおもしろいとこだし♪

そう思ってるとラルムは自分に向かって…

「テメェ、あいつはなんだ!」

とか叫んできた。
だから素直に答えたよ。
全力の笑顔で。

「大丈夫大丈夫、音だけだから。」

そう、音だけ…ね。

「ラルム!」
「ウルセェ!
俺はいまこいつと…」

「顔に何か、変な記号みたいなのが!」

「はっ!
記号がなんだ!俺はいまっ…がぁ!」

ラルムは、話してる途中でいきなり、それも尋常じゃないほど苦しみだした。
そして耳を押さえながらのたうってる。

そう、これがこのエ○ーズの本当の攻撃。
何回も何回も書いてある文字と同じ音を反芻させる能力。

つか文字は通じないんだったね。

「なっ、なんだ!耳鳴りがっ!」

「ラルム!どうしたのっ!」

「大丈夫かっ!」

おお、よかったなラルムとやら。
あれか、骨折したらクラスメートにちやほやされるのと同じ現象か。

よし、もっとちやほやされろ。

「ほれ、もう一発。」

そう言いながらもう一度エ○ーズをつくり…

ビシッ!

「うわぁーーーーー!!!!」

ラルム、絶叫。
そして崩れ落ちた。
やっぱり精神的にはきついのかね。

「どうした!」
ゼノアが現れた。
しかし自分は悪くない。

「さぁ?
ストレスたまってたんでない?」

「すと…、なんだそれは。」

あら、もしや横文字が通じないと。

「いえ、あの、その、あの。
ラ、ラルムがちょっと問題起こしただけです。」

「…またか、こいつは。」

やっぱりトラブルメーカーかい、こいつ。
つかシャールさん、怯えた目でこっちみないでください。
ほかの兵士さんも、基本自分は優しいはずです。

「…ハァ。
とりあえずナルミ、これから着替えて、そして姫様に会ってもらうことになった。」

…ハ?
ナゼニ?

「なんで?
いつの間にそんな話しになったんよ。」

「いや…君の事があのお転婆姫に知られてしまってな。
ぜひみて見てみたいと言っていて、王族の命令だから無視もできなく…すまん。」

いや、謝られても…
つか臣下がお転婆って言っていいのか?てか会ってみたいでなく見てみたいかよ。
自分は上野のパンダか。

まぁいいや、とりあえず着替えね。

「とりあえず、自分も着替えたいからどっか着替えれるとこに案内して。」

「ああ、だがまずは着替えを取りにいかねばな。
私のを貸しておこう。」

そっか、いまの自分はぱっと見なんももってないもんね。

「いや、実は自分、これでも荷物とかももってるから。
そこは大丈夫なはずだよ。
もちろんお姫様に会うのだから一張羅を着て行くしね。」

え?
一張羅ってなにかって?
男子高校生の一張羅ったら詰め襟でしょ。

「…どこに持っているんだ?」

…まぁ、普通そうだよね。
百聞は一見にしかず。
一回みしたほが早い。

「実は…よいしょ。
ほらここに。」

そういいながら自分は我が高校の制服を取り出した。寝巻のズボンのポケットからずるりと。

「…ホントに君は何者なんだか。」

「自分でもよくわかんね。」

そんなことを話しながら着替えるための部屋についた。途中、すれ違う兵士やらメイドやらみたいな方々にめっちゃ注目された気もするが気にしない。
そしてなにより…

メイドさん数人にネコミミやらそれに類似するものが着いていた気もするが、気のせい木の精気にしない。
兵士も角やコウモリの翼的なのがついてる気もするが、気のせい木の精気にしない。
ゼノア隊長の微笑みの隙間から凶悪な牙が見えて、爪が長くてナイフ並に鋭そうなんて気もするが、気のせい木の精気にしない。

そう、全部木の精霊が自分に幻覚をみしてるのさ。
この世界初心者な自分をいぢめて愉しんでるんだ。
そうに違いない。

結論。
木の精霊はドSである。

そして部屋に入り、着替えた。
だが靴下はあったが靴がなかったのでゼノアに借りた真っ黒いブーツをはいている。

というかスリッパで行こうとしたらさすがに止められてはかされた。

まぁわかってたけどね。

つか自分もってきてんの自分の部屋のものだけだもん。
日本には家の中では靴をぬぐんだもん。
、たからなんで靴だけ持ってないとか言われても、ねぇ。

ちなみに彼は自分の恰好をみると息を飲み驚いていた。

そんなに変かな?

そして、着替えたのちにゼノアに案内され、その噂のお姫様に会うために自分の3倍はあるんでね?ってくらいのでかさの扉をくぐった。

すると待っていたのはお姫様とその部下たちだった。



********☆

…これがここまで至った経緯です。

ちなみに皆様自分を見るやいなや息を飲み、目を見開きはじめやがりました。

そこまで変か、コノヤロー。

そしてそろそろみなさんの双眼はもしや固定されてるのではないか、と思いはじめたころにお姫様が口を開いた。

「…私はこのトゥインバル国の第三王女、エリザ・ルル・トゥインバルだ。
さっそくだがナルミとやら、お前の能力とは一体どんな物なのか見せてはくれないか?
噂ではカームルを粉砕するとも魔物を呼び出すとも聞いているが。」

周りはお姫様の発言を聞いてざわめきはじめた。つか、爺的な人になんか言われてるし。
あ、爺が渋々よけてった。
きっと言いくるめられたんだろう。

「で、やってみてはくれないか?」

優雅な振る舞いで再度きいてきた。

しっかし美人なお姫様だねぇ。
ピンクのツインテールに真っ赤なドレス、気が強そうだが気品のある顔立ち。
喋り方もさっきのラルムとかとはちがい、嫌な気にはならない。

ただ背中の真っ黒い羽がとっても気になるが…

やっぱしこの国って、魔族の国とかで人間は発見され次第首チョンパなんてないよね…?
というか人間いるのかな…

「…駄目か?」

うぉっ!
泣きそな顔するな!

姫様泣かしたらどうなるかわかったもんでない。
人間魔族関わらず、その場で即座に絞首刑の可能性も無きにしもあらず。

「まぁ、いいですよ。」

仕方がないのでそう答えた。
するとどうだ、光の速さで満開の笑み。
…嵌められた。

まぁとりあえず、やってみましょうか。

「じゃあ…、ななにか要望はないですか?」



?エリザサイド?

ここ、ウェンノルス城のとある一室にて。
この国つまりトゥインバル国の第三王女であるエリザ・ルル・トゥインバルはいま…

「…暇じゃ。
暇じゃ暇じゃ暇じゃ暇じゃ暇じゃ暇じゃ暇じゃ暇じゃひーーまーーじゃーー!」

限りなく暇だった。

周りの者達はなぜかバタバタしていて相手にしてくれない。
そもそもこういう時はだいたいおもしろい事が起きているのだが…

「のぉ、城下に行って遊びたいのじゃが、だめかの。」

「駄目です。
頼みますから大人しくしていてください。」

だいたいそんな時は、それにともなって彼女の護衛、ひいては彼女の行動規制が強化されるのであり、いつも以上に暇になるのだ。

そして姫がこんな状態の時に1番の被害を受けるのは…

「頼みますから姫様、これ以上この老いぼれをいじめないでくれませんか。」

教育係兼お目付け役の老人、ゾーン・エルベルト、その人である。通称ゾーン爺。
緑の髪の、ダン○ルドアよろしくな長い白髭を蓄えたいかにも”賢者”な出で立ちの老人。
ちなみに眼鏡はない。

「何度も言ってますように、いま外は危険なじょ「それは草原の方であろう?なら逆の方で遊べばいいではないか。」

今日も今日とて姫様のワガママ爆弾により疲弊している。
そして、外に出たら絶対にこの姫様は護衛の目を欺いて草原に行く。
今までも何度もあったし、なにより彼女の顔がそれを隠しきれてない。

「…わかった、私ももう子供ではない。
大人しく一人で読書でもしよう。
なのでゾーン爺、もう下がってよいぞ。」

もちろんゾーン爺は彼女が一人になったら自慢の羽で抜け出す魂胆だというのは理解してる。

だが…

「…わかりました。
ならわしは隣の部屋で待機しておりますのでなにかご用があればすぐに申し付け下さい。」

あえて離れることにした。
姫様はさっきの2倍くらい目を輝かせている。

そしてゾーン爺は部屋を後にし、扉を閉めた。
そして…

「ねわぁっ!ゾーン爺!
窓に新たな硬化魔法をかけたな!」

窓だけでなく、部屋全体にである。

そしてゾーン爺がいなくなり、窓も開かない部屋に姫様は一人取り残された。
つまり、脱出の手立ても、外に出る為の交渉をする相手もいないのだ。

全てはゾーン爺の計算通り。姫様はまんまと嵌められたのだ。

と、姫様からやっとこさ開放されたばかりのゾーン爺の所に、一人の兵士がやってきた。

「ゾーン様、ゼノア隊長から連絡です。」

そういいながら、碧い手の平サイズの魔石をわたす。

「うむ、ご苦労。
あー、ゼノア、わしじゃ。」

『ゾーン爺、突然だがあの光とカームルについての報告だ。』

「ほぅ、もうわかったのか?」

『ああ、それらは両方一人の青年がやったことだった。
ちなみに彼はいま我々とともに城ついて、いま城門にいる。』

「ちょっとまて、連れてきたのか!?
そんな危険な者を城にか!?」

『そうだ、だが彼は決して悪人ではない。
私が保証する。
それにそもそも、あの草原に放置しとけというのか?』

「うぅむ…」

もっともだ。
それに、ゼノアはあの若さで第一師団の隊長になる程の実力の持ち主。
もちろん人を見る目も人一倍ある。

そんな彼がいうのだから大丈夫だとは思うのだが…

「まぁお主が言うなら…
でも、のぅ…」

やはり不安が残る。
だがこんどはさらに驚愕な一言をゼノアは語った。

『それで実はその青年、ナルミというのだが、彼は実は…』

ここで少し間を置いて。

『実は、黒髪に黒目なのだよ。』

「…は?」

ありえない、と思った。

髪や目はその者の魔力や属性により変わってくる。
水なら青、火なら赤という具合にだ。

それが黒、聞いたことがない。

ところで、彼はいま廊下にいる。
姫様から逃れて部屋からでてきたばかりだったのだ。

つまり…

「それは本当か!?ゼノア!!」

「うぉっ!」

大声で話してると姫様に聞かれてしまうのだ。ちなみに扉は開いてるが、出てはいないため文句は言えない。

「ぜひ見てみたい、私のところに連れてこい。」

「姫様!この者は得体も知れない、危険な者かも知れないのですよ!
そんな事をして万が一があったら…」

「でもさっき、ゾーン爺自身がそいつを城に入れるのを容認したではないか。」

「うっ!」

痛い所をつかれ、何も言うことができない。

「それにゼノアが言うのだ、問題はなかろう。
と、いう訳でゼノア、連れてこい。」

『は、はぁ…』

一気にまくし立てられ、つい流されてしまったゼノアが頷く。

「よし、謁見の間でまってるぞ。」

そういい、一方的に通信を切った。

そして彼女はまず、普段着のドレスから正装に着替え、急いで謁見の間に向かった。

ちなみに後ろでさわいでいたゾーン爺は無視して行った。

途中その者についてのいろいろな噂が兵士達から聞こえてきた。

なんでも、カームルを一撃で挽き肉にしたとか、魔物を召喚して兵士を一人廃人にした、などなど。

それらの噂を聞いて、少し怖くなったが、好奇心が勝っていたので気にせずに進んだ。

そして謁見の間に着いたら、先にゼノア以外の各隊隊長が待機していた。
多分ゾーンが護衛の為によんだのだろう。

そして彼女に遅れてゾーンもきた。
やはり年か、かなり息が切れている。

ちなみに謁見の間は小さい体育館ほどしかなく、奥に少しきらびやかな玉座がいくつかある以外は質素である。
それには理由があるのだが、それは今はおいておこう。

そして待つこと数分。
扉が重々しくひらいて、

ゼノアと共に、全身黒づくめの青年が現れた。

彼の姿に一同が驚いていた。

髪や目は皆報告で知っていたが、それよりも着ているものが凄すぎた。

ありえない程繊細できっちりとした編み目の服に鈍く輝く黄金のボタン。
襟裳には奇妙な記号が書かれた赤色の長方形の宝石(クラスの書かれたバッチ)に、青い小さな勲章(校章)。

服だけ見ればどこかの軍人だが、本人に覇気が足りないのでそうとは思えない。



『こ、これは…』

そう、覇気はないが、異常に似合うのだ。
実は彼、元の世界でも隠れファンが結構いたりした。

そして以外と緊張しいな節のある姫様は、予想外の事に硬直していたが、やがてこう切り出した。

「…私はこのトゥインバル国の第三王女、エリザ・ルル・トゥインバルだ。
さっそくだがナルミとやら、お前の能力とは一体どんな物なのか見せてはくれないか?噂ではカームルを粉砕するとも魔物を呼び出すとも聞いているが。」

緊張からかまくし立てるように一気に言った。

すると周りの隊長達がざわめき始めた。
何故騒ぐのかわかってない姫様にゾーン爺が近づいてきて小声で

「姫様!こんなところでそれをやらせるおつもりですか!危険すぎます!」

と、あくまで小声で叫んだ。
姫様はなるほど、と納得はしたが

「だからなんじゃ、私はいますぐ見てみたいんじゃ!
それに隊長が全員いるのに危険もあるまい。」

ワガママ、暴走。
しばらく言い争いを続けていたが、こうなった姫を誰もとめることはできないので、仕方なく姫様の後ろに下がることにさせられた。

さらに、ゾーン爺との言い争いで緊張も解れ、いつもの調子を取り戻すことができた。
なので彼を真っ直ぐ見据え

「で、やってみてはくれないか?」

と言った。
すると今度は、彼が姫様を値踏みするような視線を送ってみた。
相変わらず覇気はないが…

真っ直ぐ彼の目を見ていた姫様にしか気付かない程の些細な変化だが。

『やっぱり、どこかの秘術の類かの。』

普通、秘術等は例え王族といえど他人には簡単に見せられない。
それがこの世界の常識である。

なので…

「…駄目か?」

泣き落とし、決行。
ちなみにこの方法はここにいるゼノア以外の全員一回は引っ掛かった。
ゼノアにはやったらすぐに見破られ、叩かれ、その痛みで泣きそうになった。

ちなみに余談だが、5番隊隊長は今の所13回落ちている。
というか、全部に引っ掛かっている。

さて、このほぼ負け無しな泣き落とし。
彼には…

「まぁ、いいですよ。」

効いた。
口調は冷静だが、顔がかなり焦っている。
してやったりと姫は思い、ほくそ笑んだ。

そして彼は言葉を続けて、

「じゃあ…、ななにか要望はないですか?」

といってきた。

「要望って、まるでできない事などないような口ぶりだな。」

「まぁ、出来る範囲では。」

「それはそうだろう。
ではなにができる?」

「基本的になんでもできます…」

押し問答である。
そこでゾーン爺が…

「なら君が1番得意な事をやってみてくれないかの。」

よくやった、ゾーン爺!
姫様は心のなかでゾーン爺を褒めたたえた。

そして言われた青年は

「…わかりました。」

少し考えた後に答えた。
そして、

「ディカポルク。」

巨大化した。
呪文と共に、天井に頭がつくくらいに巨大化したのだ。

「なななななななっ!なんだっ!これはっ!」

姫様の動揺しまくった声を聞いて、放心状態だった周りの隊長達が一斉に構えた。

すると、彼はすぐに元のサイズにもどって、両手を挙げ、敵意がないことを示した。

想定外、そして非常識にも程がある。

あれほどの術をたった一言の呪文だけで発動させるのもそうだが、なにより、どの属性に分類すればいいかわからない。
そもそも、巨大化する術なんて聞いたことが無い。
しかもこれが彼の”1番得意な事”なのである。

「…ゾー…」

ゾーン爺に何が起こったか聞こうと思ったが、肝心のゾーン爺。

腰を抜かしていた。

それを見たエリザ姫、爆笑。
さっきまで驚いていたとは思えない程に笑っている。
何たって、あの常に冷静沈着なゾーン爺が腰を抜かしているのだ。普段の彼からは絶対に想像できない姿である。

そして、彼女はしばらく呼吸ができないくらいに笑って腹筋がつった。

対するゾーン爺、普段の賢者のような威厳のカケラもなく、哀れにも尻餅をついている。

そして、落ち着いた所でエリザ姫が

「ヒィー、ヒィー、…ゼノア、判別器をもってきてくれ。」

苦しそうに1番隊長に命令を下した。


 
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