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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第11話 そして、量産化へ・・・

俺が冒険に出る前、母親から前任の宮廷魔術師の事を聞いていた。
母ソフィアは、前任の宮廷魔術師の事を抜け目がないと言っていた。

老人は引退した後も、顧問という職につき、王宮から給金をもらっていたし、王から魔法の玉の作成を命じられた時も、施設研究所の支援と5年間の研究予算を獲得していた。

俺は、レーベの村にすむ前宮廷魔術師に対して交渉を挑む前に、キセノン商会の親父としっかり事前準備を行っていた。



「アーベル、本当に大丈夫?」
「それ試作品とか、言っていたけど・・・」
「問題ない。これは完成品だから」

セレンとテルルの心配をよそに、俺は、壁の前で作業をしていた。
俺が作業をしている目の前に大きな壁が立っていた。
壁が作られてからかなりの年月が経過しており、よほど丹念に調べなければ、この壁が周囲の壁の後に作られた事は、わからないだろう。

「よし、準備完了!」
俺はそういって、みんなを後ろに下がらせる。
俺はメラを唱えると、魔法の玉にぶつける。

「!」
轟音から身を守るため、全員が手で耳をふさぎ、壁が破壊されるのを見守っていた。



「ん?なんじゃお前さんたちは」
研究所にいた老人は俺たちに気がつくと、椅子から立ち上がり、俺たちに話しかけた。

「わしの研究所には鍵をかけておったはずじゃが、どうやってはいってきた?」
老人は特に驚いた様子もなく、つぶやくように質問した。
「はい、この鍵を使いました」
俺はとうぞくの鍵を見せながら答える。
「なんと!それはとうぞくの鍵!するとお前さんは、ソフィアの・・・」
老人は興味深そうに、俺を観察する。
「ええ、ソフィアの息子アーベルです」
俺は、少し恥ずかしい表情で頷く。
「そうじゃったか・・・」

老人はしばらく考えている様子だったが、椅子に座って話しかける。
「であれば、お前さんに魔法の玉を渡さなければなるまい」
セレンは嬉しそうに答える。
「すごい!魔法の玉が出来たのね」
「いや、まだ完成はしとらん」
老人は悲しそうな様子で否定する。
「なかなか、上手くいかんでの。やっぱり、後2年は必要じゃ」
「すいません。無理なお願いをして」
セレンは残念な様子でうなだれる。
テルルは心配そうな様子で俺を見つめる。
「あと2年どうするの?」と顔に書いてある。

「そうですか、残念ですね」
俺は、微笑しながら答える。
老人は、残念そうな様子を見せない俺に驚いている。
「残念といったのは、私ではなくあなたにとってのことです」
「?」
セレンとテルルと老人の3人が不思議そうな顔で俺を見つめる。
「なんじゃと?」
「せっかくの儲け話が無くなりますからね」
俺は老人に対して同情するような顔を見せる。

「どういうことじゃ?」
「失礼しました」
俺は老人にあやまる。
「いえ、魔法の玉が出来ていないなら、関係ない話でしたね。忘れてください」
「頼む、聞かせてくれ」
老人はせかすような表情で質問する。
「まあ、聞かれて困ることはありませんが」
俺はそう前置きして、話し始めた。

俺は、キセノン商会に事前に頼まれて、老人に魔法の玉の量産化を依頼するつもりだったと。
その場合、国よりも多く研究資金を出資すること。魔法の玉の売り上げにつき一定額を老人に支払うこと。その契約書を俺が持っている事を話した。
俺は、契約書を老人に見せつける。
老人は食い入るように契約書の内容を眺めた。
「ただし、条件がありまして」
俺は、老人に対して申し訳なさそうに説明する。
「私がこの目で、魔法の玉の効果を確認してからでなければ、契約することができませんから」
そういって、俺は契約書を袋にしまい込もうとした。
「待ってくれ」
「いえ、研究のお邪魔をするわけにはいきませんから」
俺は、セレンとテルルに帰るよう促した。

老人は決意して答える。
「・・・実は、出来ておる」
「えっ」
「でもさっきは、まだだと?」
テルルは老人に質問する。
「それは、それは、・・・」

「試作品が出来たということですね?」
俺は、老人の言葉に続けて解説する。
「ただ、まだ十分な試験が終わっていないから、王に献上するわけにはいかないと」
老人はうなずく。
「そうじゃ、そうなのじゃ。魔法の玉は失敗すると危険だから、安全が確認できるまで渡せなかったのじゃ」

そういって老人は奥の部屋に入り、しばらくするとボーリング玉ほどの大きさの玉を机の上に置く。
「これが、魔法の玉ですか」
「そうじゃ」
テルルの質問に老人がうなずく。
「すごいです」
セレンは尊敬のまなざしで老人を見つめる。

「わかりました。これから、いざないの洞窟で試してみます」
「おぬし・・・」
「上手くいったら、契約しましょう。いいですね」
「・・・。頼む」
そういって老人は俺に魔法の玉を手渡す。
「かしこまりました」
俺は使用方法を確認してから、老人に礼をいうと、研究所を立ち去った。



「アーベル。いったいどういう事なの?」
「あの老人は「ぬけめがない」ってことさ」
「ぬけめがない?」
テルルは自分の性格のことを思いだし、複雑な表情を見せる。

俺は、自分の考えを披露した。
キセノン商会に老人の事を調べてもらったところ、王が魔法の玉の研究を始めてから、2年間は大きな爆発音がしていたが、ここ最近は、音がしなくなったこと。研究を急ぐよう王の命令が届いてからも、爆発音がしなかったことから、すでに完成していると読んでいた。

「ではどうして、王に完成の報告をしなかったの?」
セレンは俺に質問する。
「完成したと、王に報告したら、研究費はどうなるのかな?」
「そうか、後2年研究費をもらうことを考えていたわけね」
「そのとおり」
「じゃあ、どうしてあらかじめ王に研究費の増額や報奨金の支払いとかの話をしなかったの?」
「それは」

俺は、テルルの方を見ながら話を続ける。
「キセノンが商売を独占したいと言い出してね」
「言わせたのは、アーベルでしょ!」
「どういうこと、テルル?」
「「平和な世の中になったら、土木工事で魔法の玉が役にたつだろう」って、お父さんに吹き込んだのよ、アーベルは」
テルルは俺をにらみつけて言い放つ。

セレンは感心したようすで俺の方を向く。
俺は、気にしないふりをして2人に声をかける。
「おしゃべりはここまでだ。魔物たちがお出迎えだ」
そういって、魔物の群れにギラを放った。 
 

 
後書き
ちなみに「魔法の玉」量産化のあかつきには、勇者によるラーミアを使用したバラモス城空爆計画が実施されます(嘘です)。

しかし、前回から交渉話ばかりになりました。
そろそろタイトルを「交渉魔道師伝アーベル」にかえなくてはいけません(嘘)。 
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