DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 一~四章
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一章 王宮の女戦士
1-05既遂
辺りはすっかり暗くなっていた。
城下町で夫『アレクス』を待つ女性、『フレア』に早く知らせてやりたいところではあるが、本人確認をするにも、身柄を引き受けるにも、彼女がイムルに来る必要がある。
ライアンひとりならともかく、か弱い女性を連れて魔物が出る中を、深夜に移動するわけにはいかない。
今夜はイムルで宿を取り、明日の早朝に発って城下町に行き、その足で『フレア』を連れ、取って返すのが良かろう。
宿を取り、部屋に向かう途中、年配のシスターが浴場に向かうらしいのとすれ違う。
部屋に入り、武具の手入れなどしていくらか経った頃、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああー!覗きよー!」
部屋を飛び出し、まずは女性の安全確保と、浴場へと駆け込む。
蹲って震えるシスターに駆け寄り、手近な布で包みこむ。
「シスター!お怪我はありませんか!」
下手人の姿は見えないし、覗きということではあったが、驚いて転倒などしていてはことである。
「は、はい……。大事ありません……。」
外からは騒ぐ声が聞こえる。
まだ調査を続けていたのか、外にいた王宮戦士たちが下手人を捕らえたようだ。
「下手人は捕まったようですね。もう大丈夫でしょうが、念のため、部屋までお送りしましょう。立てますか?」
じっと見つめると、シスターは顔を赤らめた。
同性とはいえ、無遠慮であったかも知れない。
「だ、大丈夫ですわ。ありがとうございます、戦士さま。」
さらに外から、叫び声が聞こえた。
「未遂です!いや、既遂ですけど!未遂なんですー!」
昼間も捕らえられていた男の声であった。
昼間は未遂であったために一旦は釈放したものの、同僚たちは再犯に目を光らせていたのかも知れない。
全く優秀な同僚たちである。
被害に遭ったシスターは痛ましいが、既遂となれば当面は拘留されるであろうから、この後は彼女の身も安全であろう。
彼らの王宮戦士としての意識の高さを見習わなければ、しかし今回は女の自分が宿にいて、かえって良かったかも知れない、と思いつつ、シスターを部屋へと送った。
武具の手入れを終え、宿の女将の心尽くしの料理を味わい、不埒者が捕らえられて安全になったであろう浴場を堪能し――年配とはいえ清楚可憐なシスターはともかく、多少若かろうがどこまでも無骨な戦士である自分を、覗く者などいなかろうし、気配を見逃すつもりも無いが――、その日は早く休んだ。
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