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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpisodeⅠ:
Te Ratio Ducat,Non Fortuna
  Epic1-Aたとえ再び君たちに逢えるのだとしても~Wheel of FortunE~

主だった戦争の道具である質量兵器の使用が全面的に禁止され、数多くの世界を有する次元世界の年号が新暦に替わってから65年。それと同じくして次元世界に秩序をもたらし管理するための組織、時空管理局が設立されてからも65年。
質量兵器に取って代わったのは、大気中に存在する魔力素を特定の技法で操作し、作用を発生させる技法、名を魔法。その魔法を使う者を魔導師と呼び、管理局はその力で次元世界に平和をもたらそうと奮闘している。

そんな次元世界の内の1つ、ここは第28管理世界と呼ばれる世界、名をフォスカム。管理世界とは、魔法を知り、次元空間を渡り異世界間を移動できる術を持つ世界を、管理局がそう決めたものだ。ちなみに管理外世界というのも存在する。魔法を知らず、異世界へと渡る術を持たない世界に当てられる名称。
フォスカムの辺境地区にてスクライア一族という、管理局や公的組織から依頼されての遺跡発掘を生業としている者たちが地底に広がる遺跡を探索していた。

†††Side????†††

僕たちスクライア一族がフォスカムで発見された地底の遺の跡発掘を始めて早4日。今回の発掘の現場指揮を任された以上、何かしらの成果を残したい。ポケットの中から以前の遺跡発掘で見つけた、紅珠の形をしている、魔法の発動を補助してくれる(デバイス)――“レイジングハート”を取り出す。いつどこで、何の目的で作られたのか判らないけど、デバイスとしての性能はかなり高いと思う。

(でも、僕の魔法の力だと使いこなせないからな~)

魔導師としてのレベルがそんなに高くない自分の不甲斐無さに少し落ち込みながら、手の平の上に乗る“レイジングハート”を眺める。“レイジングハート”っていう名前もこのデバイスから聴いたものだけど、出生に関してはデータに残っていないらしいし。相応しいマスターが見つかればいいな。その方が“レイジングハート”も嬉しいと思うし。

「ユーノっ♪」

「私たちも手伝うよ♪」

「うわぁっ!?・・・って、セレネっ、エオスっ!?」

いきなり背後から飛びついてきたのは、僕より1つ年上の双子の姉妹、セレネとエオス。2人の急な抱きつきにとっても驚いた僕は「ビックリしたじゃないか!」って怒鳴る。どうしてこう悪戯好きなんだろう。

「2人とも。自分たちの担当するエリアの発掘はどうしたの?」

セレネとエオスも僕と同じスクライアの人間だ。スクライアは流浪の一族だから実の家族と一緒に居るという事は少ない。僕だって両親と一緒じゃない。物心がつく前にはもう死別している。セレネとエオスは、僕が昔からお世話になってる族内の一群の長ペリオさんの娘で、この一群で唯一実の家族と一緒に居る子供だ。家族のやり取りを見て寂しくないと言えば嘘になるけど、血の繋がった親じゃなくとも絆の繋がった家族がいるから大丈夫だ。

「「そんなのとっくの昔に終わったってば」」

2人は双子だからか同じことを同じタイミングで言ってくる。ちょっとした口ゲンカになった時ほど面倒な時はないかな。セレネが「ほら」って、バリアジャケットのポケットの中から何かを取り出した。手の平サイズのソレは「綺麗でしょ~♪」確かにセレネの言う通り綺麗な鉱物だった。なんだろ? 水晶だと思うけど。

「ねえねえ、ユーノ。これ見てみて♪」

「へ? Nooooooooooooooooooooooooooooo!! 」

エオスが肩から提げてたカバンの中から取り出したのは人の頭蓋骨だった。叫んじゃうのも仕方ないって。尻餅をついた僕を見た2人はゲラゲラ大笑い。恥ずかしさと怒りで顔が熱くなるのが判る。そんな2人を怒鳴ろうとしたところで、

「ぷくく。ユーノ、ユーノ。ちゃんと見てってば♪」

「ぷくく。コレ、本物じゃないからさ♪」

そう言われて、頭蓋骨をよく見て触れてみる。材質は判らないけど、確かに本物じゃない。人工的に作られた頭蓋骨だ。いま僕たちが発掘している遺跡は、旧暦に滅んだ文明の祭儀場だったみたいだから、この頭蓋骨は何かの儀式に使われていたのかも。考古学者を目指す僕としては気になるところ。じっくりと調べたい。でも、「痛っ?」耳を両側から引っ張られた。

「「ほら、調べるのは後にして奥に行くよ~」」

「判ったから耳を引っ張らないでよセレネ、エオス・・・!」

とりあえず僕たちは遺跡の奥に向かうことにした。トラップの類もなくて、まぁ、多少は道に迷ったりしたけど、どうにか到着。そこは何もない空間だったけど、「ここから先に行けるよ」2人が指差す場所には小さな穴が開いていた。
四つん這いになって覗き込んで見ると、「あ・・・!」壁の向こうにもう一部屋が在るのが確認できた。こういう人の大きさで動き回れない遺跡内部などをスムーズに探索するために、スクライアの魔導師は小動物への変身魔法を習得してる。
今回も例に漏れずに僕たちは小動物姿に変身する。僕はフェレット、セレネはハムスター、エオスはリスに。

「それじゃあセレネ、エオス。この隠し部屋の発掘作業に移ろう」

「「りょーかーい♪」」

元の姿に戻ってぐるりと室内を見回す。隠されていた広さのある五角形の部屋の床は石畳だけど、ほとんどが捲れ上がって土を覗かせてる。壁には火の点いていない燭台がズラッと設置されていて、奥には大きな鏡が1枚置かれた祭壇。
部屋の角には3mくらいの怪しい戦士の石像が5体。直感が告げてくる。絶対にトラップだ。遺跡発掘の先輩の2人だって気づいてるはずだけど「お~宝のた~めにここ掘れランラン♪」歌いながら発掘してる。気を付けるように注意しようとしたところで、ズズンと石像が動き出した。

「「おお、やっぱり動いた♪」」

「そんなのんびり驚いてないで逃げて!」

振りかぶられる石像の剣が2人を襲う。僕以上に魔導師としてのランクが低い2人に防ぐ術はない。でも身動きだけは素早いから余裕で回避。そして僕は魔法で迎撃。足元に展開されるミッドの魔法陣。

――シュートバレット――

「シューット!」

魔力弾を3発放って、1体の石像の片脚を集中攻撃。

「2人は逃げて!」

――プロテクションスマッシュ――

石像がよろけたところで、前面にバリアを展開しての突進攻撃。その石像を後ろ向きに倒させる。起き上がるまでにあと4体・・・ううん。僕たちが逃げ切れるだけの時間だけを稼げればいい。緊迫してるっていうのに・・・

「「きゃあきゃあ♪」」

楽しんでるとしか思えない悲鳴を上げて別の石像の攻撃を避け続けてる2人の姿に、ガクッと肩が落ちる。そんな余裕見せてると、絶対に捲れ上がった石畳に足を引っ掛け・・・「きゃっ!?」ほら、やっぱり転んだぁぁああああああああ!!

「セレネ! エオス!」

「「ユーノ!!」」

4体の石像が2人に向かって剣を振り下ろそうとした。僕の身体能力じゃ間に合わない。こんなところで、こんな形で家族を失ってしまうのか・・・?
そんなの「嫌だ!」前面に魔法陣を展開。魔力の鎖、チェーンバインドを数本創り出して2人をこっちに引っ張ろうと思った。けど、石像の攻撃の方が一歩速い。ダメだ、どうやっても間に合わな・・・・

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

それは一瞬だった。僕たちが入って来た壁を打ち貫いて飛んできた幾つもの風の矢。直撃を受けた石像が砂状になるまで削岩されて、「うわ、すご・・・」残った下半身が力なく崩れ落ちた。壁の向こう側から「見つけましたよ、ユーノ、セレネ、エオス」呆れと安堵が含まれた女性の声が聞こえてきた。

「「「フィヨルツェンさん・・・!」」」

1年くらい前からペリオさんの一群に(正確にはスクライア一族に)興味があるということから一緒に旅することになった女性で、名前はフィヨルツェンさん。デバイスも持たないでSSSランクくらいの威力を持った魔法をバンバン使う、すごい人なんだ。打ち壊されて崩れた壁からフィヨルツェンさんが「無事に何よりです」って茶色い髪を靡かせて姿を見せて、赤い瞳で僕たちを順繰りに見てニコッて笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、フィヨルツェンさん」

「「ありがとーございまーす♪」」

「うふふ。どういたしまして」

僕たちとフィヨルツェンさんはそのまま発掘を続けることになった。フィヨルツェンさんの魔法のおかげで瓦礫の撤去も発掘作業もサクサク進んだ。そして・・・・

「コレは・・・文献で読んだことがある・・・!」

「何かあったのですか・・・?」

「「わぁ、綺麗な宝石・・・!」」

地中から出て来たのは3個の青い宝石。確か名前は「ジュエルシード・・・」だったはず。ジュエルシード。過去に滅んだ超高度文明の遺産、ロストロギアの1つに数えられてる物だったはずだ。こればっかりは管理局に連絡した方がいいかも。ただ1個だけでも強大な魔力を秘めているって文献で読んだ。このジュエルシードは休眠状態だ。何かの拍子に覚醒してしまう前に全部発掘しないと。下手に暴走させたらどんな災厄が生まれるか判ったものじゃない。

「「ユーノ。コレ、貰っていいヤツ?」」

「ダメだ!!」

「「っ!!」」

ジュエルシードに手を伸ばそうとした2人を止める。文献によるとジュエルシードは全部で31個。あと28個が眠ってることになる。不満そうに僕を見てくる2人にジュエルシードの危険性を教えると、2人は大人しく言うことを聞いてくれた。

「フィヨルツェンさん。これから魔法は使わないでください。魔力に当てられて覚醒しちゃったら、さすがのフィヨルツェンさんでも対応できないと思うので」

「ええ。判りました。セレネ、エオス。ユーノの言う通りにしましょうね」

「「は~い」」

こうして僕たちは力を合わせて(と言ってもほとんど僕とフィヨルツェンさんが働いた)全31個のジュエルシードを発掘し終えた。遺跡から出て、まずペリオさんにジュエルシードの発見を報せた。ペリオさんや他のみんなもジュエルシードの事を知っていたから、一群総意でジュエルシードの輸送を管理局預けにすることが決まった。
すぐにフォスカムの陸士隊に連絡して、ジュエルシードを引き取ってもらった。陸士隊からのロストロギア発見の感謝を受けて、管理局の車を見送った僕たちはまた流浪の旅に出る準備を始める。

「・・・突然ですけど、わたくしはこれにてこの部族より失礼しますね」

本当に突然だったから「えっ!?」僕とセレネとエオスは驚いて、フィヨルツェンさんにバッと視線を移す。フィヨルツェンさんがこんな場合でもニコッて微笑みを浮かべるだけ。一群のみんなは引き止めようとしないで、すでにお別れの雰囲気を醸し出してる。ペリオさんも「そうかい。元気でな」って送り出すために、右手をフィヨルツェンさんに差し出した。

「え・・・!?」

「「お父さん!?」」

すごく驚いたけど、でも初めから判っていた事なんだ。いつかはお別れしないといけないって。けど、本当はもっと一緒に旅をしたかったです、フィヨルツェンさん。ペリオさんやみんなと握手を交わしているフィヨルツェンさんのところに歩み寄って、

「今日まで一緒に旅が出来て楽しかったです。ありがとう、フィヨルツェンさん」

「はい。わたくしも楽しかったですよ、ユーノ」

フィヨルツェンさんと握手をすると「ユーノまで!」完全に反対派なセレネとエオスが駆け寄って来た。2人の頭を優しく撫でながら「ごめんなさいね」そう謝るフィヨルツェンさん。頭の撫で方がすごい上手なんだよね、フィヨルツェンさん。ふにゃってなる2人。でもすぐに「違くて!」払いのける。僕はそんな2人に「引き止めるのはご法度。別れの時は、笑顔で見送るのがスクライアだよ」そう言って諭す。

「「判ってるけど!!」」

「セレネ、エオス。笑顔ですよ。お別れは笑顔で。ニコ❤」

「「・・・・フィヨルツェンさん。また逢える?」」

「ええ。いつかまた、わたくしと遭えるでしょう」

なんだろ。最後に見せた微笑みが、どうしても邪なものに見えた気がする。そんなわけがないのに。ほら。とっても綺麗な微笑みだ。1年近く一緒に旅したフィヨルツェンさんの背中が見えなくなるまで見送った後、僕たちもまた次の遺跡に向かうことにした。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

世界と世界の狭間、次元空間。今その次元空間を往くのは次元間を航行できる船ではない。一見すれば切り立つ岩山の集合体。その名を時の庭園。管理局や魔法式の一種、ミッドチルダ式の発祥の地である第一世界ミッドチルダの魔法技術によって造り出された、次元間航行も可能とする移動庭園。
今現在、その時の庭園に住まう人間は母娘の2人。そしてもう1人、いや1匹と称した方がいいかも知れない。居住区近くに広がる、優しい風の吹く草原。そこには少女が2人。長く綺麗な金色の髪は黒色のリボンでツインテール、真紅の瞳、着ている衣装はバリアジャケットとマントという出で立ちの幼い少女と、獣の耳と尻尾を有するスタイル抜群な少女が居た。その少女たちは今、魔法の力によって空を翔けていた。

「行くよアルフ! バルディッシュ!」

≪Yes,sir. Photon Lancer,Get set≫

金髪の少女が手にする、全身が黒く金属質な戦斧――“バルディッシュ”より男性の声が発せられる。アルフと呼ばれた狼耳の少女が「いつでもいいよ、フェイト!」と応じ、フェイトという名の少女に向かって片手を突き出した。
ミッドチルダ式の魔法を表す、円形の魔法陣状のシールドがオレンジ色に光り輝きながら展開される。それと同時。フェイトの「ファイア!」という号令の下、アルフに向けられていた“バルディッシュ”の先端から、金色に光り輝く電撃の魔力弾フォトン・ランサーがいくつも発射された。アルフのシールドに着弾するフェイトの魔力弾は、そのすべてを防がれていた。

「精が出るわね」

フェイトとアルフにそう声を掛ける1人の女性。フェイトと同じ金色の髪はセミロングで、テールアップの髪型にセットされている。空と同じ色スカイブルーの瞳は空に居る2人へと注がれている。黒のブラウスに赤色のネクタイ、白のスーツにスラックス、ロングコートと言った出で立ち。
その女性を見たアルフの表情は少々不機嫌なものへと様変わり。そのアルフの分までフェイトは努めて笑顔になろうとするが、出来上がるのは微笑。2人はゆっくりと降下して、その女性の居る草原へと降り立った。

†††Side????†††

アルフと魔法の練習をしていると、母さんのお客様、グランフェリアが声を掛けてきた。グランフェリアがこの時の庭園に訪れるようになったのは1年くらい前から。どういった用件で母さんに会いに来るのかは知らない。私はそんなグランフェリアのことがそれほど苦手じゃないけど、

「今あたしとフェイトは大事な魔法の練習中なんだ。用が無いんなら声を掛けてほしくないね」

「ア、アルフ、ダメだよ、そんな失礼なこと言っちゃ・・・!」

アルフはグランフェリアの事が好きじゃないみたい。どうしてか訊いても、

――アイツは何かヤバい気がするんだよ――

頑なにそう言うだけ。アルフの事は信じたいけど、グランフェリアはそんなに危ない人でも悪い人とも思えない。だって「ふふ。気にしなくていいわ、フェイト」そう言って、嫌な顔一つしないで許してくれるし、判り辛いけど微かな笑みがとても優しい気がするから。

「母さんに用事?」

「ええ。とは言っても、もう済んだのだけど」

「ふん。だったら早く帰ったらいいじゃないか」

「もうっ、アルフ!」

心の広いグランフェリアだけど、それでもいつかアルフのその失礼な態度に怒らないか、いつもハラハラする。グランフェリアは苦笑しながら「最後に挨拶くらいはと思ったのよ」って私とアルフの頭を撫でた。アルフと2人して「最後?」って訊き返す。

「ええ。あなたの母親、プレシア女史とは情報のやり取りをしていたのだけれど。彼女が求めていた情報をようやく手に入れたのよ。私の仕事はこれで終りになったの」

「グランフェリアは情報屋さん・・・?」

「それだけとは限らないけど」

でも、そっか。もうグランフェリアとは会えないんだ。だったら「今から時間、いい?」グランフェリアの都合を訊いてみる。私のその質問で、グランフェリアは私が何を求めているのか判ってくれたみたい。

「・・・お別れの前に、最後にもう一度だけやる? 模擬戦という戦闘」

「お願いしますっ」

「・・・・あたしのご主人様のフェイトがそう言うなら付き合うしかないねえ・・・」

これまでに何度かグランフェリアと模擬戦をした事がある。まだ子供の私は成長途中だから、自分の実力に対して過大評価はしてない。過大評価はしてないけど、母さんの使い魔で、私とアルフの魔法の先生だったリニスから褒められた事から少しは強いかなって思ってた。
でも、グランフェリアは圧倒的だった。手加減されていても一切の魔法が当たらない。迎撃でも防御でもない。単純に避けられる。グランフェリアは、機動力がすごかった。

「さて。始めましょうか」

「お願いします・・・!」

「ま、これが最後ってんなら。一発くらいは殴っておきたいね」

「ふふ。掛かっていらっしゃい」

グランフェリアの手から琥珀色の光が生まれたと思ったら、晴れた時には2mくらいの黄金の槍が1本あった。魔導師たちの使う杖――デバイスとは違う、完全な武器。魔力を感じるから、ロストロギアに関係してるのかもしれない。

「バルディッシュ・・・サイズフォーム。アルフ、連携で行くよ」

「あいよ!」

2人して身構えて、グランフェリアへと突っ込んだ。

†††Sideフェイト⇒????†††

「ほい、これでトドメ!」

「ぎゃぁぁぁ!」

わたしが相手をしていた最後の敵魔導師をサクッと斬り伏せる。ご先祖さまから代々受け継いできた長刀型のアームドデバイス、“キルシュブリューテ”の峰側の刀身の付け根にあるコッキングカバーが、刀身に沿って上にスライド。装弾数5発の回転式シリンダーが姿を現す。使用した5発を排莢。腰のポシェットからカートリッジを取り出して装弾。
まったく。魔法を犯罪に使うなんて。魔法という力は、犯罪じゃなくて平和の為に使うものだ。そういった魔法を使った犯罪者――違法魔導師(だけとは限らないけど)を取り締まるのも大事な仕事な時空管理局。わたしの所属する部署は、次元の海を渡ってあらゆる管理・管理外世界の秩序を守る次元航行部隊。

「クロノー♪ そっち終わった~?」

「ああ、もちろんだ」

同僚の男の子、クロノがやれやれと言った風に応えてくれた。わたしとクロノはアースラっていう次元航行艦に所属する魔導師だ。ま、わたしの場合は魔導師じゃなくて騎士って呼ぶのが普通だけどね。

「ご助力、ありがとうございましたっ。クロノ・ハラオウン執務官。イリス・フライハイト執務官補」

今わたし達の居る世界、第12管理世界フェティギアの地上部隊――またを陸士部隊の隊員たちに感謝された。本当なら今回の一件にわたし達アースラチームが参加する予定はなかったけど、結構ランクの高い違法魔導師たちが徒党を組んで犯罪を起こしたことで、たまたまフェティギアに訪れていたわたし達が助力を買って出た。

『クロノ、イリス』

「「リンディ艦長!」」

違法魔導師たちを車に乗せて連行する陸士部隊を見送って、わたしだけ騎士甲冑を管理局の制服に戻してからすぐ。アースラの艦長、リンディ・ハラオウンさんからモニター越しの通信が来た。ハラオウン性から判ると思うけど、リンディ艦長とクロノは実の親子。クロノは公私をきちんと分けてるから、仕事中はちゃんと艦長って呼ぶ。

『お疲れ様、2人とも。アースラに戻ったらゆっくり休んでちょうだいね』

『クロノ君、イリスちゃん。すぐに転送するから、そこから動かないでね』

「ああ、頼むよ」

「うん、お願いねエイミィ」

モニターがもう1つ。映っているのはエイミィ・リミエッタ。アースラの通信主任で、わたしと同じ執務官のクロノの補佐を務めてる。わたしは8歳で、エイミィは16歳。でも年齢差や階級とか関係なく、エイミィとは友達って感じ。アースラに転送されて、まずは「ただ今戻りました」アースラの長、リンディ艦長に報告。

「お帰りなさい。本局に着くまではゆっくりしていて」

そう労ってくれるけど、部屋に戻ったところで何もないしする事もない。だからわたしは普段ブリッジに居ることにしてる。定位置はほとんど「エイミィ~」の居る場所。クロノは大体リンディ艦長の座る艦長席の傍に控えてる。
以前、エイミィと一緒に、お母さんの傍だと安心できるんだね、ってからかうと、結構マジで怒られた。それからはもう母子関連のからかいネタは禁止にした。次やったら、リンディ艦長が愛飲する妙な飲み物シリーズを飲まされる。まだ生きていたいし、変な病気にかかりたくもないしさ。

「「「お帰り、イリスちゃん」」」

「ただいま~、エイミィ。アレックスとランディも」

片手を上げてにこやかに迎えてくれたブリッジオペレーターの2人にも挨拶を返す。エイミィの座る椅子の背もたれにもたれ掛ると「はぁ、やっぱりこの位置が落ち着く~」一気に力が抜ける。

「あはは。イリスちゃんがタレてる♪ タレイリスちゃんだ♪」

「背もたれがちょうどいい高さにあるからさ~」

顎を乗せてふにゃ~としていると、胸ポケットに入れていた通信端末から、

≪メールで~す♪ メールだよ~♪ メールだっつってんだろ~♪≫

メールが届いたことを報せる音声が。ちなみに3つとも友達のものだ。この着信音を聞いたエイミィ達が失笑した。聞き慣れてるはずなのに、やっぱり笑っちゃうみたい。エイミィが「いつ聞いても最後のヤツ可笑しいよね~」って笑い続けていると、アレックスが「イリスちゃん。その声、誰の?」声の主のことを聞いてきた。

「わたしと同じ聖王教会に所属していて、そして管理局にも所属してる騎士・・・」

これだけのヒントで結構絞れるんじゃないかなぁ~。管理局内にも騎士が何人か所属してるけど、聖王教会と兼任の騎士はほとんど居ない。一番の有名どころでカリム・グラシア一佐。けどカリムじゃない。一応頼んでみたんだけど。

――メールです。うふふ♪――

まぁこんな感じだから、カリムからの連絡限定に残してあるだけ。アレックス達が結構本気で考え込み始めたのを横目に、メールの受信ページを開く。文面を呼んで、「はぁ・・・」大きく溜息を吐く。ページを閉じて、端末をまた胸ポケットにしまう。せっかくのまったりが一気に冷める。小首を傾げるエイミィに「どうしたの?」って訊かれた。

「シャッハから。ファーザー・リヒャルト――父様から頼まれた伝言だって。一度、帰って来い・・・。って、わたしの教会の友達関係に言いまくってるらしいんだけど」

「あちゃあ。でも一度、本局に戻ってからじゃないとダメだから・・・」

「うん、判ってる。そこんところはちゃんと説明しとく」

落ち着いて返信のやり取りをしたいから、わたし用に用意されてる自室に向かう。通路を歩く中でも溜息が止まらない。父様はわたしの管理局入りには大反対。聖王教会の現教皇のお婆様や枢機卿の母様からは反対されてないから、こうして管理局で働ける。

(ま、いつかはわたしも・・・・)

その為に、父様はわたしをすぐにでも連れ戻したいってわけなんだろうな~。

†††Sideイリス⇒????†††

学校からの帰り。アリサちゃんとすずかちゃんと一緒に、私のお父さんとお母さんが経営してる喫茶店、翠屋に来た。アリサちゃんとすずかちゃんには塾や習い事があるから毎日一緒に帰れなかったり遊べなかったりするけど、塾や習い事が無い時は今日みたいに誰かのお家に寄ることがある。で、今日は翠屋。入口の扉を開けると、お客さんのお会計をしていたお父さんが私たちに気付いて、「いらっしゃい」って笑ってくれた。

「美味しい美味しい美味しいっ♪ 何コレ、すっごい美味しいっ❤」

真っ先に聞こえてきたのは、そんな幸せいっぱいな声。お客さんが座ってる席をチラッと見る。そのお客さんが食べてるケーキがお母さんの作ったものだって思うと、娘としてはすごく嬉しいわけで。そのお客さんの第一印象は猫さん。フォークを加えているから口の形が猫さんみたいで、目の形もどこか猫さんのよう。

「あの女の人。すごい数のケーキ食べてる」

「でもとても幸せそうだよ」

「だからって、いくらなんでも食べ過ぎじゃない?」

すずかちゃんの言う通りすごく幸せそうな顔してる。嬉しさで、こっちも幸せになる。私たちがジッとそのお客さんを見ていたから、「ん?」そのお客さんと目が合っちゃった。理由がなんでもお客さんをジッと見るのは失礼だったよね。謝ろうって思ったところで、そのお客さんが笑顔で手招きしてきた。

「なのはちゃん、アリサちゃん・・・」

「どうしよう・・・?」

困った私とすずかちゃんは、いつも堂々としてるアリサちゃんに小声で尋ねる。するとアリサちゃんは「行くわよ。一応、謝らないといけないし」そう言って、先頭を歩いて行く。その席に向かってる最中、そのお客さんが「マスターさん。この子たちにも何かケーキとお茶を」ってお父さんに注文した。

「「「「え・・・!?」」」」

「もちろん僕の奢りだよ。どうだろ? ちょっとお話ししないかな・・・?」

「あの、お客さま。この子たちは、私の娘とそのお友達なのですが・・・。どういった理由で、この子たちを・・・?」

お父さんが私たちとお客さんの間に割って入って来た。

「そうだったんだ。僕、レーゼフェア・ブリュンヒルデ。よろしく♪」

お客さんがそう名乗って、手を付けてないチーズケーキ3皿を差し出してきた。悪い人じゃないって思う。別にケーキに釣られたわけじゃないよ? 本当だよ?
私たちはレーゼフェアさんの席に同席することになった。それから少しお話したんだけど、アリサちゃんとすずかちゃんも、レーゼフェアさんを警戒しないでもいいって思ったみたい。お父さんはレーゼフェアさんの放つほんわか雰囲気から、危険はないって判断したみたいでお仕事に戻って行った。

「そんじゃ改めて。僕、レーゼフェア・ブリュンヒルデね」

「高町なのはです」

「月村すずかです」

「アリサ・バニングスよ」

レーゼフェアさんは名前からして判る通り外国の人で、日本には“ある探し物”をするために来たそう。その探し物が何なのかは教えてもらえなかったけど、とっても大事なものだというのが話を聴いていて判った。それから色んな話をした後、「ふぅ、僕はもう満足なのだ」レーゼフェアさんは最終的に40皿のケーキとパフェ4杯を食べた。見ていたこっちはちょっと辛いものが・・・。

「楽しい時間ありがと、なのは、アリサ、すずか」

「私たちもいろんなお話が聞けて楽しかったです!」

「ケーキ、ごちそうさまでした!」

「また来てくださいね!」

レーゼフェアさんに奢ってもらったお礼や、また翠屋に来てくれることを願ってそう言うと、レーゼフェアさんは「ん。近くに寄ったら来るよ」ニコッて笑ってくれた。で、お会計になったんだけど。「た、足りない・・・!」レーゼフェアさんの口から、レジ前で絶対に出ちゃいけない言葉が・・・。レジで待ってたお父さんが固まる。一息吐いてた私たちも固まる。お財布片手のレーゼフェアさんも固まる。

「「「「・・・・」」」」

「えっと・・・」

「あらあら、それは大変ね~」

「お母さん」「桃子さん」

厨房の方から出て来たのは、翠屋のパティシエール(男の人の場合はパティシエ)で、私のお母さん。お母さんは、しまったって顔してるレーゼフェアさんを安心させるためか笑顔で「お知り合いに連絡してはどうですか?」って提案した。それとも「無休でアルバイトとか」私はボソッとそう呟いてみる。今回の場合、レーゼフェアさんに与えられる選択肢は3つになる。

1:知り合いを呼んで肩代わりしてもらう。
2:無給のアルバイト。
3:アリサちゃんかすずかちゃんに借金。

もし3を私たちが提案したら、確実にお父さんとお母さんに怒られる。レーゼフェアさんだってきっとそんなことを子供に言われたら、怒ることはなくてもショックだと思う。2だけど、レーゼフェアさんが店員をしても問題は・・・あ、お客さんの注文したケーキとか運ぶ途中でつまみ食いしちゃうかも。うん。かなり失礼な考えだけど。なんかレーゼフェアさんがそうしちゃう画が想像できちゃう。

「・・・・あ、今から知り合いが来ることになったから、ソイツに払わせるよ」

え? なんで判ったんだろ。今の言い方だと、連絡した後みたいになる。でもレーゼフェアさんがやったことと言えば、ちょっとの間黙っただけ。だから私たちは「え・・・?」首を傾げることに。そんな不思議が気になった私がレーゼフェアさんに声を掛けようとした時、

「おい、レーゼフェア。俺を財布係にするとはいい度胸だよな」

「お、来た来た。シュヴァリエル。お金持ってきてくれた?」

入口の方を見ると、綺麗な青い髪をツンツン立てた男の人、シュヴァリエルさん?が「ウチの連れが迷惑をかけたようで」ってレジのところにまで来て支払いの値段を見た瞬間、レーゼフェアさんの頭に拳骨を一発。

「いっっった~~~~」

「馬鹿かお前。2万とか食い過ぎだよ」

支払いを済ませたシュヴァリエルさんが「ほら、用事は済んだから帰るぞ」ってレーゼフェアさんの襟首を掴んで引っ張って行った。その途中、「ごちそうさまでした~♪」レーゼフェアさんは笑顔で手を振ってくれたから、苦笑いで手を振り返す。

「なんて言うか、嵐みたいな人だったわねレーゼフェアって」

「あはは。でも、どうしてシュヴァリエルさんが来ることが判ったんだろ・・・?」

「うん。それに、シュヴァリエルさんが翠屋に着く時間も早かったね・・・」

今日は本当に不思議な体験をしたかも。アリサちゃんとすずかちゃんが帰った後も、どうしてかレーゼフェアさんの事ばかり考えちゃうよ。



 
 

 
後書き
ジェアグゥィチエルモジン。ジェアグゥィチトロノーナ。ジェアホナグゥィチ。
ようやく『魔道戦記リリカルなのはANSUR』本編の始まりです。
おそらくですが、このエピソード1から1万文字未満のショートストーリー形式になるかもしれません。
そして次回。ルシルと本作のメインヒロインが出逢います。さあ、一体誰なのか。
前作をお読みになってくれたはずの読者様にはバレているかもしれませんね。
 
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