NARUTO 桃風伝小話集
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その15
前書き
その9の続き
うちはの家でサスケと喧嘩した後。
私は自来也さんにすがりついて泣き喚いているうちに、いつの間にか眠りこんでしまっていたらしい。
目が覚めたのは次の日で、そしてヒルゼンさんの家でした。
そして、その時私は、サスケがおじいちゃんに保護される事になった事を知りました。
そして、サスケがおじいちゃんに保護されている間、うちはの家は自来也さんが預かる事になり、自来也さんによって封印される事になったらしい。
というか、自来也さんが特殊な結界忍術で封印しちゃったから、簡単には手が出せなくなったし、入れなくなっちゃったらしい。
何してくれてんだ、あの変態仙人。
まあ、それは良い。
ちょっと頭が痛いけど、そうなるように私が手を回したわけだし。
本当に渡したくなかった大事な物はもう、奪われてしまっているに違いないけど。
それを思うと、腸が煮えくり返り、暴れまわりたくなる。
だけど。
この怒りを表せるのは、私じゃない。
私にはそんな資格は無い。
だって、私は、ミコトさんの子供じゃないし、『うちは』でも無いんだもの。
それが出来るのは、『うちは』のサスケだけだ。
そして、今のサスケにこの事を伝えれば、サスケの心をもっと荒ませてしまう。
そうしたら、サスケはもっと変わってしまうんじゃないかって、怖くて仕方ない。
アレからニ週間。
サスケが、私を避けるようになった。
正確には、目を合わせてもらえなくなったが正しいかも知れない。
サスケに嫌われる覚悟は出来てた筈なのに、思ったよりもショックが大きい。
ちょっとやそっとじゃ動じないと自負していた私が、落ち込みを感じている。
だけど、サスケの事を放って置けない。
サスケが気になる。
一人にしておきたくない。
だから、おじいちゃんに頼み込んで、サスケがおじいちゃんの家にいる間、私も泊まらせて貰う事にした。
ずっと一緒に居られる時はサスケと居て、私の方から話しかけている。
何故か一人にしろというわりには、サスケは私の相手をしてくれるけど、でも。
今まで以上にそっけなく突き放されて、今までよりももっともっと私達の仲は険悪に、ぎこちなく、ぎすぎすした物になってしまっている。
それは、仕方が無い。
サスケの気持ちを無視して、一緒に居るのは私の方なんだもの。
だけど、ちょっと辛い。
でも、落ち込んでる時に一人にしていて、良いのかな?
今のサスケは、一人にしていちゃダメだ、って思うのは、間違いなのかな。
分からないけど、何かを何とかしたくて、アカデミーが終わったら、まっすぐおじいちゃんの家に帰って来て、そうして、おじいちゃんの家でずっとぼんやりしているらしいサスケの様子をずっと窺っていた。
邪険にされても、うっとうしがられてもずっと側に居た。
だから、そうしているうちに、私はすぐに気付いた。
サスケは、夜、魘されているって。
夢の中でまで苦しんでいるサスケに、何かしてあげたくて、でもどうしたら良いか分からなくて、苦しむサスケの頭を撫でた。
そうしたら、少しサスケの表情が穏やかになった気がした。
だから、ここ数日、ずっとそうしていたんだけど。
おじいちゃんによれば、サスケが魘されているのは、イタチさんの瞳術の影響らしい。
本来なら、上忍でも廃人になってしまったり、ずっと寝込んでしまってもおかしくはないらしいんだ。
それがこうして寝ている間だけとはいえ、術をかけられたサスケがその程度の影響で済んでいるのは奇跡に近いとおじいちゃんは言っていた。
その話を聞いたとき、私はぞっと背筋が凍った。
その限界を見極めて、サスケがギリギリ正気で居られる程度に術をかけるとか、イタチさんの常人離れした手腕に戦慄する。
それとも、本気で殺すつもりだったのだろうか。
それはないとは思うけど、でもイタチさんだって迷って、揺らいで、手探りしていてもおかしくはない。
あの人も、木の葉の行く末を憂えている人だから。
見慣れた皺を眉根に寄せて眠るサスケを見ているうちに、何となく、胸が苦しくなって、サスケの枕元に寝転んでみた。
横になって、でも、逆さまに、サスケの顔を覗き込む。
同じ高さの目線になって、眉間に皺を寄せるサスケの寝顔をちょっと眺めてみた。
ほんのちょっぴり疑問に思う。
私、何でこんなにサスケに執着してるんだろう。
綺麗に整った端正な顔立ちに、ぼんやりと思った。
少なくとも、ミコトさんの顔に似た、綺麗に整ったサスケのこの顔は嫌いじゃない。
それに、サスケと何だかんだと理由を付けて、じゃれるように遊ぶのは嫌いじゃない。
ううん。
楽しくて、大好きだ。
初めてだったんだ。
この世界に生まれてきて、初めて私に纏わる何もかもを忘れて、ただ楽しくて仕方がなくて、ずっと一緒に遊んでいたいと思うなんて。
木の葉に住む誰かと一緒に居て、私がそんな風に思うなんて。
サスケを気にするきっかけは、イタチさんの言葉で。
サスケに対する好感の後押しには、お母さんの友達で、そしてサスケのお母さんで、私もお母さんみたいに思ったミコトさんの存在もあるけれど。
でも。
あどけないサスケの寝顔を見ているとつくづく思う。
「僕に取って、サスケは何なんだろう……」
ぽつり、と誰にともなく呟いてみる。
胸に浮かぶのは、友達、という言葉。
うん。
友達。
サスケは私の友達です。
友達だけど。
友達だから。
だから、護りたいって思うんだろうか。
サスケは『木の葉』の『うちは』なのに。
九喇嘛を操ったアイツと同じ『うちは』の力を持ってるのに。
でも、それはもういいかもしれない。
だって結局、『アイツ』はサスケじゃないし、ミコトさんじゃないから。
だから、同じような力を持っていて、アイツとサスケが血縁だったって、それは別に良い。
それでも良いって思えるようになったから、サスケが『うちは』でも別に良いんだけど。
でも友達って、こんなに胸が痛くて何かしてあげたくなる物だったんだろうか。
それともやっぱり、私、一人きりになっちゃったサスケに同情してるのかな。
それはあるかも知れない。
血生臭いうちは邸で、昏い瞳で埋くまっていたサスケの姿が、私の頭から離れない。
サスケがこんなに傷付いたのは私のせいだ。
私がもっと積極的に『うちはと木の葉』に関わってたら。
ううん、『木の葉』に関わってたら、だ。
嫌いだから、殺したいから、だから、誰が死のうと別にいいとか。
そんな風に思ってた癖に、誰かが死ぬのが嫌かもってだけで、中途半端に不愉快さを我慢して、気に入らない物を無視してそれ以上関わろうとしてこなかったから。
そんな風に向き合わないで逃げて来てたから。
だから、私は何も変える事が出来なかったんだ。
もしかして、それを見抜かれて私はサスケに避けられてるのかな。
それとも、同情されるのが嫌で顔を合わせてもらえなくなったんだろうか。
有り得ない話じゃないと思う。
サスケはとにかくプライドが高い。
というか、負けん気が強い。
意地っ張りだし、頑固だし、口も悪いし、気も強い。
その上、真面目な性分も手伝って、勝つために努力も惜しまない。
だけど、その為に卑怯な手を取るような腐った所が何処にもない。
正々堂々と、公明正大な手段で勝とうとする。
そんな所が一番凄くて、サスケの一番良いところだと思う。
だけど、忍びにそれは必要ない。
いつかきっと、そんな風な潔癖さで苦労すると思ってた。
そして、そんな時、サスケはきっと助けを求められないし、求めないって。
そうしてどこかに消えてしまうんじゃないかと思えて怖かった。
一緒に居て楽しいから、サスケと一緒に居る時間を気に入っていたから、余計に怖かった。
そして、今。
私が恐れていた事態になっている。
ああ。
そうか。
私はサスケが変わってしまう事が恐いんじゃない。
サスケが私から離れてしまう事が怖いんだ。
なんとなく、ぼんやりとした実感でそう感じた。
そっと、目の前で瞳を閉じてるサスケの頬に手を伸ばす。
きっとサスケは、変わる事を選ぶだろう。
これからイタチさんに復讐する事を選ぶはず。
だったら、私と同じだ。
『木の葉の日向宗家』に連なるヒナタと私は道を違えても、もしかしたらサスケは私とずっと道を同じくして、私の気持ちを分かってくれるようになるかも知れない。
だって、サスケの敵は『千手とうちは』に通じる。
つまりは、『木の葉』だ。
私と、一緒。
ぞくり、とした狂気じみた喜びが胸に込み上げる。
ミコトさんが居なくなって、私の胸には穴が開いた。
悲しくて、苦しくて、奪われた事に怒りを感じる。
もうあの人に会えないとか、辛くてしかたない。
なのに、同じくらい私は喜んでいる。
サスケがこうして苦しんでるのに、私と同じ所に堕ちてきた事を嬉しがってる。
イタチさんの抱えた痛みと苦労に笑い出したい。
苦しくて、悲しくて、辛い、のに。
とてもとても嬉しくて、ミコトさん達に申し訳無くて泣き出したい。
こんな気持ち、要らなかったのに。
こんな喜び知りたくなかったのに。
サスケは、私と同じように汚れないで、綺麗なまま、暖かい人達に囲まれて幸せのままで居れば良かったのに。
イタチさんの馬鹿。
何で、サスケをこんな風にしたんだよ。
馬鹿。
馬鹿。
馬鹿!!
ぽろり、と、どうしようもない気持ちが涙となって零れ落ちた。
サスケはきっと嫌がるかもしれないけど。
私が『木の葉』に対する復讐を捨てなければ、サスケが復讐を捨てなければ、いつか道を違えてしまうかも知れないけど。
それまで、一緒に居ても良いよね?
きっと、一人よりは辛く無い。
サスケが辛いの、私は嫌だ。
辛い想いをさせたくない。
サスケの心を護りたい。
でも、私にはきっと護れない。
私じゃ駄目だ。
だって私は復讐者だから。
でも、何かに復讐しようとするのは同じだから、同じ目的の為に利用しあえるんじゃないかな。
ぎりぎりまで近付いて、理解しあえるんじゃないかな。
本当に、本当の、友達のままで居られるんじゃ、ない、かな?
これから私達がどうなるのか、私にも、良く分からないけれど。
「ねえ、サスケ。僕と一緒に強くなろうよ。僕とサスケの二人でさ、誰にも負けないくらい、強くなろうよ」
苦しげなあどけない寝顔に向かって提案してみる。
だって、それなら、今の気まずい関係のサスケにも承諾させれる。
私がサスケの側にいる理由になる。
そして私が居る以上、イタチさんの思い通りになんてさせやしないし、ましてや、オビトさん達の思惑になんか従ってやらない。
「一緒に『復讐』しようよ。一人でするより確実だよ?だって、サスケの復讐の手伝いは、私の『復讐』の邪魔にはならないもん。どうせなら私、楽しい方がいいし。だったらサスケと一緒がいいな」
そう。
サスケはもう、こうなってしまった。
防げなかった落胆と、楽しかかった今までに諦めが浮かび、そうして黒い高揚が浮かんでいく。
思い付きの囁きだけど、声に出したら良い考えに思えてきた。
私の修行にサスケも引っ張り込んじゃおう。
今までしていたよりも本格的に、命の取り合いを前提とした手合わせを提案しよう。
忍術の使えない私じゃ出来る事は知れてるけど、本気で復讐を前提として私と一緒に修行をするのは、絶対サスケの為になるし、私自身の為にもなる。
殺し合いは、慣れてないと躊躇いが出るから。
サスケが本気で復讐を願うなら。
強くなる事を求めて力を求めるなら、だけど。
こつり、と。
逆さまになったサスケの額に私の額を付けて目を閉じた。
だけど私は確信している。
サスケは絶対力を求める。
だって、私は信じてる。
サスケはイタチさんが大好きだった。
こんな事があって、イタチさんの事を聞いて、どうにかしたいと思わない訳ない。
その為には強くならなきゃならない。
それにきっと、イタチさんは苦しんでる。
あの惨劇は、きっと、イタチさんの本意じゃない。
だから、イタチさんは私にサスケを託したし、サスケに自分を憎ませようと、こんな風にサスケに酷い事をした。
イタチさんは馬鹿だから。
「ねえ、でもさ、サスケ。どうしても『復讐』したいなら僕は止めないし、むしろ背中を押してあげるけどさ。でも、どうせなら。どうせなら、サスケを侮ってこんな事したお馬鹿なイタチさんを救ってあげようよ。その為にだって僕はサスケに力を貸すよ?だって、それも私の復讐の邪魔にはならないもん。それにそっちの方がイタチさん達を出し抜けるしさ、イタチさんを出し抜いた方が、イタチさんをイタチさんの望み通り殺しちゃうより、きっとずっとサスケの気が晴れるよ。私にはあんまり分からないけど、サスケはイタチさんが好きで、サスケとイタチさんは二人っきりの兄弟なんでしょ?殺すだけならいつでも出来るし、それは最後の手段してみようよ。ねえ、サスケ」
起きてる時のサスケにこんな事は言えないし、聞いてなんかもらえないけど。
でも、今サスケは眠ってるから、大人しく私の言葉を聞いてくれる。
イタチさんの残した悪夢の欠片が、私の戯言で幾らか薄れたらいい。
そう願いながら、私はサスケと額をくっつけたまま、うとうととその場で微睡み始めた。
後書き
ここで寝ちゃったのがきっかけで、どんどんナルトはサスケのお布団にもぐりこむようになっちゃいましたとさ。
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