境界線上の転生者達
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第六話
正純と別れた後、俺とキャスターは商店街を回って残りの買い物を済ませ、夜になると肝試しの集合場所である教導院の校舎の正門前に向かった。正門前には肝試しに参加する梅組メンバーのほとんどが集まっていたが、主催者のトーリの姿だけは見えなかった。
「トーリはまだ来ていないのか?」
「総長の姿が見えないとなんだか不安ですね……。もちろん『私達のいない所で何か馬鹿なことをして、そのとばっちりが私達にやって来る』的な意味ですけどね」
『うんうん』
キャスターの発言に梅組のメンバーの全員が頷く。酷い言い分に聞こえるかもしれないが、あのトーリに限っては実際にその通りだから仕方がないだろう。
「喜美ちゃん。あの総長がどこで馬鹿なことをしているか知らない?」
「ふふふっ、キャスター。ウチの愚弟の行動イコール人様に迷惑をかける愚行と決めつけるなんて、なんて正直者! 素敵! でも残念だけど私、帰ってからずっと新作のエロ系ダンスの振り付けを考えるのに忙しくて、愚弟の行動なんて何やら奇声を上げて商店街の方に走っていったことしか知らないわ!」
親しげに喜美に話しかけるキャスターとそれに相変わらずのハイテンションで答える喜美。
実はこの二人、十年以上前からの親友どうしなのだ。二人とも思考がエロに走りやすいところとか、自分に正直なとろとか似ているところが多いせいだろうか? まるで姉妹か双子かと思うくらい気が合うのだ。
ちなみに武蔵には年に一度、様々な物事をアンケートで調査する「大アンケート祭り」とかいう珍妙なイベントがあって、その中に「絶対にコンビを組ませたくない二人組」というアンケートがある。キャスターと喜美はそのアンケートで五年連続断トツの一位に名を飾っている。
俺? もちろんキャスターと喜美の名前を出したよ? だってこの二人が手を組むと九割九分八厘(99.8%)の確率で俺に被害がやってくるんだぞ?
「トーリのことだ、間違いなく無駄金使って仕込んでる。だからまあ、こちらとしてはその意を汲んで胆試しに行く前に怪談などしておこう。無料で」
「怪談っていったら浅間だよね」
シロジロの言葉にハイディが続き、話を浅間にふる。当の浅間は「どういうわけですか。……まあ、話す怪談はありますけど」と呟いてから立ち上がり、皆の注目を集めた。
「ええとね? 皆、ま「ここから浅間によるスーパーエロ話ターイム!」……っ! ええっ!?」
突然喜美が両手を振り上げて浅間の言葉を遮り、梅組の男衆が正座となった。……駄目だ。コイツら。
「あー、もう。喜美ちゃん。怖い話が苦手なのは知っているけど、浅間さんの邪魔したら駄目だから。話が進まないから」
ほっとけば暴走しそうな喜美をキャスターが後ろから羽交い締めにして押さえつける。そういえば喜美って怖い話が苦手だったな。
「すまない浅間。話を続けてくれ」
「あっ、はい。……皆、『末世』はご存知ですよね?」
末世。
それはこの世の終わり。聖譜の歴史記述が途切れる年のことをいう。
この世界は過去の地球の歴史をやり直しており、聖譜とはその地球の歴史が記された言うなれば「歴史の攻略本」みたいなものだ。聖譜の歴史記述が途切れる年には、歴史に記されない未知の災害が世界を襲うと言われている。
「……末世は近い未来に起こると言われているで御座るが、その末世がどうしたので御座るか?」
点蔵の言葉に浅間は一つ頷くと話を続ける。
「これは知っている人は少ないと思いますが、末世はこれが初めてではありません。過去にも一度末世が起こっていて、この世界は大きな災害に襲われているんです。一体どのような災害があったのかは記録にありませんが、一つだけ奇妙な言い伝えがあるんです」
ここで浅間は一旦言葉を切り、気がつけばここにいる全員が無言で浅間の話を聞いていた。
「過去に末世が起こった時、世界中の人達がある『声』を聞いたそうなんです。『声』は若い女性の声音で『裏切者め……』と『主は必ず取り戻す……』の二つの言葉を延々と……まるで呪いのように繰り返していたそうです……。もし末世がこの『声』の主の仕業だったとしたら、言葉にある裏切者と主って一体どんな人なんでしょ……!?」
バタン!
浅間の話の終盤でとうとう限界を迎えた喜美が気絶して倒れてしまった。
「……え? き、喜美ちゃんったら気絶しちゃったんですか? も、もう、仕方がないですねー?」
口では文句を言いながら喜美の看病をするキャスター。だが気のせいか? なんかキャスターの顔色も若干青く見えるのだが?
キャスターって、この手の怪談苦手だったっけ?
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