エターナルトラベラー
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第八十四話
ユカリの前で、彼女に倒されたまつろわぬ神が光となって消えていく。
その後、カランと音を立ててその場に何かが転がった。
『サトゥルナリアの冠』
これはまつろぬサトゥルヌスを招来させる為の神具である。
サトゥルヌス。
これが人々を踊り狂わせた元凶の名だ。
大地に属する豊穣の神であり、クリスマスの期限とされる祝祭、サトゥルナリアの関係で一番その力の高まるクリスマスの日に顕現したのだ。
本来この神具は羅濠教主が管理していたのだが、150年前に羅濠教主に打ち倒されたその神具は羅濠教主と再戦を望み、顕現を果たそうとしていた。
だが、日本に居るアオ達にもしも勝てたのなら再戦に立ち会っても良いと条件を出し、そのままサトゥナリアの冠は海を渡る。
その後、羅濠教主はアオ達に連絡するのを忘れていたようだ。
「母さんっ!」
「あーちゃん?」
封時結界内に転移して現れるアオ。
「ユカリお母さんっ!」
「ユカリママっ!」
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫そうよね」
その後フェイト、なのは、シリカ、ソラ、アーシェラと次々に現れる。
「大丈夫よ。まつろわぬ神も今倒したところだしね」
「これが元凶?」
と、アオがそう言ってサトゥルナリアの冠を拾い上げる。
「呪力を帯びているのが見て取れるから、魔具か神具のどちらかって所ね。アテナ姉さんに見せれば分かるんじゃないかしら」
ソラがアレでも叡智の女神だしねと言う。
「後は現実の混乱が収まっていれば良いんですけど」
シリカがまつろわぬ神は倒したが解決しているのかは分からないと言った。
「そうね。まずは結界を解きましょうか」
封時結界を解き、時間の流れが戻ると、あちこちに踊りつかれたのか蹲る人々の姿が確認できた。
「みんな呪力の影響からは開放されたみたいだね」
「そうみたいだね」
なのはとフェイトが言った。
「これで、この事件は解決…で良いんだよね?…これ以上の面倒ごとは勘弁して欲しいんだけど…」
アオが面倒事は重なる物と不安を煽る。
「あ、ダメですよアオさん…そんなフラグっぽい事を言っては…」
そうシリカが言った時、なにか巨大な獣が鳴く声が聞こえてきた。
GURAAAAAAA
「フラグ…だったわね…」
「そうだね…」
「うん…」
ソラ、フェイト、なのはがちょっと呆れている。
「俺の所為じゃないよ!?」
と少し必死になってアオは否定する。
鳴き声の聞こえる方へと視線を向けると、そこには白き竜の姿があった。
「グィネヴィアが竜蛇の姿に戻ったか…一度その不死性を捨てれば今生での死は免れまい」
アーシェラが同じ神祖であるグィネヴィアの最後の姿だと言った。
白き竜となったグィネヴィアはあたりの物を打ち壊しながらアオ達の方へと飛んでいく。
「こっちに来るよっ!」
となのはが叫ぶ。
「て言うか結界張らないとっ!」
アオが慌てて封時結界を行使した。
しかし、何か異常を直感で感じたのか、グィネヴィアは封時結界内に取り込まれる前に彼女自身の奥の手である『神威招来』を使い、彼女が持っていた『聖杯』の力を湯水の如く使い牛頭の一頭の巨体な怪物を呼び寄せた。
結界内に閉じ込められる二体の怪物。
グィネヴィアが呼び寄せた怪物の名前をミノスと言う。大地と迷宮を司る神だ。
本来、グィネヴィアが行使する『神威招来』は神を模倣するだけの不完全な物でしかない。しかし、今回グィネヴィアが自身の命すらなげうって呼び寄せたミノスは従属神と言う縛りを受けて顕現した本物のミノスであった。
GURUUUUU
しかし、従属神として呼ばれたためか、その理性は失われているようだった。
「まったく…次から次へと」
「厄日ね…」
悪態を吐いたアオにソラが相槌をいれた。そのソラをみてアオがソラの目が閉ざされている事に気付く。
「ソラ、その目は…」
「イザナギを使ったのよ」
「そっか」
アオはそれだけを言うと、ソラのまぶたの上に右手を当ててその時間を撒き戻す。
「ありがとう」
「どういたしまして。他に消耗してる人は?」
「身体的な損傷は直ったし、問題ないけど…私はちょっとさっきの戦いで魔力もオーラも消費しちゃったから…」
ちょっと辛いとフェイト。
「私は大丈夫よ」
「わたしも」
「あたしは…ちょっとオーラの消費は激しかったですけど、まだ行けます」
ユカリ、なのは、シリカはまだ大丈夫なようだ。
「イザナギで大分消費したけど、まだ戦えるよ」
ソラも大丈夫のようだ。
「助けないのか?」
自分を助けたユカリ達が当然の事のように相手を倒す準備をしている事にアーシェラは少し疑問に思ったようだ。
「アーシェラは私たちを襲ったわけじゃないしね。それに以前にも言ったけど、あなたを助けたのは気まぐれよ。死の淵で、それでも生きる事を選んだあなたの人生に私が責任を持つと決めたから助けた。でもあの子の人生に私は責任をもてない。妄執を捨て去った後にあの子は生きられるかしら?」
グィネヴィアの目的をアーシェラの口から以前聞いていたユカリの出した答えだ。
「……それは無理だろうな。あいつは最強の鋼の復活に心血を注いでいる。復活させる事が目的であって手段ではない所がアイツの頭の悪い所だな」
アーシェラは最強の鋼に囚われすぎている。その復活こそが全てであり、その後の事を考えていない。復活させてどうするのか、どうしたいのか。
「牛には山羊で行きますっ!」
シリカがオーラを高め、理不尽な世界の劣化能力で1頭の巨獣を具現化させる。
頭には大きな山羊のような角を持ち、尻尾には蛇の頭が生えた獣人。
その手には巨大な大剣をもち、その双眸は蒼く煌いている。
『ザ・グリームアイズ』
蒼い目をした悪魔が蒼い炎を立ち上がらせて顕現したのだった。
シリカの理不尽な世界は、その継続時間に関係なく、消費オーラの先払い系能力である。その為、シリカももうしばらくのインターバルを経ないとフルパフォーマンスでの再使用は厳しかったために、世界を書き換えず、グリームアイズだけを顕現させたのだ。
「OOOOoooOOOOO!」
「ooOOOOOOooooO!?」
ミノスとグリームアイズが互いを敵として認識したように遠吠えを上げると、互いにアスファルトを踏み砕きながら駆ける。
OOOOooooo
ガキンガキン
ミノスの持った大斧とグリームアイズの大剣がぶつかり合う。
「なら、蛇を殺すのはスサノオの仕事だろう」
アオは精神を統一し、オーラを迸らせると、巨大な上半身だけの益荒男を顕現させた。
GRAAAAAaaaa
グィネヴィアがその口から炎を撒き散らす。
ソラ達は飛んで避け、アオはその炎をスサノオのヤタノカガミで受け止める。
GURAAAAAA
炎を防がれてもグィネヴィアはその巨体でスサノオへと体当たりし、そのアギトで食らい付こうとするが、アオはスサノオを操って、突進をヤタノカガミで防ぎ、十拳剣を振るいその羽をもぎ取った。
GYAOOOooooo
悲痛な鳴き声が響き渡ると、ドシンと音を立ててその巨体を横たえたグィネヴィア。
その横でミノスとグリームアイズが激突を繰り返している。
OooooOOOOaaaaa
ミノスが吠えるとその体を巨大な牛の姿へと変え、グリームアイズ目掛けて突進する。
それをグリームアイズは口から蒼い炎を吐き出し、けん制。しかし、構わずと突進してくるミノスの角に弾き飛ばされてしまい宙を舞う。
ドドーーン
跳ね飛ばされたグリームアイズが着地して転げまわると、ミノスは反転してグリームアイズを再び突き上げる。
それは荒れ狂う猛牛に突き飛ばされる闘牛士のようだった。
その光景を空から見下ろしているシリカ達。
グリームアイズの耐久値はもういくばくも無い。
「一人で行ける?シリカ」
フェイトがシリカに問うた。
「はい、大丈夫です」
「じゃあ任せたわ。横入れをすると権能を奪えないかもしれないからね」
と、ソラ
「いえ、別にそれは良いんですが…すでに二つ増えましたし」
「ええ!?そうなの?」
なのはが驚きの声を上げた。
「はい、ここに来る前に二柱倒してきました」
「へぇ…」
なんて会話をしている間もシリカは儀式魔法の発動をしていた。
そして魔力を振り絞りマリンブロッサムを振り下ろす。
「凍ってっ!」
『エターナルコフィン』
放たれた蒼い閃光はグリームアイズを吹き飛ばし、再び方向転換し向かおうとしていた巨牛に降りかかる。
OOooooooooOOO!?
バキバキバキとそミノスの体表を氷が覆い、その体を凍らせていく。
その光景の先で、剣を地面に突き立てフラフラと立ち上がりながらもその顔を憤怒に染めたグリームアイズの姿があった。
グリームアイズはここまでコケにされたものを返すように全力で駆け、その巨大な大剣を横薙ぎに振るい、氷付けにされたミノスを切裂き、絶命させた。
GURAAAAAAAAAAAA!
グリームアイズの勝利の雄たけびの後、その姿を光の粒子にして消えて行った。
一方、グィネヴィアの強襲を受けたアオは、スサノオが竜蛇を屠るのは当然とばかりにその剣はグィネヴィアを切り刻んでいく。
「もうやめない?君に勝ち目は無いよ?」
と言うアオの言葉にグィネヴィアは吠え返す。
もはや理性はかけらも無いようだ。
「……ごめんね」
話し合いの余地はもう無いのを確認したアオは十拳剣を突きたてる。
すでに受けたダメージで動けないグィネヴィアは、避けること叶わず、終にその剣はグィネヴィアの心臓を貫いた。
Kyaaaaaa…
もの悲しい鳴き声を上げた後、その目から一筋の涙を落としグィネヴィアは光の粒子となって消えて行った。
…
…
…
戦いが終わると、皆微妙な顔つきだった。
「さすがにもう無いよね?もう今日は勘弁して欲しいよ?」
と、アオ。
「だと良いよね…」
「うん…」
フェイトもなのはも否定しきれないようだった。
「ですよね…あたしももう魔力もオーラもすっからかんです…」
もう戦えませんとシリカも言う。
「まぁ、考えてもしょうがないわ…とりあえず家まで帰りましょう。」
ユカリがそう纏めた。
「あ…買い物がまだ途中だった…」
ユカリの言葉で買い物途中だった事を思い出したアオ。
「だけど、今のこの状況で買い物は出来そうも無いよね…」
「だね…まぁ道具袋の中に幾つか予備の材料は入っているから無理して買い物に行く必要も無いか…うん、今日は帰ろう」
フェイトの言葉を受けてアオがそう考えて、ユカリの意見に賛同した。
「うん、そう言えばお腹がすいてきたよ」
「昼ごはんもまだだったしね…」
「帰ったら有り合わせで簡単に作っちゃいましょう」
なのは、フェイト、ユカリがそれぞれ言うと、結界を解き、皆で帰路についた。
その日の夜。事後処理に追われながらもやって来た甘粕は過労でやせ細っていたのが印象的だ。
「金星からのガスが幻覚を見せていたと言う事になりまして、…世間ではある種のお祭り騒ぎですな」
と甘粕は苦笑いしながら言った。規模と場所が大きすぎて完全な隠蔽は不可能だったのだ。
アテナからは「本当に騒動に事欠かない奴らよな…」等と若干呆れられたが、返す言葉はなく。それでもクリスマスの夜は賑やかに過ぎていった。
クリスマスから数日。
時間はまだ昼を少し回った頃。
スカイツリーが新たな観光名所になっている今の時代に、人々は東京タワーの下へと集まっていた。
何故か?
それは東京タワーの特別望台より上が一瞬で消失した事件があったからである。
これは目撃者も多い事からニュースやネットで騒ぎ立てられている。この現象は、早くも二十一世紀の七不思議にランクインしてしまうのではなかろうか。
このニュースを見たアオ達の反応は、面倒、関わりたくない、と言うものだった事は仕方の無い事だろう。
数日前にも神様関連の事件に巻き込まれてしまったのだ。もう少しインターバルが欲しい所である。
来訪した甘粕は苦笑いしながらしばらく来れない事を伝え、アテナにほんのかすり程度でも情報は無いかと平伏し、問いかける甘粕は、上司の命令だろうが、少し可哀相ではあった。
東京タワーは千葉県、銚子にある犬吠埼から巨大な弓矢で射抜かれたらしい。
「あれは神の影の仕業よな」
「影?」
気まぐれに答えたアテナに問いかけたアオ。
「神格のその一部を呼び寄せて使役している奴が居るのだろうよ。この感じは妾の同胞の気配がするな」
と、アテナが煎餅をかじりながら答えた。
「弓の英雄の属性を持つ者はたくさん居るな。アポロン、ペルセウス、ヘラクレス。数えたら限が無い…が、ふむ…おそらくオデゥッセウスであろうよ」
智慧の女神としての直感でそう答えたアテナ。
「オデゥッセウスですか…」
と、ビックネームの登場に甘粕も困惑している。
「だが、問題はそこでは無いだろうよ。それらを操っている者が居ると言う事だ」
「そうですね…」
相槌を打つと甘粕は深々と頭を下げて感謝の意をアテナに示し、現場に赴くためにユカリの家を辞した。
この後草薙護堂にも連絡を入れるらしい。どうやら草薙護堂にこの事件の解決を依頼するのが正史編纂委員会の考えのようだ。
まぁ、アオ達にしても自分が出張らなくても良いのならそれに越した事はないので特に問題は無いと完全スルーを決め込んだ。
アオ達には関係ない話だが、アオを襲撃した後、まだ日本に滞在していたサルバトーレ・ドニも護堂と一緒に事件の解決に向かったそうだ。
そして大晦日。
今日がアオ達が未来へと戻る為の指定日である。
年の終わりと、始め、そして年をまたぐ時間帯には時間の行き来が若干揺らぎやすい。
ユカリの家の中庭に陣を書き、未来への送迎の準備を整える。
「それじゃ、あーちゃん達、元気で…はおかしいか。未来で会えるものね」
「そうだね。俺たちとしては元の時代に帰っても母さん達は居るからね」
「うん。絶対また一緒に会えますよ」
アオ、シリカが応える。
「それにしても…こっちに居る間に事件が頻繁に起きたよね…」
「そうだね、なのは。…でも、そう言うタイミングが重なる時って言うのはあるものだよ」
面倒ごとは重なる物だとなのはの呟きにフェイトが答えた。
「さて、そろそろ時間かな」
と、ソラが時計を確認し、儀式の開始を宣言する。
各々が持ち場に着きオーラと魔力を特殊転送陣へと注ぎ込む。
アオ達の真下の魔法陣が輝き出し、それぞれ連結し、一つの大きな魔法陣になると、だんだんアオ達の体が薄く透けていく。転送が始まったのだ。
「そう言えば。あーちゃんのお父さんはどの人なの?」
なんてユカリが冗談のように言う。
「まぁ、それは未来のお楽しみって事で」
「いいじゃない、少しくらい」
「うーん…かなり苦労人の人ですよ。でも、いい人です」
と、アオが言い終わるのと同時に発光が強くなりついにアオ達はこの世界を去り、元の時代へと戻った。
ユカリは踵を返すと家へと戻る。
「寂しくなったな」
転送の最中は一言も言葉を発さなかったアテナがユカリを気遣ったかのように言った。
「何、神殺しの身に5年や10年なんてあっという間だ」
アーシェラも主人の不安を払拭させるように言葉を掛ける。
「そうね…でも…」
とユカリは振り返るとアテナとアーシェラを交互に見てから言った。
「大丈夫、アテナとアーシェラが居るしね」
と言ってユカリが笑うと二人とも安心したかのように笑っていた。
後書き
今回でカンピオーネ編は終了です。原作に追いついてしまいましたしね…
シリカはミノスの迷宮の能力をゲットして完成されました…もうきっと誰も敵うまい…迷宮能力+分身(NPC)できっとアインクラッドを再現できるはずっ!ペルセウス?もとの神格は太陽神らしいので照明担当とかかな…
次話の投稿は未定になります。しっくり来る物が見つかりませんし、切りのいい所(ほぼ最後)まで書き上げてからの投稿になるのでかなり時間が掛かると思いますがご了承いただけますよう。
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