その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)
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第28話 夢魔が飛び、魔猫が舞う(5)
前書き
余りにも長くなったので、2つに分割して投稿します。
「なのは、リリーーっ!」
森を抜け、川へと至る道を走り続け、もうすぐ合流できるという所で、純吾はその瞬間を見てしまった。
あの時と同じ、少女の杖から放たれる莫大な雷撃の濁流。それが仲間を包み込む瞬間、そうやって純吾は思わず立ちつくし、その場で叫ぶ事しかできない。
しかしそれは後ろから自分を追ってくる者にとっては絶好の好機だった。
「ジュンゴにゃん!?」
「はっはぁっ! これで後は坊やだけだ!」
先行していたシャムスの焦ったような声と同時に聞えた獰猛な声に振り向けば、自分に向かって躍りかかってくる狼。
「仲間と一緒に、ここで退場しなぁっ!!」
巨躯の跳躍力を前脚にのせて、今にも純吾の体をふき飛ばさんと振りかぶる。先の光景に目を奪われていた純吾がそれを避けるには既に近づかれすぎている。
もはや為す術もなく、純吾は木の葉のようにその身を宙へ舞わせる――
「なのはぁーーって、うわぁぁぁあぁぁぁああぁぁーーー!!」
――ような事にはならず、前脚が純吾の体に当たるか当らないかの瞬間、そこに忽然とユーノが現れる。
ユーノと純吾の体の大きさから、純吾を狙った狼の攻撃は空振り、大きな音を立て地面に激突。巻き起こる砂塵によって「うぉあぁぁ?!」と体重の軽いユーノの体が木の葉のように宙を舞う。
「なっ、坊やはどこにいったんだ!」
「にゃーーはっはっは、すり替えておいたのにゃぁ!」
焦ったように辺りを見渡す狼の疑問に、シャムスが彼女を指差しながら高笑いと共に答えた。
(味方の位置を入れ替えたっていうのかい!? こいつ、どれだけの事ができるんだっ)
この土壇場になって発揮されたシャムスの能力。攻撃を失敗したアルフの焦りをさらに加速させる。
「さぁジュンゴにゃん、今のうちにトドメをさすにゃぁー!」
シャムスの指が、アルフから彼女から見て右側の木々の中へと移る。
その指に焦った思考はつられてしまい、同じように視線をそちらへとやってしまう。
すると突然、彼女の左横腹に生じる違和感。
(しまったぁ!)
シャムスのあの指は、普段の彼女であれば絶対にひっかからない、余りにも幼稚なフェイント。だが、思考を極限まで狭められた今だけはそれは非常に有効な手段となりうる。
アルフがそれに気が付いた時には、彼女の体は高々と持ち上げられていた。
「時間が、ないから……」
「お、ぁ、ぁ、ぁぁ――」
その場でアルフの巨体を持ちあげたまま、勢いをつけるようにぐるぐると純吾は回る。それに彼女はあらがう事ができず、ただ為すがままにされる。
「向こうに、行っててぇーーーっ!」
【ハーモナイザー】によって人外の域にまで高められた腕力に、回転の勢いをのせて純吾はアルフを放り投げた。
「のわぁぁぁあぁぁぁーーー!」
間抜けな声をあげながら、アルフの体が回りながら空を飛ぶ。やがて遠くで、キラーンと一つの星が光った。
「たーまにゃー♪」
「……急ぐ」
それを見送った後再び、純吾とシャムスは川へと続く道をひた走った。
間もなく元いた橋のある川辺に辿り着く。あの雷を放った少女の事は気になるが、まっさきになのは達の治療をするために地上を探す純吾達。
けれどもいくら辺りを、川辺を、橋を見てもなのはもリリーも見当たらない。
「ここじゃ、ない?」
まさか、森の中へ堕ちたのかと再び森へ戻ろうとする純吾。けれどもそれは彼の肩をつつく手によって遮られる。
「ジュンゴにゃんジュンゴにゃん」
振り返るとシャムスが紅玉のような瞳に困惑の色を浮かべて純吾を見ていた。純吾が彼女の方を振り向いたのを確認すると、閉口したように指をつんつんと上を指した。
その指につられて純吾も視線を、今まで気にも留めていなかった空へと移す。すると、川と森の境界線辺りでレイジングハートをぎゅっと握るなのはの姿を見つけた。呆然としているが、どこも傷ついていない彼女を見て、リリーは自分のお願いを聞いてくれたのだとほっと安堵する純吾。
「いや、そっちじゃにゃいにゃ」
だが、シャムスの言いたいのはそうではないらしい。ならリリーの事かと、視線を横にずらす。
けれどもそこにいたのはリリーではなく
「~~~~~っ!」
声にならない悲鳴をあげ悶絶している例の金髪少女がいた。どうした訳か両手をお尻にまわして、空中をぴょんぴょんはねるという器用なまねをしている。
「…………」
それを見て、ごっそりと体力を奪われたかのような感覚を覚えながら、とても困ったように純吾はくしゃくしゃと頭を掻いた。
いや実際、純吾はとても困っていた。自分が最後に見た光景と、あまりにも現状が違い過ぎている。それはなのはやリリーが傷ついてしまうという純吾が想定していた自体よりは、何百倍、何千倍もマシだ。マシだけれども、今まで自分が焦っていたのは何だったんだろうなぁ、とどうしても考えてしまう。
……いいや、今はそんな自分の事よりも
「リリー、見つけないと」
「そうね、早く見つけてもらわないとね♪」
顔をあげ、気合いを入れなおした純吾の言葉の直後に、とても楽しそうな声が重なった。どこから聞こえたのかときょろきょろと辺りを見回す純吾の横っ腹に
「ジュンゴーーーーーっ!!」
どこからか現れたリリーがぶつかってきて、そのまま押し倒されてしまった。
「さっきぶりねジュンゴっ! さぁ、ずっと一緒だって言ってくれたけど結婚式はどうするっ? キリスト式? 仏前? それとも由緒正しくサバト式?!」
「にゃ、にゃ、にゃにをいきなり言ってんのにゃぁー!」
唐突な事に目を回す純吾に対して怒涛の如く話しかけるリリー。そんな彼女をいち早くシャムスが慌てて引っぺがした。
「あによ駄猫。今私達今後の人生にとっても関わる事相談してるんだから、少し黙ってなさいよ」
「いやいやいや、にゃにとち狂った事いってんにゃ。リリーはあそこでお尻抱えて跳び回ってる子の魔法にやられたんじゃにゃかったのかにゃ?」
「ん……。リリー、大丈夫?」
ふくれっ面したリリーに、シャムスが憤然として食って掛かり、やっと自失から立ち直った純吾が起き上がり、ぺたぺたと頬や手に触れて傷を確認した。
「あぁん、ジュンゴったら気が早いんだから♪ え、違う? 仲魔相手にそんな事考えるはずもない?
……うぅ、はい、真面目に答えます。ジュンゴ、私が何に強いか覚えてる?」
体を張った冗談(半ば以上冗談ですます気はなかったが)を見事にスルーされたリリーが、若干涙目になって純吾に問いかける。それにふむ、と少し考え込む純吾だが、すぐに思い出したのか答えを言った。
「……雷」
「そういう事。あの子が電気を使った攻撃が得意だって知っていたから、それを土壇場で使うようにずーっと挑発しながら戦ってたの。
で、案の定ここ一番って時にそれを使ってくれたから、油断したところをああやってお仕置きしたってわけ」
「まぁ、なのちゃんと一緒にやられるとは思ってなかったけどねー」と肩をすくめてリリーが説明を締めくくった。
「あっ、そういえばあの子のお尻すっごいわよ。プリップリのもっちもち! いやぁ若いって素晴らしいわね」
「へっ変態! ここに変態がいるにゃーー!」
……最後の最後に、とんでもない蛇足を付け加えたが。
「リリー、すごい。ジュンゴ、そんな事思いつかなかった」
「んふふ~でしょでしょ? もっと褒めてくれてもいいのよ♪」
蛇足の所は無視して、リリーをきらきらと目を輝かせて純吾は見つめる。リリーが今にも高笑いでも始めそうなくらいにそっくり返った。
「……それに」
「ん?」
「リリー、なのは守ってくれた。本当にありがとぅ、リリー」
仲間の無事な姿を見れた嬉しさからか、それともそれから来る安堵からか。くしゃっと相好を崩し、泣き笑いを我慢するように目を細めて、純吾がリリーに頭を下げた。
ふんぞり返っていたリリーが、そっと下げた頭を包み込むように抱きしめる。
「バカね。私はジュンゴの仲魔なんだから、ジュンゴの言う事は何だって聞いてあげるものなのよ。それに、なのちゃんの事気にいってるし。そんな子を守ろうって思うのは当たり前でしょ」
そこまで言うと、リリーは抱きしめていた純吾の頭からそっと手を離し、彼と見つめ合うような形をとる。
彼女には珍しく頬を薄く染め、うるんだ青い瞳で純吾を見る。純吾はどうして彼女がそんな顔をするのか分からず、ぽけっとした顔で見つめ返した。
そして段々とリリーの顔が純吾に近づいていき――――
「にゃーにゃーにゃー。そこまでにするにゃんよ~~」
もの凄くやる気のないシャムスの声が割って入った。2人同時に視線を横にずらすと、間近でぶすっとした顔のシャムスがジト目で睨みつけてくる。
「いつまでなのにゃん達をほっぽっとく気にゃ? それに早くしにゃいとあの狼も帰ってくるにゃ、百害あってもいいとこなしにゃ」
「……ん。なのはの事、心配」
シャムスの言葉にすっくと純吾が立ちあがり、近くの木に飛び乗ると木々の間を跳ぶようにして上へと昇って行った。
「ほらほら、リリーもさっさと行くにゃん…………ぷぷっ」
純吾に続いてシャムスも木を駆けあがり、振り返って口元を隠して笑う。「誰が抜け駆けなんてさせるものか」と雄弁にその顔は語っていた。
「………この駄猫、後で覚えてなさいよ」
リリーはそんなシャムスに向かって恨み事を言うと、翼を翻して空を飛んだ。
「…なのは」
少女が魔法を放った後、ずっと放心していたなのはに最近聞きなれた男の子の声が聞こえてくる。はっと我に返って辺りを見回すと、森の木々の葉の間から突き抜けるようにニット帽を被った頭が、次に体がでてくる。
「ぅ、うん……、え。純吾、君?」
「ジュンゴにゃんだけじゃないにゃん」
ぼぅっとしていたため純吾が来た事に気が付いていなかったため慌てるなのはに、更にシャムスが出てきて声をかける。
そして最後に、
「あっ……」
バサァッ、と盛大に木々を揺らしてリリーが出てきたのを見た途端、なのはの目にぽろぽろ涙がたまる。
「はぁ~い♪ ついさっきぶりね…っとぉ」
「り、リリーさぁん……良かったぁ。ほんとうに、良かった…です」
呑気な挨拶をするリリーの胸元に飛び込み泣き始めるなのは。
少女の雷撃からかばわれてからずっと、後悔や不安が体を渦巻いていた。どうしてあの時動けなかったのか、どうして自分だけ無傷でいるのだろう、リリーは身を盾にしたというのに……
そんな感情の濁流が、リリーを見た瞬間決壊をしたのだ。
「あぁもうすぐ泣いちゃうんだから。ほらほら、泣くのは帰ってから! 今は――」
自分の胸元に収まる亜麻色の髪を一撫でしてから、じろりと視線を前へと向ける。視線の先には金髪の少女。
「どうするのお尻ぷりっぷりちゃん。いくらあなたが優秀な魔導師? でも4対1、それもあなたの攻撃がきかない私がいる状態で勝てるとお思い?」
「お尻」の所で反射的に手を自身の臀部にかばうように当てる少女だったが、すぐにこの状況をどう打破するかを脳裏で考え始める。
どういう絡繰かは知らないが目の前の女性に自分の得意魔法が聞かなかったのは事実。それにアルフによって分断されていた相手側が完全に揃ってしまっている。
せめてアルフが戻ってきてくれればと思っていた時、タイミング良く彼女の使い魔が戻ってくる。
「うえぇ、気持ち悪い……。フェイト、無事かい」
「アルフ! うん、私は怪我もしてないけど。……大丈夫?」
頭をぐらぐらさせつつも自分を心配してくるアルフに、彼女もそう聞き返す。
それと同時に、彼女の様子と目の前のあの少年の様子を見て、やはりこの少年は一筋縄ではいかないと認識を改める。
(――フェイトごめん。こいつら意外とできるよ。だから、これ以上は)
(…ぅん。ここのジュエルシードは手に入れたし、ここは逃げよう)
そして相手に聞かれない様に念話で素早く意思を確認し合い、即座に身をひるがえし場から離れようとする。
しかし、やはりとも言うべきか、逃げを打とうとした彼女達の間をすり抜けるように一条の雷光が閃く。
「あら、こんな事やっておいて簡単に逃げられると思ってるの?」
(くっ、やっぱりこの人は――)
――何としてでも脱落させるべきだった。
杖を構えなおして振り返り対峙する。女性もそれに答えるかのように白い服の少女を離してこちらへ向かおうとするが、それを少年が止めた。
「……聞きたい事、ある」
ニット帽を目深にかぶった少年がぽつりとそう言った。帽子の間から覗く鋭い目つきとは正反対な穏やかな声と少したどたどしい口調に、少し興味が惹かれる。
そんなフェイトの心の動きとは無関係に、少年は隣の亜麻色の髪の少女に何か話しかける。少女はそれに触発されたのか、わたわたと落ち着きなく前へと出てきた。
「え、えぇっと……わっ、わたし高町なのはっ! あなたのお名前は?」
「……フェイト、フェイト・テスタロッサ」
あんまりにもほのぼのとした問答の始まりに、気抜けした気持ちになりながらも少女―――フェイトは答えた。そして呆けた気持ちをすぐに引き締める。なぜなら、次の質問は間違いなく
「ど、どうしてこんな事するのっ!? ジュエルシードは危ないものなんだよ」
「……あなたには、関係ない」
予想した通りの質問に、そう答えてすぐに身を翻す。少年の命令を受けてから動きを示さない女性はとても不気味だが、それはそれで都合だ。フェイト達は目の前の平和ボケした彼らにかまっている暇などなく、すぐにでも次のジュエルシードを回収しに行かなければならないのだから。
しかし、翻った直後に聞えてきた少年の言葉によって、フェイト達の逃亡はもう一度阻まれてしまう。
「……“母さん”が、理由?」
「………そう思うのなら、もう、私達には、関わらないで」
答えた声と同様、肩越しに少年たちを睨みつけた目は、とても冷たいものだろうなと思いながらフェイトは答えた。
彼らに、平和な場所に生まれ、育った彼らに自分の何が分かるというのだろうか。
肉親に甘やかされ育ち、友人に囲まれ、平和な環境で育った彼らに、それを掴もうと必死になっている自分の、この気持ちが。
「私達はこれからもジュエルシードの回収を続ける。……母さんの為に、だから邪魔しないで」
「坊やっ、あたしの名はアルフ! もし今度あたし達の邪魔したら、その時こそギッタンギッタンにしてやるからねっ!!」
暴れ狂う感情をどうにか押し込めてそう言うと、今度こそフェイト達はその場を全力で離脱した。
「ねぇジュンゴ。結局追いかけなかったけど、これで本当に良かったの?」
フェイト達が逃走した方角を見据えながら、リリーが不満そうに言う。あそこまで一方的に言われて黙っているほど、彼女はお人よしではない。
「ん…、追いかけちゃダメ」
純吾も、フェイトが去って行った方を見ながらそう答える。ただ、そう答える背中は普段よりも小さく、とても疲れているように後ろに控えるなのは達には見えた。
「……純吾君、とっても疲れてるみたいだけど大丈夫?」
それがとても心配で、なのはが堪らず声をかける。
彼と、彼とその仲魔と一緒にジュエルシードの回収をしていく。リリーの時は足を引っ張ってしまったが、それでも、少しでも何かの役に立ちたいと思った。
なのはの気持ちを悟ってか、純吾は今度は彼女達の方へと振り返る。
その顔は、やっぱり何かに悩んでいるような顔。
目を細め口を閉口したかのようにきつく結んで、そのくせ眉尻だけは悲しそうに下がった顔。
「…あの子。フェイトの目、」
そんなどう悲しみや不安の感情を処理していいのか分からない、という顔で純吾はなのはに答える。
「ジュンゴ、あれを知ってる。昔…うぅん、ここに来るまでずっと、あれを見ていた。フェイト、母さんの為だって言ってるのに、母さんがいるはずなのに――」
―――どうして母さんが欲しいって、目をしているの?
後書き
深夜
『やほほ~、ジュンゴちゃん。今日は起きてるかなぁ~?
ってあら、また寝てる。最近ティコりんの事、ジュンゴちゃんかまってくれないからさみしいなぁ~、プンプン!
……まぁ、いっか! それじゃあ、今回も勝手に今日のまとめを報告しちゃうね☆
今日はまず皆と一緒に温泉に着たよね。それで、温泉に入って、お土産買って、うぅ~ん、ジュンゴちゃんばっかり楽しんでてずるいっ!
けど夜に女の子……フェイたんに会って、その使い魔と戦ったよね。それで、使い魔をぶっ飛ばしたけど、結局は逃げられちゃって。
それで最後に、フェイたんに関わるな~って言われたけど、ジュンゴちゃんはこれからどうするのかな? 言葉に従う? 無理やり言う事きかす? それとも、別の道を言っちゃおうのかな?
まっ、どんな道を選んだとしても、ティコりんはジュンゴちゃんの味方だよっ☆
…え~と、今日はこんな所かな?
それでは、ハブ・ア・ナイスタ~☆』
◆スキル紹介
【マハジオ】
敵全体に魔法の雷で攻撃を加える。SHOCK(物理攻撃を受けると必ずクリティカル攻撃を受けてしまう)を付与する事も。
【瞬転の舞】
神獣の種族特有スキル。付近にいる味方と味方の位置を入れ替える。
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