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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第25話 夢魔が飛び、魔猫が舞う(2)

 その日の夜、フェイトとアルフが偶然に見つけたジュエルシードの回収は、とても順調に行えたと言ってよかった。

 何故か近くの旅館に宿泊しているという、以前遭遇した自分とは違う魔導師や、……あの変わった少年が介入してくるという事はなく。封印魔法の方もアルフが周りを警戒してくれた事で、以前の様な急拵えのずさんなものではない、完璧ともいえる精度で行える事ができた。

 だからだろう。橋の上で封印作業の間張りつめていた緊張の糸が緩み、作業後の余韻に浸っていてその声にすぐに反応できなかったのは。

「あはぁ、見ぃ~つっけた♪」

 心底嬉しそうな女性の声が、やけにはっきりと辺りに響き渡る。それと同時に、ザワリと森から寒風が吹きこみ、凍えそうなほど冷たい空気が周りを浸食してきた。
 驚きを何とか押し殺しながら、橋のライトと、月明かりのみで照らされる暗い森の中を凝視する。

「あったま悪い警告してくるから、もしかしたらって期待してたんだけど、本当にいてくれるとはねぇ」

 真っ黒な森の中からゆらり、ゆらりと二つの小さい青い光が近づく。
 鈴を転がしたかのような綺麗な声が、光が近づくにつれ少しずつはっきりと聞えるようになる。その声の主が、凍える様な雰囲気をひきつれてやってくる。

 やがて、その声の主が全身を月下に晒した。

 2つの光を放つ、切れ長で大きい双眸。濡れているみたいに艶やかに青く光る長髪。純白の大理石を磨き上げたかのように月の光を受けて白く光り輝く紺色の浴衣から覗く手足や顔。
 月に照らされたその女性は、この世のものとは思えないほどの美女だった。

 そう、正しく“この世のもの”とはフェイト達には思えない。
 彼女の背中には、その美貌とはあまりにも不釣り合いな大きな蝙蝠の翼が生え、自分の使う魔力とは違う力で以て、宙をすべるように姿をあらわしたのだから。

「こんばんは、お嬢ちゃん。今日はいい月夜ね」

 首を妖艶に傾げながら、ニコリと女性は微笑む。普段そうされたのであれば、同性のフェイトやアルフといえども恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯いていた事だろう。
 しかし今はその笑みも、獰猛な獣の笑みを向けられたようにしか思えない。本能が目の前の女性は危険だと鋭く訴えかけ、フェイト達はいつでも戦えるように構えをとった。

 そんな2人を見て何を思ったのか、女性は笑みを一層深く――三日月の様に口の端をあげ、嬉々とした様子で両手の指を胸の前で絡めた。

「あらっ、私は何にもしてないのに、そんな風に構えちゃうんだぁ。
 ……ふふっ、あははっ! あぁっ、話に聞いていた通り、本当に可愛らしいお嬢ちゃんねっ! それにやっぱりあの時の雌犬もいるなんて……あは、あははぁっ! 本当に、今日はなんて良い日なのかしらっ!」

 狂ったように嗤うその姿に、一層自分の愛機を握る手に力を込め、すぐにでも先制しようと体をかがめたとき、森から更に声があがる。その声の主を見て、愕然としたようにフェイトは目を見開く。

「あなたは……」

 そんな彼女を尻目に、以前彼女が打倒した少女と少年が、必死の形相で相対している女性の元へと走り寄っていた。





「リリーっ!」

 ようやく先行したリリーに追いついた純吾は彼女に向かって叫んだ。今彼女は森を抜けてすぐにある川辺にいて、その川にかかっている橋の上には、予想した通り、以前訳も分からず対峙した少女と、昼間にであったオレンジ髪の女性がいる。
 自分たちが現れた時、少女が何か呟いていたようだったが、今はそんなこと気にしていられない。何故なら

「あははははっ………って、あら、ジュンゴ。もう来ちゃったの?」

 名前を呼ばれた事に気が付いたのか、リリーは哄笑を止め、いつも通りの笑顔で、純吾達の方へと振り返る。
 しかし、その笑顔は表面上の事だけだ。戦いに酔ったような興奮をし、目には常にはない冷たい青い光が、月を背負い影になっているその目の付近を煌々と照らす。

「ん~、まぁ…、いえ、むしろこれがいいのかしら? ほらジュンゴ前を見て。あの女……、ジュンゴに泥付けてくれた女よ。
 ねっ、いい機会だし、ここであいつら殺しちゃおうよ。あいつら見てるだけで本っ当にいらいらしてくるし、今日の昼間みたいに絡まれるのなんてもうまっぴらよ」

 明日の朝食を決めるかのように、リリーは軽くそう言ってのけた。
 それは純吾の一歩後ろで息を整えていたなのはの耳にも伝わる。そのあまりの平然とした様子に普段の彼女を知るなのはは、さっきから否定し続けていた事は、どうしようもない事実だったのだと思い知らされる。

(…リリーさんは、本当に)

――本当に悪魔だったんだ。



「…ダメ」

 少女達が呆然とする中、彼女の主である純吾は、顔には僅か、けれども声にはとても悲しみを込めてリリーに答えた。

「どうして? あぁ、分かった。人が死ぬところなんて見たくないのね? ごめんね、そんなこと考えられない位頭に血が昇って「……に、そうしてほしく、ない」……えぇ?」

 言葉を遮られたリリーが、不快そうに浮いたまま身をよじる。理解できない存在となった彼女の雰囲気に、純吾の近くにいたなのはは思わず身をすくませてしまう。

「リリーには、そうしてほしく、ない」

 けれどももう一度、今度ははっきりと純吾は言う。子供が駄々をこねるのを見守る母親の様に一度小さくため息をついたリリーが、ふわりと純吾の近くまで舞い降り、猫なで声とでも言うべき甘い声色で囁く。

「ねぇジュンゴ。あなたのその優しい所、私すごい好きよ? 何せ、相手は女の子だし、自分が我慢して、それで前の事は水に流そうっていうんでしょう?
 けどねぇ」

 視線を純吾の顔から、橋の上にいるフェイト達に向ける。彼に向けていた優しい雰囲気は一瞬にして消え去り、寒々とした目を彼女たちに向ける。

「分かっているでしょう? 一度敵対した相手に情をかけるって事がどれだけ危険かって事は。特に、それを身を持って知ってる、ジュンゴなら」

 その言葉に純吾はリリーの手を強張ったかのように強く握る。彼女が、前の世界での自分の最後の事を言ったのだと理解したから。それに、と一呼吸おいて、リリーは続けた。

「ジュンゴの仲魔になって、大分ジュンゴに影響されてるんだろうけど、やっぱり私は悪魔なの。
……いえ、むしろあなたの仲魔だからこそ、あの時、何もできなかったからこそ。もうジュンゴが傷つくのなんて見たくなかった。
 だからやり返さない限り。あいつらを殺しでもしない限り、この気持ちは収まりそうにないわ」

 だから、行くね。そう言って再び宙へ浮かぼうとしたリリー。
 その自分から離れつつある彼女の手を咄嗟に純吾はとった。

「……リリー、ジュンゴの事考えてくれるなら、ジュンゴも考えてる」

 何度も報復の邪魔をされ、ついに純吾にさえ苛烈な眼光でもって見下ろすリリーに、純吾は真正面から向かい合った。

「前だったら、そう。けど、ここは違う、戦わなくたって……殺さなくたっていい。リリー、ジュンゴもここで生きてくから。ずぅっと、一緒だから、だから――」

 途中から固まるリリーに気づかないまま、最後の言葉を口に出そうとした瞬間、リリーを空中へ押しだすように手を離した。
 そのすぐ後、「ええぇっ!」と明らかに気の抜けた声を出すリリーのいた場所に旋風が巻き起こる。

「ちぃ、呆けてる今ならいけるって思ったんだがねぇっ!」

 風を巻き起こすほどの強烈な蹴りを放った女性は鋭く舌打ちする。そのまま空中で体勢を立て直すと、野性的な鋭い視線を純吾に向け、口角を釣り上げる。

「まぁいい、ちょいと面貸してくれないかねぇ…坊や!」

「いけない、短距離転移魔法だっ!」

 純吾と前に出て橋の上の少女を警戒していたユーノたちの足元に、光で編まれた魔法陣が浮かび上がる。
 我に返ったリリーが慌てて手を伸ばすが、立ち昇る光の壁に阻まれ中に入る事ができない。

「リリー、なのはを!」
 壁の内側純吾も手を伸ばしながら声をあげる。今自分がリリーから離れることで、彼女が暴走してしまわないか、それが、彼女となのはやすずかたちとの確執をもたらさないかと心配し、なんとか自分の思いを伝えようとした。

「なのはをお願いっ! 戦って、みんな悲しませるような事しないで、お願ぃ――」

 しかし間もなく転移の光に呑み込まれ、彼女へ自分の声が届いたのかどうか、確認できないまま押し寄せる光の前に目を閉じた。





 次に純吾が目を開けた時、先ほどよりもずっと暗い事に気付き、それは今自分を周囲から圧迫するかのようにそびえたつ木々が原因なのだと思いつく。短距離転移とは言ったが、かなり遠い場所に移されたのだと、当たりをつけた。

「さって、ここなら、邪魔ものも入らないかねぇ」

 そう考えていると、後ろから声がかかる。敵意を含んだその声に純吾は思わず飛び下がり、後ろを見る。
 そこにはやはりというべきか、純吾をここまで運んできた女性が片頬をあげながら愉快そうに立っているのを見つけた。
 と、純吾の足もとにいたユーノが声を荒げて食って掛かった。

「どうしてジュエルシードを集めているんだっ! あれは危険なものだっていうのが分からないのか!」

「危険? 知ったこっちゃないねぇ。あたしはただ、あの子がそれを求めてるから協力している、それだけさね」

 ユーノの詰問もどこ吹く風といったように、女性はにわざと大きく肩をすくめる。その挑発にさらにユーノが声を上げようとするが、目の前に現れた手に言葉を遮られた。

「…どうして、こんなことを?」

 ユーノに手を伸ばし、それ以上の追及を止めた純吾が短く問いかける。その声に、待ってましたとばかりに笑みを深くした女性。

「そりゃあ決まってるさね、今あんたらが集めてるジュエルシードを持ってるあの嬢ちゃんから、それをいただきたいと思ってねぇ。
 それであんたらの中で一番戦えそうな坊やと、そっちのフェレットにはご退場していただいたわけさ」

「なっ、さっきまでのリリーさんの状態を見てただろう!? どう考えたって普通じゃない。彼女を唯一抑えられるのは純吾だけなんだ! それを――」

「あっははは! 逆さねフェレットの坊や。怒っているからこそ、正常な判断ができない。そこにつけ込むのは簡単さね。
 それにあたしから言わせてもらえばあの女がやばいのは雰囲気だけさ。感じ取れる力量はたいしたことない。どれだけ踏ん張っても魔導師ランクにしたらAランクに届くかどうかだろうし、それじゃあ逆立ちしたってあの子にゃ勝てやしないさ」

「…リリーと、戦う気なの?」

 純吾達をここまで飛ばした理由をあっさりとばらす女性に、さらに純吾は小さく問いかけた。

「当り前さね。同じ物を集めて回ってるんだ、あんたらはあたしらにとったら邪魔なんだよ。もし目の前に邪魔な奴がいたら坊やはどうする? どうやってそいつとの関わりをなくしたらいいと思う?
 簡単な事さ、二度としゃしゃり出ないようにしたらいい。まぁ、今回の邪魔なものの範囲には…」

 消え入るような純吾の問いかけに、滔々と答えていた女性の雰囲気が突然変わる。いや、次の瞬間、女性の体にも劇的な変化を遂げ始めたのだ。
 鋭かった目に凶暴な野性の光が灯り、女性としては高い体が大きく膨れる。それと同時に人間の手だったものは鋭い爪を生やして大地を踏みしめ、全身に髪の色と同じオレンジ色の体毛が生えていき……

「そうか…、あなたはあの子の使い魔だったのか」

 目の前の光景を見ながら、純吾の足元でユーノがかすれた声で言う。
 今彼らの前には女性の姿はなく、彼女が変身した一匹の狼がいた。

「そうさ、あたしはあの子の使い魔。製作者の魔力で生きる代わりに、命と力の限りを尽くしてあの子を守るんだ」

 グルルという威嚇と共に女性の声が頭に響いてくる。

「だから坊や達。あんたらには何の恨みもないけど、あの子の幸せの為にこれ以上ジュエルシードには関わらせやしない、それがあんたらのお仲間を傷つけることになったってねえっ!」

 そう言うや否や、女性だった狼が地面を蹴り、純吾に向かってその前足を振り落とそうとする。

「ジュンゴ!」

 そうユーノが叫ぶが、何もする事ができない。そのまま鋭い爪はあと少しで純吾に突き刺さりそうになり――

「【ガル】っ!」

 唐突に狼に向かって吹き荒れた風によって、その巨体ごと後ろへと押し戻された。それでも空中で器用に一回転して地面に降り立った狼は、風の出所であろう純吾達より後ろにある木の辺りを睨みつけた。

「はんっ、命と力の限りを尽くして守る? ご大層な理由でもあったら、シャムス達がはいどうぞとでも言うと思ったのかにゃん?」

 凛とした鈴の音の様な声がしたかと思うと、トンっという軽い音と共に、一匹の猫が木の上から純吾の肩に降りてきた。

「ごめんにゃジュンゴにゃん。ぎりぎりで光の中に入り込んだから、ちょっと遠くに飛ばされちゃってたにゃ」

「…ううん、来てくれただけで嬉しい。ありがとう、シャムス」

 その猫――シャムスの顎の下を軽くくすぐりながら純吾が言う。先程まで辛辣な光を湛えて狼を見据えていたシャムスだったが、気持ちよさげにそれを受け入れる。

「はっ、昼間に少し疑問に思ってたけど、やっぱりその猫普通じゃなかったのかい」

 依然睨みを利かせたまま、少しだけ感心したような声色で狼が喋る。昼間感じた2つのプレッシャー。リリー以外に誰がそれを発したかが分かり、また狼からしたら異様と感じる力をシャムスが使った事に納得をしたそぶりをする。

「あぁ、なるほどねぇ。そいつがあんたの使い魔って訳かね」

「…使い魔じゃない。シャムス、ジュンゴの仲魔」

 続けて狼が言ったその言葉に、シャムスが嫌悪を隠そうともしないで表情に浮かべ、純吾はちょっと憮然としたように、眉を少しだけ顰めた。仲魔、という言葉に結構な愛着を感じていたからだ。

「そうにゃ、どこかのでっかいだけが取り柄の犬にしかなれないような女とシャムスを一緒にしてほしくにゃいにゃ。シャムスは仲魔、神や悪魔といった超常の存在にゃ。
 それに、変身っていうのは」

 くるんと宙返りを打ちながら純吾の肩からシャムスが宙へと舞う。
 その体が一瞬光に包まれたかと思うと、半人半猫とも言うべきバステトとなったシャムスが純吾の隣に立っていた。

「変身っていうのは、こういう風にエレガントにやるものにゃ」

「はっ、言うじゃないか、猫風情が」

 シャムスの挑発を鼻で笑いながら狼は返す。

「しかしなるほど。なかま、だったかい? あんたが悪魔がどうとかはともかく、確かにさっきの女といいあんたといい、確かにあたしとは違うものを根源としているようだねぇ」

 挑発を返した後、すぐに真剣な表情になり狼は現状を分析する。瞬きほどの少しの間、バステトとなったシャムスと純吾へと視線をさまよわせるが、すぐにやりとその大きな口に獰猛過ぎる笑みを浮かべた。

「けど、それだけのようだねぇ。あんたからもさほど強さを感じやしない。強くなけりゃあ魔導師だろうが、それこそ神様や悪魔だろうが関係ない。
 あたしらの目的の為に、邪魔する奴は叩きつぶすだけさ」

 「来なっ!」後脚にすぐにでも飛びかかれるように力を込め、狼が言い放った。

 彼女の脳裏に浮かぶのはあの日自分の胸の中で泣いていた少女。優しい心を傷つけてまで、ジュエルシードを集める事を決意した彼女の主。
 その少女の負担を少しでも減らす。その為に、自分たちと対立し、少女を苦しめるだろう目の前の少年たちを自分の手で倒すと彼女は決めた。
 いっそ悲壮なまでの決意を敵意に変え、容赦なく少年達にぶつける。

「…一つだけ、いい?」

「……はぁ、さすがとでも言っとこうかい? これだけあたしが睨んでるってのにそんな事言えるとは。いいよ、ただし一つだけだ」

 自分の威嚇を受けても怯んだ様子を見せない純吾に、若干呆気にとられたような狼。一つだけなら昼間のように話が脱線したりしないだろうと、昼間の事を思いだしながら純吾へ返した。

「あれ、食べてくれた?」

「あれ? あれ、あれ……あぁ! あの卵に“てんむす”ってのだろう!? いやぁ、ありゃ美味かったねぇ! 最近碌なもの食べてなかったかったし、感動もんの美味さだったよ」

 食べた時を思い出しているのだろう、途端に首をうんうんと上下させ、全身を使って如何に純吾の渡したものが美味しかったかを語ろうとする狼。

 その様子に、一瞬前までの狼の威嚇で体を強張らせていたユーノが全身を地面に突っ伏させ、シャムスは「やっぱり餌付けされてたにゃっ!」と純吾は渡さないとばかりにひしと抱きしめる。先程までの緊迫した空気が、昼間のように一瞬で台無しになってしまっていた。


が、


「あぁ…、あの子とも、一緒に食べたんだけどね。初め胡散臭そうにてんむすやらを見てたんだけど、口に入れたら目をまん丸にしちゃってねぇ。それからぱくぱくかっこむもんだから喉につまらせちゃって。慌てて背中さすったら、あの子笑ったんだよ、『本当に美味しくてびっくりした』って」

 ついさっきまでの嬉しそうな様子から一転し、顔を俯かし狼は話すだす。楽しかったのであろう出来事を、本当に辛そうに。

 唐突に、狼が顔をあげる。
 その視線にはどういう訳か先程以上の敵意を宿し、純吾達をまっすぐに射ぬいた。

「そうさ、坊やがただの料理が好きなら良かった。そうだったらあたしらは正体を教えなくて、ただちょっと美味いものを食べさせてくれるだけの関係を築けて。あの子が少しでも羽を休める、そんな場所ができるはずだったんだ。
……なのに坊やはそうじゃなかった! それどころかあたしたちの邪魔をする側にいて、あの子が苦しむ原因にもなっていた!」

 狼は首を激しく振り、その大きな口からありったけの声で抑えきれない彼女の感情を吐き出していく。

「そうだ! だからこそあんたらはここで降りてもらわなくちゃならない! 坊やは優しすぎたっ! 敵であるあたし達にまで知らず知らず手を差し伸べて!
 それはあの子を苦しめるだけだ!! なら、ここであんたらを倒して! 二度とジュエルシードの捜索をしようなんて思わせない様にしてやるっ!」

 心に一層強い敵意と決意を宿し、狼――アルフは目の前でいまだ事態に対応しきれていない純吾達に躍りかかって行った。
 
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