八条学園怪異譚
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十一話 ランナーその十一
「だからね」
「そうなのね」
「そう、褒められるとか駄目なのよね」
「そういえば聖花ちゃんって」
「褒められるの苦手じゃない」
「子供の頃からね」
聖花もこう言う。
「駄目なのよ」
「そうだったね」
「愛実ちゃんもどっちかっていうとそうよね」
「うん、特にね」
「特にって?」
「お料理を褒められると」
そうなれば特にだというのだ。愛実も愛実で恥ずかしがりなのだ。
「駄目なのよね」
「そうよね」
「そうなの。それで」
「それで?」
「一番駄目なのはトンカツを褒められるとね」
「トンカツってあれじゃない」
そう聞いてすぐjに言い返す聖花だった。
「愛実ちゃんの一番得意なメニューでしょ」
「お店の看板だしね」
「それでもなの?トンカツ褒められると駄目なの」
「結構失敗することも多いから」
これは愛実の主観に基く、愛実にとってはトンカツは失敗することも多い難しいメニューの一つになっているのだ。
それで愛実は言うのだった。
「だからね」
「失敗多いの?」
「揚げ加減がね」
「それ失敗してるの?」
「そうなの。トンカツとカツ丼とカツカレーでそれぞれ揚げ方も変えてるし」
「何か一つの変化球を投げ分けるピッチャーみたいね」
聖花は愛実の話から野球のことを思った。
「それって」
「パンだってそうじゃない。同じサンドイッチを作るにしても」
「あっ、それね」
「そうでしょ?パンが変わるでしょ」
「サンドイッチ自体は一緒でもね」
その生地はだというのだ。パン生地は変えない。
「けれど。それぞれで微妙にね」
「味付けとか変えるでしょ」
「ハンバーグサンドと野菜サンドじゃ全然違うわ」
聖花も愛実の話にこう返す。
「フルーツサンドとカツサンドじゃ全然違うし」
「でしょ?だからなのよ」
「カツ丼のカツをカツカレーに出しちゃったりするのね」
「内緒だけれど」
声のトーンが低くなったことにそれが出ていた。
「そうなのよ」
「ううん、けれどそれって」
「お父さんにもお母さんにもわからないけれど」
揚げた愛実自身がわかっている、それでもだというのだ。
「私でわかるから」
「人間自分に嘘を吐くのはね」
「強引に納得させることは出来るけれど」
「それもね」
「そう、本当の解決にはならないから」
それでなのだ。
「私の失敗は私が一番わかってるつもりよ」
「そうね。じゃあ」
「そう、トンカツは一番失敗してるからね」
だからそれを褒められることが一番恥ずかしいというのだ。そういうことだった。
「難しいのよ。コロッケとか海老フライもだけれど」
「ミンチカツもよね」
「そう、最近ミンチカツも人気があるけれどね」
「ミンチカツいいわよね」
「美味しいからね。ハンバーグは定番の一つだけれど」
俗にハンバーグを揚げたものがミンチカツと言われている。だが愛実にとってはこの辺りの違いもかなり細かい。
「ミンチカツもね」
「そっちもよね」
「ミンチカツ定食人気よ」
愛実はこのことも話す。
ページ上へ戻る