ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―
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Episode1 僥倖と奇禍
僥倖と言うのだろうか。初回ロット一万本のゲームの中にいることは。
ゲームの中にいる、というのはこのゲームが旧世代の液晶画面式ゲームでなく、人類初のフルダイブ型RPGというジャンルだからなのであるが、細かいところは俺にもよく分からないので省略しよう。《ナーヴギア》というゲームハードのおかげでフルダイブが実現されている…らしいとだけ言っておく。
それと同時に奇禍でもあるのだろう。ゲームにログインしてから一度もログアウトすることもなく、もう一ヶ月が経とうとしていることは。
ログアウト不可。状況としては《デスゲーム》といったところか。ゲームマスターたる茅場晶彦がそれらしい内容を宣言していたのだから。
――ゲーム内での死は現実での死を意味する――と。
しかし、だからといって常に死の恐怖と隣り合わせというわけでもない。本当に《ゲームオーバー》が《現実の死》に繋がるのか半信半疑、いや三信七疑といったところだ。
《はじまりの街》での茅場のチュートリアル終了直後、大多数の人間がパニックに陥った。酷い人は今でもまだ街の宿屋に引きこもっているのではなかろうか?
いや、これではまるで批判しているように聞こえてしまう。別にそういうわけではないのだ。実際、俺だって宣言後一週間は動けなかった。
どの程度茅場の言ったことが真実なのか分からないが、周りが動かないのだから自分も動かないでおこう思った。
…まぁ、俺の場合は集団心理に流されていただけということなのだが。
ただ、一週間が経ったころに少々俺の中で変化があった。周りをよく見れば動き出した人も大勢いるし、落ち着いて状況を整理すれば夢のような世界じゃないか。
男の子なら一度は夢見たファンタジーの世界にいるのだ。フィールドを闊歩しているモンスターだって敵わない相手ではない。なんなら、学校の先生なんかの方が十二分に厄介だ。反撃できないという点ではある意味最強だと思う!
…とまあ、動き出したあの日から三週間ほど経った今、落ち着いて考えれば少しばかり腑に落ちない理屈をこね、無事俺の冒険は始まったのだ。
最初は《はじまりの街》周辺にいたフレンジーボアなる青イノシシを狩り、そこそこレベルが上がったところで次の町へ行き、またそこで狩り……とRPGでは必定であるレベリングをしながら、ついに先行していたプレイヤー達に追いつき、共にゲーム攻略のために戦う!
……ようなことになっているはずだった。だったのだが……。
(はぁ…。今日もドロップしなかった…)
真っ当に攻略を始めたプレイヤー達が一層のいわゆるラストダンジョン、《迷宮区》の踏破に乗り出しているその頃、俺こと片手剣使いカイトはいまだ《はじまりの街》からたった一つ進んだだけの小さな村、《ホルンカ》に滞在していたのだった。
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