ソードアートオンライン VIRUS
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トンキー
前書き
タイトルうかばなーい
現在、トンキーに乗って川に沿って北上している。その間に、フィールドを徘徊している邪神やはぐれ邪神とニアミスした回数は正直片手の指の数よりも多い。しかし、なぜか邪神はトンキーの上にいるゲツガ達に視線を向けても襲うといった行動を一切せずに立ち去った。
ゲツガ達は付属品みたいなものと思われているのか無視される。しかし、それだと巨人型邪神に襲われていた意味がわからない。もしかして、形に意味があるのかも知れない。今まであったの邪神は人型とは大きく異なり、トンキーのような異形な形をしていた。キリトとリーファを見る。リーファは何か考え事をしていたが、キリトは再び船を漕いでいた。
「ちょっと、キリトく……!」
叫ぼうとしたリーファの口を塞いだ。
「何すんの……」
リーファは、ゲツガを怒ろうとするがトンキーの背中に積もっていた雪を指差すとリーファはニヤッと笑う。
「なるほどぉ」
「いいか?せーので行くぞ?」
「OK」
「じゃあ……せーの!」
リーファとゲツガは素早くキリトの背中に雪を大量に詰め込んだ。
「ふぎっ!!」
キリトは背中に入った雪のせいで奇妙な声とともに飛び起きた。そしてゲツガとリーファは何事もなかったようにおはようと言った。キリトはそんな二人を恨めしそうに見てから、やがて考え込みながら呟く。
「……つまり、邪神の間でも何か争ってるのかな?獣型のやつと人型のやつで?」
「そうなるかもね……。もしかしたら、人型のはトンキーの仲間だけを襲うのかもしれないけど……」
「まあ、そんときはそんときで俺らはトンキーを少しでも助けられることをすればいいさ」
「確かにな。まあ、全て知ってんのはトンキーとこのイベントのデザイナーだけさ。このまま成り行きに任せようぜ」
そう言って身体を倒して仰向けになる。肩にいたユイも肩から離れキリトの胸に乗るとキリトとまったく同じような格好になる。その姿に頬を緩めるゲツガ。相変わらずのんきなやつだなと呟くとゲツガも寝転んだ。そしてしばらく氷柱の垂れ下がる天蓋を眺めているとリーファが動き出したので身体を起こす。
「どうしたんだ、リーファ?」
「うわぁー……ちょっと来て!」
そう言われたのでゲツガはリーファのいるトンキーの頭部分に移動する。そして、前方に広がるものを視界に入れると唖然とした。穴だ。しかも、とてつもなくデカイ。これほどデカイダンジョンの中にこのようなものがあることに驚く。
「こりゃあまた、恐ろしいほどの穴だな」
「……落っこちたら、どうなんのかな……」
後から来たキリトはそう呟く。
「わたしがアクセスできるマップデータには底部構造は定義されてません」
「うへぇ、つまり底なしってことか」
そうキリトが言うと全員背中に戻ろうとするが、その前にトンキーの身体が動く。落とすきかと思ったがどうやら違ったらしく。トンキーは二十数本ある足を内側に折りたたんで背中を水平に保ったまま巨体をおろした。胴体を完全に下ろし終えたのか今度は長い鼻を丸めてこれも身体に丸め込んだ。そして、トンキーは完全に動きを止めた。
「降りるか……」
ゲツガがそう言うと三人は背中からすべるようにトンキーから降りた。降りてトンキーを見るともうゾウやクラゲなどの形はまったくなっておらず完全な饅頭だった。
「……こいつ、何がしたかったんだ……?」
「わからん。でも、ここまで連れてきたんだ何かあるだろ」
そう言うとリーファがトンキーのふさふさとした毛皮の部分をとんとんと叩いて言った。
「おーい、トンキー。あたしたちはどうすればいいのようー」
しかし返事や動作はまったくない。そしてもう一度リーファが叩くとある異変に気付く。さっきまで少しゆれていた皮膚が、まったく揺れなくなり、硬化してるのだ。ゲツガはその皮膚を触ってから考えるが、どうして硬くなったのかはまったくわからない。眠る時は防御力を高めるのか?とか考えているとキリトが言った。
「おい、ゲツガ、リーファ。上を見てみろよ。凄いぞ」
そう言ってキリトに言われた通り視界を上に向けると凄まじいとしか言いようがない光景が天蓋に広がっていた。天蓋から出る世界樹の根っこがほぼ真上に見える。そしてその中に大きな氷柱が存在し、よくよく見るとそれがダンジョンとなっている。
「ほんと、凄い……。あれが全部一つのダンジョンだったら、間違いなくALO最大規模ね……」
「そうなのか。そいつはすげぇ」
「どうやって行くのかな……?」
キリトがそう呟くとキリトの肩に乗るユイが鋭い声を発した。
「みなさん、東から他のパーティーが接近中です!一人……いえ、その後ろから……二十三人!」
「多い、いや邪神を倒すにはこの位必要か……」
ゲツガは呟いた。確かに、ちょうど会いたい相手だったが状況が悪い。今は仲間?になったトンキーがいるのだ。もしも、トンキーを倒そうとするのならばすぐに攻撃してくるだろう。ゲツガは東のほうを睨む。姿は見えないが足音がどんどん近づいてきていた。もう、視界に入ってもいい頃なのだが姿が見えない。足元を見ると地面には足跡がついている。幻惑魔法の類だろうか?そう思ってリーファに聞こうとするとリーファはスペルを唱えようとしていた。だが、スペルを唱える前に水のような膜がゆれてはじけるとその中から男が一人出てきた。確か、ウンディーネだった気がする。男はゲツガ達に向けて言った。
「あんたら、その邪神、狩るのか狩らないのか」
男はさらに続ける。
「狩るなら早く攻撃してくれ。狩らないなら離れてくれないか。我々の範囲攻撃に巻き込んでしまう」
そういい終わらないうちに、男の背後から残りのパーティーメンバーと思われるプレイヤーが姿を現した。
『チッ、数が多いな……両手剣さえあればいけるのに……』
そう思ってウンディーネのパーティーを人通り見るが両手剣を持つプレイヤーなどはいなかった。
ともかくトンキーを守らなければと思ったゲツガは何か言おうとする前にリーファが言った。
「……マナー違反を承知でお願いするわ。この邪神は、あたしたちに譲って」
それを聞いた男と背後のプレイヤーから軽い苦笑の気配が流れる。
「下級の狩場ならともかく、ヨツンヘイムに来てまでそんな台詞を聞かせられるとはね。『この狩場は私の』とか『このモンスターは私の』なんて理屈が通らないことくらい、ここにこられるほどのベテランならわかってるだろう」
男のいうことは正しい。前の世界でもこのようなことは当たり前だったからだ。だがゲツガは引き下がるわけにも行かないためリーファの前に出ると頭を下げた。キリトも同じことをしていた。
「頼む」
キリトの後にゲツガは言う。
「こいつはカーソルは黄色かもしれないがこの邪神は俺たちの仲間……いや友達なんだ。こいつは死にそうな目に遭いながらもここまで来たんだ。最後までしたいようにさせてやってくれ。頼む」
ゲツガがそう言うとウンディーネの部隊からは笑い声が響く。目の前の男は失笑してゲツガとキリトに言った。
「おい……おいおい、あんたらプレイヤーだよな?NPCじゃないよな?」
そう言い終えて、笑いを納め、頭を振ると肩から流麗な装飾のなされた弓を下ろし、矢筒から銀の矢を抜いてつがえた。
「……悪いけど、俺たちも、このフィールドでだらだら遊んでいるわけじゃないんだ。さっき大きめの邪神に壊滅させられかけてね。苦労してリメインライトを全部回収して、やっとパーティーを立て直したところなんだよ。狩れそうな獲物は狩っておきたい。てことで……十秒数えるから、そいつから離れてくれ。時間が来たら、もうあんたたちは見えないことにするからな。メイジ隊、支援魔法開始」
そして男は後ろの男たちに指示をする。しかし、ゲツガはそれを黙ってみてるほど愚か者じゃない。
「キリト、俺はトンキーを助けたい」
「ああ。俺もそうしたい。だけど、この人数は無理だ」
「大丈夫だ。神は乗り越えられる試練しか与えない」
「お前、神とか信じてんのか?」
「まあな、無神論者じゃないんだよ。じゃあ、トンキー助けるぞ」
そう言ってゲツガは目の前の男の前に立つ。男はなんだという風にゲツガを見た後すぐに早く離れろと言う。しかし、ゲツガは従わずに男の顔面を殴り飛ばした。男は吹っ飛んで数十メートル離れたメイジ隊の目の前まで転がる。その光景をみたメイジ隊はスペルを唱えるのを止めてしまう。
「邪神に壊滅しかけたんだろ?じゃあ、今度は俺らが完全に壊滅させてやろうじゃねえか」
そう言ってゲツガはスペルを唱えながらウンディーネのパーティーに突っ込む。それを見たパーティーのタンクはメイジ隊を守るように盾で壁を作った。そのプレイヤー達が壁を作ると同時に後ろから黒い影が飛び出して盾をもつプレイヤーに攻撃した。
「壊滅させるんだろ?手伝うぜ、ゲツガ」
そう言って盾を押し返す。ゲツガはスペルを唱え終えたので地面に手を触れて大きな岩の柱を出す。そしてバルダと戦闘したときと同じように柱の根元を殴り折ると持ち上げてメイジ隊に投げこむ。しかし、その柱は魔法に集中攻撃されて消えてしまう。
「お前等、人が親切にしておけば調子に乗りあがって……殺せ!まずはこいつらを殺す!」
男がそう言うとそれぞれが隊列を整えてゲツガたちに襲い掛かる。まずは攻撃特化型と思われるやつらは、メイジ隊のスペルを唱えている間にゲツガたちを攻撃してくる。その前に、ゲツガはメイジ隊の攻撃を防ごうと矢をつがえ、放つ。しかし、それはタンクであるに阻まれて矢はメイジ隊まで届くことがなかった。
「チッ、硬いな。やっぱ邪神を狩るパーティーだな。装備がよすぎる」
そう呟くと同時にメイジ隊のスペルが唱え終わりキリトたちに強力な魔法を放ってくる。ゲツガは素早くキリトを掴んでからいったん距離を取ろうとするがキリトはまるで何かに付かれてるように重かった。キリトを見ると何か魔法でモチのようなものが付いていた。
「すまん、ゲツガ!拘束系の魔法を食らって動けない!!」
「何してるんだ!」
ゲツガは素早く拘束を解く魔法をかけるが解けない。相当高度な魔法らしくゲツガの初期魔法では解けるものではないらしい。
「クソッ!お前だけでも逃げろ!!」
キリトはそう言ってゲツガの腕を振り解く。ゲツガはキリトにすまないといってその場を一気に跳んで離れた。すると少し範囲に入っていたが直撃は避けることができたがキリトは魔法を直撃してしまう。
「うわああああああああ!!」
「キリト!!リーファ!キリトに回復魔法を!!」
素早く、リーファに指示したゲツガは再びウンディーネに突っ込むと思いきや近くの岩にスペルを唱えながら近づいて、スペルを唱えると同時に手を着いて壁に引っ付くような体勢になる。すると壁からたくさんの柱が岩から生えてくる。その柱が出てくる勢いを使ってウンディーネのパーティーに突っ込んだ。奇抜な魔法の使い方に驚いている。しかし、さすがは邪神を狩るパーティだ。素早く対策をし、盾のプレイヤーが前に出る。
「無駄なんだよ!!」
ゲツガは矢を矢筒から大量に取りそれを盾にぶつけた。すると盾はひびが入り割れるがその後は盾にゲツガは挟まれる。
「そいつをそのまま押しつぶしておけ!ランス持ってるやつは盾の間から突け!!」
ゲツガが殴った男はそう言って自分も槍を持って突いてくる。
「クソッ!ふざけてんじゃねえ!!」
ゲツガはあがくが全方向からは対応できず押され始める。これじゃ武器殺しも使えず、ダメージを食らい続ける。そしてHPは減らされ続けレッドゾーンまで入った。
「俺はこんなとこで死んでなんかいられないんだよ!!」
そう言って腕をかざすと、一瞬だけ身体に違和感を覚えた。体の中の異物が蠢くような感じだ。そしてその腕から何か出たような感じがすると、その方向にいたプレイヤーの盾を何かが貫いたような丸い穴が出来ていた・その穴はプレイヤーすらも射抜いていて、当たっていたプレイヤーは苦痛に顔を歪めていた。
「おい!どうした!?」
「なんか、こいつが暴れるから押してたんだが、急に穴が開いて足に食らってから痛みが……」
そんな話をしている男の場所から抜け出したゲツガは素早く体勢を整えてから回復するためにポーションを飲んだ。キリトもようやく魔法から解けて離れていた。ゲツガは取り合えずトンキーの前まで付くとキリトに聞いた。
「キリト、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。リーファに回復してもらってたから何とか大丈夫だったがもう正直もちそうにない」
「俺も、こんなんだったら弓じゃなくて俺もちゃんとした武器を選んどけばよかったぜ」
「今、言ったってしょうがないだろ?とりあえずメイジは数人倒しといた」
「じゃあ、頑張りますか」
「ああ」
そう言って再びゲツガ達は戦おうとした時、うしろからひゅるるるると大きな声が聞こえた。
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