シャンヴリルの黒猫
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26話「貿易都市シシーム」
前書き
実は作者、キリマンジャロに登ったことあるんですよ。
いやぁ、きつかったなぁ
グランドウルフ討伐から4日目の朝、2人は目的地である貿易都市シシームに到着していた。石を積み上げしっかりと固めた城壁と大きな門の前には、武装した兵が昼夜問わず常に町の安全を守っていた。ギルドカードを見せて身分証明をするというのは、アシュレイにとって新鮮な体験だった。
無事町中に入れた2人だが、馬車を売っている区域を先程からうろうろとしていた。ユーゼリアが腕を組んで唸っている。
「う~、丁度良い値段とサイズのが売り切れてるわね…」
「何か馬車が入り用なことがあった、とか?」
「さあ、特別なことはなにも無いと思ったけど……何かあったっけ?」
「いや俺に聞かれても」
首を傾げつつアシュレイを見上げる青玉の双眸に、苦笑した。
それもそうね、と再び立ち並ぶ店に視線を戻す彼女に、貯金の余裕を聞くと、暫く考えた後に答えが返ってきた。
「一応、余裕が無いわけでは無いのよ。まあ、4人乗りを買って、だいたいあと4分の1ってとこかな」
「なるほど」
暫く考えた末、またじっくり探すことにし、とりあえず今は宿屋でゆっくり休むことにした。
「急ぐ旅でもないし、誰かさんのおかげで追っ手も怖くないしね」
「それは良かった」
宿代は一泊2部屋で360リール。ユーゼリアはB-ランクなので2割引だった。
自分で言ったものの、この先ずっと宿代を彼女ひとりに任せ続けるのは、結構気がひける。アシュレイ自身は別にランクの如何に興味はないが、たしか冒険者登録をしたとき、ランクが上がれば上がるほど宿代その他が色々安くなると聞いた。
(なら、ランク上げに勤しむとするか)
アシュレイとてユーゼリアに負担をかけたいわけではない。面倒であるといえば確かにそうだが、彼1人の我慢((というほどでもないが)でこの先ユーゼリアの負担が小さくなるなら、やらない理由もなかった。
部屋を確認すると、アシュレイは隣の部屋のドアをノックした。
「なあに?」
「ギルドに行ってくる」
「私も行くっ」
ドアの向こう側、固い簡易ベッドでごろごろしていたユーゼリアが飛び起きた音がした。ドアが開くと、しっかりとフードをかぶったユーゼリアが迎える。
「お待たせ」
「そんなに慌てなくても…」
部屋の鍵を閉めると、階段を下りて店主に鍵を預ける。
「お夕飯はいつ?」
「18回鐘が鳴ってから、次の鐘が鳴るまで。遅れたら食いっぱぐれるから、気をつけろよ、嬢ちゃん」
「わかった。ありがとう」
さっき15回鐘が鳴ったばかりだから、近場の依頼があれば余裕のある時間だろう。
そして歩くことかれこれ20分。
シシームのギルドは大きかった。前の町と比べてしまうと余計に大きさが際立つ。建物自体は先日のポルスにあったギルドと同じ造りだった。レンガ造りの頑丈そうな建物。
だが規模は倍以上だ。馬車をしまう専用の木造施設や、馬小屋もある。それらを囲むように塀があり、それがギルドの威圧感を煽っていた。
「大きいわね…。流石“貿易都市”」
本館には木製の看板に“シシーム総合ギルド”と達筆に書かれていた。ユーゼリアに尋ねると、
「ああ、言ってなかったっけ。ギルドって、いくつか種類があるのよ。私達が用があるのが“冒険者ギルド”。その他には商人が大抵所属する“商人ギルド”とか、公にはされてないけど、どの町にも必ずあると言われている“盗賊ギルド”とか。商人ギルドではどの町では今何の売れ行きがいいとか、何が不足してるとか教えあうのよ。商品を配達人に届ける商人も、受け渡しはギルドで行うの。他にもあるわよ」
「ほう、なるほど」
中は外観でわかるとおり広く、並んで置いてある丸テーブルでは既に多くの商人が食事をしていた。冒険者よりも上等な布地の服を着た彼らは、ワインを片手に何やら商人同士で交渉をしたり、トランプをしているようだった。側にはうずたかく積まれたコインがある。
それらを縫うように通り抜けると、随分と横に広いコルクボードの前に立った。
「すごい熱気ね」
ふうと息をついたユーゼリアが、彼女の背丈よりも高い場所に貼ってある紙に目をつける。
「あれとか、どうかしら」
一生懸命手を伸ばして背伸びする背中の上から、アシュレイがひょいとその依頼書を引き抜く。ぷうと膨れる薔薇色の頬を無視して一通り詳細を見終わると、やっと少女にその紙を渡した。
「…うん、これなら近くの森に生えてるからお夕飯までには帰れそう」
鎮静剤になる薬草を20束納品するという町医者の依頼だ。カウンターに渡せば冒険者側は終わりである。溜まるギルドポイントは20。Fランクに上がるのにちょうど良かった。
手続きを受けると、早速2人でその森に向かう。門兵に再びギルドカードを見せ、町を出たあと歩くこと10分。
「ここまでくればあると思う」
そう言って道を外れて森に消えていったユーゼリアを追い、森に入った。
後書き
うっそぴょーん。
……ごほん。4月1日おめでと。
ここで補足
時計は高級品です。
それこそ王侯貴族でもない限り、持つことなど叶いません。おまけに腕時計なんてミニチュア版は開発すらされておりません。世間で云う「時計」は懐中時計なのです。
町であれば1つくらい所有することはできますが、そこらに置いておけば盗まれるのが関の山。つか小さくて見えん。
と、いうわけで、この世界には【時守り】という職業があります。
非常に名誉ある仕事で、時計を肌身離さず持ち歩き、1時間経つごとに時計塔に登って鐘を時間分鳴らします。午前6時には6回、午後3時には15回…などなど。大抵3人組で、朝・昼・夜と交代で町の時間を守ります。
よく口にする10分とかは、まあアバウトです。それから、イベントの際、細かいタイムスケジュールでも【時守り】は活躍します。
男女関係なく就ける職業なので、子どもの将来なりたい職業ランキングナンバー2に輝く。ちなみにナンバー1は冒険者。ここはね。ファンタジーとして譲れないね。
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