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天才とは何ぞや

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第一章

               天才とは何ぞや 
 その彼若きピアニストであるカーツ=ハインツ=フォン=シュトラーゼはあることを疑問に思っていた。
 そのことを友人であり若きテノール歌手であるペドロ=コルネーロに尋ねた。その疑問は何かというと。
「モーツァルト先生だけれど」
「ああ、あの人ね」
 このウィーンで評判の音楽家だ。まだ二十代だが皇帝の覚えもよく天才の名を欲しいままにしている。
「あの人がどうしたのかな」
「君はよくモーツァルト先生と一緒にいるよね」
「歌手だからね」 
 歌手が作曲家といることは常識だ、それでペドロも一緒にいることが多いのだ。
「よく色々と教えて貰ってるよ」
「じゃあ先生のことは知ってるよね」
「確かにかなり風変わりな人だけれど」
 ペドロはモーツァルトの人柄から話した。
「けたたましく笑うしビリアードが下手なのに大好きで下品な話ばかりしてね」
「変わった人なのは僕も聞いてるよ」
「うん、確かに変人だけれど」
 モーツァルトは確かにそう言うべき人物だった。だがペドロはそのモーツァルトについてこうも言うのだった。
「腹は奇麗でね」
「企んだりしないんだ」
「意地悪もしないし人懐っこくてね」
「悪い人じゃないんだね」
「純真で無邪気な人だよ」
 変人だがそうだというのだ。
「一緒にいて楽しい人でもあるよ」
「そうなんだ」
「うん、それでモーツァルト先生について何か聞きたいことって」
「実は人柄のことじゃなくてね」
 それも気にならないと言えば嘘になるがさらにだというのだ。
「あの人凄い量の曲作ってるけれど」
「確かに凄い量だよね」
「しかもピアノとか声楽だけじゃなくて」
「オーケストラとかオペラとかもね」
「そのオペラもイアリア語のだけじゃなくて」
「ドイツ語のも作曲してるよ」
「凄くない?かなり」
 若いがピアノを演奏しているだけにわかることだった。
「もうそれはね」
「確かに凄いよね、あの人は」
「天才っていうけれど六歳でもう作曲して」
 モーツァルトは早熟の天才だった。その為神童やミューズの子とさえ呼ばれてきた。
「有り得ないけれど」
「僕もそれはそう思うよ」
「どうやったらあそこまで作曲出来るのかな」
 カールが疑問に思うのはこのことだった。
「色々なジャンルの曲をね」
「しかも駄作、端役なしだからね」
 オペラにおいてはモーツァルトに端役なしとさえ言われる、彼の天才は博愛のものでもあり全ての役に素晴らしい音楽が与えられえているのだ。
 その多作と天才についてカールは言うのだった。
「何処をどうやったらあそこまでなれるのか」
「不思議なんだね」
「不思議だよ、僕なんか一曲作曲するだけでも大変なのに」
「僕も実はね」
 ペドロもここで言う。
「あの人については凄いと思うのと一緒にね」
「不思議に思ってたんだね」
「だって声楽もオペラもオーケストラも」
 まさにそのどれもだ。
「凄い量なんだよ。駄作一切なしでね」
「どうやったらあんな人になれるんだろう」
「ちょっと聞いてみる?」
 ペドロは真剣な顔でカールに提案した。
「そうしてみようか」
「そうだね。そういえば君もマエストロの役で」
「この前テノールの役を歌っよ」
 モーツァルトのその役をだというのだ。
「マエストロのね」
「テノールの歌も多し」
「そのテノールも曲によって、オペラによって違ってて」
 ここにもモーツァルトの才能が出ていた。 
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