ラ=ボエーム
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第三幕その二
第三幕その二
「あの絵を描いた画家がそうなんじゃないかな、確か」
「あそこですか」
「ああ、俺達は絵には詳しくはないがね」
「確かそうだったと思うよ」
「有り難うございます、それじゃあ」
店に向かおうとする。だがここで店の扉が開いた。そしてそこから何人もの男女が出て来た。
「ふう」
その中にはマルチェッロもいた。ショナールとコルリーネも一緒であった。
「久し振りに飲み合ったな」
「ああ」
彼等は朗らかに話をしていた。
「ここ暫く顔も見合わせてなかったしな」
「わざわざ来てくれて済まないな」
「いいってことさ。これも付き合いだ」
「未来の大画伯への投資さ」
ショナールとコルリーネは笑いながら言った。
「で、ここには何時までいるんだい?」
「まあもう少しかな」
マルチェッロは考えながら述べた。
「もうすぐ描き終わるから」
「そうか」
「じゃあまたアパートに戻って来るんだな」
「ああ、もうすぐな」
コルリーネに答える。
「そっちに戻るから」
「じゃあ用意はしておくよ」
「悪いな」
「いいってことさ。で、ムゼッタとはどうだい?」
「相変わらずさ」
ここでは苦笑いになった。
「僕も干渉しないし、あいつも干渉しない」
「そうなのか」
「そうだ、だから上手くやってるんだ」
もうムゼッタの性格はわかっている。割り切っていたのである。
「そうなのか」
「あいつはどうかな」
ショナールはそう言いながら店の中を見た。
「あいつはこういうことには潔癖症だからな」
「パリの女にそういうことを求めるのもな」
「滑稽な話だが」
コルリーネもマルチェッロの言葉に頷いた。
「けれど今日はまたおかしかったな」
「ああ」
「何かあったんだろうな」
「ゴホッ、ゴホッ」
ここで咳の音が聞こえてきた。
「咳!?」
「これは一体」
三人は咳がした方を見た。見ればそこにはミミがいた。
「ミミ」
「そうしてここに」
「皆。ここにいたの」
「ああ」
「気が向いてね。皆で飲んでいたのさ」
こう笑って告げるとミミは。
「じゃあロドルフォもここなのね」
「そうだけれど」
「呼びに来たのかい?」
「いいえ」
だがミミはその言葉に残念そうに首を横に振った。
「それは。違うわ」
「一体どうしたい、それじゃあ」
「見たところあまり気分がよくないようだけれど」
「ロドルフォが」
ミミはそれに応えて悲しい声で言った。
「ロドルフォが」
「あいつがどうしたんだい?」
「最近おかしいのよ」
「おかしいって何かあったのかい?」
「よかったら話してくれ」
三人はミミにそう声をかけた。
「冷たいのよ、最近」
「冷たい」
「ええ。仕草も言葉も素っ気無くて。私を避けているのよ」
「そんな筈がないよ」
だがマルチェッロはそれを否定した。
「あいつはそんな奴じゃない」
「そうだよ。それはきっと君の勘違いさ」
ショナールも言った。
「僕達の中じゃ一番気のいい奴なんだから」
「けれど」
だがミミの言葉には真摯さがあった。
「本当に。冷たいのよ。昨夜だって何も言わずに部屋を出て」
「ここで飲んでいたってわけか」
「そうなの。ここで」
「何ともなかったようにも見えたがな」
「いや、そう言われてみれば少しおかしかったな」
ショナールはコルリーネにこう言った。
「何かを必死に忘れようとしているみたいだった」
「じゃあそれは一体何なんだ」
「そこまではわからないが」
ショナールはこう言って首を横に振った。
「何なんだろうな」
「よかったら話してくれないか、ミミ」
マルチェッロはあえて優しい声でミミに尋ねた。
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