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若作り

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第一章

                    若作り
 結城直美は難しい顔で家の食卓にいた、そのうえでだった。
 背は一五〇程で小学生にしか見えない顔立ちに黒髪を頭の左右でちょん髷にしている女の子にこう言った。
「あの、お母さん」
「何、直美ちゃん」
「お母さん今年幾つになったの?」
「四十三よ」
 何と母親でしかもその歳だった。
「この前お誕生日だったじゃない」
「そうよね」
 直美は子供の声の母に返した。
「それ覚えてるから」
「そう。どうして急にそんなこと言うの?」
「気になって。それに」 
 直美は母の隣の席の背は一八〇程だが若々しい、高校生の様な皺も何もない顔立ちの茶髪の男を見て言った。
「お父さんは五十よね」
「ああ、もうな」
「それで会社の部長さんよね」
「部長になったらやっぱり忙しいな」
 父は父で笑って言う。
「噂以上だよ」
「そうよね。五十歳よね」
「それがどうしたんだ?」
「五十に見えないから」
 初老のサラリーマンにはというのだ。見れば着ている服装も二人共四十代五十代のものではなかった。
「何でそんなに若作りなのよ」
「何でってそんなこと言われても」
「お父さん達の責任じゃないからな」
 二人はおかずのハンバーグとしめじに椎茸の味噌汁、それにキャベツの酢漬けを御飯と一緒に食べながら同じメニューを食べている直美に言った。
「若く見えるっていいことだし」
「悪いことじゃないだろ」
「悪いことじゃないわよ」
 このことは直美も認める。
「それ自体はね」
「老けて見られたらショックだし」
「髪の毛がなくなるとかは嫌だしな」
「それでも限度があるわよ」
 声まで若々しい両親への言葉だ。
「お母さん小学生に見えるしお父さんは高校生で」
「確かに街歩いてたら補導されそうになるのがいつもだし」
「契約先でよくびっくりされるな」
「何で二人共そうなのよ。それに」
 直美は自分の右横にいる双子の姉である筈の良美を見た、そこには母そっくりの顔で黒髪をポニーテールにしたやはり小柄な娘がいた。
「お姉ちゃんだって」
「何よ」
 母そのままの返答だ。
「あんた何が言いたいのよ」
「あたし達本当に双子よね」
「そうよ」
「外見違うとかじゃないけれど」
 年齢が違う様にしか見えなかった、ついでに言えば良美が直美の双子の姉というのもとても見えなかった。
「あたしお姉ちゃんの妹よね」
「そうよ」
「幹夫と卓也も」
 今度は左横を見る、身長一七〇の大きな小学生の男の子が二人いた。
「本当に中三と中二よね」
「そんなの見てわかるじゃない」
「違う?」
「全然違うから。何であたしだけこうなのよ」
 直美は高校二年だ、やや細面の顔にやや高い鼻、長い縮れ気味の茶色の髪を持っている。眉は薄く目はやや切れ長で赤縁の眼鏡をしている。
 高校二年より少し年上に見える感じだ、背は一五六程である。
 その彼女がこう言ったのである。
「歳相応っていうか年上に見えるのよ」
「あんたお祖母ちゃんに似たのよ」
「ひいお祖母ちゃんよね」
「そう、そっくりだから」
 母は遺伝でそうなったと娘に話す。 
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