三角座り
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五章
「沖本何でだよ」
「おお、沖本競泳水着かよ」
「一人だけそれか」
「何か思い切り目立つな」
「他の娘がスクール水着だからな」
「いや。あれはないだろ」
健一はその黒地に赤い縦のラインが入った競泳水着姿の真綾を見ながら目を点にさせてコメントを出した。
「そう来るか」
「?まさか沖本って」
「ああ、何となくそんな気がしてたけれどな」
「古田のことな」
「そうかもな」
周りは何となく察した。しかしそのことは健一にはあえて言わなかった。
そのうえで今は静かにした。健一は真綾から目を離せなくなっていた。
真綾の方もその健一を見ながら決意している顔になっている、その彼女に周りの女の子達が言ってきた。
「古田見てるわよ」
「あんたの競泳水着姿見てね」
「もう釘付けじゃない」
「作戦成功みたいよ」
「いえ、まだよ」
真綾は油断していない顔だった。そのクラスで上位に入ると言っていいスタイル、とりわけ腰から下のラインをこれでもかと見せている競泳水着を着た自分を健一に見せながらそのうえでこう周りに言ったのだ。
「確かに引きつけたけれどね」
「まだっていうのね」
「仕掛けるのは」
「そうよ、まだだから」
こうきっとした顔で言うのだった。
そして何気なくを装いながらその背中、つまり後ろのラインも全て見せそのうえで。
その場に座っても見せる。体育の三角座りだ。
足と足の間のその場所も健一に見せる。これでだった。
健一は陥落した、真綾から完全に目を離せなくなっていた、その彼を見てクラスの男女はひそひそと話した。
「陥落したよな」
「ああ、間違いない」
「真綾の作戦勝ちね」
「競泳水着に加えてね」
そのポーズ、特に三角座りとそこから見えるものだった。つまり足の付け根と本来は下着がある場所を見せられてだった。
健一は真綾に完全に心を奪われた。真綾の方は必死の顔で唇を微笑まさせてそのうえで顔を真っ赤にさせて言った。
「こっちだってここまでやったんだから」
「恥ずかしい?ひょっとして」
「やっぱり」
「当たり前でしょ。大体私だってスクール水着の方がいいのよ」
三角座りのまま両手は後ろについて周りの女の子達に答える。
「競泳水着はラインが全部出るから」
「だから着るのって冒険よね」
「ビキニよりもね」
「そうよ。けれどこれでやったわね」
真綾の額には汗さえある。シャワーを浴びた後の水滴ではない。
「ゲットしたわよ」
「さて、これからどうなるか」
「期待してるわよ」
「私に聞かれたのが運の尽きよ」
健一の知らないうちであってもだ。
「じゃあね」
「後の展開がどうなるか」
「もう決まった様なものだけれどね」
「肉食の力見せてあげるわよ」
真綾の目は燃えていた。これで終わらせるつもりは毛頭なかった。
そのうえで自分から目が離せなくなっている健一を見ていた。三角座りのままだが目は本気のままだった。
数日の間健一はずっと真綾を見ている。もう周りは気付いているがやはりあえて何も言わないままである。
そしてある日学校の授業が全部終わったところで真綾は下校しようとする健一に対して何気なくを装って声をかけた。
「古田、いい?」
「えっ、沖本何だよ」
「実はね。買い物に行くんだけれど」
何気なくを装っているが内心は必死で健一に言う。
「ちょっと重いものになりそうだから運んで欲しいのよ」
「重いのかよ」
「だから付き合ってくれる?」
真綾は自分より背の高い健一の顔をじっと見た。下から彼の目を覗き込む、それもまた誘いだった。
そしてその誘いにもう健一は逆らえなかった。喉をごくり、と鳴らしてそれから真綾に対してこう答えた。
「ああ、じゃあな」
「二人で一緒にね」
真綾は心の中でやった、と思った。だがそのことは決して顔には出さずそのうえで健一の手に自分の手をそっと出して絡み合わせた。肉食系の狩りは成功した。
三角座り 完
2012・11・3
ページ上へ戻る