失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
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プロローグ
前書き
四月になったので、これを機に投稿します。
『失われし記憶、追憶の日々』始まりの物語です。お楽しみください!
――隕石が降ってきた。
何を言ってるのか分からないだろうが、事実その通りなのだから仕方がない。
いつもの変わらない朝、変わり映えのしない日常。昨日と同じ今日を迎え、明日へ続くと思っていた。それは俺だけでなく、ほとんどの人がそう思うことだろう。誰もが変わらない日常を当たり前のように送る。いつしかそれが当然のように認識していた。
しかし、今日。今日だけは違った。
時刻、十三時十五分。今日は土曜日のため学校も休み。以前から借りていた小説を返すため、俺は友人の宮田の家へと向かっていた。
友人から借りた小説は『精霊使いの剣舞』というライトノベル。最近書店で並んでいるのをよく見かける人気小説だ。
俺は元々漫画も小説もあまり読まなかったが、オタクである宮田に勧められて漫画を手にしたのが三年前の話。それからすっかり漫画や小説に嵌ってしまい、今ではプチオタクと化してしまった。ちなみに、勧められたのは尾田栄一郎大先生の『ワンピース』。それから、『NARUTO』、『ドラゴンボール』、『はじめの一歩』、『鋼の錬金術師』と多くの漫画を読んできた。
最近では小説の『IS』、『ソードアートオンライン』、『灼眼のシャナ』、『神曲奏界ポリフォニカ』、『精霊使いの剣舞』などを読んでいる。
漫画や小説は良い。女の子は可愛いし、男は格好いいし、話は面白いし。つい読んでいて手に汗を握ってしまう。俺にこの素晴らしさを教えてくれた宮田には感謝してもしきれない。
今度は何の本を借りようか。そう思っていた時だった。
突如、とてつもない地震が起きた。立っていられず、屈んでしまう程の揺れだった。建物は揺れに耐えきれず崩壊し、ガラスがそこらかしこに降ってくる。アスファルトの地面は割れ、車がタイヤを踏み外して次々と事故が発生する。
某動画サイトで見た東日本大震災。それに匹敵するほどの――いや、それ以上の揺れだった。
そこらかしこで悲鳴が上がり、逃げ惑う人々。パニックに陥っているのは一目で分かった。
俺も安全な場所へ避難する。幸い、近くに緊急避難場所の自然公園があるのでそこへ向う。
急に人々の混乱が静まった。あれほど騒いでいたのに誰もが息を呑み、空を見上げている。
……空?
つられて俺も空を見上げると、皆が息を呑む理由が分かった。
――空から、大量の隕石が降ってきた。
何が起きているのか分からない。いや、理解は出来るのだが、それを脳が認めようとしない。こんなこと、起こるはずがないと。
空には無数の隕石の姿が見える。大小様々のそれは、優に千は超えるだろう。
未だ地震は続き、空からは無数の隕石が接近している。まさに天変地異。
ようやく再起動した人々はそれまで以上の混乱を見せ、悲鳴を零した。その悲鳴を聞きながら、俺はふと思いつく。
以前からテレビで騒いでいた地球崩壊の話。その時は胡散臭いや、ありえないなどの印象を受け早々にチャンネルを変えたが、まさに今がその時ではないだろうか……?
もし本当に今日が地球崩壊の日なら、どこに逃げても意味はない。
俺は渇いた笑みを張り付けながら、呆然と近づいてくる隕石を眺めた。
「……地球崩壊とか、ないわー」
最後に覚えていたのは、身長を覆い隠す程の大きさを持つ隕石がまさに俺を押し潰さんと迫る、その姿だった。
† † †
「――ここは……?」
目が覚めればそこは、知らない天井――もとい、知らない空間だった。
辺り一面真っ白。地平線の果てまで続く白い空間には何もなく、あるのは白い地面と、白い空だけだ。
「……夢?」
夢ならこの不思議空間も納得できる。なら、あの地球崩壊も夢なのかもしれない。
思わず安堵の息が出たが、それは背後から聞こえた声に否定された。
「残念ながら、夢ではないのう」
振り返ると、そこには白髭を生やした爺さんの姿が。俺より頭一つ分ほど高い長身に、髭と同じく白い髪。モサッとした顎髭を生やしたその出で立ちは、杖とローブを纏っていたらどこぞの老魔法使いに見える。
「あんたは?」
「儂はゼウス。お主たちの言うところの神じゃよ」
「……は?」
ゼウス? ゼウスって言ったらギリシャ神話に出てくる最高神じゃねえか! なにこの人、認知症か?
「失礼な奴じゃのう、その最高神で合っておるぞ。死したお主の魂をこの場所へ連れてきたのじゃ」
「は? なに言ってんのアンタ。死したって、誰が?」
「じゃから、お主が」
「……なんで?」
「覚えておらんか? お主、隕石に押し潰されたのじゃよ。もはや原型を留めぬほどにぐちゃぐちゃでの。見るか?」
「…………いや、いい」
隕石に押し潰された。ということは、やっぱりあれは夢でもなんでもなく……?
「――なあ、俺は本当に死んだのか? あれは夢じゃなく、現実?」
「認めたくないのは分かるが、あれは紛れも無い現実じゃ。お主はお主自身に殺されたんじゃよ」
俺に、殺された?
「どういうことだ?」
「うむ、それについてキチンと説明しよう。それを説明せん限り話が進まないのでな」
取りあえず座りなさいと勧められると、いつの間にか後ろに椅子があった。爺さんが出したのか?
「さて、お主が死んだ理由じゃが、お主はお主自身に殺されたのじゃ」
「俺自身に殺されるってどういうことなんだ?」
「うむ。簡単に言うとな、お主は生まれつき存在が強すぎたのじゃ。強すぎる存在感はやがて世界を侵食し、崩壊に至る。水が高い場所から低い場所へ流れるように、弱い存在はより強い存在に侵食されるのが世界の理じゃ。それがお主も記憶している、あの地震と隕石の群れじゃ。だから、お主自身に殺されたというわけじゃよ」
俺の存在感とやらが強すぎたせいで世界が崩壊した。結果、俺も死んだ? それじゃあ、世界が崩壊したのは俺のせいなのか……?
青い顔で震える手を抑えていると、爺さんは優しく微笑んだ。
「安心せい。お主のせいではない。それに世界は崩壊しとらん」
「……は? えっ? だって――?」
「ちゃんと説明するから落ち着かんか。お主の存在感が強すぎたことで世界が崩壊した、ここまでは良いな?」
コクコク頷く。
「お主が死んだことで、崩壊していた世界は元に戻ったのじゃよ。――お主が生まれる前の世界にな」
え、どういうことだ……? 俺が死ぬことで世界が元に戻った? それも、俺が生まれる前まで遡ってだと? ということは、
「――俺が、生まれなかった世界になった?」
「……そう。お主が生きていたことで本来あるべきはずの世界は形を変えた。故に、お主が死んだことで、あるべきはずの本来の世界の形になったのじゃ。世界が巻戻ることによって。お主にとっては残酷な話じゃがな……」
「そうか……」
爺さんは申し訳なさそうにしていたが、逆に俺は安堵していた。俺が原因で親しい奴らが死ぬのは御免だからな。世界が巻戻ったということはあいつらは無事に過ごせているはずだ。俺という人間を忘れ去られたのは寂しいがな。
「俺が死んだ理由は理解できた。今一つ存在感が強いというのは実感がわかないけど」
別段、俺自身は今まで普通に過ごしていたし、特に変なこともなかったしな。
「ふむ、それについては簡単に証明できる。お主は生まれつき常人を遥かに超える身体能力と治癒力を有していたな。さらには生まれつき魔力も持ち、誰に教わるわけでもなく独自で魔術を編み出した。常人には到底あり得ぬことじゃて」
え? 運動神経はみんな低いなとは思っていたけど、俺が高かったのか? それに魔力って誰でも持っているものじゃないのか? 魔術書を読めば簡単にとは言わないけど編み出せるものだろ。
「……いや、普通の人間にはまず無理じゃ。お主は己が特別な存在なのだと知れ」
……そうだったのか。思わぬ事実を突きつけられてしまった。爺さんも呆れているようだし。
「まあよい、そろそろ本題に入るとするかの。お主をここに呼んだ理由なのじゃが、お主には転生してもらいたいのじゃよ」
爺さんの話によると、自身の存在感が原因とはいえ何もしていないのに勝手に殺されるのは、爺さん的には許せないらしい。何が許せないのかは知らないが。
産れる前の状態ならどうにかなったが、生まれてからでは存在感というのは神様でもどうしようも出来ないらしく、なにも出来なかったせめてもの償いとして転生させてほしいとのこと。まあ、第二の人生が送れるのなら願ったりかなったりだ。
ん? 転生……?
「なあ、爺さん。転生する場所は指定できるのか?」
「うむ、要望があれば出来る限り応えよう」
「なら漫画や小説の世界にいけるかな?」
「原作じゃなく平行世界になるが、それでも良いのなら大丈夫じゃ」
マジで!? ならあの世界にも行けるのか!
「じゃ、じゃあ『精霊使いの剣舞』に行きたいんだが」
「うむ、かまわんよ」
それを聞いた途端、俺はつい渾身のガッツポーズを取ってしまった。お恥ずかしい。
「しかし、ふむ……。二次元の世界ならむしろ都合がいいかもしれん」
爺さんは顎髭を撫でて何かお考えの様子。
「二次元と三次元では世界の在り方というのが違っての。まあ詳しい内容は理解出来んじゃろうから省くが、二次元の世界ならお主の存在が強くても世界が崩壊することはまずないじゃろう」
よかった、転生したは良いがまた世界が崩壊しましたじゃ目も当てられないしな。
「じゃあ、早速転生してくれ」
「まあ待て。折角じゃ、何か願いがあれば転生の際に融通してやろう」
おお、まさか俗に言う転生特典がついてくるとは。でも俺、あまりチートとか好きじゃないんだよな。なら――、
「転生するときは人間の男にしてくれ。容姿は極端に不細工じゃなければ任せる。主人公のカゼハヤ・カミトと同じように精霊契約が出来るようにしてくれ。原作に関わりたいからな。前世の記憶はそのまま継続で。……んー、このくらいだな」
「ふむふむ、あい分かった。他にはあるかの?」
「いや、特にないな。あっ、そうだ、向こうに行ったら俺の神威ってどうなるの?」
神威というのは『精霊使いの剣舞』で登場する精霊と契約したり、その力を引き出して使うときに消費するエネルギーのことだ。俺も詳しく神威がなんなのかは知らないが、向こう行ったら原作に思いっきり関わりたいので神威は多い方がいい。
「神威はお主で言うところの魔力じゃ。転生する時は保有魔力はそのままにしておくから、向こうではかなりの神威を保持しておるぞ」
「そうか、なら大丈夫だな。……そうだな、このくらいかな」
「なんじゃ、欲がないのう。今まで儂が見てきた者はやれ『無限の剣製』がいいだの『王の財宝』をつけろだの『直死の魔眼』をON、OFFでだの『めだかボックスの過負荷すべて』だの色々と要求してきたが、お主のような無欲な者は初めてじゃ。しかしそれでは儂の気が収まらんのでな、適当に儂が考えておくかの」
「……何度も言う様だが、チートだけはやめてくれよ?」
「うむ。お主がそういうのならその意向に沿おう。しかし、お主は本当に珍しいのう。よければなぜチートがいやなのか聞かせてくれんか?」
「別に大した理由じゃない。始めから完成された技術や能力はつまらないからだ。それも与えられた能力だしな。俺の師匠の言葉なんだが、最強には最強たる所以とそれに見合う努力を伴わなければならない。こいつを信条にしてる身なんでね、手探りで一から鍛える方が俺には性に合う」
俺の武術の師の口癖だ。あの人に師事した期間は僅か三年だったが、今でもあの大きい背中は覚えている。俺の尊敬する人だ。
「そうか。良い師のようじゃな」
「ああ、俺の尊敬する師だ。――で、話は戻るが、何か注意事項とかはないのか?」
「特にないのう。平行世界じゃから原作崩壊しても問題ないし、仮に主人公が死んでも世界は回り続ける」
なるほど、なら俺は心置きなく原作に関われるな。まあ、カミトは嫌いじゃないから死なせないようにするけど。
「もうよいか? では、お主を『精霊使いの剣舞』の世界に送ることにする。二度目の人生を謳歌せよ、若人よ」
爺さんが手を翳すと、俺の身体を淡い光が包んだ。
「お主の第二の人生に幸有らんことを。有馬|紅<こう>よ」
一瞬の浮遊感の後に俺の意識が途絶えた。
† † †
「さてさて、あやつに何を送ろうかのう。チートは嫌だと言うておったが、すでにあやつの存在そのものがチートじゃから、今更の話なのじゃが……」
青年を送り届けた最高神は悩んでいた。それは、あの青年に送る特典の内容だ。本人からチートは勘弁と言われたからには今までの転生者に与えてきたような能力は却下となる。
青年は気が付いていないようだったが、存在が強いということは個としての能力が秀でているということ。事実、彼の者の運動神経は一級アスリートを軽く凌駕するものであり、彼が修めた武術も通常は長い年月を掛けて修得するものだが、たったの三年で免許総伝となった。免許皆伝の上位で奥義や秘奥義を修めた証拠である。
さらには種として人間は魔力量が少ないのが特徴であるが、彼の魔力量は明らかな桁外れ。持ち前の学習能力で誤った解釈や定義が使われている魔術書を解読し、独自の理論を組み立てて魔術を修得するといった快挙も成し遂げている。
そう、彼はすでにチートなのだ。それも生まれながらの。
「ふむ、では魔術大全書にするかの。あやつなら時間さえあれば修得できるじゃろ」
最高神が取り出したのは一冊の分厚い洋書。黒を基調にしたその本は古今東西、ありとあらゆる魔術が記されており、魔術師にとってはまさに夢のような本である。
「二度目の人生じゃ。悔いのないように過ごしなさい」
最高神は優しく微笑むのだった。
後書き
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H25,12,8 以下を修正
・主人公の設定を外人から日本人に変更。
・主人公の名前を変更。
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