東方守勢録
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第十一話
「とりあえず……先手必勝だぜ!」
「魔理沙援護するわ!シャンハイ!」
「ここは森……なら木の魔法で!」
兵士の姿を見つけるなり、三人の魔女はそれぞれの得意魔法で応戦し始めた。
「魔法……遠距離戦ではこっちが有利かな……」
「悔しいですが……近距離向けの私には今回は何もできないですね……」
「そうかもな……ん?」
俊司は魔法をよけながら必死に戦う革命軍を見て、なぜか首をかしげていた。
今いる兵士は確かに革命軍の兵士である。だが、紅魔館で見た兵士と比べると、なぜか違和感を感じていた。
(なぜ……あれは間違いなく革命軍……違和感を感じるはずが……!?)
ふと視線を兵士の服装に移した時、俊司は違和感の正体に気付かされていた。
今戦っている革命軍の服装は迷彩服だった。いままで出会ってきた兵士と全く同じ、森林で隠れるのに適したデザインをしている。
だが、それこそが違和感の正体だったのだ。
紅魔館で見た兵士は迷彩服を着用してはいなかったのだ。
紅魔館にいた兵士が着用していたのはギリースーツ。草むらや森林で隠れるのに適したており、外観は人口で作られた草のようなものが全身にはられている。
迷彩服とは似ても似つかないものだった。
「まさか……」
俊司はいまいる兵士の約200mほど後ろの方を凝視する。
そこには微かに光る4つの何かが、こちらを向いていた。
「よっしゃ!ここからごり押しだぜ!!」
俊司がすべてに気付いた時。魔理沙がタイミングよくほうきにまたがり特攻を始めた。
「だめだ魔理沙!!戻れ!!」
「えっ……」
パァン!!!
「あぐっ!?」
まるで審判の鐘のような轟音が響き渡り、魔理沙はその場に落下した。
「魔理沙!!」
「そんな……シャンハイ!魔理沙を救助して!」
アリスは急いでシャンハイを魔理沙の元へ向かわせる。
その後パチュリーの援護もあってか、なんとか魔理沙を後ろに下げることに成功した。
「うぐっ……」
「魔理沙……大丈夫?」
「ああ……でも……右肩が……」
なんとか致命傷を免れた魔理沙だったが、右肩を負傷していた。軽い魔法なら使えそうだが、八卦炉をつかった火力のある魔法は使えないだろうと俊司は判断していた。
だが、状況が悪化したのは彼女だけではなかった。
「どうしたら……今はパチュリーさんにまかせるしか……!?」
そう呟きながらパチュリーに視線を合わせた瞬間、俊司の脳内に絶望感がよぎった。
「はあ……はあ……」
パチュリーは息を切らしながら魔法を詠唱していたのだ。
(どうして……?パチュリーさんの魔力は他の人に比べても明らかに上……まさか……)
俊司は苦しそうにするパチュリーを見ながら確信した。
パチュリー自身の魔力は大きい。だがそれ以上に彼女には足りないものがあった。
パチュリーは喘息を持っている。それが最大の欠点だった。
人間としての身体能力に比べると、彼女の能力は並以下ともいえるくらい弱いものだったのだ。それが原因で、長時間に何度も連続で魔法を詠唱することはできない。
彼女の体力はもう限界を迎えようとしていたのだ。
最悪のシナリオが俊司の脳内をよぎる。
(どうする……このままじゃ……それにさっきの状況を考えると……鈴仙も……)
レミリアとフランは日傘をさしており思うようには動けない。
美鈴と妖夢は近距離まで持ちこめるかが定かではない。
魔理沙は肩を負傷している。パチュリーは体力に限界が来ている。
小悪魔は力不足で対応しずらい。
アリスなら攻撃できるかもしれないが、シャンハイを操る際には物陰からでないといけない。そうすればスナイパーに狙撃される可能性がある。
鈴仙は……。
「……」
俊司達の策はもう一つしか残されていなかった。
「みんな……聞いてくれるか?」
「どうしたんですか……?」
「俺がオトリになる……その間に逃げてほしい」
俊司が真顔でそう言った瞬間、その場にいた誰もが目を見開いて驚いた。
「なに……言ってるんですか……俊司さん?」
「……オトリになるって言ったんだ」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!あなた……それがどういうことかわかってるの!?」
「はい。おそらく俺は負けるでしょう」
レミリアの問いかけにも、俊司は真顔でそう答えた。
「ですが、勝率が0%ではありません。スペルカードを駆使すればなんとかなるかもしれませんし」
「そうしたとしても……せいぜい2・3%程度よ!?」
「わかってます。でもここにいる全員の状態を考えると、俺が残るのが一番最適です。相手がどんなタイプかもわかるし、なにより対応できる距離がほとんど同じです」
「それはそうだけど……だからと言ってあなたが残ることじゃ……」
「つべこべ言ってんじゃねえよ!! ここで仲良く共倒れでもしたいのか!?」
「っ……」
俊司は自分を必死に止めようとするレミリアを思いっきり怒鳴りつけた。レミリアは予想外の迫力に、思わず言葉を飲み込んでしまう。
そのまま、俊司は続けてしゃべり始めた。
「咲夜さんが自分を犠牲にしたように、どうしようもない状況になったらこういうこともしなければならない。なら、少しでも時間を稼げる俺が残った方が逃走の確率は上がる。そうでしょう……レミリアさん」
「……」
俊司の言ったことは寸分狂わず当たっていた。
運命を操ることのできるレミリアなら、俊司が残ることでどうなることか分かっていた。だが、それゆえに彼を残らせるわけにはいかなかったのだ。
だが、彼の決意は予想以上に固かった。いくら説得しても曲がることはない。それはレミリアにもわかっていた。
「……」
「反論がないなら……それでいきま……」
「待って下さい!」
結論が下されようとした瞬間、何かを覚悟した顔で月の兎がそう叫んだ。
「……鈴仙?」
「私の能力を使いましょう!霧の湖にあった基地でもそれで成功させたじゃないですか!」
「そうですよ!鈴仙さんの能力を使えば気付かれにくくできるじゃないですか!」
「そうしたら俊司さんが残ることはないです!全員無事でかえれま……」
「……ダメだ」
「!?」
全員が鈴仙の意見に賛成しようとした瞬間、俊司はそれさえも突き放した。
「どうしてですか!?なにも犠牲になる必要なんてないじゃないですか!」
「ああ。確かに鈴仙の能力を使えば俺も助かる」
「なら……」
「でもダメなんだ……鈴仙。さっきの状況を見て気付かなかったと思ってるのか?」
「!?」
俊司がそういうと、鈴仙はなぜか目をまるくしていた。おまけに額から軽い冷や汗が垂れ始める。
「さっき……あの男には鈴仙の能力を使ってもばれてしまった。能力を使えば100%目を欺くことができたはず。でも、それができなかった」
「……」
「疲れてるんだろ……鈴仙?連戦が続き、自分の能力をふんだんに使ってしまったからか、疲労がたまってしまった。そうだろ?」
「……」
「げんにあの男にばれたとき、鈴仙の表情はすっかり青ざめて衰弱しきった顔になってた……正直にいってくれるか?」
「……はい。俊司さんの言うとおりです。次に能力を使えば……私が倒れてしまう可能性もあります」
鈴仙は顔をうつ向かせたままそう言った。
俊司はやっぱりかと言わんばかりにはあと溜息をつくと、話を続けた。
「ごめんな……ここに来るまでに気づいていれば……」
「いいんです。自分が決めたことですし」
「これ以上無理はしなくていいよ。気持ちだけで十分だ」
「……はい」
「……さて、他に異論はないかな?」
俊司はそう言ってあたりを見渡す。だが、誰一人俊司としゃべろうとはしなかった。
「……異論はなしで……いいな?」
「……勝手にしなさい」
「……ありがとう」
俊司はそう言って笑みを返した。
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