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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode6 消えゆく炎と折れた意志2

 俺がそのフレンドメッセージを受け取ったのは、少しばかり長引いたレベリングを終えてちょっと昼食でもと街へと帰ってきたちょうどその時だった。タイトルは無く、「助けてください 六五層」とだけ書かれてたそのメッセージにただならぬ事態を感じてすぐさま転移門へと飛び込んだ俺を、広場で泣き叫ぶファーとレミが迎えたのだ。

 話もままならない二人から何とか事情を聞きだし、俺が急行したときには既に奴らの殆どの姿は無く、シドと残る一人がいるだけだったのだ。二人を逃がすために残ったと聞いていたソラの姿は、無かった。

 残る一人の最期を見た後、託された回廊結晶で『冒険合奏団』のギルドホームへとシドを背負って飛んだ俺を、レミとファーが迎えてくれた。

 「オイラがっ! オイラが、のこ、残らなきゃ、いけなかったんス! オ、オイラ、壁戦士(タンク)なのにっ! み、みんな、みんなを守るのが、オイラの、っ、役目、なのにっ!!!」
 「……ファー」
 「な、なのにっ! オ、オイラ、あの三人を見た途端、う、動けなくなって! そんな、そんな俺を、俺を逃がすために、ギルマスが、ギルマスがっ!!! う、ううううううっ!!!」
 「……ふぁー、っ、っ…」

 シドをソファに寝かして一時間。ファーは、地面に跪いて狂ったように絶叫しながら泣き続けていた。その目から溢れ続ける涙は、拭っても拭っても止まらない。レミがそんなファーの横に座って、ただただ名前を呼び続けてその背中をさすり続ける。だが、その目も涙に濡れ、時折嗚咽を噛み殺すように声が詰まっている。

 俺は、そんな彼らに、何も声をかけてやれなかった。

 「……レミ。ファー」

 そんな中、シドが不意に呟いた。

 皆が一斉にソファを見ると、意識を取り戻したらしいシドが、虚ろな瞳で天井を見つめていた。そう、その目は、どこまでも空虚な色を宿していた。慌てて詰め寄るギルドメンバーの二人を、ゆっくりと見やって。

 「……悪い。キリトと少し、話、させてくれ…」

 消えそうな声で呟いた。





 「キリト…」
 「……すまない。間に合わなかった…」

 キリトの目に、暗い影が落ちる。

 それは、以前のクリスマスの前に見たような、昏い後悔の色。俺は謝りたかった。キリトに、そんな顔をさせてしまったことを。俺が、俺達が、大丈夫だとタカをくくっていたせいで引き起こした惨事のせいで。

 だが、俺は謝れなかった。
 謝るより先に、言うべきことが…伝えなければならないことがあったから。

 「…キリト。俺は、駄目だった。ラフコフの連中に…PoHに、全く歯が立たなかった。あいつは、完全に遊んでいた…。殺されるだけならまだしも、俺は連中に、俺の敏捷を晒した。恐らく奴らは、そのスピードを基準に『攻略組』の対策を練るだろう…」

 泣きそうな声を、必死に抑えて言う。

 「……俺は、バカだった…俺は、俺は、PoHに、勝てるなんて、思ってた…。バカバカしいくらい、思いあがってたんだ……。はは…見ろよ、コレ。たった一発だぜ? たった一発くらっただけで、このザマだ……そして、俺も、このザマだ…」

 震える指先で、右手を振う。

 実体化した、酷く罅割れた《フレアガントレット》をキリトに放ってよこすと、悲しそうな視線とぶつかった。構わず、俺は続ける。言いきらなくては。最後まで、言い切らなくては、いけないんだ。

 「……キリト…俺は、俺は。守って、やれなかった…っ! ソラは、ソラはっ。お前や、『閃光』と同じ、『勇者』だったのに…っ! この世界を終わらせるために、失ってはいけない人だったのに…っ! 俺は、ソラを、ソラを、守って、やらなきゃ、ならなかったのに……俺が、俺なんかが、生き残って……っ!」

 言いきれたのは、そこまでだった。

 そこからは、もう、声にならなかった。再び流れ始めた涙が、漏れ出す嗚咽が堪えられず、俺は右腕で顔を覆った。食いしばった歯が、痛いくらいに軋む。腕の下から、止め処なく涙が零れる。そして急速に、意識が遠ざかっていく。

 またやってきた、昏いまどろみに落ちる直前。

 「……俺は。俺は。…お前だって、『勇者』の一人だって。そう、信じてる」

 キリトの声を、聞いた気がした。





 この噂…『攻略組』、少なくともそのレベル帯のギルドである『冒険合奏団』が、『笑う棺桶』に敗れたという噂は、すぐさまアインクラッド中に駆け巡った。最も反響が大きかったのは、『攻略組』だった。『旋風』と呼ばれる程の速度を誇ったシドが首領であるPoHに圧倒され、ボス攻略に参加するほどの強さを有していたソラが殺されたのだから、当然と言えば当然だ。

 こうして、アインクラッドでの『笑う棺桶』の脅威はますます高まっていき、早期の対策が叫ばれるようになった。そしてとある夏の日。とうとう、『攻略組』は、奴らの居場所を突き止めたのだった。


 
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