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戦国異伝

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第百十六話 三杯の茶その四

「ではこれからも織田家において」
「励んでいかれますjか」
「そうする。では今はじゃ」
「はい、殿がおられない間の政は」
「それはどうされますか」
「もう少し道をなおしたいのう」
 これが平手の今の考えだった。
「美濃から飛騨への道をな」
「そういえばあの道はかなり崩れてきていますな」
 通具が答えた。
「三木殿が我等に加わるまでは」
「そうなっておったな」
「飛騨は山の奥です。行き来するだけでも難儀ですし」
「そのせいで道が崩れても何年も放っておった」
 齊藤氏にしてもそこまで力を向けられなかったのだ。飛騨の道をなおしていくことも。
「しかしそれもじゃ」
「終えますか」
「それが今ですか」
「そうするとしよう。殿がお留守の間の政は任されているからのう」
「川はどうされますか」
 林は想わせぶりな声で答えた。
「この美濃と尾張のそれは」
「無論それもじゃ」
「堤を築いてですな」
「水を治めずしては何も出来ぬ」
 この辺りのこともよくわかっている平手である。
「だからじゃ」
「そうされますか」
「まずは堤でございますか」
「これ前で通りな。そして頃合を見て飛騨までの道じゃ」
「わかり申した。それでは」
「今は」
 こうした話をしてだった。
 彼等は信長の留守の間も政に励んでいた、主が外に出ていても織田家の政は順調に進んでいると言えた。
 そしてその信長は今近江にいた。お供は可児だ。
 彼等は今は至って普通の旅の浪人に扮している。その格好で身分を偽りそのうえで近江に入ったのである。
 信長はその彼のとなりにいる可児に問うた。
「のう、よいか」
「何でありましょうか」
「近江のその寺じゃがな」 
 石田がいるというその寺のことだ。
「そろそとじゃがな」
「そしてその寺にですな」
「うむ、その秀でた者がおるという」
「わかりました。ですが」
 ここで可児はこう信長に述べた。
「その者がどれだけの者かですが」
「それはあれじゃ」
「あれとは」
「見極める為に今こうして近江に入っておる」
 こう答える信長だった。
「そうじゃな」
「はい、それは」
「その通りでございます」
 周りのお供に化けている者達が答える。
「我等も今こうしてです」
「中に入っております」
「そうじゃな、しかし御主達もな」
 信長がその化けている飛騨者達も見て言った。
「それで中々な」
「上手く化けているでしょうか」
「そうなっていますな」
「うむ、よいぞ」
 実際に上手く化けていた、信長の見たところ。
「目立つ者ばかりというのにのう」
「ははは、殿も言いますな」
 からくりが被っている笠から顔を出して言ってきた。あの立たせた髪が出ていないので一見では誰かわからない。 
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