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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode5 八つ頭の竜の討伐2

 到達した大広間は、以前の七つの広間よりも更に一回り以上大きかった。更に足場も悪く、今までのようなドーナツ状では無い、三人も乗れば定員限界になりそうな面積しかない飛び石が無数にある場所だ。レミやソラのように遠距離攻撃持ちは困らんだろうが、そうでない連中は攻撃の手段を大きく制限される。特に、零距離でしか攻撃できない俺とか。

 さらに悪いことに、その飛び石の間を満たしているのは当然、澄み切った水などでは無く見るだけで顔を顰めたくなる様な泡を吐き出す、煮えたぎる溶岩なのだ。

 「なあクライン、『風林火山』でロープ何本持ってきた?」
 「…残りは二本だ。一本はもう耐久度が大分ヤベェな。そっちは?」
 「まだ新品だが、一本だけだ」
 「……ヤベェな」
 「ああ。気をつけてな」

 この世界では、有難いことにマグマに頭から突っ込んでも即死する訳ではない。だが、それでも凄まじい勢いでHPバーが減少していく事になり、脱出しなければあっという間にそれはゼロになってしまう。足がつかない場所に落下した場合は、近くのプレイヤーにロープで引き上げて貰うしかないため、このダンジョンではロープが必須なのだ。洞窟の入り口にいるNPCが、警告をしてくれるほどに。

 今までは落ちないように注意すればよかったものの、ここでの戦いではロープは必須だろう。まあ、敏捷一極の俺の貧弱アバターでは誰一人引き上げることはできんだろうし、人を頼るしかないのだが。

 ぼんやりと考える俺の横で、クラインが顔を引き締める。
 黙って上げた右腕に、後ろに続く面々が頷き、各々の武器を構える。

 索敵係として前を行く俺も何かするべきなのかもしれないが、ガラでも無いので辞めておく。ちなみに振り返った時にちらりと見たソラの顔は、「ワクワクしてまっせー!」とばかりに輝いていた。

 全く、暢気な奴だ。

 「そろそろ、だな…」
 「ああ、来たぜ」

 クラインのセリフと同時に、目の前のマグマから吐き出される泡が一気に激しくなる。ここのボスは雰囲気を出すためか、普通の大型Mobの様にごつごつした巨大なポリゴン片からの出現とは違ってマグマの中から突き出すようにして現れるようになっている。

 と、その泡が一瞬だけやんで。
 まるでクジラでも跳ねたような大きな音を立てて、

 「ゴアアアアッ!!!」

 吠え声を上げるクエストボスがマグマからその体を晒し出した。

 蛇のように長く伸びた首の先には、獰猛な顎と鋭い牙を持つ竜の頭。最後の広間で、とうとうその八つの首全てを晒した、「Eight-Head Dragon」。先程までよりも激しくその首を動かし、最後の戦闘への戦意を示す。

 「っ、どーよシド。あれ、今までの時と一緒か?」
 「…いや、喜べ、多分アタリだ」

 訪ねてくるクラインに、口元に笑みを浮かべて応える。根拠は、巨大なボスモンスターの頭の上に漂う、室内にも関わらずに広がった黒々とした雷雲。以前の大規模討伐隊の時には、そんなものは無かった。そして俺はその存在のモチーフも知っている。

 スサノオ伝説では、クサナギノツルギをその尾から出したヤマタノオロチは、常にその頭上に暗雲を漂わせていた、との記述があったと思う。全く、このゲームを作った奴は神話の知識まであるのか。

 とにかく。

 「んじゃあ、期待して行くぜェ!」
 「おお、気をつけてな。ソラっ! レミっ! 出し惜しみはなしだ! 好きなだけ遠距離武器使えっ! ファー! 慣れないかもしれんが、中距離支援を頼む!」

 クラインたち『風林火山』の面々、特にその中でも前衛を受け持つ壁戦士(タンク)が、最も近い足場へと果敢に飛び移っていく。俺も慣れない口調で指示を出した後、ブレス攻撃をを引き受けるべく前線へと飛び込む。後ろからの「おっけーっ!」とか「おー」とか「わかったッス!」との心強い声援。

 先程までより更に大きい咆哮を上げる八つ頭の巨竜が、その首を大きくうねらせ、こちらへとその八対十六個の視線をこちらへと向ける。その目に明確な戦意の炎が宿り、口からは火炎の混じった吐息が漏れる。

 そんな恐ろしいボスを相手に。

 「うおりゃあああ!!!」

 怯むこと無く声を上げて、クラインが先陣を切って斬りかかり。
 八度に渡る戦闘、その最後のボス戦が始まった。


 
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