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或る皇国将校の回想録

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第二部まつりごとの季節
  第三十三話 備えあれど憂いあり

 
前書き
新城直衛 戦災孤児であるが駒州公爵・駒城家育預として育てられる。
 敗戦後の政争により近衛少佐に就任する。

窪岡敦和 前陸軍局人務部長にして軍監本部戦務課長である陸軍少将
駒城家長男である駒城保胤陸軍中将の友人

馬堂豊久 駒州公爵家重臣団の名門馬堂家嫡流
 陸軍中佐であるが大規模混成聯隊の聯隊長が内定している

大辺秀高 陸軍少佐、馬堂豊久の父である豊守の部下の遺児
馬堂豊守が後見人を務めていた。軍監本部戦務課勤務

堂賀静成 軍監本部情報課次長の陸軍准将 豊久の元上司であり、
情報将校としてのイロハを教え込んだ恩師。

特高憲兵 陸軍の情報機関である特設高等憲兵隊の隊員
 軍監本部直轄であり事実上、情報課の指揮下にある。

馬堂豊守 馬堂家当主の長男にして豊久の父。兵部大臣官房総務課理事官の陸軍准将
     輜重将校だが若いころに膝に弾を受けており後方勤務専門となっている。

弓月由房 内務省第三位の内務勅任参事官。前警保局長
 故州伯爵であるが衆民官僚を取り纏めて派閥を構成している。

弓月茜  弓月家次女 馬堂豊久の許嫁。実際コワイ 

 
皇紀五百六十八年 五月 十五日 午後第三刻
軍監本部公用馬車内 〈皇国〉近衛少佐 新城直衛


 対面に座っている人物へ目を向ける。ほっそりとした顔に似合わない無骨な顎髭を生やしている高級軍官僚、
 ――軍監本部戦務課課長・窪岡淳和少将だ。

「貴様の義兄殿から話は聞いているな?」
「はい、閣下には必ず御挨拶をしておけ、と」
「あぁ、挨拶は大切だよ。」
窪岡少将が薄く笑いながら頷く。

「えぇ、餓鬼の時分から義兄にそれだけは口うるさく教えられました。感謝しております」
 まさしく駒城保胤ここにあり、とでもいうような行動に目の前の将官が声を上げて笑う。
「――そうだな、貴様の義兄殿はそう云う人間だ。だからこそ、此処まで苦心して筋道を立てたのだからな。――貴様は既に近衛少佐になっているな?」
「はい、閣下。衆兵隊司令部附です。」

「あぁ、そうだろうな。だが、すぐに新編の大隊が与えられて司令部附の辞令は外れる筈だ。
衆兵隊司令長官である実仁殿下は旅団を任せても良いとお考えだったのだが、流石にそれは周囲の反感を買いすぎる」

「有難うございます」
 ――矢張り、奴の予想通りか。まぁ、確かに旅団長は准将が補職される事が常識だ。新任の少佐を其処に任じるのは無茶に過ぎるだろう。
 ――それに、豊久が聯隊を指揮する事が決まっている以上僕が(実際は三千名程度の聯隊規模とは言え)旅団を持っている彼方此方で要らぬ騒ぎがまたぞろ騒ぎだすに違いない。

「そうだよ、恩に着ろ。特に、義兄殿と この俺に、あれこれと大変だった。人務部長としての初仕事と仕事納は貴様に拘ったのだからな」
豊久の言葉を思い出し、何となく面白みを覚えた。
――世話になった、か。確かに、そうかもしれないな。

「貴様もそれなりの働きをしたからな。これからは並みの将家以上の待遇になるだろうさ。
ほんの数年で旅団が手に入る位にな」

「はい、閣下」
――それまで国が保てばいいけれど。
半ば禁句になっている言葉は胸にしまっておいた。
「あぁ、そう言えば貴様、参謀教育は受けているのか?」
「いいえ、閣下」
 新城が軍の中で受けた教育は幼年学校で受けた銃兵としての基礎教育だけで、後は強いて云えば剣虎兵学校で戦史の教官の真似事をした程度である。

「そうか、まぁ貴様の様な男は実戦の指揮だけで十分だ。
兎に角、保胤にしろ俺にしろ――それに殿下も貴様の実力に見合った地位に就く事を望んでいる。理由については言うまでもないな?」
 窪岡の言に新城は内心肩を竦める。
 ――その理由は三者三様だろう。だがそれは義兄や豊久たちの領分であり、自分は好き好んで関わろうとは思わない。
「僕は受けた恩義は忘れません。とりわけ、義兄から受けたものは絶対に。」
 ――また、その逆も然り、であるが。
 佐脇の顔を思い浮かべつつ内心で毒づく。
「それだけか?」
 窪岡は睨むような目で新城を探る
「僕にとってはそれで十分以上です」
「成程、保胤が聞いたのならば、喜ぶだろうな」
 鼻で笑いながら頷く窪岡へ新城はわずかに唇を歪めて答える。
「御内聞にお願いします。何しろ義兄は、なんと云いますか、御存知の通りの御方ですから」
 それを聞いた窪岡少将は笑いを噛み殺しながら云った。
「貴様も人物眼はあるようだな」

「育ちが育ちです、閣下。人間と云うものに興味を持たざるを得ません」
それと他人に好かれるかどうかはまた違うことは新城も身を以て知っている。
 ――何かと義兄達に気をかけられたりもしたが、どうにもならない事もある。
「率直でもある」
「正直と評されたらどうしようかと思いました。」
 面白そうに新城との問答に目を輝かせていた窪岡は声を上げて笑いながら「そうだな、貴様があの馬堂の若造と長い付き合いだと知らなかったらそう言ったかもしれんな」と云い。
今度は新城が苦笑を漏らす事になった。
――奴は余程の事か、冗談くらいにしか嘘をつかないが、正直と評するには程遠い。本人が聞くと不貞腐れるだろうが、奴は祖父や父の影響が良くも悪くも強いのだ。

「あぁ、それは確かに。ですが、それなら我慢強いとも評していただきたいですな」
 これを聞いた少将は呵呵と笑いだした。

「貴様の義兄殿も貴様の事はちゃんと見ている様だな!保胤から聞いていた通りだ!」
そう言って再び笑い声をあげ、「――貴様、人務部で草浪中佐に会ったか?」
その響きが消えない内に冷静な声で新城に尋ねた。
「はい、閣下」
「貴様はどう見た」
 ――貴様は、か。
「守原の陪臣では一番のやり手だと聞いていました。確かに世評に違わない人物だと」

「ほう、それで?」
窪岡少将は面白そうに観察するが、その視線を受け止める新城は愉快とは感じていなかった。
 ――この手の事で奴と比べられるのはあまりいい気がしない。奴が頭に叩き込まれた人名簿の分厚さはあの家の家風を考えれば分かる。
「――切れる男です、出来れば好意を勝ち得たいと思っております」
「そうか。」
 顎に手をやり、考えを巡らせている。軍官僚として高い評価を得た頭脳がどの様な思考を紡いでいるのだろうか。
――ふと人務部で見かけた両性具有者を思い出した、彼女(かれ)らは完全な美貌に加え、
優れた論理思考能力を持っていると言われている。――まぁ、自分には縁のない類の人々だ、少なくとも当面は。

 馬車の中の静謐は外の喧騒に破られた。馬の嘶き、人の怒号、そして――呼子の甲高い音が馬車の中を満たす空気を切り裂いた。
 新城が半ば反射的に扉を開き、周囲を見渡すと人垣の中心に邏卒達が集まった野次馬達を追い払い、怒号を交わす男たちの姿が視界に飛び込んだ。
 豊久や草浪中佐の警告が新城の脳裏をよぎった――
「閣下、宜しいでしょうか。」
 ――偶然ではないだろう、ならば事の結末を見届けている奴が居るはずだ。
「よろしい、気をつけろよ。何かあったら保胤に顔向けができん」

「大丈夫でしょう、それに何かあっても僕にも用意はありますので。」
 かつて大隊長と仰いだ友人が我儘を言って作らせた輪胴短銃を見せた。
「成程な、だが油断はするなよ。」
 窪岡少将の言葉を背に地に足をつけた。
 ――さて、何処にいるものやら。



同日 午後第三刻半 馬堂家私用馬車内
馬堂家嫡男 馬堂豊久

 馬堂豊久中佐は事故から三寸もせずに馬車の対面に飛び乗って来た客人に目を向ける。
一見すると精々が兵役を終えたばかりの商店員くらいにしか見えない。
だが隙のない身のこなしと着物の左胸が細長く膨らんでおり、彼が暴力に慣れている事を馬堂中佐に読み取らせている。

「見事な手腕だ、さすが堂賀閣下の信を受けるだけのことはある。」
 馬堂中佐の世辞に特設高等憲兵はにこりともせずに答えた
「いえ、元からあの手の連中が出入りしている政国屋は警戒対象に入っていました。
室長閣下も不穏な動きがあったら止めよ、と。人殺しを稼業にして三代の連中です、叩けば埃がでてきます」
 ――成程、予想的中だな。
さきの奏上以降、主だった将家達やその影響の強い大店ともに特高憲兵の監視下に置かれていた。中でも守原家御用達の政国屋は特に裏社会に強く通じており、当然のごとく最重要監視対象の一つに数えられていた。そして、政国屋が愛用する“事故”を引き起こす者達が動き出したとの一報は古巣である防諜室に確固たる影響力を確保している情報課次長の通達に従い、即座に馬堂豊久中佐の下にも届いたのである。
「後始末は此方で行う、後は任せてくれ」
 そういうと階級も知らぬ(おそらくは尉官か下士官)私服憲兵は背筋を伸ばして頭を下げた。
「――御協力感謝いたします、中佐殿」
 そしてそれは単なる政局上の駆け引きではない、特設高等憲兵隊皇都本部が下した判断として、小規模な事故を引き起こし、皇都視警院の手によって捕縛させる事で警告とすることにしたのである。であるからこそ、警察に強い影響力をもつ堂賀准将達憲兵将校と馬堂家と関係が深く、警保局長の経験者である弓月由房内務勅任参事官の協力を必要としていたのである。
――俺がまた顔をあわせたら再度、伯爵から無言の圧力がかかるのだが。
愚痴は内心にとどめ、馬堂中佐は眼前の私服憲兵に目礼をする。
「あぁ、本部長に無理を聞いてくれた礼をよろしく言ってくれ。」
 ――失礼致します、中佐殿。
 そう言い残し、路地に名も知らない男は飛び降りた。

「・・・・・・」
「何だ?大辺。」
隣に座っていた大辺少佐がじっとりとした視線で馬堂中佐を見ている。
「手馴れていますね」
「防諜室や特高憲兵は人手不足だったからな。まともになったのは堂賀准将――当時は大佐だったな、あの御仁が就任してからさ。俺が在籍していた頃はまだ再建の途中だった。それまでは防諜じゃなくて互いの脅迫の手段を探す方に熱心だったよ、魔導院に裏舞台から追い出されてから這い上がるのも一苦労ってやつだ」
 ――そう、俺が赴任していたのは、ようやく内輪もめを押さえ込み、職務を行える様になった頃だ。防諜室長として辣腕を振るっていた堂賀大佐にさんざんこき使われたものだった。
 ――さてさて、閑話休題、と。

「あぁ、一応もう一度あの辺を回ってくれ、捨て剣虎兵がうろついていたら拾うから。」
 そう馬堂中佐が御者に声をかける横で大辺少佐は――相変わらずですね、と溜息をはいた。


同日 午後第三刻半過ぎ 皇都西本条通り
駒城家 育預 新城直衛


視線をさまよわせ、考える。
 ――豊久は普段はアレでも謀り事には敏感だ。俺に警告するのだから奴自身も何かしら備えていてもおかしくない。例えば、軍監本部へ義兄に会う為に出頭していた時に古巣に立ち寄り協力を取り付ける等。
 だがそれも確証はない。荒事の気配を感じて気が高ぶり、不必要に行動的になっているのだろう、と自己分析をし、自嘲の笑みが浮かべる。
 ――浅ましい、千早の方が理性的かもしれないな。
そうおもいながら伏せていた顔を上げると視界の端に馬車が映った。
「どうやら向こうから迎えが来たようだな」
 鉄路馬車も混み出す時間だし調度良い、などとどうでもよい事を考えていると件の馬車の扉が開き、先程別れた面が手招きした。
「おぉ、引きがいいな、感謝しろ、そして敬え。」
「まことに申しわけないが貴様を敬うには過去の行状を知りすぎているな。貴様に酒を教えたのを誰だと思っている。」
 馬車に乗り込みながらお決まりの下らない言葉の応酬をする。

「それで? 今度は俺を釣りの餌にして何を釣った?」
「何だ、人聞きの悪い、心配して来てやったのに。なぁ、大辺」
「はい、中佐殿」
 軍人式の返答を白々しい口調で飾りつけた返事に豊久は苦笑して肩を竦めながら新城少佐に向き直った。
「貴様も厄介事に好かれるな、結構な腕っこきを引っ張り出した奴が居たらしい。――依頼元は調査待ちだ」
と言った。大方見当はついているが、確証がないのだろう。

「腕っこき、か。俺もそれなりに他人に認められたわけだな。あまりいい気はしないが」
 ――こういった時しか評価されていない様な気がする。
 
「窪岡少将と二人あわせて殺すつもりだったのかもしれないな。
彼は駒城派の将官だ、よほどの騒ぎになる。それに乗じてお前と窪岡少将の血で総反攻復活などと馬鹿げた夢をみたのか?
だとしたら、お前が奏上の時に余程恨みを買ったのが切欠だろう。奏上も終わったのに感情だけで態々金を積んでまで、将官の馬車を追って殺しに掛かったのだからな。――本気で夏季総反攻を強行するのならば、奏上の前にお前を奉書ごと焼くだろうさ」
情報将校の狡知の光を瞳に過らせながらの若い中佐が発した言葉に新城も短くなずいた。
 ――此奴なら本当にやりかねない。

「貴方も大概ですよ。全く変なところばかり豊守様に似て――」
 隣の秀才参謀が頭を抱えるがとうの若手中佐はそれを意に介さずひらひらと手を振りながら気の抜けた返事をする。
「じゃなきゃこの高貴な育預様とこんな長い付き合いが出来るわけないさ。」
 ――さて、と書類仕事が終わったと思ったがこれでは駆け込みで残業だ。
ちょいと俺は降りるから宜しく。――大辺、父上に言伝を頼むぞ」
 何時の間にか官庁街へいたる十字路に来ていた。歩いて小半刻程度で内務省に到着できる距離である。
「新城、二度目があるかもしれないからな、気をつけろよ。俺に出来るのは所詮、対症療法だけだ、何も解決していないからな」
 ――そう言って姿を雑踏の中に溶け込ませていった。



同日 午後第六刻 馬堂家上屋敷 
兵部大臣官房総務課理事官 馬堂豊守准将


脳裏で図面を引きなおしながら豊守は息子へと視線を戻す。
「――守原は一枚板ではないようですが、当面、表面化する事はまずないでしょうね。
守原定康は駒城の切り崩しに取り掛かる様です――意外と言うべきか、突くべきところは見ているようですね。自分達が誰に何を押しつけたのかを忘れたみたいですが」
うんざりしたようにひらひらと書状を振りながら北領の英雄は露骨に不機嫌そうに吐き捨てる
「本当にいい面の皮をしている。敵を押しつけた相手に此方に来いとは」
 ――当事者としては憤懣やる方無いだろうな。水軍の責任者であった中佐と殿下が居なければどうなっていたのやら。
 さてどう宥めたものかと豊守は探りを入れるべく口を開いた。
「それで、豊久、お前はどうしたい?」
「乗るのは論外としか言いようがありませんね。とはいえ露骨に事を構えるのも悪手でしょう。
不本意ですが、守原に恨まれるのは危険極まりない。前線でまた連中の後始末を押し付けられるのは御免ですよ」
 そういうと豊久はぶるり、と身を震わせた。
「あぁ、嫌だ。またあの屑が前線にしゃしゃり出て来たらどうしよう」
珍しく生の感情をむき出しにした息子に豊守は眉を顰めて忠告する。
「豊久、恨むのはよいが、それで判断を曇らせてはいけないよ。焦っては駄目だ」

「――功を焦って急いてはいけない、居丈高に構えても無駄だ。要らぬ力を込めてはならぬ。ぬらりと相手の懐を覗き込め――ですね?」
 息子が目を閉じて暗唱した言葉に豊守はにたりと笑って尋ねた。
「お前も教えられたか。どうだ役に立ったか?」
 彼も父から教えられた言葉であった。
「覚えていますよ、とても役に立ちました」
そういって浮かべる不敵な笑みは中々どうして板についていたものである。
「女性には使えないようだがね。女性の泣かせ方が最悪だ。茜嬢に愛想を尽かされても知らんぞ?」

「いや、そのようなアレは、その、困ります。」
あっさりと取り乱した息子に苦笑を浮かべる。
 ――まだまだ、若いな。将家の嫡流としては二十も半ばを過ぎてこれでは困るのだが――私も父も既に子を持っていた年なのに。
「正直なところ、余計な厄介事が入り込む前に婚姻を結んでほしいのだがね。
弓月殿との関係も安定させたいところだし、私も孫の顔を早く見たい」

「――何を言ってるんですか、四十半ばで孫は早いですよ。」
豊久がじっとりとした目で抗議するが豊守は即座に切り返す。
「身を固めていない佐官と言うのは遅すぎるだろう。少佐にもなっているのなら身を固めるのが常識だろう?」
「それは、あー平時の話でして。その偶々中佐になっただけである自分としては前向きに検討する要素ではありますが元々否、と言うには根拠が皆無に等しいわけでして
だからと言ってただちに話を進めるのはやぶさかでなく。しかし、善処の方向へと向かいつつある事を自分は確信しております」

「無駄に長く無駄に丁重な無駄な長広舌をありがとう。つまり婚姻するには裏事情が鼻につくと。それはそれ、これはこれ、だろうに。
お前だって弓月殿の伝手を利用したばかりじゃないか。それで茜嬢と面も会わせないのは筋が通らんだろうよ」
 弓月由房故州伯爵も激化する政争の中で、駒城との結びつきを強めている。
 その中でも特に強力な結びつきが重臣団の中でも次席と云われている馬堂家との婚約である。
 そっぽを向いて細巻をふかしているとうの婿でさえ。つい先ほど政国屋と守原の干渉に備えた根回し工作に内務省庁舎に赴いたばかりである。
――或いはそうしたことを教え込んだ所為なのかもしれない。
そう豊守は思い至った。自分の内側に爆弾になりうるものを持ち込む事を恐れているのか。
 ――やれやれ、若い内から裏事情を教えすぎたかな。

「話を戻すが、取り敢えずは西原を介した適度な便宜でよかろう。
元々、本命は西原であって守原の伝手は必要ないし、駒城に反旗を翻すつもりもない」
頼る先を考えるにしても、西原はまだマシだが、守原は論外だ。
 積極的なのは良いが、あからさまに信用を落として勝利を得てもなんの意味もない事を理解していない。 社会は与える事と与えられる事で回っており、その全てを回すには力による規律と信用の両方がなければならないのだ。私はそれを理解していない沈む船に乗り込む程に水練は得意ではない」

「そうですね。本当ならば二重間諜(スパイ)なんて綱渡りは御免ですが。」

「大殿にこの事は伝えたほうが良いだろうな。まったく何かあると皆が我々を疑う、酷い話じゃないか。
豊久、お前もそう思うだろう?」

「・・・・・・そんな家風がこの四半世紀年で創られましたからね。かつての軍閥貴族もそれなりに平時に迎合できていた、と云う事でしたが」
そう言ってまた二人で苦笑を交える。

「――直衛の事もあります、気をつけて下さい。」
 ――これから戦場に赴く奴が云う言葉ではないぞ、馬鹿息子め。
「あまり心配するな。私が後方を抑え、お前が前線に赴くのだ。
私も相応に働くだけさ。それに、山崎にあれだけ熱心に言ってくれたからな」
 また不貞腐れて細巻で煙幕をはりだした子供を見て声を出さずに笑った。
 ――政争で勝利を得る前に〈帝国〉軍が皇都に殺到する可能性を脳裏から追い出しながら
 
 

 
後書き
隔週と言いましたがきりが悪いから本日投稿
四月から五月までガチで立て込んでるので隔週投稿にします。

その後は高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変にペース変更をします。
外伝の方も短編一つ終わらせた後は放置気味ですが一応ネタはあります。
ただアウトプットする時間がないところです。
日常一話と予算抗争編で四話ていどの短編で具体的なプロットで需要があれば書こうかなと思ってます。 
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