自由気ままにリリカル記
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十九話~ジュエルシード売りの少年~
……おかしいな。
―――なにが?―――
いや……ちょっとした違和感なんだけどさ。まあいいや。
―――……そう。今妹の活躍をこの目に全力で焼き付けてるからあまり私の気を散らさないでね―――
あいよ。
茂みに隠れて戦いの光景を覗き見ながらぞんざいに返事をする。
妹バカに丁寧に話す程アリシアに気は向けない。
そして、いつもの男に念話を繋げる。
(なあ、蒼也?)
(何だ、いきなり。今は修行中なんだが。用が無いならすぐ切るぞ)
(いやさ? 俺って今、木の化け物を高町とテスタロッサ達が共同で倒したのを見ていたんだ)
(ああ。……それで? ……もしかして何か大変な事でも起きたか?)
若干緊迫した声が返って来る。だが、そういった類のものではない。
(いや。起きてないね。俺が聞きたいのはこの後クロノが出てくるはずじゃないか? あ、ちなみにここに今挙げた奴以外にいるのはアルフにスクライア、後は黒服バイザーの青年の恰好に変身している奴にキラキラ転生者と縁だな。何故か秋山仄夏は来てねえ。なんでだろうな?)
(知らん。それに何で黒服バイザーの男が変身していると分かるんだ?)
(見れば直感で、おや? って違和感を感じるだろ。そしてその違和感を頼りによくよく見て、調べてみると分かる)
(直感って……お前意外と凄いな)
この直感がなければ俺はとっくの昔にひき肉になっているよ。
この世界に来てから危機的状況が減ったせいか、異世界にいた時程の直感ではなくなっている。
異世界にいた頃は見えない攻撃ですら、直感でどちらに避ければいいかすら分かっていたのだが、今ではそれ程の事は出来なくなってしまった。
(まあ、俺の世界の魔法に関しちゃエキスパートだと自負してるぜ?)
(そうか。……話が逸れたな。それで、何が言いたいんだ)
(蒼也は管理局と知り合っておくか? クロノ繋がりで)
管理局について俺と蒼也の二人で話し合ったことがあるのだが、その時に管理局に入るのかどうかという話題で、俺達二人はどちらも管理局に入ることに決めている。
蒼也はどのみち一度死んだ身なのだから少しくらいは人助けもしてみようという考えらしい。だから、救助隊という所に入隊しようと思っているそうだ。
俺は……何があるか知らないため、とりあえず管理局に入って決めることにしている。
(いや、断る。まだ俺は修行するのに集中していたいからな)
曰く、まだ自分の実力が未熟なのにも拘らず率先して危険なことをする奴の気がしれないのだと。
そうかい。と返事をしつつ、俺にもそんな時があったことを思い出した。
初めて人を殺したのは6歳ぐらいの時だったか。俺と同じくらいの獣人の女の子を無理矢理犯そうとしていた盗賊を不意打ちで姉さんと共に殺した記憶がある。
あの時は見た目は平気な風を装っていたが、実際はアドレナリンが分泌されて感覚が麻痺されたおかげだと踏んでいる。
あの頃からだな。無茶をし始めたのは。ああ、あの時はなんて無謀だったんだろう。
(まあ、いいや。今丁度クロノがイケメンよろしくとばかりに攻撃止めたから念話切るぜ。……しかし小さいな)
(ああ。頑張れよ。……まあそう言ってやるな。大人になれば伸びてる)
なんだ。つまらん。
「ここでの戦闘行動は危険すぎる。時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
―――うん。妹を傷つけずに止めた所だけは褒めてあげるわ―――
何その上から目線。
―――幽霊目線よ―――
……そうかい。
「時空管理局………」
五メートル隣で戦いを見ていたスクライアが呟く。
「まず二人とも武器を引くんだ。このまま戦闘行為を続けるなら……」
逮捕するとでも言うつもりだったのだろうか。
クロノ・ハラオウンが言葉を言い終える前に魔力弾が飛んでくる。
「フェイト! 撤退するよ。離れて!」
アルフがまた牽制として射出し、その隙にテスタロッサがジュエルシードを取りに飛ぶが、ハラオウンの魔力弾を打ち出す。
中々に良いタイミングで、テスタロッサが避ける暇もない。
しかし、当たる直前で魔力弾が消滅した。
いや、焼失させられたと言った方が適切だろうか。
出所を見れば、黒バイザーの青年が口元に手を当てており、そこからは残り火が漏れている。
うーん……もしかして忍術か?
あまりアニメ知識は覚えていないが、もしあいつが転生者ならばかなりの確率でアニメの力を使ってくるはずだ。
なら、火を吹くことが出来るアニメはあまり無いし、有名所を探せば、ナルトって所だろうか。
他にもある気がするが知らん。
「フェイト。行け」
耳に集中しているとボソリと聞こえた言葉。
それをテスタロッサが聞き、コクリと頷くとアルフと共に転移していった。
「君はしたことが分かっているのか! これは立派な執務妨害だぞ!」
「友の手助けをしただけだが?」
「うおおおおおおおおおおお!!」
そして二人に向かって剣を構えて飛び出す神白。
何故飛び出したし。
そして、標的は二人かと思っていたが、隠に向かってデバイスで斬りかかった。
それを隠は妙に機械的な苦無型のデバイスで。受け止める。
「っち!」
「てめえ。何俺の嫁に手え出してんだ!!」
「なにを言っているのか全然意味が分からないな……なにっ!?」
「くつそ……何しやがんだ!! 邪魔すんじゃねえぞモブが!」
「君達二人もここで戦闘行為をするのは危険すぎる。両者武器をおさめろ」
力は互角なのか、デバイスで押し合っていると、唐突に隠と神白の両手両足に青いリング―――バインド―――で拘束された。どうやら、ハラオウンが行使した魔法らしいが、そのハラオウン本人の表情は見た目は澄ました表情をしているが、額をよくよく見ると、うっすらと青筋が浮いている。
武器を収めろという言葉に両者共に舌打ちなり、悪態を吐きながら……まあ、悪態を吐いたのは神白のみだったが、大人しくした。
ふと、誰かがこちらを見ているような気がした。サーチャーか何かでもつけられているのだろうか。
(ルナ、周りにサーチャーはあるか?)
(はい。リンディ・ハラオウンのサーチャーがあります)
(それ以外にだ)
(…………無いようですね。どうかしましたか?)
(そうか……いや、なんでもない)
まあ、なんやかんや考えていると、どうやらアースラに行くことになったらしい。
うん。今かな。
(もしもし、そこの管理局員の人)
(誰だ? ……姿を見せてくれないか)
(ちょっとそこの女の子の同級生だから見られたくないかな? ここで待ってるから後で来てくれません?)
(ああ、分かったよ)
待つこと二時間、ようやく現れる魔法陣。
(ようやくですか)
(そう言わないでくれ。こちらにも事情があるんだ)
「こんばんは。えーと、クロノ・ハラオウンさんだったかな?」
二時間前と同じ場所から現れると、ハラオウンは少し驚いたような顔をした。
「そんな所にいたのか」
「気配を消すのは結構得意なもんで。っていうのは冗談で遠くから木の化け物が見えたから少し聞き耳を立てただけだよ」
「そうか。まあそれはいい。それで、用は何なんだ?」
「これ、集めてるんだろ? あげるよ」
懐からジュエルシードを三つ取り出し、手渡す。
もう、実験にジュエルシードは必要無いことが分かったからこれは持つ意味がない。
「っな! こんなに……!!」
「おう。町を散歩してたら結構落ちてたぜ?」
「少し話を聞かせてもらいたいんだが、アースラまで来てもらってもいいか?」
「もちろん」
転送魔法陣に乗り込んだ先に見えた先は、アースラーという次元空間航行船だったか? その船の中は中々に機械的な内装をしている。
船とはこのような物だったか……随分と技術も進歩したもんだ。
ハラオウンの後をついて行きながらだらだらといらない思考をする。
しかし、どうやって話を有利に進めたもんか。
悔しいことに異世界では話し合いで戦う場面はほとんど無かったし、俺自身口は達者な方ではないことは理解している。
策士みたいに二重三重にも会話の中に罠を張り巡らせるなんて真似は俺には無理だ。
せめて相手がどんな意図でこのような言葉をいったのかを理解出来れば、完璧にやりこめられる、なんてことは避けられるんだが……。
全く、俺にはこんな交渉染みたことなんて出来ないんだけどなあ……。
とりあえず、この後行われるであろう会話で手に入れておきたい事は何にしようか。
まず、魔導士になろう。魔導士にならなければお金を稼げない。出来れば俺に合ったものが見つかれば良いのだが……。
後は……あれ、何もねえな。
……ああ、あったよ。A‘sを終えるまで俺を管理局に入れないようにして欲しいってことかな。
まだ、自由に動けないと都合が悪い。
そこまで考えたところで案内をしていたハラオウンが歩みを止めた。
「ここにかあ……艦長がいる。さあ、入ってくれ」
「分かった」
「艦長、来てもらいました」
そこには盆栽、茶釜などの和風のものを目に映るもの全てを家に置いたような感じがする。
そして床は畳、壁はメタリックに光る船全体の内装と同じもの。
正直言ってバランスが合わない。
やるなら扉は襖。壁は砂壁にしてもらいたいものだ。
服装はまあ、仕方がないとしてもそこまでは頑張ってほしい。
「こんにちは、私はリンディ・ハラオウン。このアースラの艦長をしているわ。あなたは?」
「僕の名前は門音邦介。私立聖祥大学付属小学校の三年生です」
「あら? 高町さんと同じ学校なのね」
「はい。そこのとこは置いといて、渡したいものがあるんですけど」
「もう、本題に入るのね。クロノから聞いているわ。ロストロギアを持っているって?」
「はい。ここに三つあります」
「よく集めたのね。封印はされてあるのかしら?」
「うちのデバイスが優秀なので出来ていますね」
「そうなの。壊れた時はうちの所で直してもらいましょうか?」
「そうさせてもらうとありがたいです」
そこで、出されたお茶と思われる物を飲む。
思わず吹き出しかける。
忘れていた。この人の出すお茶って何故か角砂糖をたくさんいれてるんだった。
普通のお茶からは予想外の味がしたから驚いた。
っていうか、他人のお茶にも角砂糖を入れるとは思わなかったぞ。
「……甘いですね」
「そう? 美味しいでしょ?」
「いや、美味しいのは美味しいんですが、緑茶とは思えませんよ?」
「そうかしら……、それはそうと門音君。あなたはロストロギアのことは知っている?」
「いえ、知りません」
「え?」
「え?」
俺、知ってるって言ったことないよ?
後書き
ぶっちゃけ次回の交渉回は書ける気がしませんので、穴だらけになると思います
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