東方守勢録
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第六話
2・3時間ほど前
「ここまでは特に何もありませんね」
「そうですね~」
出発から約1時間ほど経ち、文と椛は守矢神社の付近まで足を進めていた。
だが、これといった情報はなく革命軍も進攻していないようだったため、調査に進展が見られなかった。
「ところでここに何を調べに来たんですか?何か気になることがあると言われてましたが……」
「あ~気になると言うかは私の推測なんですよ」
「推測ですか?」
「ええ。まあ結果は守矢神社に向かえば分かると思うのですが……」
「そうですか……あれ? 文さんあそこにいるのは……」
「……」
ふと立ち止まった二人の視線に飛び込んで生きたのは、5人の男と交戦する一人の少女だった。
「はあ……はあ……」
「くそっすばしっこいやつめ!」
男たちは必死に銃口を少女に向けようとしていたが、少女の速さについていけず、威嚇射撃すら行えない状態に陥っていた。
(しつこい人たちね……でも……ここで戦意を喪失させなきゃ!)
「もう一人の天狗娘に比べるとそこまで速くはない!全員目を凝らしてよく狙うんだ!」
「了解!」
「ああもう!」
「うわっ!?」
少女は一瞬で男に近づくと、持っていた銃を思いっきり蹴り飛ばす。
約30分まえからこの攻撃を繰り返してきたが、相手が退く気配は全くなく長期戦にもつれこんでいた。
(このままじゃ私の体力ももつかどうか……)
「ちょこまかと……いい加減にしろ!」
しびれを切らしたのか、男は適当に銃口を向けがむしゃらに銃口を引き始める。誰もが当たるはずはない……そう思っていた。
だが……この日は少女にとって厄日のようだった。
「いたっ!?」
発射された一発の弾丸が偶然にも少女の右太ももをとらえる。少女は痛みに気を取られ、徐々にバランスを崩し始める。
そして……
「しまっ……きゃあ!」
猛スピードで木にぶつかり、その場に倒れこんでしまった。
「やっと止まったか……」
男たちは少女が動けなくなったのを確認すると、銃口を向けながら徐々に近寄っていく。少女は必死に動こうとするが、右足が言うことを聞かず、這いつくばってでしか動くことしかできなかった。
(お願い動いて……私が捕まったら守矢神社の人たちが……)
「それ以上は無駄なあがきだ」
男はそう言って少女の頭に銃口を突き付ける。
「さあ……おとなしくしてもらおうか……」
「そん……な……」
「諦めるのが早すぎませんか!?」
「え……!?」
「なっ……うわ!?」
突如、風をまとった何かが男に突撃し、そのまま大きく突き飛ばした。
「まったく……それでも私のライバルですか……はたて?」
「文……」
文は呆気にとられてるはたてに頬笑みを返すと、葉団扇でパタパタと仰ぎながら男たちを軽く睨んだ。
「射命丸文……なぜ貴様がここに!」
「私は天狗ですよ?妖怪の山にいてもおかしくはないと思うんですがね」
「ちっ!ちょっと基地を落としただけで調子にのりやがって!」
「天狗だけに鼻が天狗になってるですか?面白いことを言いますね」
「このアマ!」
男は怒りが頂点に達したのか、もっていたライフルを文に向ける。それと同時に他の男たちも銃口を彼女に向けた。
だが、銃口を向けられたのにも関わらず、文は逃げようとするどころか、逆に不敵な笑みを浮かべていた。
「何を笑って……」
「いえいえ……その壊れた武器で何をしようと言うのですか?」
「壊れた?何をばかな……!?」
ライフルに視線を向けた男はなぜか絶句していた。
もっているものは確かにアサルトライフル。いつも使っているなじみのある銃だ。持つ場所も引き金も変わってはいない。だが、妙に長さが短く感じられた。
そう。銃口がなくなってしまったのである。
しかも、男だけではない。それ以外の兵士の銃口もきれいさっぱりなくなっていた。
「なにがおきて……」
「そんなに長いものを持っていたら、持ち運びに不便ですよね?」
「!?」
突如男の目の前に犬の耳のようなものを頭に付けた少女が現れる。その手にはなくなったはずの銃口が握られていた。
「ですので切り落としておきました」
「犬走……椛……」
「さて、どうなさるおつもりですか?」
椛はそう言って持っていた刀を男の首元に突き付ける。
男の表情はすっかり青ざめており、もはや勝ち目がないと判断したのか、
「撤退……撤退だ!」
と叫ぶと、逃げ腰のまま猛スピードで逃げて行った。
「ふう……はたて、大丈夫ですか?」
「文……椛……無事だったのね?まったく、どこに行ったのかと思って……いたっ」
無理やり立ち上がろうとするはたて。文と椛は彼女に肩を貸しながらゆっくりと立ちあがらせた。
「しかし、なぜ逃げなかったのですか?」
「それは……」
「わからないのですか椛」
はたてがこたえようとした瞬間、文はあきれ顔でそう言った。
「すいません……」
「まあいいでしょう……ここから約500mといったところですかね?守矢神社があります」
「あ……」
「そうね……だからここで逃げてしまったら、守矢神社に向かってしまうんじゃないかって思って……」
「でも、無理はいけませんよ……はたて」
「わかってるわ」
心配そうにする文に、はたては軽く笑みを返した。
「さ……守矢神社に向かいましょうか」
「そうですね……ちょうど、私たちの目的でもありましたしね」
「そうなの?」
「ええ……はたて、一つ聞きたいんですが……」
「何?」
よっぽど重大な内容なのか、文は一呼吸を入れてから本題を繰り出した。
「守矢神社に神奈子様と諏訪子様がおられますよね?」
「文さん何言って……」
「ええいらっしゃるわ。それがどうかしたの?」
「え……!?」
「……やっぱり」
驚いて目を丸くする椛と、自分の推測が当たって考えこむ文を見て、はたては不思議そうな顔をしていた。
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