IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~
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第二十二話『ガンバレルストライカー』
「くそっ! こいつ!」
一夏はゲルズゲーの攻撃をかわしつつ反撃の機会を伺うが中々隙を見せない。鈴音が龍砲を放つと、地面を猛スピードでその6脚を生かして移動し回避する。
「あ~! 蜘蛛みたいで気持ち悪い!!」
鈴音は龍砲の出力を高め、ゲルズゲーに撃つ。すると、突然ゲルズゲーは足を止めると砲弾の方を向き両肩と下半身の中央部が発光。ビームシールドを張り、砲弾を完全に遮った。
「あれを防いだ!?」
「嘘でしょ……」
一夏と鈴音は目の前で起きたことに驚愕する。ビームシールドが消滅すると、両手のビームライフルは一夏達を再び標的にする。
/※/
「もしもし!? 織斑くん聞こえますか? 鳳さん! 応答してください!」
真那は必死に一夏と鈴音に呼びかけているが、応答は無い。
「……だめです。通信できません」
「状況は最悪か……」
「もう! 何故通信出来ないんですの!?」
「落ち着け、そう慌てるな。そこまで取り乱すとは、糖分が足りてないんじゃないのか?」
そう言う千冬は、コーヒーカップに白い粉末を入れる。だが、それは糖分のある砂糖ではなく、容器から出されたのは“塩”とラベルが貼られており、明らかに塩分がある塩であった。
「先生……それ、塩ですけど」
「……」
スウェンはその千冬の様子を見て
(相当焦っているな。無理も無いか……さて、どうしたものか)
モニターの向こうではゲルズゲーと一夏達による攻防が繰り広げられている。戦況は一夏達の不利。攻撃のほとんどはゲルズゲーの陽電子リフレクタービームシールド“シュナイドシュッツSX1021”によってことごとく防がれている。
一夏達はゲルズゲーの武装面などの知識は無い。あるのはこの場でただ一人、スウェンだけだ。彼が加勢すれば、この戦況を覆す事ができるかもしれない。それに、先程からの戦闘を見て気になったことがある。スウェンは直ぐに行動に移した。
「じっとしているなんてわたくしには出来ませんわ! 今すぐにでも援護に!」
「だから落ち着けと言っているだろう。カルバヤンを見習え。このような状況でも……」
後ろを向くが、スウェンの姿は既に無かった。
「居ませんわね……あれ? 箒さんも!?」
「……あの馬鹿共が」
/※/
スウェンは管制室を飛び出し避難する観客の生徒の波を掻き分け、アリーナに向かっていた。
その時、警告音とともに照明が落ち非常用電源に切り替わる。そして前方、ブロック同士の境に隔壁が降りてきた。ようやく人の波を抜け隔壁が降りきる前に、スウェンはスライディングをし、寸前の所で通過した。
だが、アリーナへ続く隔壁が次々に降りていく。スウェンはストライクを纏い、エールを装備してバーニアを最大稼動させ隔壁を通過していく。
「俺が着くまで持ちこたえろ……織斑、凰……!」
/※/
強固な防御を持つゲルズゲーは鈴音の龍砲を完全に無効化。一夏はそのビーム攻撃によって容易に接近できる状況ではなかった。圧倒的にこちらが不利だ。
「どうすんのよ! あいつ正面から全く攻撃効かないじゃない!」
「やばいな……これは……ッ!?」
ゲルズゲーは飛び一夏に迫り、前脚部のクローを振り下ろす。雪片弐型で一夏は防ぐと、鈴音はこれを好機にとゲルズゲーの後方へ移動し
「これで!」
龍砲を撃とうとしたが、ゲルズゲーの下半身背後に砲台が装備されていた。それが鈴音を射程に捉え
「きゃあ!!」
「鈴! ぐっ!!」
2連装滑腔砲から放たれた砲弾が鈴音に当たる。一夏はクローによって吹き飛ばされ、距離を離された。ゲルズゲーは鈴音の方向に向き、ビームライフルと前脚部先端に装備されているビーム砲を構え
「鈴!!」
「ッ!!」
四本の閃光は鈴音に飛ぶ。鈴音は腕で身を防ぎ目を瞑る。
間違いなく直撃だ、とい鈴音は思い目を閉じたままにするが、3~4秒経っても何もおきない。恐る恐る目を開けると赤いウィングのパックを装備した白いISがシールドを構えて鈴音の前に居た。
「無事か、凰?」
「え?……その声まさか、スウェン!?」
「ああ」
スウェンはシールドの構えを解き、鈴音に視線を移す。
「凰、お前はピットへ行け。あそこならば幾分か安全だ」
「な、何言ってんのよ! 私は……」
「いいから行け、今の直撃でシールドはどれくらい削られた? 後龍砲は何発撃てる?」
「うっ……わ、わかったわよ! 一夏、スウェン! 不本意だけど、ここからは任せるからね!」
鈴音は移動を開始する。ゲルズゲーが追撃すると予想しスウェンは身構えるも、ゲルズゲーは何もしてこなかった。スウェンは少し疑問を持ちながらも、鈴音がピットに戻るのを確認すると一夏の方へ行き隣に並ぶ。
「ありがとう、スウェン。お陰で鈴が助かった」
「何故お前が礼を言う……それよりも目の前の敵に集中しろ」
「ああ……けどさ、あいつ変なんだよ」
「変?」
「俺達が今こうして武器構えてないときは攻撃してこないんだよ」
「……」
スウェンはゲルズゲーを見る。確かに、一夏とスウェンが武器を構えておらずあちらも攻撃してくるそぶりも見せない。鈴音が引くときも、ゲルズゲーは攻撃してこなかった。
「動きも随分と機械染みてるし……もしかしてと思うんだけどアイツ、人が乗ってないんじゃないか?」
「人が乗っていない?……有り得ない、と言いたい所だが奴の動きは普通の人間とは違う」
「だろ? 仮に人が乗っていないなら、容赦なく全力で攻撃できる……けど問題はあのシールドだな。バリア無効化攻撃も後三回が限度だし……」
「……織斑、少し俺に考えがある」
「え?」
一夏はスウェンの作戦を聞き、不安な表情になる。
「本当に大丈夫なのか?」
「ああ、俺の予想通りならば奴はシールドを張っている時は動けない。そこを狙え」
「……わかった、俺はスウェンを信じるよ。それじゃあ――」
行動を開始しようとした時、スピーカーから大声が響いた。
『一夏ぁっ!』
声の主は箒、発信源は中継室のようだ。
『男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
肩で息をしながら大声を上げる箒。ゲルズゲーは中継室にビームライフルを向け、引き金を引こうとしていた。
「まずい! 行くぞ、スウェン!」
「了解」
エールストライカーからガンバレルストライカーへ換装し、バーニアを噴射し加速する。
「行け……!」
4基のガンバレルは本体から切り離され、有線誘導による操作が始められた。ガンバレルはゲルズゲーの頭上へと行き、レールガンが展開され、ミサイルハッチが開かれる。
ガンバレルからレールガンの弾丸とミサイルを発射するが、ゲルズゲーはそれを各バーニアを吹かしながら姿勢を変えつつ回避する。
「よくあれをかわす……!」
初見であれほどの弾幕をかわすのは容易ではない。やはり無人機の線が濃いとスウェンは判断し、攻撃の手を緩めずに続ける。
ゲルズゲーは攻撃の穴を見つけ、ビームライフルを乱射する。
「織斑、回避しろ!」
「わかってる!」
射線に入らないように、スウェンと一夏は回避行動を。スウェンは距離を取り、再びガンバレルを用い攻撃する。縦横無尽に飛び回るガンバレルはゲルズゲーを何処かに誘導させるように移動させる。
そして、ゲルズゲーが地上に移動し脚が地面についた瞬間
「うぉおおおお!!!!」
一夏は瞬時加速を使いゲルズゲーへ一気に接近、雪片弐型を振り下ろす。ゲルズゲーは陽電子リフレクターを展開し一夏の攻撃を防ぐ。
「ぐうう……! スウェン!」
一夏の上空へ居たスウェンはガンバレルをゲルズゲーの背後へ向かわせ、脚部に向けて一斉砲火する。ゲルズゲーの足元が崩壊し体勢を崩す。陽電子リフレクターは体勢が崩れた事によって解除される。
「これでどうだあぁぁ!!!!」
ゲルズゲーの右肩から先を斬り上げ、高く飛ばされた左腕は爆散し切断された面から弾けた音がし、ゲルズゲーはがくりと体を落とす。
「やった……のか?」
そう言い、一夏が近づこうとした瞬間
「くっ!」
「うわっ!!」
一夏はスウェンに突き飛ばされた。金属が強く削られるような音がし一夏がそちらを向くと、ゲルズゲーのクローに切り裂かれたスウェンが居た。
ゲルズゲーは左腕に持っていたビームライフルを投げ捨て、スウェンと殴り飛ばし。アリーナの壁に背を強く打ち付けたスウェンに向けて、クローに内蔵されたビーム砲を放つ。
「ぐあぁあ!!」
直撃を受けたスウェンは悲痛な声を上げ、ストライクが強制解除されその場に倒れこんだ。
「このおおお!!!!」
スウェンが倒された事に怒り、一夏は最後の一撃をゲルズゲーに与える事に成功した。ゲルズゲーのバイザー部は光を無くし、地面へと堕つ。今度こそ機能を停止した。
/※/
「……」
「目が覚めたか」
スウェンはゆっくりと目を覚ました矢先に、千冬の声が耳に入った。辺りを見渡すとそこは保健室のようだ。
「奴は?」
「織斑が止めを刺した、心配するな」
「そうですか……」
「全く、織斑共々無茶をしてくれる」
「……申し訳ありません」
ベッドに寝ているため頭を下げれないが、スウェンは目を閉じながら言う。千冬はため息を吐きながら
「だが……お前等が無事で何よりだ。それにお前のお陰で一夏は助かった……感謝している」
「俺は……友人を助けただけです。礼を言われるような事など」
「そうか。それと、お前には言わなければならないことがある」
「?」
「お前のIS、ストライクのダメージレベルがDを凌駕してしまった。破損状況も酷く、予備パーツを用いてもどうなるか……」
「つまり……」
「ストライクはもう動かない」
後書き
告げられた事実。その時、スウェンは……。
次回の更新から、一週間に1、2の回更新となりますのでご了承ください。
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