ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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GGO編ーファントム・バレット編ー
45.依頼
前書き
第45話投稿!!!
菊岡に集められたシュウとキリト。
その目論見とは?
「いらっしゃいませ。お二人様でしょうか?」
上品なクラシックが流れる上品なマダムたちが八割を占める俺たちには場違いな喫茶店に俺とキリトは侵入した。
ウエイターさんに、待ち合わせです、と答え広い喫茶店を見渡すと、すぐに、奥まった窓席から無遠慮な大声が聞こえた。
「おーいキリトくん、シュウくん、こっちこっち!」
もともと場違いな場所で場違いな服装の俺たちにさらに視線が集まる。足早に声のするテーブルに座りウエイターさんがお絞りとお冷や、メニューを差し出す。
「ここは僕が待つから、何でも好きに頼んでよ」
「言われなくてもそのつもりだ」
「それじゃあ、お構いなく」
メニューに目を通すが聞き覚えのないメニューたちの名が大半を占めている。知っていて......ショコラやミルフィーユと言った単語しかわからない。
「ええと.......パルフェ・オ・ショコラ......と、フランボワズのミルフィーユ.....に、ヘーゼルナッツ・カフェ」
とキリトがどうにか噛まずに言ったメニューの合計額は3900円.......ふざけてるのか!
ウエイターさんが、そちらは?、と聞いてくる。特に注文も決めていない俺は、同じ注文で、と簡略化した。
「かしこまりました」
ウエイターさんが退場し、ようやく一息ついて顔をあげる。
どっさりと生クリームの乗った巨大なプリンを食べている男、菊岡誠二郎。太い黒縁眼鏡にしゃれっ気のない髪型、キマジメそうな線の細い顔立ちは、とてもそうは見えないが国家公務員のキャリア組なのだ。
長ったらしい名称の通称《仮想課》という場所に所属している。
プリンの最後の一口を口に運ぶと、無邪気な笑みを見せて顔をあげる。
「やあキリトくん、シュウくん、ご足労願って悪かったね」
「そう思うなら銀座なんぞに呼び出すなよ」
「この店の生クリーム、絶品なんだよねえ。シュークリームも頼もうかな.......」
俺はため息混じりに言った。
「......シュウって呼ばれる理由はない気がするんだが」
「つれないなぁ。一年前、病院のベッドで目覚めた君のもとに、真っ先に駆けつけたのは僕じゃないかい」
「それは、キリトのことだろ」
菊岡は、そうだったかな、と笑いながら誤魔化す。
確かに俺は菊岡と一年前に関節的には接触しているわけだが......。
一年前、俺はSAOから解放されると真っ先にSAO対策本部へ向かいミサキとの約束を果たすためにSAO内部の情報と引き換えにミサキの居場所を教えてもらった。
その時のキリトの話を聞いた人物がこの男、菊岡だ。
「そろそろ本題に入ってもらえませんかね。.......つっても、どうせまたバーチャル犯罪がらみのリサーチなんだろ?」
キリトがメニューを見ている菊岡にため息をついてから話す。
「おお、キリトくんは話が早くて助かるね」
メニューを閉じ、隣の椅子に置かれているアタッシュケースから極薄のタブレット型端末を取り出す。
俺とキリトは菊岡にアスナとミサキの居場所を規則を破って教えてもらったという借りがある。菊岡はタブレット端末を指でつつきながら話し出す。
「いやあ、それがねえ。ここに来て、バーチャルスペース関連犯罪の件数がまた増え気味でねえ......」
犯罪といえばBFOの逆恨みでルートが行った拉致行動などだろう。
「へえ。具体的には?」
「ええと.......仮想財産の盗難やら毀損の被害届が、十一月だけで百件以上。それに、VRゲーム内のトラブル等が原因で起きた傷害事件が十三件。うち一件は傷害致死......こいつは大きく報道されたからキリトくんとシュウくんも知っているだろうけど、模造の西洋剣を自分で研いで、新宿駅で振り回して二人殺した事件ね。うひゃー、刃渡り百二十重さ三・五キロだって。よくこんなの振れたね」
「ドラックを使って錯乱してたらしいな......。まぁ、救われない話だけど、別にその程度の件数なら........」
「そう、その通り。全国で起きる傷害事件の中で微々たる数だし、これを以ってVRMMOゲームが社会不安に醸成している、なんて短絡的な結論は出しゃしないよ。でもね、キリトくんには前に言ったけど......」
「ーーVRMMOゲームは、現実世界で他人を物理的に傷つけることへの心理的障壁を低くする。それは俺も認める」
その時、ウエイターが俺とキリトの前に皿を二つとカップを一つ並べた。
「以上でお揃いでしょうか」
頷くと、ウエイターは伝票を置き消える。とりあえずナッツの香りが漂うコーヒーを一口含み、話を続ける。
「.......一部のゲームではPK行為が日常化しているし、あれはある意味では、現実的殺人の予行練習だからな。先鋭化したタイトルじゃ、腕を切れば血が噴き出すし、腹を切ればハラワタがぶちまけられる。それに取り憑かれたマニアはログアウトの代わりに自殺したりするらしいからな」
こほん、と咳払いの音でキリトが隣を見ると、マダム二人が物凄い目つきで睨んでいる。
首を縮め、小声で話を続ける。
「毎日あんなことを繰り返してれば、いっちょ現実でやってやろうって奴が出てくるのも不思議はないな」
「対策をうつにも無理だろうな.......」
コーヒーを一口飲み、ケーキをスプーンですくい取り、食べる。
「.......フム」
菊岡は、考え込んだ顔をしたあとテーブルに視線を落とす。
「.......そのミルフィーユおいしそうだね。一口くれないか」
ため息をつき、キリトと顔を見合わせたとともに、皿を菊岡の前に押しやった。するとミルフィーユの半分以上を奪い去っていった。
「しかしねぇ、キリトくん、シュウくん。僕は思うんだけどね......なんでPKなんてするんだろうね。殺しあうより仲良くするほうが楽しいだろう?」
「......アンタだってALOをプレイしてるんだから、少しは解るだろう。フルダイブ技術が出てくるずっと以前から、MMORPGってのは奪い合いなんだよ。さらに言えば、エンディングのないネットゲームにユーザーを向かわせるモチベーションは、突きつければ......優越感を求める本能的な衝動なんだと、俺は思う」
キリトが話し終わるとすぐに俺が口をもぐもぐさせる菊岡の顔を見る。
「この話が何か本題に関係してるのか?」
口の中をカラにしてから菊岡はタブレットを操り、俺たちに見せる。
「それじゃあ本題に入ろうか」
そこには、液晶画面に見知らぬ男の顔写真と、住所等のプロフィールが並んでいる。長髪、銀縁の眼鏡、頬や首にはかなりの脂肪がついている。
菊岡はタブレットに指先を走らせる。
「先月......十一月の十四日だな。東京都中野区某アパートで、掃除をしていた大家が異臭に気付いた。発生源と思われる部屋のインターホンを鳴らしたが返事がない。電話にも出ない。しかし部屋の中の電気は点いている。これはということで電子ロックを解錠して踏み込んで、この男.......茂村保二十六歳が死んでいるのを発見した。死後五日半だったらしい。部屋は散らかっていたが荒らされた様子はなく、遺体はベットの横になっていた。そして頭に......」
「アミュスフィア、か」
キリトが呟く。
菊岡は軽く頷く。
「その通り。ーーすぐに家族に連絡が行き、変死ということで司法解剖が行われた。死因は急性心不全となっている」
「心不全?ってことは心臓が止まったって事だろう?何で止まったんだ?」
「解らない」
俺とキリトは言葉を失う。
「死亡してから時間が経ちすぎていたし、犯罪性が薄かったこともあってあまり精密な解剖は行われなかった。ただ、彼はほぼ二日に渡って何も食べてないで、ログインしっぱなしだったらしい」
ログインしっぱなしは珍しくない。仮想世界で食べ物を食べれば偽りの満腹感が発生し、数時間は持続する。だが、そんなことを繰り返せば当然、体に悪影響を及ぼす。
「それがどうしたんだ?VRMMOがと何の関係が?」
菊岡はちらりと端末を見ると少し躊躇ってから口を開く。
「《ガンゲイル・オンライン》って知ってるかい?」
「ガン......げいる?」
「日本で唯一《プロ》がいるMMOゲームだ。プレイしたことはないけど」
キリトがガンゲイルの説明をする。
「彼は、ガンゲイル・オンライン.......略称GGO中ではトップに位置するプレイヤーだったらしい。十月に行われた、最強者決定イベントで優勝したそうだ。キャラクター名は《ゼクシード》」
「死んだ時もそのGGOに?」
「いや、どうもそうではなかった。《MMOストリーム》というネット放送局の番組に、《ゼクシード》の再現アバターで出演中だったようだ」
「あれか......Mストの何かの回にゲストが落ちて中断したって話を聞いた気が.....」
「多分それだ。出演中に心臓発作を起こしたんだな。ログで、秒に至るまで時間が判っている。で、ここからは未確認情報なんだが.......ちょうど彼が発作で起こした時刻に、GGOの中で妙なことが有ったってブログに書いてるユーザーがいるんだ」
「「妙?」」
声を合わせ言う。
「MMOストリームはGGO内部でも中継されてるんだろう?」
「ああ。酒場とかで見られる」
「GGO世界の首都、《SBCグロッケン》という街のとある酒場でも放送されていた。で、問題の時刻ちょうどに、一人のプレイヤーがおかしな行動をしたらしい」
「おかしな行動?」
「なんでも、テレビに映っているゼクシード氏の映像に向かって、裁きを受けろ、死ね、等と叫んで銃を発射したということだ。それを見ていたプレイヤーの一人が、偶然音声ログを取っていて、それを動画サイトにアップした。ファイルには日本標準時のカウンターも記録されていてね......。ええと.......テレビへの銃撃があったのが、十一月九日午後十一時三十分二秒。茂村くんが番組出演中に突如消滅したのが、十一時三十分十五秒」
「.......偶然だろう」
「にしては時間が一致しすぎているな」
その後の話を聞くに他にもゼクシードのような事件が一件起きていたらしい。
変な行動を起こした起こしたプレイヤーの名前は《死銃》......《デス・ガン》
死銃の銃撃と二人の心臓発作の一致はただの偶然のなのか?
それが偶然じゃないとしたら..........
「ガンゲイル・オンラインにログインして、この《死銃》なる男と接触してくれないかな」
にっこりと、実に無邪気な笑顔で菊岡が笑う。
「接触、ねぇ?ハッキリ言ったらどうだ、菊岡サン。撃たれてこい、ってことだろう、その《死銃》に」
「いや、まあ、ハハハ」
「やだよ!何かあったらどうするんだよ。アンタが撃たれろ。心臓トマレ」
キリトが立ち上がろうとするが菊岡が袖を掴む。
「さっき、その可能性はないって合意に達したじゃないか、僕らは。それに、この《死銃》氏はターゲットにかなり厳密なこだわりがあるようだ」
「.......こだわり?」
キリトが腰を下ろす。
「イエス。ゲーム内で《死銃》が撃った二人、《ゼクシード》と《薄塩たらこ》はどちらも名の通ったトッププレイヤーだった。つまり、強くないと撃ってくれないんだよ、多分。僕じゃあ何年たってもそんなに強くなれないよ。でも、かの茅場氏が最強と認めた君たちなら......」
「俺でも無理だよ!GGOってのはそんな甘いゲームじゃないんだ」
キリトが少し声をあげ、またお隣のマダムに睨まれる。
「菊岡サン、俺たちは剣は使えても銃は専門外だ」
「確かにそうだが、キリトくんはわからないがシュウくんは以前、BFOというゲームをやっていたと聞いているが.......」
菊岡が少しにやけたような顔で俺を見る。
「確かにあのゲームは剣無しで戦ったけど、あの時は手刀があったからさ」
ハハハ、それじゃあしょうがないね、と菊岡は笑う。一瞬なんかムカついたので殴ってやろうと思ったが拳を抑える。
「まあ、真実を掴むには、ゲーム内で直接の接触を試みるのが一番いいと思うんだよ。もちろん万が一のことを考えて、最大限の安全措置は取る。キリトくんとシュウくんには、こちらが用意する部屋からダイブしてもらって、モニターしているアミュスフィアの出力に何らかの異常があった場合はすぐに切断する。銃撃されろとは言わない、君たちの眼から見た印象で判断してくれればそれでいい。ーー行ってくれるね?」
なんか嫌だとは言えないような空気になり、俺も真相を知りたいと思っている。
SAO同様にまたも仮想世界の死が現実となっているこの事件を俺は.........
「......解ったよ。行くだけ行ってやる」
俺より先にキリトが結論を出した。相棒が行くのに俺も行かないわけにはいかないだろ。
「俺も行くよ」
菊岡は、にっこり笑った。
「ありがとう、キリトくん、シュウくん」
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