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戦国異伝

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第百十五話 大谷吉継その六

「忙しいぞ」
「わかっています。そしてそれこそが」
「よいというのじゃな」
「働き甲斐のある場所にと思っていました」
 仕えるならばというのだ。
「ですから」
「ではその言葉通りにしてもらうそ」
「はい」
 こうして大谷は早速伊勢で働くことになりその国に向かった。信長は岐阜において早速近江に向かう身支度に入った。その中で。
 身支度を手伝う帰蝶にふとこんなことを言われた。
「近江といえば気になることがあります」
「延暦寺か」
「はい、あの山は近頃どうなのでしょうか」
「大人しいのう」
「僧兵が都に来たりはしませぬか」
「うむ、それはない」
「それはいいことですね」
「僧兵達が無用になる様にもしておる」
 それが検地の一面だ。荘園も検地に含めることにより寺社が持っているそれを取り上げているのだ。
 そしてその寺社に逆に祭りを開くことを許し檀家を与えている、信長は硬軟両方で寺社勢力を弱めにかかっているのだ。
 それはかなり精巧している、だがだった。
「だがそれでもじゃ」
「延暦寺はですか」
「それに金剛峰寺と本願寺じゃな」
 この二つの寺もだった。
「他の寺社は素直じゃし順調じゃが」
「その三つの寺はですか」
「そおそも手もつけておらぬ」
「まだですか」
「大き過ぎる。下手に手を出しては危うい」
 この判断からまだ三つの寺には手を出していないというのだ。
「他の寺社を埋めていってそれからじゃ」
「本丸ですか」
「この三つ、特に本願寺はな」
 摂津にあるこの寺が信長が一番警戒している相手だった。
「摂津から近畿全土、東海に北陸に力が及んでおる」
「そして一機を起こしますね」
「起こされては面倒じゃ。畠山家はそれで滅んだ」
 加賀の守護である。一向一揆に攻め滅ぼされそれ以来加賀の国は一向宗のものとなっているのだ。
 そういうことを知っているからこそ信長も今こう言う。
「相手にするには慎重にじゃ」
「ことを運ばれますか」
「一向宗の門徒は織田の領内にも多い」
 それもかなりの国に及んでいる。
「あの寺とは戦をしたくない」
「そもそも殿は戦を好まれていませんね」
「出来るだけせぬに限る」
 これが信長の戦に対する考えである。
「せねばならぬ場合はするがな」
「それでもですね」
「戦は人も死ぬし色々血生臭くなる」
 やる時は一気にするが不要な血を流すことは好まない、信長はこの点において一貫している男であるのだ。
 だからこそ彼は言うのだ。
「銭も米もかかるしいいことはない」
「だからこそ避けられるならばですね」
「避ける」
 やはりそうするというのだ。
「だから大和や播磨がああして戦を交えず入ったことは嬉しい」
「そして戦になろうとも」
「すぐに。出来るだけ血を流さずに終わればそれでよい」
「戦はすぐに終わらせるべきですか」
「長くするものではない」
「では一向宗とも」
「あの者達とことを構えればすぐには終わらぬ」
 一向宗の勢力の大きさと士気を考えればこれは容易にわかることだった。しかも一向宗はその数と信仰だけではないのだ。
「あの寺には厄介な者達も従っておる」
「そういえば紀伊に」
 そう聞いてすぐに察しがつくのが帰蝶だ。伊達に道三の娘、信長の妻となっている訳ではない。
「雑賀衆という一向宗の門徒達がいますね」
「知っておるか」
「忍の者達でもあるそうですね」
「只の忍ではない」
 これを言うと織田家が擁している飛騨者達もである。尚織田家は滝川のつてから甲賀衆を取り込みだしてもいる。 
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