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魔法科高校の神童生

作者:星屑
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Episode6:九十九家

 
前書き
今回の話は主人公の家の説明的なものです。 

 
「んん?あれ、姉さん?」


「あら、隼人じゃない」


 鋼との模擬戦の次の朝。日課となっているランニングから帰ると、我が家には昨日魔法大学の研修に行っていたはずの姉さんが帰ってきていた。


「研修じゃなかったの?」


「ああ、それなら昨日終わったわよ。日帰り、でさっき戻ってきたトコなの」


「なーる…じゃあ、お帰りなさいだね」


「ええ、ただいま」


 ニッコリ微笑んだ女の人の名前は九十九スバル(つくもすばる)。国立魔法大学に通う一年生で、俺の姉。そして今はもう隠居して長期旅行に行っている両親に代わる九十九家の当主でもある。だが、大学生、ましてや魔法大学に通っているということで家を空けることも多い。その場合には、俺が代理で当主の座についている。


「そういえば昨日は入学式だったのよね……どうだった?」


 言外に、『あなたに敵いそうな人はいた?』と聞いてくる姉さんに、俺は苦笑いしながら天然水の入ったペットボトルに口をつけた。


「……ぷはっ。そりゃ、いっぱいいたよ。特に、『司波達也』と『司波深雪』って二人のサイオン保有量が凄かったね」


「へえ……一科生なの?」


「『深雪』さんは一科生で『達也』は二科生だよ」


 それを聞いて、姉さんがおもしろそうに唇を吊り上げた。


「ふふふ。あなたの学年も面白そうね」


「……面倒ごとが起こらなければいいけどね」


 今、この家の中には俺と姉さんだけだ。父さんと母さんはどっか旅行に行ってるし、うちは他の百家のように金持ちではないから、メイドやら執事やらを雇う金もない。


「で、朝飯食った?」


「プリーズ」


「りょーかい……」


 姉さんは魔法の技術のレベルは凄いのだが、家事スキル、主に料理に関してはこれでもかという程に低レベルだ。そのため、母さんがいないときは必然的に俺が家事当番になってしまうのだ。ニコニコ笑って手を振る姉さんに溜め息を零し、俺は台所へ向かった。

















                    ☆☆☆


「ああ、そうだ。隼人、『ブランシュ』に動きはあった?」


 俺の作った炒飯を頬張りながら姉さんは小首を傾げた。
 『ブランシュ』、というのは裏の世界では有名な『反魔法国際政治団体』だ。世界で魔法師と、そうでない人との差別を無くす、ということを掲げて暗躍する所謂テロリスト。言ってる事はスカスカだが武力行使に移られたら結構面倒くさい面もある、とことんダルい組織だ。全く、魔法を否定する人間が魔法を使うんじゃないっての。
 それに対して、九十九家はブランシュと同じ裏の世界では『掃除屋』と呼ばれている。勿論のこと、それはゴミ掃除ではなく『暗殺』や『抹殺』のほうだ。依頼があり、理に叶っていて、依頼金を貰うことができればどんな人間でも殺す。例えそれが、この国の長であろうとも。その非情な仕事を生業としている家、それが九十九家の真の姿だ。
 今、我が九十九家は最近活動が活発化してきたブランシュをマークしている。誰が依頼したわけでもないが、世の、いやこの国の風紀を乱すつもりなら、それは我が九十九家の抹殺の対象となる。


「依然、変わりなく活動は活発化してるね。しかも、最も活発なのがここ日本支部ときた」


 俺の報告に、姉さんは深々と溜め息をついた。


「……不謹慎かもしれないけど、全く面倒くさい連中ね」


「全くだよ。魔法を否定する、とか言いつつ構成員はド三流とはいえ魔法を使う。結局は、なにを考えているわけでもなくただただ世界の天秤を狂わす馬鹿な連中だ」


「隼人、それは言い過ぎよ」


 俺を嗜める姉さんに謝ってから、俺は隠れて溜め息をついた。
 この国において、魔法師とそうでない人の差別はない。むしろ、本当はその逆、と言ったほうが正しいくらいだ。だが、表立った『差別』としてあるのは、魔法師の中での話だろう。優れているか、そうでないかの優劣。それが最も色濃く表れているのは、俺がこれから通うことになる『魔法科高校』だろう。詳しく言うと、一科生と二科生のことだ。
 一科生には、教師からの直接的な指導を受けられるという『権利』があるが、二科生にはそれがない。魔法大学への進学を期待された一科生と、その『補欠』としてしか意味合いのない二科生。その差別意識は、昨日のあの座席順を見た限りでは教師よりも生徒のほうが強い。
 一科生は二科生のことを自らの『補欠』としか見ておらず、雑草(ウィード)と蔑む。
 二科生も二科生で自らのことを自分で『補欠』、雑草(ウィード)、劣等生と蔑み、そして一科生と自分を見比べ、劣っていることを自覚し、やがて『自分には才能がない』と逃げ、そして努力することを諦める。
 それが、自分で自分を差別しているという、なによりもの証拠だということに気づかずに。


「はーやーと!なに考え込んでるのよ?」


 むぎゅ、と頬を引っ張られて俺は半ば無理矢理に意識を思考の海から引き上げられた。顔を上げてみれば、心配そうに俺の顔を見る姉さんの顔。


「あ、はは。いや、なんでもないよ」


「はぁ…またなんか一人で溜め込む。そうやってると、いつか、死ぬよ?」


「はいはい、気をつけておきます。じゃ、これから学校だから!」


 まったく、仕方ないわねぇ、という溜め息混じりの声を余所に、俺は鞄を手にとって玄関の扉を開けた。









                    ☆☆☆





 現代に昔のような『電車』は存在しない。現在の主要な移動手段は電車だが、今は『キャビネット』と呼ばれる中央管制された二人乗りまたは四人乗りのリニア式小型車両が現代の主流だ。
 取り敢えず俺は一人だから二人乗りのに乗り込んでから数分が経って、ようやく高校近くの駅についた。途中、どこかの車両から異常に活性化されたサイオンが視えたが、それはすぐに治まった。キャビネットから降りると、昨日友達になったばかりの人が前を歩いているのが見えた。



「やあ、おはよう達也」


「隼人か、おはよう」


 ポン、と肩を叩いて挨拶すると、友達――司波達也は振り返って俺に挨拶を返した。


「お兄様、その方は……?」


 と、そこで達也の横にいた少女――新入生総代、司波深雪さんが微笑んで達也に問いかけた。うん、相も変わらずお美しい。才色兼備、とはこの人のことだろうなぁ。


「ああ、コイツは九十九隼人。昨日知り合ったんだ」


「どうも、九十九隼人です。よろしくね?」


「司波深雪です。よろしくお願いいたします」


 恭しく腰を折る深雪さんに俺は笑みを浮かべた。こういった品のある動きが完全に染み付いているような動きだ。ここまで来れば、どこかのお金持ちの令嬢、などではないかと疑ってしまう。


「えっと、深雪さん…でいいかな?」


「はい。では私も隼人さんと呼ばせていただきますね」


 と、こんな風に、俺の高校生活は和やかに始まった。












                    ☆☆☆





 教室のドアを開けると、雑然とした会話が耳に入ってきた。どうやら鋼はまだ来ていないみたいだから、まずは自分の席を探した。九十九隼人だから頭文字は『つ』。廊下側の席から探してみると、予想通りすぐに見つかった。見つけた自分の席に腰を下ろして、溜め息をつく。高校生活の初日だからということで、テンションが上がるのは分かる。それによって意図せずにサイオンが活性化されてしまうのも無理はない。しかし、『気持ち悪い』という感情は抑えられない。
 俺はBS魔法師だ。その能力で、イデアに存在するサイオンが視える。魔法は感情によってその威力自体も左右される。魔法の元になるのはサイオン。感情が昂ぶれば昂ぶるほど、サイオンは活性化され、俺の目に強い影響を与える。on、offができるものの、完全にはシャットアウトすることはできず、現在も俺の目には様々な色彩が混ざり合う世界が写っていた。


「……うえっぷ」


 思わずおくびを漏らしたそのとき、後ろから忍び寄る影があった。俺には無駄だっての。


「なんだいエイミィ?」


「ええっ?」


 攻撃される前に撃退する。うん、兵法の常識だね。俺の背中を強襲しようとしていた赤髪のクラスメイト、明智英美。彼女とは幼少時代から一緒だったために性格及び攻撃パターンは把握済み。彼女はこのような場合、背後からの奇襲が多い。ちなみにエイミィは彼女の愛称だ。


「やっぱり隼人に奇襲は無理かぁ…」


「他の作戦を考えてくることだね」


 と、こんなふうに気を紛らわすこともできる。



































――to be continued――


 
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