| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーロボット大戦パーフェクト 完結篇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百十六話 壊れゆく人形達

            第百十六話 壊れゆく人形達
 ルアフは宮殿の中を逃げていた。
 身体がふらふらとしている。あちこちに傷を負っている。
 そうしてだ。呻きながら言うのだった。
「まさかゲベルガンエデンは僕を」
 よろめきつつ進みながらの言葉だった。
「力が」 
 そして言うのだった。
「力が抜けていく」
 言いながらもだ。地下聖堂へと進む。豪奢かつ壮麗な宮殿の中をだ。
 その彼の前にだ。彼女が現れたのだった。
「!」
「アルマナか」
「あの、陛下」
「生きていたのか」
「私も念者ですから」
 こう答えるアルマナだった。
「この位のことは」
「何故ここに来た」
「あの、陛下」
 傷を負っているルアフへの言葉だった。
「最早戦いの決着は着きました」
「いや、まだだ」
「ですから。もう何処かへと」
「落ち延びよというのか、僕に」
「あの方々も陛下がこの星を去られればです」
「そしてガンエデンを捨てればというんだね」
「はい」
 こくりと頷いてだ。霊帝に答えるのだった。
「ですから。もう」
「ズフィルードの巫女アルマナ=ティクヴァー」 
 しかしだ。ルアフは答えずにだ。
 彼女の名前を読んでだ。鋭い目になって言うのだった。
「御前の役目はだ」
「私の役目は」
「ズフィルードの力を維持する為に」
「ですからそれはもう」
「その魂を以て霊力を補充することだ」
 餌を見る目でだ。アルマナを見ながらの言葉だった。
「ならばアルマナ、御前のその魂」
「ひっ・・・・・・」
 怯えるアルマナを捕まえ。そうして。
「僕の為に使わせてもらおう」
 こうして聖堂に着いてだ。ルアフは何かの力を入れた。しかしだ。
「なっ・・・・・・」
「陛下!?」
「ま、間に合わないというのか」
 倒れ込みながらだ。言うルアフだった。
「力が、僕の力が抜けていく」
「これは一体」
「念を使い過ぎた様だな」
 ここで何者かの声がした。
「ルアフよ」
「貴様は」
「シヴァーか」
「如何にも」
 仮面の男だった。その男こそだ。
 シヴァー=ゴッツォだった。聖堂に彼が姿を現したのだった。
 彼はまずアルマナにだ。一礼してから述べるのだった。
「アルマナ姫もご健勝で何よりです」
「どうしてここに」
「シヴァー、貴様何故」
 ルアフは倒れ込みながらも彼に顔を向けて言った。
「ここに来たのだ」
「・・・・・・・・・」
 シヴァーはそのルアフに無言で歩み寄りだ。そうして。
 その身体を引き起こしてだ。思いきり殴り飛ばしたのだった。
「ぐはっ・・・・・・」
「無様だなルアフ」
 シヴァーは殴りつけたそのルアフに対して冷たく言った。
「これがバランの拳ならばだ」
「あの愚か者かい」
「貴様は血反吐を吐き息絶えていただろう」
「貴様・・・・・・」
「どうしたのだ、ルアフよ」
 シヴァーは冷たい怒りに満ちた目でそのルアフにまた言った。
「神ならばだ」
「そうだ、僕は神だ」
「その神の力でだ」
 また倒れ込んでしまったルアフを見下ろしながらの言葉だ。
「私に神罰を下してみよ」
「ならば・・・・・・うっ」
「できまい。その念を使い尽くした身体ではだ」
「おのれ・・・・・・」
「それは適わぬことだ」
「僕を、よくも」
「あの、シヴァー」
 アルマナがそのシヴァーに問うた。166
「これは一体」
「帝国の歴史の中で」
 シヴァーはそのアルマナに話すのだった。
「霊帝ルアフ、つまりはだ」
「今の」
「そうだ、今のガンエデンの神子が現れたのはだ」
 どうかというのだ」
「五百年前のことだ」
「えっ、そんな」
 それを聞いてだ。アルマナはだ。
 驚きの声をあげだ。シヴァーに問い返すのだった。
「霊帝ルアフはバルマー創世と共に誕生していたのでは」
「それは偽りの伝承だ」
「偽りの」
「全ては自らを神の位置に置く為に」
 そのルアフを見下ろしながらの言葉だ。
「このルアフが画策したことなのだ」
「そうだったのですか」
「そうだ、この男は神などではない」
 シヴァーはアルマナにそのことも話した。
「ただの」
「シヴァー、貴様」
 ルアフがそのシヴァーに対して問う。
「何を知った」
「何をか」
「そうだ、エツィーラとつるみ何を知った」
「このバルマーとガンエデンの全て」
 シヴァーはこう答えるのだった。
「そして」
「そして?」
「貴様が人間に過ぎないこともだ」
 それこそがだ。彼の言いたいことだった。
「全て知ったのだ」
「無礼な!」
 ルアフがシヴァーの今の言葉に怒りを見せる。
「僕は神だ」
「まだそう言うのか」
「ガンエデンの神子だぞ!」
「ならばだ」
 またルアフを殴るシヴァーだった。そのうえでの言葉だった。
「この老いた拳に何故屈する」
「うう・・・・・・」
「貴様が本物の神ならばだ」
 殴り続ける。そのうえでの言葉だった。
「貴様は人間として生まれ」
 言いながら殴っていくシヴァーだった。
「その念の力によってガンエデンに選ばれたに過ぎん」
「うう・・・・・・」
「では陛下は」
「何度も言うが人間だ」
 シヴァーはアルマナにも話した。
「所詮。同じ人間なのだ」
「では我々は」
「それよりもだ」
 シヴァーの言葉が変わっていた。その言葉は。
「わかるか、これが」
「シヴァー、貴方はまさか」
「私がどれだけの怒りと憎しみに耐え」
 ルアフを攻撃しながら言うのだった。
「今日という日を待っていたか!」
「うわあああああっ!!」
 ルアフを殴り続ける。また殴り飛ばした時にだ。
 アルマナがルアフの前に来てだ。彼を庇いながら言うのだった。
「止めなさい、シヴァー!」
「何をするか、アルマナ!」
「このままでは陛下は」
「そこをどくのだ!」
 これがシヴァーの返答だった。
「この男が神でないことはわかった筈だ!」
「しかしです!」
「しかし。何だ!」
「最早何の抵抗もできない人を尚も攻撃する」
 今のシヴァーを見ての言葉に他ならない。
「それが正しいのですか!」
「なら言おう!」
 シヴァーもだ。アルマナに激昂して返す。
「この男の名の下にだ!」
「これまでのことですか」
「そうだ、どれだけの臣民の血が流されたか」
 シヴァーが言うのはこのことだった。
「私はその悲劇の歴史を忘れはしない」
「これまでの戦いは」
「そうだ、帝国の繁栄を盾に」
 そしてだ。どうかというのだ。
「無意味な出兵や戦いを命じ」
「では今までのことは」
「守るべき筈の臣民に殉教を強いてきたものだ!」
 それがルアフのしてきたことだというのだ。
「それをしてきた者に!何が!」
「それは・・・・・・」
 ルアフが倒れ込みながらも言う。
「全ては」
「黙れルアフ!」
 またシヴァーがルアフを殴り飛ばした。彼の身体を掴んだうえでだ。
「貴様が虫けらの様に扱ってきた臣民達の前でその言葉が言えるのか!」
「僕は、か・・・・・・」
「御前は神などではない!」
 言う前にそれを否定した。
「御前は人間だ!」
「ば、馬鹿な。僕は」
「御前が神というならだ!」
 それはだ。何かというのだ。
「その傲慢さだけが正真正銘の神だ!」
「うう・・・・・・」
「私はだ!」
 シヴァーの怒りがさらに高まっていた。
「貴様を討つ為に自分の半生を費やしてきた!」
「それは何故なのですか」
「バルマーの為だ」
 これがアルマナへの返答だった。
「今こそこの男からバルマーを取り返す!」
「た、助けてくれ!」
 ルアフは這ってだ。そのうえで逃げようとする。
「僕を助けてくれ!」
「陛下・・・・・・」
「アルマナよ、見るがいい」
 シヴァーはその這ってでも逃げようとするルアフを指差しアルマナに告げた。
「この醜い姿をだ」
「今の陛下を」
「我等をたばかった偽りの神」
 その者こそがだ。
「霊帝ルアフの最期だ!」
「ゲベルよ!」
 ルアフは助けを求めだした。
「アウグストスよ!ズフィルードよ!」
 そういった者にだ。救いを求めていた。
「僕を助けて!僕を助けてくれえええっ!」
「消えろ、ルアフ!」
 シヴァーはそのルアフの背にだ。
 取り出した大剣を突き刺しだ。止めとしたのだった。
「これで終わりだっ!!」
「ああああ・・・・・・」
「これで終わったのだ」
 シヴァーはルアフが事切れるのを見届けてから言った。
「今からバルマーは過去からの支配を脱しだ」
「そうしてなのですね」
「新たな歴史を歩むのだ」
「ですが貴方は」
「私は。何だというのだ」
「それをするにはあまりにも」
 アルマナはさらに言おうとする。しかしだ。
 そこにだ。キャリコとスペクトラが来たのだ。彼等は素顔を晒している。
 そのうえでシヴァーの前に控えだ。こう言うのだった。
「閣下」
「ロンド=ベルが来ております」
「そうか。ルアフを追ってだな」
 それがどうしてか。シヴァーはすぐに察して述べた。
「それによってだな」
「おそらくは」
「それでかと」
「わかった。それではだ」
「迎撃の準備は既に完了しております」
「何時でも」
 二人はすぐにシヴァーに答えた。
「後は閣下の御命令だけです」
「それだけであります」
「キャリコ戦爵、スペクトラ戦爵」 
 アルマナは二人の素顔を見てだ。その目を驚かせていた。
 二人もそれに気付いてだ。彼女に言うのだった。
「姫、どうされました?」
「我々のことでしょうか」
「今の貴方達は」
「そうでしょう。今の私達はです」
「素顔なのですから」
 こう返す二人だった。
「驚かれるのも無理はありませんね」
「それは」
「申し訳ありません」
 アルマナは彼等に謝罪の言葉を述べた。
「それは」
「いえ、構いません」
「御気になさらずに」
 二人はそのアルマナに穏やかに返した。
「普段がそうでしたから」
「それも無理はありません」
「左様ですか」
「キャリコ、スペクトラ」
 シヴァーはその二人に指示を出した。
「御前達はエイスと共に奴等を迎え撃て」
「バルシェムの全軍を率いて」
「そのうえで、ですね」
「そうだ。そうして戦うのだ」
 そうしろというのである。
「私にはまだ時間が必要だ」
「了解しました」
「それでは」
 二人はこう応えた。そしてすぐにだった。
「私としましてもあの軍にはです」
「私もです」
 二人は同時に言うのだった。
「存在を許せぬ者がおりますので」
「戦わせて頂きます」
「存分に戦うがいい」
 シヴァーの彼等への言葉はハザルとは違っていた。
「戦い、勝利してだ」
「はい」
「そのうえで、ですね」
「そうだ。己の存在を確立せよ」
 こう告げるのだった。
「よいな」
「有り難き御言葉」
「それではその様に」
 一礼してからだ。二人はシヴァーの前から消えた。その二人を見送りながらだ。
 アルマナはだ。シヴァーを見て言うのだった。
「貴方は彼等を」
「人形に意味を与えることは生命を吹き込むことと同じだ」
 こうアルマナに答える彼だった。
「ハザルと同じだ」
「しかし貴方はハザルを」
「そのことについて答えるつもりはない」
 シヴァーはハザルについてはこう言うのだった。
「しかしだ。私はだ」
「どうだというのですか」
「私はそれをやったまでに過ぎない」
 キャリコとスペクトラ達のことに他ならない。
「そしてだ」
「あの方々ですか」
「霊帝ルアフを倒した今」
 どうかというのだ。
「後はこの星に降りた異物を排除する」
「では貴方もまた」
「全ては決められしこと」
 彼の中ではだった。
「そしてそれからはじまるのだ」
「貴方の言う新しいバルマーがだというのですね」
「そう。そして」
「そして?」
「アルマナ姫よ」
 彼女を見ての言葉だった。
「その為に力を貸してもらおう」
「貴方も。また」
 こうしてだった。シヴァーはアルマナを連れて何処かへと消えた。そしてその頃。
 ロンド=ベルは地下聖堂に来ていた。そこは。
「凄い場所だな」
「ああ、戦艦まで入られるなんてな」
「凄い場sとだな」
「しかも全部の戦艦が自由に動けるなんて」
「これがバルマー帝国の霊帝の宮殿か」
「そうなんだな」
「けれどよ」
「ここは」
 光竜と闇竜の声は曇っている。
「何か気持ち悪いわよ」
「不気味な場所です」
「センサーでは感知できない何かがです」
「この空間には存在しています」
「目にも見えないが」
「それでもここには」
 氷竜、炎竜、雷龍、風龍の言葉だ。
「聞こえませんし」
「匂いもありません」
「ですが間違いなく」
「この空間には」
「マイクも感じちゃってるもんね!」
 マイクも目を困らせている。
「ここ絶対にやばいもんね!」
「ああ、そうだな」
 ニュータイプのジュドーの言葉だ。
「ここには嫌な気が溜まってやがるぜ」
「表現しにくいですけれど」
 トビアもそれを感じ取っていた。
「ここには確かに」
「この感覚はあれだろ」
 忍の言葉だ。
「ムゲの時と同じだぜ」
「ムゲ=ゾルバトス帝国」
「あの時とか」
「そういえば確かに」
「この感触は」
「それだよな」
 誰もがだ。忍のその言葉に頷く。そうしてだ。
 沙羅がだ。言ったのである。
「この嫌な気配は本当にそうだね」
「ううん、嫌だなあ」
 雅人はあからさまに嫌悪を見せていた。
「あんな連中とまたなんて」
「全くだな」
 亮も同じ意見だった。
「できるなら断りたいがだ」
「生憎そうも言っていられん」
 アランの言葉だ。
「霊帝ルアフをここで倒さなければだ」
「そうですね。あの人は」
「放ってはおけない」
 キラとアスランも言う。
「またこの銀河で」
「戦いを起こしかねない」
「それでどうですか?」 
 カトルがマイに尋ねた。
「彼の気を感じますか?」
「いや、それが」
 だが、だ。マイの今の言葉はだ。
 今一つだ。要領を得ないものだった。
「この場に入ってから」
「何か変わったのですか?」
「念が途切れて」
「念が?」
「というと」
「何かあったのか、奴に」
 デュオとウーヒェイはそれを聞いて考える顔になった。
「死んだとかか?」
「かなりの傷だったが」
「そうですね。若しくは」
 シュウがここで言う。
「彼に」
「彼に?」
「というと」
「待て」
 皆シュウの言葉に顔を向けたところでだ。トロワが言った。
「誰かがいる」
「!?」
「誰だ?」
「ルアフか?」
 違った。それはだ。
 まずはあのマシンが出たのだった。
「ヴァイクラン!」
「というと」
「ハザル=ゴッツォのあのマシンに乗っているってことは」
「つまりは」
「そうだ、俺だ」
 エイスだった。仮面の男だった。
 彼が名乗りだ。そして。
 他のマシンも現れた。ゴラー=ゴレムだった。
「いたか」
「あんたもね」
 クォヴレーとセレーナは相手を見ていた。
「貴様もまた」
「ここで決着をつけるつもりなのね」
「そうだ、ここでだ」
「最後にさせてもらう」
 キャリコとスペクトラはそれぞれの相手に告げた。
「貴様との因縁」
「この場でだ」
「望むところだ」
「こっちもいい加減うんざりしていたしね」
 クォヴレーとセレーナも返す。
「この地下聖堂がだ」
「あんた達の墓場になるんだね」
「それはこちらの台詞だ」
「そのまま返させてもらおう」
 これが二人の返答だった。
「異空間ではそうはいかなかったが」
「ここでは違う」
「エイス=ゴッツォ!」
 ルリアは彼に問うた。
「シヴァー直属のゴラー=ゴラムは」
「何だというのだ」
「ルアフに叛旗を翻したのではなかったのか!」
「言うものだな」
「何っ!?」
「つい先程までは我等の陛下」
 エイスがここで言うのはルリアのルアフへの呼び方だった。
「しかし今ではルアフと呼び捨てか」
「奴のことがわかったからだ」
 こうエイスに返すルリアだった。
「あの男は。まさに」
「同じだ」
 エイスは今度はこう言うのだった。
「我等もだ。それは同じだ」
「同じ!?私と貴様等がか」
「そうだ。我等もまたあの男の正体がわかった」
 ルアフのだ。それがだというのだ。
「だからだ。こうしてだ」
「シヴァーに従うというのか」
「如何にも」
「それはわかった」
 大文字は彼等のその言葉は受けた。そのうえでだ。
 あらためてだ。エイスに問うのだった。
「ではエイス=ゴッツォよ」
「何だ」
「貴官等の目的は何だ」
 大文字がここで問うのはそのことだった。
「それはだ。一体何だ」
「多くは言わない」
 相変わらずだ。感情のない言葉だった。
「来い」
「戦うっていうのか」
「つまりは」
「そうだ」
 その通りだというのだ。
「そういうことだ」
「ちょっと待ってくれないかな」
 万丈がそのエイスに対して言った。
「僕達は霊帝ルアフを追ってここに来たんだ」
「それは知っている」
「そのルアフは」
 万丈は彼のヴァイクランを見据えながら話す。
「君達ゴラー=ゴラムにとっても敵じゃないのかな」
「敵の敵という訳か」
「味方とは言わないさ」
 万丈もだ。その考えはなかった。だがそれでも言うのだった。
「けれど。戦う必要はないんじゃないかな」
「確かにルアフは死んだ」
「そうか、死んだか」
「御前達が殺した」
「そういうことか」
 こう言いはしてもだ。ロンド=ベルの誰もがエイス達を責めなかった。
「自業自得か」
「当然の末路だよな」
「あんな奴はやっぱり」
「ああなるんだな」
「言っておこう」
 エイスがまたロンド=ベルの面々に話す。
「確かにルアフは我等の敵だった」
「しかし」
「俺達もか」
「そう言うのね」
「御前達も敵であることは同じだ」
 これがエイス達の考えだった。
「そしてだ」
「そして、か」
「あの男の命令か」
「シヴァー=ゴッツォの」
「俺が受けた命令はだ」
 それが何か。エイスは話した。
「ここで御前達を潰すことは」
「話は聞いた」
 フォッカーがそのエイスに言い返す。
「ただし何を考えているかは知らん」
「知ってもらうつもりはない」
「それならそれでいい」
 フォッカーもここでは多くを言わない。しかしだった。
 彼等は。あえてこうエイスに告げた。
「だが。俺達も進まねばならん!」
「では来い!」
「全軍攻撃用意だ」
 フォッカーが攻撃命令を出した。
「いいな、この戦いも勝つぞ」
「了解!」
「それなら!」
 こうしてだ。全軍出撃してだ。
 ゴラー=ゴラムとの戦いがはじまった。その最初にだ。
 エイスはだ。クスハを見て言うのだった。
「もう一人のサイコドライバー」
「何っ、一体」
「いい機会だ」
 こうクスハに言うのである。
「御前はスペアとして使わせてもらう」
「スペア!?」
「そうだ。閣下はだ」
 シヴァーのことをだ。言うのである。
「サイコドライバーを必要とされているからな」
「それを私に」
「そうだ。だからだ」
 それでだとだ。クスハに告げるのである。
「この戦いで捕らえだ」
「そんなことはさせない!」
 ブリットがそのエイスに言い返した。
「クスハは道具じゃない!」
「全ては閣下の為」
「ハザルも、あの男もそうだったというのか!」
「そうだ」
 感情は相変わらずない。その声でだ。ブリットに言うのである。
「役立たずの道具だった」
「あいつは確かに最低の奴だった!」
「許されないことをしてきました!」
 ブリットだけでなくクスハも言う。
「しかしあいつもだ!」
「父と思っていた相手に尽くしたというのに!」
「所詮は人形だ」
「その言葉、まだ言うか!」
「それならです!」
 二人はだ。同時にエイスに告げた。
「念の力を悪用とする貴様等を!」
「私達が討ちます!」
「そうだ、エイス=ゴッツォ!」
 一矢の言葉だ。
「人は愛によってだ!」
「愛か」
「そうだ、力を持ち誰かを守ろうと思う」
 まさにだ。一矢自身のことだ。
「そのうえで強い心を手に入れるんだ!」
「非生産的な話だな」
「そのことを知らない御前はだ!」
 エイスを見据えてだ。一矢は言うのだった。
「俺達に勝つことはできない!」
「ではそれが本当かどうか」
 エイスはまた言う。
「俺が証明してやろう」
「行こうクスハ!」
「ええ、ブリット君!」
 真龍虎王が前に出る。その中でだ。
 真虎龍王になりだ。ブリットが言う。
「この剣で御前を!」
「斬ります!」
 彼等の戦いがはじまった。そしてだ。
 リュウセイもだ。エイスを見据えて言っていた。
「確かにあいつは悪党だった」
「そうだな。最低のな」
「弁解できないまでにだ」
 ライとマイが彼の言葉に頷く。
「あの男はそれでもだ」
「戦士として戦った」
「それを馬鹿にすることはできねえ」
 リュウセイもだ。そのつもりはなかった。そしてだ。
 ゴラー=ゴレムの中に入りだ。彼等を倒しながら言う。
「この連中にも!俺は!」
「そうよ、リュウ絶対に」
「負けねえ!何があろうとも!」
「いいか、リュウ」
「ここでの最後の相手はだ」
「あの男よ」
「ああ、多分そうだな」
 リュウセイは仲間達の言葉に頷く。
「絶対に出て来るな」
「その時は御前に任せる」
 ヴィレッタはこうリュウセイに話した。
「頼んだぞ」
「了解、なら今は!」
 その剣に光を出してだ。ゴラー=ゴレム達を倒していくのだった。
 ロンド=ベルは全軍で彼等を倒していく。そしてだ。
 クォヴレーはやはりだ。彼と戦うのだった。
「貴様と俺、どちらが真なのかをだ」
「ここで確かにするというのだな」
「そうだ」
 これがキャリコの彼への言葉だった。
「その通りだ」
「そうだな。俺もそのつもりだ」
 キャリコもだ。彼に応えて言うのだった。
「俺は人形ではない」
「では何だというのだ」
「イングラム=プリスケンでもない」
 それも否定して言うのだった。
「それを確かにする為にだ」
「俺を倒してか」
「そうだ、俺は俺になるのだ」
「貴様にか」
「そうだ、今の俺はただの人形だ」
 実に忌々しげな言葉だった。
「だが、それがだ」
「俺を倒し」
「そうして俺自身になる」
 こう言ってだ。クォヴレーに攻撃を浴びせていく。
「その悪魔にも。俺は勝つのだ」
「悪魔か」
「そうだ、悪魔だ」
 そのだ。ディス=アストラナガンはそうだというのだ。
「その悪魔に俺は勝つのだ」
「悪魔ではない」
 クォヴレーはそのことを否定した。
「このマシンは悪魔ではない」
「では何だというのだ」
「かつては堕天使だった」
 アストラナガンのことに他ならない。
「しかし今は違う」
「悪魔でないなら何だ」
「ディス=アアストラナガンだ」
 それだというのだ。
「それ以外の何でもない」
「ふん、貴様もわからないのか」
「わかっていないのは貴様だ」
 キャリコのその攻撃をだ。剣で受けて言うのだ。
「貴様は何もわかっていない」
「わかっていないだと。俺が」
「そうだ。貴様と」
 そしてだというのだ。さらにだ。
「あの女もだ」
「あの女だと」
「そうだ、あの女もだ」
 スペクトラを見た。彼女はだ。
 セラーナと戦っていた。その彼女も言うのだった。
「私は貴様を倒しだ!」
「そしてだというのね」
「私になるのだ!」
 やはりだ。こう言うのだった。
「私自身になるのだ!」
「本当に同じこと言うわね」
「同じことだと?」
「そうよ。同じことをね」
 まさにだ。そうだというのだ。
「言うわね」
「キャリコというのかしら」
「そうよ。あいつと同じじゃない」
 セラーナが指摘するのはそのことだった。
「何もかもね」
「私達は人形」
 忌々しげにだ。スペクトラは言うのである。
「その私達が人形から人間になるには」
「私を倒さないといけないというのね」
「キャリコはあの男」
 クォヴレーのことに他ならない。
「そして私は」
「私だっていうのね」
「倒してやる」
 憎しみの言葉に他ならない。
「そして私になるのだ!」
「何か哀れになってきたわね」
「哀れにだというのか」
「そうよ、あんたがね」
 スペクトラを見ての言葉だ。その間にも攻防を繰り広げている。
 互いに剣を出し合いだ。受け合っての言葉だ。
「哀れになってきたわよ」
「私が哀れだというのか」
「そうよ。あんたは私がいないとあんたになれない」
「それはどういう意味だ!」
「言ったままよ!」
 こう返すセラーナだった。その攻撃を受けながらだ。
「あんたはそれでしかあんたになれないけれどね!」
「貴様はどうだというのだ!」
「私は私だけで私なのよ」
 それがだ。セラーナだというのだ。
「そこがあんたと違うのよ」
「何処が違う!私は人形から!」
「そう言うことが何よりの証拠よ!」
「まだ言うか!」
「何度でも言ってやるわよ!」
 言葉でも応酬を続けながらだ。戦う四人だった。そしてだ。
 その中でだ。他の面々もだ。
 ゴラー=ゴラム達と戦い続ける。その戦いは。
「何かこれまでと比べるとな」
「ああ、確かに個々は強いけれどな」
「それでもな」
「数が少ないから」
「まだ楽だな」
「数は力ですからねえ」
 アズラエルはクサナギの艦橋から素っ気無く言う。
「これまでの数は尋常じゃなかったですから」
「全くですよ。いやクサナギも」
 ユウナもアズラエルに続く。
「何度沈みかけたか」
「あの、それでユウナ様」
「それでなのですが」
 そのユウナにだ。トダカとキサカが声をかける。
「その都度騒がれるのはです」
「どうかと」
「いや、僕だってね」
「騒ぎたくはない」
「そう仰るのですか」
「そうだよ。騒ぐ趣味はないから」
 そうした趣味はだ。ないというのだ。
「騒ぎたくて騒ぐことはしないよ」
「昔からピンチになれば狼狽されますから」
「それで大騒ぎされて」
「癖なんだよねえ」
 普段は冷静なユウナであるがだ。それでもなのだ。
 危機になるとだ。こう騒ぐ彼なのだ。
「どうしてもね」
「その都度騒がしくなりますので」
「御気をつけ下さい」
「いや、わかってはいるんだよ」
 ユウナの言葉は言い訳そのものだった。
「それでもね」
「まあユウナさんが騒がないと」
 アズラエルはアズラエルで落ち着き過ぎである。
「何かしっくりいかないものがありますしね」
「貴方の場合は少し」
「落ち着き過ぎです」
 二人はこうアズラエルに話すのだった。
「何があっても動じられませんが」
「どういう心臓なのですか?」
「赤字決算を見れば心臓が止まりますよ」
 そうだというのである。
「それだけで」
「ううむ、赤字決算ですか」
「それですか」
「赤字決算ねえ」
 ユウナもそれについて言及するのだった。
「あれはもう見慣れたねえ」
「見慣れてるんですか」
「いや、あれなんですよ」
 ユウナは苦笑いと共にアズラエルに話す。
「オーブは今戦争が終わって復興中で」
「はい、全くです」
「その予算はもう」
 トダカとキサカも困った顔で話す。
「火の車ですから」
「困ったことに」
「いや、もう破綻寸前なんですよ」
 泣きながら笑って言うユウナであった。
「というか破綻してます」
「地球に帰ってからが大変ですね」
「先が思いやられます」
「国家元首もあれだしねえ」
 ユウナは余計なことも言った。
「いやあ、過労死が心配だよ」
「ユウナ様がおられなかったらオーブは」
「書類の仕事もまともな会談もできなくなりますし」
「いや、どうなるのか」
「心配です」
「おい、待て」
 カガリの声がしてきた。無論彼女も戦っている。
「何故そこで私が出るのだ」
「だから。カガリ経済とか財政とかわかるのかな」
「経済!?財政!?」
 いきなりだ。いぶかしむ言葉だった。
「何だ、それは」
「だからだよ。カガリは難しいことはわからないからね」
「それはどういう意味だ!」
 ユウナの今の言葉にだ。カガリは怒りの抗議の声をあげるのだった。
「私が馬鹿だというのか!」
「ええと、答えはね」
「言え!その答えは何だ!」
「シン君、答えてくれるかな」
「俺か」
「君は元オーブの市民だからね」
 それが理由だというのだ。答えるだ。
「だから頼めるかな」
「ああ、それじゃあな」
「うん、御願いするよ」
「わかったぜ。じゃあ答えるぜ」
 こう言って答えるシンだった。その解答は。
「こんな馬鹿いねえ!」
「それが答えか!」
「手前ちょっとは勉強しろ!小学校一年レベルの成績じゃねえか!」
「そこまで馬鹿ではないぞ!」
「馬鹿だろうが!」
 こう言い返すシンだった。
「この馬鹿!豆腐の頭に角打ちつけてろ!」
「そういう御前がそうなれ!」
「俺はアカデミー首席だ!」
「学業はどうだった!」
「実技が一番なんだよ!」
 こんな喧嘩をする二人であった。しかし言い合いながらもだ。
 戦いは続ける。そうして撃墜していくのだった。
 それを見てだ。ユウナはこんなことを言った。
「確かにカガリは頭はねえ」
「だが、というのですね」
「そうですね」
「うん。戦闘力は高いね」
 国家元首とはあまり関係のない能力はだというのだ。
「何だかんだでカリスマはあるし」
「はい。それはかなりあります」
「見事なまでに」
「国家元首としてはいいかな」
 それは認めるユウナだった。
「まあお婿さんも決まったしね」
「勇者がいますから」
「我々も安心できます」
「有り難う、アスラン君」
 彼であった。
「君のお陰でオーブは救われたよ」
「だから何で俺なんですか!」
 アスランは戦いながらコクピットから叫ぶ。
「何度も言いますけれどまだ俺はですね!」
「うん、地球から帰った時が楽しみだよ」
「まだ言われるんですか」
「まあその話は置いておいて」
 話が変わった。ここでだ。
 ユウナはだ。こんなことも言った。
「さて、戦いはね」
「そうですね。ここでの戦いも」
 アズラエルがユウナのその言葉に応える。
「いよいよ佳境ですね」
「はい、それじゃあ」
「残っている敵を一掃しましょう」
 アズラエルの今の言葉は素っ気無かった。
「これから」
「はい、それでは」
 こうしてだ。戦いはだ。
 掃討戦に入った。その中でだ。
 何機かディバリウムもあった。しかしどれもだ。 
 撃墜されてだ。残るはだ。
「御前だけだ!」
「やらせてもらいます!」
 ブリットとクスハがエイスに告げる。
「この戦いも」
「これで!」
「来い」
 彼等の戦いもだ。遂に最後の時を迎えていた。
 そしてだ。クォヴレーもだ。
 遂にだ。髪の色が変わった。
「貴様か」
「違う」
 こうキャリコに返す彼だった。
「何度も言うが俺はクォヴレー=ゴードンだ」
「またそう言うのか」
「何度でも言おう。しかしだ」
「しかし。何だ」
「因果律の番人だ」
 そのことは変わらないというのだ。そしてだ。
 その髪の色でだ。彼はキャリコに告げた。
「貴様も見るのだ」
「何っ!?」
「時の流れを。受けるのだ」 
 そしてだ。今それを放った。
「アインソフオウル!」
「あの攻撃か!」
「デッドエンドシュート!」
 世界が一変してだ。そうしてだ。
 ディス=アストラナガンから放たれた光がヴァルク=バアルを撃つ。そうしてだ。
 無数の赤い光の球が彼を覆い。そのうえで。
 魔法陣の中でだ。彼はその時代を迎えたのだった。
「うっ、まさか!」
「そのまさかだ」
 こう返すクォヴレーだった。
「貴様はこれで終わりだ」
「馬鹿な、俺は」
「一つ言っておく」
 クォヴレーはまだ起き上がろうとする彼にだ。こう告げたのである。
「貴様は既に人間だった」
「いや、俺は」
「その感情だ。それこそがだ」
「俺が。人間だと」
「その証だ」
 それだというのである。
「貴様は人形ではなかった。最初からだ」
「人間だったというのか」
「キャリコという人間だった」
 それだったというのである。
「そうだったのだ」
「では俺は。今まで」
「眠るのだ」
 また告げるクォヴレーだった。
「永遠にな」
「俺は、俺は・・・・・・」
 爆発の中に消えた。これでだ。
 キャリコは倒れた。それと同時にだ。
 スペクトラもだ。こうセラーナに言われていた。
「あんたともね!」
「何だというのだ」
「これで終わりよ!」
 一旦体当たりを仕掛ける。それによってだ。
 間合いを離した。そうしてだ。
「行かせてもらうわ!」
「くっ、まだだ!」
「こっちもね。悪いけれどね!」
 こう言ってだ。構えに入ってだ。
 舞いを舞う様にしてだ。ヴァルク=イシャーに向かいだ。
「いいわね、アルマ!」
「はい、セレーナ!」
 こう応えるエルマだった。そうしてだ。
「ここで終わらせないとね」
「それでいいんですね」
「仇を取るわ」
 スペクトラを見ての言葉だ。
「遂にね」
「長かったですね」
「そうね。随分と遠回りもしたわ」
 だがそれでもだというのだ。まさに人間の動きでだ。
「ルス=バイラリーナ=バリレ!」
「はい、あの技で!」
「こいつで!」
 一気に間合いを詰めた。そうしてだ。
「プリズムファントムモードエル!」
「ラジャー、アレグリアス!」
 二つの分身を放ち。そのうえでだ。
 切り刻み。最後に。
 大きく一閃した。それでだった。
「これで終わりね」
「ば、馬鹿な」
「あんたは。人として死ぬのよ」
「私が人間だというのか」
「あんたはそのことに気付かなかっただけよ」
 そのことを告げるのである。
「ただそれだけよ」
「私は、人間だったのか」
「証明できるわ」
「証明だと。そんなことが」
「あんたは私を憎んでだ」
 そのことを言うのである。
「人間は。憎しみという感情を持っているからよ」
「だから私は人間だったのか」
「そういうことよ。これでわかったわね」
「では、私は」
「アディオス」
 炎に包まれるスペクトラへの。別れの言葉だった。
「もう一人の私」
 最後は。振り切る様にして悲しみの言葉を言ってだ。そうしてだった。
 彼女も戦いを終えた。一つの戦いをだ。
 そしてブリットもだ。遂にだった。
「真虎龍王最大奥義!」
「ブリット君、あの技ね!」
「あの技で倒す!」
 こうクスハにも言う彼だった。
「いいな、クスハ!」
「ええ、ブリット君!」
 クスハもその言葉に頷く。
「虎王!」
 構え。全身に力をみなぎらせ。
「斬神陸甲剣!」
 ヴァイクランに突き進み。そうしてだった。
 大きく振り下ろす。そうしてだった。
 その一撃でだ。勝負を決めたのである。
 攻撃を受けたエイスはだ。沈黙していた。その彼にだ。
 ブリットが。こう告げた。
「勝負ありだ!」
「それに何の意味がある」
 だが、だ。エイスはこう返すのだった。
「貴様が勝ったことにだ」
「何っ!?」
「俺は命令に従い御前達と戦った」
 こうだ。機械的に言うのだ。
「そして」
「そしてだというのか」
「それに失敗した為生命活動を停止する」
「それだけだというのだ」
「そうだ」
 こう言うのである。仮面でだ。
「それだけの話だ」
「貴様はそれでいいのか!」
 ルリアがそのエイスに問う。
「生きる喜びも痛みも知らず!」
「俺はハザルとは違う」
 やはりだ。こう言うだけだった。
「俺の感情なぞない」
「ではもう」
「これで終わりだ」
 まるでだ。他者を評する言葉だった。
「完全にな」
 こうしてだった。ヴァイクランの爆発と共にだ。
 彼も消えたのだった。ゴラー=ゴレムは一人も残っていなかった。
 その戦場でだ。ルリアが言った。
「エイス=ゴッツォ、あの男は」
「最後まで機械であったか」
 バランも無念そうに言う。
「戦闘マシンであったか」
「思えば哀れなことですね」
「確かにな」
 バランはルリアのその言葉に頷く。その彼にだ。
 リュウセイがだ。こう言うのだった。
「けれどあいつだってな」
「その通りだ」
「あんな生き方を望んだ訳じゃねえんだ」
「わかるのだな、御主も」
「ああ、わかるさ」
 こうバランに返すリュウセイだった。
「わかるようになったさ」
「そういうことだな」
「そんな生き方しか教えられなかったんだ」
「奴もまた」
 バランは目を閉じて言った。
「シヴァーの犠牲者か」
「奴を許す訳にはいかねえ」
 リュウセイのその目に怒りが宿っていた。
「人の生命を弄ぶ様な奴は!」
「そしてシヴァーよ」
 バランはそこにいないシヴァーを見て言うのだった。
「今何を企む」
「やはりルアフの念は感じない」
 ここで言うマイだった。
「やはり。これは」
「そうだ」
 ここでだ。声がした。
「既に神は死んだのだ」
「貴様か!」
「如何にも」
 バランの問いにも応える。
「私だ」
「シヴァー、やはりここにいたか!」
「シヴァー=ゴッツォ!?」
「あの帝国宰相の」
「そして今回の戦いの黒幕」
「あいつが遂に」
「出て来るってのか」
 誰もがそのことに緊迫したものを感じた。そしてだ。
 洸がだ。こう言うのだった。
「この気配は」
「そうだ、念の力は感じねえ」
 リュウセイも言う。
「けれどこの気は」
「そうだな。俺達は前に会っている」
「あの男だ!」
 カミーユが叫ぶ。
「ユーゼス=ゴッツォか!」
「あの駒のことか」
 シヴァーはカミーユのその言葉に応えた。
「懐かしい名前だな」
「駒!?」
「ユーゼスを駒だというのか」
「あの男は私の細胞から造ったのだ」
 即ちだ。彼もだというのだ。
「私のクローンだった」
「だからか」
「似ているってのかよ」
「あいつと」
「野心を持っていたのは知っていた」
 シヴァーはそこまで見抜いていたのだ。
「バルマーを手に入れようとしているのはな」
「だからラオデキア=ジュデッカ=ゴッツォを送り」
「そのうえで始末した」
「そういうことか」
「如何にも」
 こう答えるシヴァーだった。
「その通りだ。そしてだ」
「そして?」
「そしてというと」
「諸君等の来訪だが」
 話がそこに移った。
「それは心より歓迎しよう」
「好意だけでは言ってないわね」
 マリューがそれを聞いてすぐに言った。
「あの霊帝のことかしら」
「そうだ、諸君等の力があってこそ」
 それでだというのである。
「あの偽神を倒せたのだからな」
「あいつをか」
「まさか」
「そうだ。この国に巣食う偽の神はだ」
 シヴァーは己からそのことを話す。
「我が手によって滅んだ」
「己の主をか」
「自分達の支配者を」
「殺したってのか」
「何を驚くことがある」
 シヴァーは声をあげるロンド=ベルの面々に平然として告げた。
「諸君等も知っていた筈だ」
「ああ、手前があの霊帝を倒そうとしていたことはな」
「それは知っていたぜ」
「しかし」
「その手でか」
「自分達の神を」
 彼等が言うのはこのことだった。
「あの男は帝国の民にとって神だった筈だ」
「その威容の前にバルマーの者達は」
 どうなっていたか。そのことを話していく。
「心身の自由を奪われるまで萎縮していた」
「それなのに」
「自分の手で」
「奴は神などではない」
 このことをまた言うシヴァーだった。
「ただの人間だ」
「それはわかっていたが」
「それでもか」
「あいつを」
「只のガンエデンの神子として」
 シヴァーの話は続く。
「数百年の時を生きていたに過ぎん」
「それがあいつだったのか」
「霊帝ルアフ」
「そうした男だったのか」
「神の名の下に臣民の生命を弄んだ偽神」
 まさにだ。それだというのだ。
「それには当然の報いだ。違うか」
「そうか、死んだのか」
「地球とバルマーの因縁だった二つのガンエデン」
「その両方が」
「遂に」
「だとすると」
 そのことからだ。出される結論は。
「戦いは終わりなんだな」
「完全に」
「地球とバルマーの」
「それが」
「いえ、それはどうでしょうか」
 しかしだ。ここでシュウが言うのだった。
「では何故彼等は私達と戦ったのでしょうか」
「ゴラー=ゴラムね」
「はい、彼等です」 
 シュウはセニアの問いにすぐに答えた。
「何故彼等は私達と最後まで戦ったのでしょうか。それに」
「それに?」
「アルマナ姫は今何処にいるのでしょうか」
 シュウはそのことも話すのだった。
「あの方は一体何処に」
「そういえばだ」
 ルリアがここで言う。
「姫様はこの聖堂に向かわれたが」
「ということは」
「まさか、あいつが」
「今自分の手に持っている!?」
「そういうことか?」
「バルマーの巫女アルマナ=ディクヴァー」
 シヴァーもそのことについて話す。
「彼女はこれからのバルマーの覇道の為に力になってもらう」
「おい、待て!」
「じゃあ手前アルマナさんの力でか!」
「銀河を征服するっていうのか!」
「今の言葉はそうだな!」
「そう考えていいんだな!」
「その通りだ」
 シヴァーは彼等の問いに傲然として答えた。
「バルマーの栄光の歴史はだ」
「手前がか」
「創るっていうのかよ」
「私の手によって新たに創られるのだ」
 実際にその通りだと答えるシヴァーだった。
「先史文明の遺産さえも支配する新たな神の手でだ」
「シヴァー!」
 バランがそのシヴァーに対して言う。
「御前はその野望の為にか!」
「バランか」
「ルアフを殺すことを企みゴラー=ゴレムを組織したのか!」
「そうだ」
 その通りだとだ。シヴァーはかつての友に答えた。
「奴等は最後まで役に立ってくれた」
「ハザルはです」
 ルリアも言う。
「最後まで貴方を信じ貴方の為に戦ったのです」
「それを貴様は!」
 バランは怒っていた。明らかに。
「役に立ったの一言で済ますのか!」
「ハザルもエイスもだ」
 彼だけでなくだ。エイスもだというのだ。
「私が造った人造人間だ」
「それだけだと!」
「貴様は言い切るか!」
「その生き死にを決めるのは私だ」
 シヴァーの言葉は動かない。
「私が造ったのだからな」
「ではだ」
 バランは質問を変えた。
「ネビーイームを動かしたのも」
「あれも策だ
「我等がルアフと戦う為のか」
「そうだ、その為だ」
 その通りだというのだ。
「全てはな」
「では私を生かしておいたのも」
 今度はアヤがシヴァーに問う。
「それもまた」
「そうだ」
 また答えるシヴァーだった。
「諸君等に完全に力を発揮してもらう為にだ」
「その為に」
「したのだ。事実だ」
 リュウセイを見てだ。また話す。
「リュウセイ=ダテの能力は飛躍的な向上を見た」
「手前!」
「トロニウムまで渡ったのは誤算だったがな」
「話はわかったぜ」
 マサキがシヴァーを睨み据えながら言った。
「手前はルアフの位置に自分が取って代わろうっていうだけなんだな!」
「そうだニャ。どう考えても」
「そうとしか思えないニャぞ」
 クロとシロも言う。
「だからこいつは」
「ルアフと同じだぜ」
「違うな」
 それは否定するシヴァーだった。
「私はこの国を人間の手に取り戻す為に」
「あいつを倒した」
「そう言うのだな」
 リューネとヤンロンが言った。
「詭弁だけれどね」
「所詮はな」
「ただしだ」
 彼等の話は聞かずにだ。シヴァーはさらに言うのだった。
「帝国を栄華に導く新たな統治者」
「それがか」
「そいつは」
「新たな神」
 それがだ。誰かというとだ。
「それに相応しい唯一の人間は私なのだ」
「勝手な理屈を!」
 コスモがシヴァーに叫ぶ。
「誰が戦争を!流血を望むんだ!」
「人々に必要なものはだ」
 ゼクスも言う。
「栄光ではない。温かな平和だ!」
「それは君達には関係ないことだ」
 シヴァーはその彼等に告げた。
「バルマーのことは私が決める」
「御笑い草だな、これは!」
 エイジが忌々しげに返した。
「神様を倒した奴が今度は神様気取りかよ!」
「どうやらだ」
 クワトロは冷静だ。しかし言葉には怒りがあった。
「私達はまだ戦わなくてはならないようだ」
「シヴァー=ゴッツォ!」
 カミーユは叫んでいた。
「御前の野望でこの銀河にまた戦乱を起こさせはしない!」
「それが諸君等の返答か」
「その通りです!」
 レフィーナも強い言葉で返す。
「私達は貴方を!」
「やはりな」
 シヴァーはその言葉に返してきた。
「御前達に私の理想を理解するのは不可能か」
「理想って言うけれどね」
「どう聞いてもそれは」
「同じです」
 ティスにラリアー、デスピニスが言う。
「同じじゃない」
「あの男と」
「何が違うのです?」
「この宇宙はだ」
 だが、だ。シヴァーは言うのだった。
「統べる絶対の真理があるのだ」
「力だな!」
「あんたもそれを言うのね!」
「如何にも」
 秋水の兄妹にも答える。
「その摂理こそが全ての源だ」
「その力でか!」
「戦争をするだけじゃない!」
「それは違う」
 また言うシヴァーだった。
「その力でアポカリュプシスを押さえ」
 気付かないまま言うのであった。
「バルマーを繁栄に導く者」
「それがか!」
「あんただってんだな!」
「そうだ。この銀河を全てだ」
 シヴァーはそこまで見ていたのだった。
「新たなバルマーの神なのだ」
「シヴァー」
 バランがその彼に言う。
「御主は最早」
「バラン、聞いたな」
 シヴァーはバランに対しても言う。
「私は若き日の誓いをだ」
「果たしたというのか」
「そうだ、今」 
 こうバランに話すのである。
「この手でだ!」
「違うわ!」
 だが、だった。バランはだ。
 シヴァーを一喝してだ。こう告げたのである。
「シヴァー、貴様は道を誤ったわ!」
「何を言う、私は」
「貴様ならばだ!」
 バランは友としてだ。シヴァーに言うのだった。
「この星を真の意味で導けた!」
「そう言うのか」
「新たな歴史を、しかし今の貴様はだ!」
「既に言われていますが同じなのですよ」
 シュウも告げる。
「貴方が忌み嫌っていた彼と」
「ルアフとか」
「そう、そして」
「そして?」
「それ以上に危険な存在となっています」
 こうだ。今のシヴァーを看破してみせたのだ。
「そうなってしまっているのですよ」
「ではどうするというのだ」
「答えは決まっています」
 シュウは悠然と答えた。
「おわかりですね」
「俺達は銀河の未来の為にな!」
 マサキが言うのだった。
「手前を倒す!」
「それが答えか」
「あんたの手下はもういないよ!」
「最早御前一人だ」
 リューネとヤンロンも告げる。
「とはいってもここまで来たらね」
「退くつもりはないな、そちらも」
「私とてだ」
 シヴァーが彼等に応えて話す。
「諸君等を倒さずして覇道を歩めるとは思ってはいない」
「ならばここで!」
「やっつけてあげるわよ!」
 テュッティとミオも告げる。
「第二の霊帝ルアフ!」
「それ以外の何でもないから!」
「今の私には二つのものがある」
 その彼等にだ。シヴァーは告げるのである。
「神の器と神の巫女がだ」
「姫様!」
「おのれシヴァー!」
 ルリアとバランがまた彼に問う。
「姫様を捕らえたまま!」
「どうするつもりだ!」
「来るのだ」
 シヴァーは言う。
「今ここに」
「来る!」
「あれがか!」
 再びだ。あの神が姿を現そうとしていた。バルマーての戦いはだ。再び佳境に入ろうとしていた。新たな神との戦いがだ。はじまろうとしていたのだ。


第百十六話   完


                                         2011・4・25
    
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧