スーパーロボット大戦パーフェクト 完結篇
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第九十四話 炸裂!神雷
第九十四話 炸裂!神雷
バランはだ。出撃しながら難しい顔をしていた。部下達もその彼に問う。
「バラン様、一体」
「どうされたのですか?」
「いや、何もない」
だがバランは答えようとしなかった。
「別にな」
「この戦のことですか」
「ロンド=ベルをこうして攻めることについて」
だが、だった。その部下達が言うのだった。
「それについてですね」
「よく思われていませんか」
「ハザル様はどうも」
「抵抗できぬ者、弱い者に対しても容赦されません」
話は自然にハザルへの批判になっていっていた。
「武器を持たぬ者であっても平然と攻撃されます」
「そうして多くの者を虐殺されています」
「あれは。武人としては」
「どうなのでしょうか」
「口を慎め!」
しかしだった。バランはその彼等を一喝した。
「上官への批判は軍律で禁じられておる。それを忘れるな!」
「は、はい」
「申し訳ありません」
部下達もその言葉で畏まる。
「失礼しました」
「それでは」
「そうよ。決して言うでもない」
バランは厳しい顔で彼等にまた告げた。
「わかったな」
「了解です」
「それでは」
「それではだ」
そう告げてからだった。バランは彼等にあらためて言った。
「今よりだ」
「はい、今よりですね」
「ロンド=ベルを」
「我等で殲滅する」
こう告げるのだった。
「よいな、それは」
「はい、それでは」
「今より」
こうしてだった。彼等もロンド=ベルに向かう。そうしてだ。
トウマもだ。今まさに出撃しようとしていた。ミナキに対して言っていた。
「それじゃあな」
「ええ、トウマ」
「バラン=ドバンと決着をつけてやる」
彼の目には強い決意があった。
「ここでだ!」
「それでトウマ」
ミナキはそのトウマに言った。
「大雷鳳の力だけれど」
「その隠された力のことだよな」
「ええ、それはどうやらね」
「何かわかったのかい、それで」
「どうも。貴方に関係あるわ」
こうだ。トウマを見ながら話すのだった。
「貴方のその力とね」
「俺と?」
「大雷鳳は貴方とシンクロしてるから」
そうした意味ではエヴァと同じである。
「その貴方が。力を極限まで出せば」
「大雷鳳もなんだな」
「ええ、力を出すわ」
そうだというのである。
「極限までね」
「わかった。それならな」
トウマもだ。それを聞いて言った。
「俺は俺の力を極限まで出す」
「そうすれば大雷鳳も」
「そしてその力で」
「バラン=ドバンを倒すのね」
「ああ。あいつには負けられないからな」
それでだというのである。
「バラン=ドバンには」
「ライバルってやつだな」
その彼にこう言ってきたのはマサキだった。
「つまり。そうなるよな」
「ライバルか」
「ああ、そうだろ?」
マサキはまたトウマに言ってみせる。
「負けられないって思うんだからな」
「そうなるんだな。そういえば」
トウマははじめてこのことに気付いた。
「俺とあいつは」
「それじゃあな」
「ああ、意地でも負けられないな」
トウマの気合がさらに高まった。
「バラン=ドバンにはな」
「その意気だ。じゃあ行くか」
マサキは微笑んでトウマに告げた。
「奴との戦いにな」
「ああ。待ってろよバラン」
トウマの目が意を決したものになっていた。
「今度こそ決着をつけるからな」
こう言ってだった。彼は戦場に向かうのだった。
ロンド=ベルが出撃した時にはだ。既にであった。
バランがだ。大軍と共に彼等の前に展開していた。そうしてだ。
「トウマ、おるか!」
「ああ、いるぞ!」
トウマも彼に言葉を返す。
「ここにな!」
「腕をあげたか!」
バランが彼に問うのはこのことだった。
「どうだ、それは」
「少なくとも多くの戦いを経てきた」
これがトウマの返答だった。
「前の俺とは違う!」
「それではだ」
それを聞いてだ。また言うバランだった。
「その今の貴様を見せてもらうぞ!」
「よし、来い!」
トウマは身構えながら返した。
「今度こそ!」
「決着をつけようぞ!」
こうしてだった。両軍が互いに前に出て激突した。五度目の戦いがはじまった。
そのうえでだ。バランはだ。
一直線にトウマに向かいだ。その鉄球を振り下ろした。
「受けるがいいっ!」
「何のっ!」
トウマはそれを右にかわした。そのうえで言う。
「この程度!」
「そうか、かわせるか」
「ああ、見えていた」
バランのペミドバンを見据えながらの言葉だった。
「よくな」
「ふむ。前は違っていたな」
ドバンもそれを聞いて言う。
「この攻撃ならばだ」
「俺はやられてたってんだな」
「わしはこえまで多くの戦いを経てきた」
バランはトウマにこのことも話す。
「その中であの攻撃をかわせたのは」
「どうだってんだ?」
「御前がはじめてだ」
こう彼に話すのだった。
「それを言っておこう」
「そうだったのか」
「しかし」
バランの目が強くなった。
「わしのこの攻撃をかわしたということはだ」
「ああ、俺だってな!」
「これまで以上のものを見せようぞ!」
バランもまた。燃えていた。
「そしてそのうえで御前をだ!」
「行くぞバラン=ドバン!」
二人は正面から力と力でぶつかり合う。そしてだ。
バランの部下達がだ。こう指示を出すのだった。
「いいか、我等もだ!」
「このまま正面から敵に向かう!」
「正々堂々と戦え!」
「バルマーの武人らしくだ!」
彼等もだ。やはりバランの部下だった。その言葉にそれが出ていた。
ロンド=ベルもだ。それを受けてだ。
「正面から来るか」
「はい、そうですね」
シホがイザークに応える。
「それなら」
「よし、行くぞ!」
イザークはジャスティスを前に出した。シホもそれに続く。
「正面からの戦いなら望むところだ!」
「そこんところはらしいな」
ディアッカはそうしたイザークを見て微笑んでいた。
「トウマに影響されたか?」
「されていないと言えば嘘になる」
実際にそうだというのである。
「やはりな」
「やっぱりな。まあ俺もな」
「ディアッカもですか」
「ああいう奴見てるとな」
ディアッカは笑顔のままニコルに返した。
「つられるよな、どうしても」
「はい、確かに」
ニコルもだ。その顔が微笑んでいる。
「トウマさんみたいに。正面から戦う人を見ていますと」
「気持ちがよくなるんだよな」
「そうですよね。本当に」
「俺もだな、それは」
ジャックもだというのだ。
「つられるっていうかな」
「そうですね。今のトウマさんを見ていると」
「私達も」
フィリスとエルフィも微笑んでいる。
「やらなければと思えて」
「それでつい」
「そういうことだな」
「だからいいのよ」
彼等にビーチャとエルが言ってきた。
「自然と前に出られるっていうかな」
「そんな気持ちになってね」
「ううん、俺も何だか」
「普段はこうなるのに時間がかかるのに」
モンドもイーノも既に前に出ている。そのうえで攻撃をしている。
「やるよ!」
「やれるね!」
「ああ。いい感じだ」
「いい戦いができるな」
ハイネとアスランだった。
「この戦い」
「やれる!」
「それでだけれど」
「この戦いの後だな」
プルとプルツーだった。
「今度は第六陣よね」
「次の敵はいよいよだな」
「そうね。最後ね」
ルーが二人に応える。
「敵の本陣よね」
「じゃあかなり強い?」
「そうだな。あのヘルモーズもいるしな」
プルとプルツーもわかってきていた。
「これまで一隻も出て来ていないし」
「それなら。出て来るな」
「そうだな。確実だよなそれは」
ジュドーの目が強くなる。
「あの戦艦か」
「何度相手にしてもなのよねえ」
ルナマリアが困った顔になって述べる。
「ただでさえタフなのにね、あの戦艦」
「しかも沈めればだ」
レイも何度も見てきて把握している。
「そこからズフィルードが出て来る」
「だからっていってな!」
だが、だった。シンは変わらない。
「あの連中でも何でもな!」
「倒すんだな」
「ええ、そうしますよ」
こうカミーユにも返す。
「誰であろうとね!」
「よし、その意気だ」
カミーユはシンのその闘志を認めて述べた。
「それでいくぞ」
「ええ、それじゃあ」
「さて、それじゃあアークエンジェルも」
マリューは戦う彼等の後ろから指示を出す。
「前に出すわよ」
「前にですね」
「今から」
「ええ、そうよ」
微笑んでサイとトールにも返す。
「それでいいわね」
「はい、じゃあ」
「今から」
二人もそれに応える。そうしてだった。
アークエンジェルも前に出る。そしてだ。マリューが前を見て言う。
「じゃあ砲撃よ」
「方角は?」
「決まってるわ。広範囲に」
こうカズイに答える。
「狙いは定めなくていいわ」
「そうですね。これは」
カズイも前方の映像を確認して言う。
「狙わなくても。撃てば」
「当たるわ。敵の数が多いのっていいわね」
「いい。そうですね」
ミリアリアは少し考えてから述べた。
「絶対に何処かに当たりますから」
「それに今は狙っていたらかえって駄目よ」
マリューはそこまで考えて判断しているのだ。
「こうした状況じゃね。かえって敵に当たらないわ」
「その通りですね。こうした場合は」
ノイマンもそれがわかっていた。
「その敵にばかり注意がいきますし」
「そんなことをするよりもね。もうまとめてよ」
こうしてだった。アークエンジェルは広範囲攻撃でだ。敵を次々に倒していく。アークエンジェルだけでなくだ。戦い全体はロンド=ベル有利に進んでいた。しかしであった。
トウマとバランの戦いはだ。まさに一進一退であった。
バランが鉄球を横から繰り出す。
「むんっ!」
「トウマ、来たわ!」
「ああ!」
ミナキの声に応えてだ。そうしてだ。
すぐに上に跳んだ。それでかわしたのだった。それを見てまた言うバランだった。
「今のもかわしたか」
「かわすだけじゃない!」
そこからだ。トウマは蹴りを放った。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
「ぬうっ!?」
「受けろ!この蹴り!」
こう叫びながらだった。
「これで決める!」
「まだだ!」
だがだった。ペミドバンはその蹴りを右手で受け止めた。それでダメージを最低限に収めたのだった。
それを見てだ。蹴りを放った姿勢のまま驚きの声をあげるトウマだった。
「何っ!?今の蹴りを!」
「確かにいい蹴りよ!」
それはバランも認めた。だが、だった。
「しかしだ!」
「しかし!?」
「それではまだわしを倒せんわ!」
大雷鳳のその足を掴んでだ。そうして。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ぐうっ!」
「トウマ!」
「もう一度来るがいい!」
こう叫んでだ。大きく後ろに投げ飛ばしたのだった。
大雷鳳は宙に降り立った。態勢を立て直して再びバランに言う。
「くそっ、あの蹴りでも駄目か!」
「だから足りんと言っている!」
まだ言うバランだった。
「もう一度だ、来い!」
「ならだ!」
トウマは再び向かう。両者はそのまま拳と拳の応酬に入った。
まさに力と力の激突だった。そして。
両者は満身創痍になった。だがそれでも立っていた。
トウマ自身もバラン自身も傷だらけになっている。そうしてだった。
「そうだ、これだ」
「これだっていうんだな」
「わしの求めている戦いはこれなのだ」
バランは満足した声で言うのだった。
「正々堂々と力でぶつかり合う戦いだ」
「武人って訳だな」
「そうよ。このバラン=ドバン!」
彼自身がどうかというのである。
「決して卑怯未練はせぬ!」
「ああ、それならだ!」
「トウマ、御前もだな!」
「俺もだ!正々堂々と正面からだ!」
二人はだ。今同じになっていた。
「御前を倒す!必ずだ!」
「ならばだ。わしも見せよう」
ペミドバンは鉄球を取った。そしてだ。
それを中心に大きく旋回していく。それで。
大雷鳳を撃った。今のはかわせなかった。
「ぐわっ!」
「どうだ、この攻撃は!」
バランは攻撃を放ってから問うた。
「これで最早立てまい!」
「ううう・・・・・・」
「トウマ、まさか」
ミナキはそのトウマを見てだ。蒼白になった。
「大丈夫!?返事をして!」
「ああ、大丈夫だ!」
しかしだった。そのトウマの声が返って来た。
「俺はまだいける!」
「そうなのね。よかったわ」
ミナキは彼の言葉にほう、と安堵した。
「一瞬どうなったのかって」
「ああ。しかしな」
「しかし?」
「もう俺も余裕がない」
顔から血が流れていた。だが顔は死んではいない。
「やるしかない」
「その大雷鳳の秘められた力を」
「ああ、出す!」
まさにそれをだというのだ。
「そして俺は勝つ!」
「勝つのね」
「バラン=ドバンに勝つ!」
「わかったわ。じゃあトウマ」
ミナキもだ。彼の言葉を受けて決めた。
「私もね」
「一緒になんだな」
「ええ、大雷鳳のその力」
「引き出す!」
「そして!」
二人の心が今重ね合った。
「この戦い!」
「勝ちましょう!」
そしてだ。二人がだった。
「うおおおおおおおお!」
「むっ!?」
バランもそれを見て言う。
「トウマ、貴様まさか」
「ああ、そのまさかだ!」
こうバランにも返すトウマだった。
「今ここに!俺の全ての力!」
「来るか!」
「ダイナミックライトニングオーバー!」
大雷鳳が輝く。
「その力!」
「プラズマドライブ!」
ミナキも全てを解放した。
「フルバースト!」
「この生命全てを賭けて!」
「ええ、トウマ!」
ミナキもだ。今感じていた。
「感じるわ、貴方を」
「この俺の全ての力!」
「その力で!」
「俺は勝つ!」
「ええ!」
「今極める!」
マシンが今光になった。そしてだ。
白い神鳥になり。ペミドバンに激突する。
「臨界百パーセント突破!けれど!」
「大雷鳳の限界を超えた一撃!」
「なっ、何い!!」
「これが俺達の!」
「私達の!!」
「最強の一撃だ!」
「これなら!」
ペミドバンがひしゃげる。そして。
「俺達の勝ちだ!!」
「ぬううううううううっ!!」
遂にだ。バランが退けられた。致命傷を受け吹き飛ばされる。
「わしを。ここまでだと!」
「どうだ!」
「やりおるわ!」
こう返すバランだった。彼はまだ生きていた。
「わしをここまでやるとはな」
「どうだ、まだやるか」
「ふふふ、面白い!」
それでもだ。バランはまだ言うのだった。
「こうでなくてはな!」
「ああ、どちらかが倒れるまで!」
「やるぞ!」
二人はまた言い合う。
「ここで決着をつける!」
「その通りよ!」
しかしだった。両者は今はだ。
動けなかった。動けなくなっていた。
「くっ、限界か」
「先程の一撃で」
「あの攻撃でか」
「神雷よ」
ミナキがトウマにあの技の名前を告げた。
「あれは」
「そうか。神雷か」
「ええ、あれはね」
「そうだな。まさにそれだな」
その名前にだ。トウマも納得した。
「あれはな」
「ええ。それでね」
「今は動けないんだな」
トウマはミナキに問うた。
「大雷鳳は」
「限界を突破して。それにダメージも受けていたから」
「そうか。じゃあもう」
「今は動けないわ」
そうなのだった。
「残念だけれどね」
「くっ、仕方ないか」
「わしもだ」
そしてそれはバランもだった。
「貴様の一撃でこれ以上は動けん」
「そうなのか」
「ふん、わしの負けだ」
バランは潔くそれを認めた。
「忌々しいがな」
「御前の負けだというのかよ」
「左様、わしは貴様の攻撃でここまでやられた」
だからだというのだ。
「これを負けと言わずして何という」
「しかし俺も」
「ふん、攻撃を繰り出してそれは負けではない」
こう彼に返すバランだった。
「そういうことよ」
「しかし俺達は今は」
「動けぬな」
「ああ。じゃあこれ以上の勝負はな」
できなかった。とてもだ。
「俺は引き分けだって思うんだけれどな」
「いや、わしの負けだ」
バランはこう言って引かない。
「それは事実だ」
「頑固だね、あんた」
「ふふふ、よく言われるわ」
笑って返すバランだった。
「だがそれで結構」
「結構なのかよ」
「わしはそれでいい。とにかく今はだ」
「ああ、俺の勝ちなんだな」
「そういうことよ」
こう話しているとだ。そこにだ。
バランの部下達が来てだ。そうして彼に対して言ってきた。
「バラン様、ここはです」
「もうお下がり下さい」
「是非共」
こう彼に告げるのだった。
「次があります」
「ですからここは」
「御願いします」
「撤退か」
バランは彼等の言葉を受けて述べた。
「それか」
「はい、そうです」
「ここは是非です」
「御下がり下さい」
「言っても聞かぬな」
部下のこともだ。彼はよくわかっていた。
「そうだな」
「御言葉ですが」
「その通りです」
彼等もそれを否定しない。
「では我等がペミドバンを運びますので」
「バラン様はそこにいて下さい」
「宜しいですね」
「わかった。それではだ」
バランも頷いてだ。そうしてだった。
彼は部下達に運ばれ撤退した。そして他の軍もだった。
撤退してだ。これで第五陣との戦いは終わったのだった。
「ふう、凄い戦いだったよな」
「そうよね」
「トウマとバラン」
「本当に」
ロンド=ベルの面々は二人の戦いについて話す。
「あそこまでの戦いをするなんて」
「ちょっと予想外」
「あそこまで凄い戦いなんて」
「ちょっとねえ」
こう話すのであった。そしてだ。
トウマはだ。今完全に脱力していた。疲れきっていた。
「大丈夫、トウマ」
「ああ、何とかな」
心配するミナキにも言葉を返す。
「次の戦いもいけるからな」
「けれど無理はしないでね」
「ああ、わかってる」
こう返すトウマだった。
「それはな」
「絶対にね」
「ただ。ちょっとな」
「ちょっと?」
「元気の出る飲み物が欲しいな」
笑ってだ。こう言うのだった。
「今はな」
「元気がなの」
「何かないか?」
こうミナキに問う。
「スタミナドリンクでもさ」
「ええと、ドリンクなら」
ミナキが探そうとするとだ。そこにだ。
「おおトウマ」
「御疲れさん、さっきは」
「凄かったぞ」
オルガにクロト、シャニが来たのだった。
「俺マジで感動したぜ」
「あんな凄い戦いするなんてね」
「見直した」
「あ、ああ」
トウマはその三人にも応える。
「俺も。どうなるかって思ったけれどな」
「それでな。身体疲れてるだろ」
「それだったらな」
「これ飲め」
三人はここでだ。不気味な青緑色のドリンクを出してきたのだった。
コップの中に入っているそれはだ。沸騰していた。何故かだ。
「あのよ」
「何だ?」
「どうしたんだよ」
「言え」
「それ、誰が作ったんだよ」
ドン引きしながら三人に問うトウマだった。
「一体。そのドリンク」
「ああ、合作なんだよ」
「ミスマル艦長とクスハとラクスと」
「あとフレイ。ミサトさんやマリュー艦長」
ある意味豪華な顔触れである。
「美味いぜ」
「僕達も飲んだよ」
「凄く元気が出る」
「いや、あんた達は特別だろ」
こう返すトウマだった。
「そんなの飲んだらよ」
「だから大丈夫だって」
「人間こんなのじゃ死なないよ」
「実際に美味い」
だが三人は自分達を基準にして返す。
「だから飲めよ」
「もう元気爆発だよ」
「すぐに飲む」
「くっ、こいつ等人の話聞かないのかよ」
「聞かないんじゃなくて聞けないな」
ブレラが言った。
「それだ」
「って尚悪いじゃないかよ」
「まあそのドリンクはだ」
「飲まない方がいいよな。やっぱり」
「死ぬぞ」
こうトウマに忠告するブレラだった。
「間違いなくな」
「だよな。ちょっとなあ」
「あの三人は特別だ」
オルガ達三人を見ての言葉だ。
「だからだ。一緒に思うな」
「そうだよな。じゃあそのジュースは」
「絶対に飲むな」
それが結論だった。
「いいな」
「じゃあ何を飲めばいいんだろうな」
「これだ」
ブレラがあるものを差し出してきた。それは一本のスタミナドリンクだった。
それを差し出してだ。またトウマに話した。
「これを飲めばいい」
「スタミナドリンクで大丈夫なのか?」
「安心しろ。これはいい」
そのドリンクはだというのだ。
「一本飲めばそれでいける」
「ああ、それじゃあな」
「飲むか?」
「頼むな」
トウマも微笑んでだ。そのドリンクを受け取った。
そのうえで飲む。するとすぐにだ。
「あっ、本当にな」
「元気が出たな」
「ああ、出た」
実際にそうだというのである。
「これはいいな」
「だから薦めた」
「それでか。悪いな」
「それならそれを飲んでだ」
「ああ、また戦うな」
「そうしろ。いよいよだからな」
ブレラはクールだがそれでも気合を入れていた。
「最後の戦いだ」
「ここでの最後の戦いか」
「奴等からこの世界から別の世界に行き来できる力を手に入れだ」
「ああ、帰るか」
「元の世界にな」
気合が入ったトウマに述べるのだった。
「いいな、それならな」
「やってやるさ。絶対にな」
「ではだ」
ブレラから言った。
「行くぞ」
「ああ、それじゃあな」
こう話してであった。彼等はまた戦いに向かうのだった。
そしてその後ろではだ。オルガ達がトウマに問うていた。
「おいトウマ」
「このジュース飲まないの?」
「どうするんだ」
「あっ、忘れてた」
トウマは三人の言葉でその不気味なジュースのことを思い出した。
「それだよな。そのジュースな」
「御前が飲まないんだったらな」
「僕達が飲むよ」
「それでいいな」
こう言う三人だった。
「で、どうするんだ?」
「それでだけれどさ」
「飲むのか」
「ああ、もういいよ」
体よく断るトウマだった。
「そっちはな」
「何だよ、美味いのによ」
「身体にもいいのに」
「勿体ない」
「ああ、悪いけれどな」
またこう言う彼だった。
「あんた達に譲るな」
「そうか。それじゃあな」
「僕達が貰うね」
「そうする」
三人も言う。
「こんなに美味いジュースないのにな」
「勿体ないよ」
「そう、飲まなければ損」
「ちょっとな」
トウマもその三人に応える。
「さっき飲んだしな、もう」
「普通のなんか飲んでも面白くないだろ」
「そうだよ。折角の特製ジュースなのに」
「最高の一品」
「あの連中は違う」
また言うブレラだった。
「特別だ」
「人間だよな、普通の」
「そうはなっている」
しかしというのであった。
「だが頑丈さは明らかに違う」
「コーディネイター以上に頑丈よ」
プロフェッサーがここで言う。
「調べたけれどね」
「やっぱりそうなんですか」
「頑丈さと身体能力は尋常じゃないわ」
「じゃあ一種の超人なんですね」
「そうよ。そういうところだけはね」
こう話すのであった。
「普通ではないわ」
「ううん、何なんでしょう」
樹里もそこが疑問だった。
「あの三人って」
「絶対に普通の人間じゃないけれどね」
「それは間違いないよな」
ジョージとグレンもそれは感じ取っていた。
「けれど。何者かっていうと」
「普通じゃないのはわかっても」
「僕より体力ありますよ」
「僕よりもだ」
プレアとカナードがこう話す。
「反射神経だってそうですし」
「尋常なものじゃないから」
「多分だけれど」
ジェーンがここで自説を展開する。
「あの三人はそもそもがそうした能力が傑出してるのよ」
「そいうなのか」
「ええ、多分ね」
ミナにも述べる。
「そういうタイプの超人なのよ」
「じゃあ薬なんて使わなくても」
ジャンも言う。
「元々ああだったのか」
「薬物投与は必要なかったか?」
「それでは」
ミハイルとバリーが話す。
「アズラエルさんはそれならどうして」
「薬物投与をしたんだ」
「まあ色々ありまして」
そのアズラエルの言葉だ。
「コーディネイターに匹敵するだけの力を発揮してもらいたくてです」
「いや、既にあれは」
「ある意味コーディネイターとかニュータイプだし」
「全然違う意味で」
全員でアズラエルに突っ込みを入れる。
「何があっても死なないし」
「闘争心も桁外れだし」
「野獣みたいだし」
「あれじゃあ」
「本当に色々と実験していまして」
また話すアズラエルだった。
「それでまあ。薬物投与もしていたんですよ」
「まさかな」
「そうよね」
ここで話すのはジョシュアとリリアーナだった。
「パルパレーパの粒子も効かないなんて」
「その時点でまともじゃないし」
「僕もでしたけれどね」
それはアズラエルも同じであった。
「ああいうのは関係ないんですよ、僕も」
「よく考えたらあんたも普通じゃないしな」
「本当に普通の人間なんですか」
「そうなっています」
アズラエルは平然とジョシュアとリリアーナに返す。
「何ならDNA鑑定をして頂ければ」
「あのですね、それですけれど」
シンジがDNAについて言ってきた。
「使徒もマスターアジアさんもDNAは人間なんですよ」
「何故そこでマスターアジアまで入る」
「納得できるがな」
グラキエースとウェントスがシンジに突っ込みを入れる。
「それならBF団もか」
「あの連中もか」
「多分。そうだと」
「あの変態爺さんねえ」
アスカの拒絶反応は何があっても消えない。
「今どうしてるのかしら」
「多分」
レイが不吉な予言をした。
「今この世界に来ようとしてる」
「んな訳ないでしょうが!」
アスカはそれを即座に否定した。
「ここは別次元よ!幾らあの変態爺さんでも来られる筈ないでしょうが!」
「けど前来たやろ」
そのアスカにすぐに突っ込みを入れるトウジだった。
「あの別の世界でアル=イー=クイスと戦ってた時」
「あれね」
「そや。だからや」
「あの爺さん冗談抜きで人間じゃないでしょ」
アスカは絶対に信じようとしない。
「多分あれよ。使徒なのよ」
「いや、それはないから」
「じゃあ何だっていうのよ」
「人間じゃないかな」
こう答えるシンジだった。
「やっぱり」
「あのね、普通人間は素手で使徒を倒せないわよ」
アスカはまだ常識にこだわっている。
「それもね。あんな風によ」
「まだあのこと忘れられないんだね」
「絶対に忘れられないわよ」
断言さえする。
「パナマ運河でもいきなり出て来たしね」
「あれは俺も驚いたぞ」
イザークも言ってきた。
「何だとな」
「そういえばあんたもあの時にいたのよね」
アスカはそのイザークに気付いた。
「あの頃からも最初に会った時も河童だったけれど」
「おい待て」
イザークは河童という言葉に即座に反応した。
「今何と言った」
「だから河童じゃない。銀河童」
「貴様!まだ言うか!」
「何度も言うわよこの銀河童!」
「それだけは言うな!この赤猿!」
「誰が猿よ誰が!」
「御前だ!今度こそ死ね!」
二人は取っ組み合いに入った。
「殺す!何があろうとも!」
「やってやるわよ!死ぬのはあんたよ」
「何か久し振りに喧嘩するね、この二人」
「そうね」
そんな二人を見て話すシンジとレイだった。
「何か辛い状況だけれど僕達って」
「いつも通りね」
「じゃあいけるかな」
シンジはぽつりと言った。
「この戦いね」
「安心していいわ」
「いいんだ」
レイの言葉に応える。
「状況はやっぱりかなりだけれど」
「じゃあ碇君は」
「僕は?」
「諦めてる?」
レイはいつもの淡々とした口調でシンジに尋ねてきたのだった。
「今。諦めてる?」
「いいや、諦めてないよ」
シンジはそのことをすぐに否定した。
「だって。諦めるにはね」
「早いわね」
「絶対に最後の最後まで諦めないよ」
こうも言うのだった。
「だってさ。諦めたらそれで終わりじゃない」
「その通りよ」
「それに僕達は生きているんだ」
シンジは言葉を続ける。
「シン君だったっけ。生きている限り明日はあるってね」
「だから諦めないのね」
「そうさ。元の世界に絶対に帰られるよ」
シンジはこのことも確信していた。
「だから。今はね」
「そう。その通りよ」
レイの顔が微笑みになった。
「安心して。この次元からは絶対に帰られる」
「そうだね。バルマー軍が行き来できるってことはね」
「私達も絶対に。そう」
「そう?」
「あの男」
こう言うレイだった。
「いるわね」
「ハザル=ゴッツォだね」
「あの男は私達を徹底的に見下しているから」
これはもう言うまでもなかった。誰もがわかることだった。
「その私達にやられる位なら」
「逃げるかな」
「絶対にそうするから」
「じゃあその時に僕達は」
「そう、帰られる」
これがレイの読みだった。
「あの男を追い詰めればそれいけるから」
「わかったよ。それじゃあね」
「戦おう」
レイはまた言った。
「このまま」
「うん、それじゃあね」
「それにしても」
レイはここであらためてシンジの顔を見た。そのうえでこうも言ってきた。
「碇君も本当に変わった」
「あれっ、そうかな」
「前は何かあるとすぐに閉じこもってた」
「そうだったね。前の僕はね」
「けれど今は違う」
こう言うのであった。
「今の碇君は絶対に諦めない」
「ずっとね。戦ってきて」
シンジはだ。微笑みになって話した。
「その中で物凄く色々なことがあったじゃない」
「ええ」
「必死に生きて。必死に戦う人達を見てきたから」
「ロンド=ベルの人達」
「ほら、一矢さんなんかそうじゃない」
シンジは彼の名前を出した。
「一矢さんは絶対に諦めなかったよね」
「そうね。あの人は」
「本当に一途で。必死にエリカさんのことを想って」
「一矢さんは素晴しい人」
「そうだよ。ああした人を見ていたらね」
「碇君も」
「一矢さんにはなれないよ」
彼にはというのである。
「あそこまで素晴しい人には。それに」
「それに?」
「僕は僕だし。けれどそれでもね」
「あの人みたいに諦めないことはできる」
「諦めたらエリカさんは一矢さんの手に戻らなかったよ」
それも事実だった。彼が諦めたならだ。それで終わりだったのだ。
「シン君だって。あの時」
「ステラちゃんを」
「そうだよね。あの時のシン君の言葉忘れられないよ」
ベルリンの戦いの時のことだ。
「君は俺が守るって。あの言葉」
「そうね。諦めなかったから」
「シン君だってステラちゃんを取り戻せたんだよ」
「それじゃあ私達も」
「うん、諦めることなくね」
微笑んで言った。
「戦おう、次も」
「ええ、それじゃあ」
二人は決意をあらたにしていた。シンジも大きく変わっていた。少なくともかつての彼ではなかった。見事な成長を遂げていた。
バルマーではだ。遂にだった。
ハザルがだ。不遜な笑みで言っていた。
「そうか、バランもか」
「はっ、敵にです」
「敗れました」
バルシェムの面々が彼に報告する。
「こうして五つの陣が退けられました」
「後は」
「ふん、まさか俺が直々に出るとはな」
不遜な笑みは変わらない。
「だが、それならばだ」
「ヴァイクランですね」
「あれを」
「そうだ。俺はあれで出撃する」
まさにそうだというのだった。
「そしてそのうえで奴等に引導を渡そう」
「ハザル様、それでは」
「我々も」
ジュデッカ=ゴッツォ達もいた。やはり七人いる。
「出撃致します」
「それで宜しいでしょうか」
「無論だ」
言うまでもないといった口調だった。
「御前達も出ろ、いいな」
「はっ、それでは」
「今から」
「さて。御前達がまず出撃してだ」
ハザルは言葉を続ける。
「そして俺もだ」
「本陣をですね」
「率いられると」
「外銀河方面軍の残りを全て投入する」
「そしてそのうえで」
「この戦いに」
「そうだ、勝つ」
言い切った。
「いいな。そうするぞ」
「了解です」
「それでは」
「しかしだ」
だが、だった。ここでハザルの顔が曇った。
「孫達は元の世界に戻ったままだ」
「それぞれの機体の損傷が思ったより酷く」
「まだ修理中です」
バルシェム達が答える。
「ですから今はです」
「出撃できません」
「ふん、まあいい」
ハザルはそれを聞いて一応は納得した。
「それでは俺とエイスでだ」
「・・・・・・・・・」
彼はだ。既にハザルの傍らにいた。
「いいな、行くぞ」
「御意」
「ヴァイクランの真の姿を見せるかも知れん」
ハザルはこんなことも言った。
「その時はだ。いいな」
「了解」
エイスは頷いてだ。そうしてであった。
遂にハザルが出撃した。だが彼は知らなかった。この出撃が彼にとって最後の出撃になることをだ。何一つとして知らなかったのである。
第九十四話 完
2011・1・31
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