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セビーリアの理髪師

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28部分:第二幕その十二


第二幕その十二

「何時の間にそんな話が」
「水面下で」
「ということはわしは一敗地にまみれたのか」
「わしも」
「いや、中々苦労しました」
 フィガロは笑って二人にまた言った。
「ここまでこじつけるのは。本当にね」
「しかしだ。伯爵は何処だ?」
「そもそもここにいるのか」
「目の前にいるよ」
 その伯爵が今名乗り出た。
「リンドーロでもあり兵士でもあり音楽教師でもありその実態は」
「伯爵というわけかっ」
「まさかと思ったが」
「けれど。これで全ては明らかになった」
「ええ、愛もまた」
 ロジーナはにこりと笑って伯爵に言うのだった。
「ここに実ったわ」
「さあ御二人さん」
 フィガロはにこやかに笑ってバルトロとバジリオに声をかけた。
「ここは観念して」
「致し方あるまい」
「こうなっては」 
 二人は憮然としてフィガロの言葉に頷いた。頷くしかなかった。
「祝いましょう」
「二人の幸せをだな」
「そしてこれからの貴方達の幸せも」
「ふん、では今度は子供でも捜すわ」
「子供を?」
 フィガロはバルトロのその言葉に目をしばたかせる。
「それはどなたでしょうか」
「以前内縁の妻との間にできた子だ。それでも探そう」
「宜しければ協力させて頂きますが」
「君の力だけはいらぬわ。自分でやる」
「全く。今度はこうはいかないぞ」
「さてさて。では伯爵、ロジーナさん」
 フィガロはバルトロとバジリオの言葉を巧みに受け流し伯爵とロジーナに顔を向けた。二人はまたしても恍惚として顔を見詰め合っていた。
「これからは永遠に」
「うん、永遠に」
「愛と誠を」
 二人はそれぞれ言う。この時はそれを信じていた。
「誠実でひたむきな愛こそが実るのです。この世で最も強いのは」
「愛と」
「誠ね」
「そうです。それでは皆さんその二つに対して」
 フィガロはにこやかに述べる。
「祝福を」
「今ここに」
 女中達も公証人もバルトロもバジリオもそれぞれの顔と声でその二つを祝う。何はともあれここではその二つが見事に実り勝利を収めたのであった。


セビーリアの理髪師   完


                 2007・9・16
 
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